「自分ごと」から始める職場改革とダイバーシティ モチベーションの多様化を認め「得意」を発揮できる組織作り

取材日:2023/06/15

人材派遣業で創業し、DX事業でも急成長中のワークスアイディ株式会社。長年男性中心だった職場において、1人の女性社員が先陣を切ったイノベーションの成果が注目されています。具体的な取り組みについてお聞きしました。※本文内、敬称略

お話を伺った人

  • 朝比奈一紗さん

    朝比奈一紗さん

    ワークスアイディ株式会社

    HRS事業統括本部/HRSマーケティング部長

この事例のポイント

  1. 業務改善の良策を思いついたら、たった1人でも動いて成果を実証
  2. 提言する際はそれぞれの立場ごとのメリットを明確化して説明
  3. さまざまな働き方ができる体制は「セーフティネット」でもある

たった1人で成功させた業界の常識を覆す「電話面談」

御社が実践したイノベーションについて教えてください。

朝比奈:当社は人材派遣業を中心に成長してきましたが、2016年ごろ業界の常識をひっくり返すイノベーションに着手しました。人材派遣とは、求職者に登録してもらい、求人中の法人クライアント様とマッチングさせる業務です。当時業界の常識だったのは、登録には対面での面談が必須ということ。当社も、求職者の方に交通費と時間をかけて東京本社まで来ていただき、1時間半の面談を経て登録となっていました。

ところが、そのやり方だと「ドタキャン」が非常に多かった。予約通り面談に来る割合はなんと50%弱。コーディネーターと呼ばれる面談担当社員は、1日最大4人まで予約を入れますが、実際はその全ての面談を実施できていない状況になっていたのです。

毎日、ふつふつと「この方法は無理、無駄が多すぎるのでは?求職者がわざわざ来社しなくていい方法はないだろうか?」と考えていました。そこで、まだWeb会議ツールも普及していなかった当時、私が思いついたのが電話面談です。30分程度の電話1本で登録できるのであれば、求職者は交通費を使わなくて済みます。仕事を休んで面談に来る必要もありません。表情が確認できないデメリットはありましたが、はるかにメリットが大きいと確信して担当部署に提案しました。

その結果、どうでしたか?

朝比奈:賛成ゼロでした(笑)。当時の私は、まだ20代の若手でしたし、営業部から新設ほやほやの人材開発系部門に移動したばかり。営業時代の実績はあったものの、求職者とクライアントとの架け橋となるコーディネーター職には10年以上のベテラン社員も多かったので、当然の反応だったかもしれません。

ただ、そこで諦めないのが私です(笑)。「みなさんは従来通りで大丈夫です。ただ、電話面談の選択肢も作ってください。そちらの業務は全部私がやります」と直訴しました。

いざスタートすると、電話面談の予約は、毎日瞬く間に埋まっていくような状態でした。そのうえドタキャン率も5%程度に激減。有能なコーディネーターでも月20人程度だった登録者数が、なんと月約300人にも達したのです。この数字は社内でかなりインパクトがあったようで、上層部が「何が起きたの?」と直接聞きに来たほどです。

すごいですね!その行動力のモチベーションは何だったのですか?

朝比奈:今だからこそ言えますが、事実上の「左遷」だと思いましたね(笑)。私は25歳で入社して、最初に営業部に所属しました。実績も積めていたので自信もあったのですが、ある日突然、新設の部門に異動を命じられて...。メンバーは上司と私の2人のみ。しかも、やるべき任務は決まっていないと言われる始末です。当時の私は「窓際に追いやられた!」と相当なショックでした。

振り返ってみれば、仕事やキャリアへの意欲が人一倍あった分、少し生意気すぎたのかもしれません(苦笑)。それからは「認められるよう自分で居場所を作らなくては」と必死になって...。正直、それが最大のモチベーションでした。

現場の「非効率」を分業で解決。成果が認められ部署に昇格

たった1人で始めた任務は、その後どうなりましたか?

朝比奈:コーディネーターは対面面談、私が電話面談という分業が続き、毎日1人で10数人分もの登録作業をしていました。ちょうどその頃、産休育休明けに9:00〜16:00の時短勤務で復帰した女性社員が同じ部門に配属されたのです。

彼女は夕方になると「お先にすみません」と何度も頭を下げながら、申し訳なさそうに退社します。そんな彼女の姿が気になっていたのですが、ある時思いついたんです。「電話面談なら時短でも活躍して、堂々と退社できる!」と。30分単位の面談なので、時短でも毎日最大で12人の面談と登録が可能です。対面面談であれば、平均1日1、2人ですから、誰が見ても素晴らしい生産性の高さですよね。実際、電話面談を担当するようになり、彼女は生き生きと働くようになりました。

その女性社員に電話面談を任せられるようになると、私は営業部に別の課題解決を提案しました。当時の営業社員は、外回りから帰社して雇用契約書などを作成することがルーティン。でも、よく考えたらそれって非効率ですよね。営業事務のような担当がいて書類作成を分業できれば、営業部の残業を削減できる。そう提案して書類作成を担当し始めたのです。

営業部には歓迎されたのですか?

朝比奈:最初は、歓迎も拒否もなく「できるならどうぞ」というクールな反応でしたね(笑)。ただ、その理由には業界特有の事情もあります。雇用に絡む書類が多いので、一つ間違うと訴訟トラブルにも発展しかねない。だから営業社員は当初とても慎重だったわけです。

ただ、実際に分業を進めてみると「帰社した時には完璧な書類が出来上がっている」という状況がいかに生産的かを認めてもらうのに、さほど時間は必要ありませんでした。その後、依頼される営業事務の仕事は急増。私は手伝ってもらえそうなメンバーを社内から集めてディレクションに力を注ぐようになりました。

5人くらいのチームになったころ「この業務を担う部署は社内に必要」と認められ、HRSマーケティンググループという正式な部署に昇格できました。正直、嬉しかったですね。その後も順調に業務を増やしながら、今はメンバー20人のHRSマーケティング部になっています。

イノベーションの第一歩は実務を担うメンバーとの対話

コロナ禍に先駆けて、2019年からテレワークも導入したそうですね。

朝比奈:私の部署は、社内で最初にテレワークを始めたのですが、きっかけは私の妊娠でした。大きなお腹で満員電車に乗ることは辛く、会社に着くとまず体調不良からトイレへ駆け込む毎日が続いていました。

その頃、社内を見渡すと、足を骨折し苦痛に耐えながら電車通勤している人、ぎっくり腰で這うように出社している人もいました。人材派遣の面談はすでにオンライン化できていた時期だったこともあり「出社するメリットって何?」と考えるようになって。

私の部署のメンバーに意見を聞いてみると「仕事がオンライン化できたらすごくいい」との声が圧倒的でしたね。なので「みんなもやりたいならチーム全体で進めよう」と持ちかけ、実現させたのです。その直後にコロナ禍に突入しましたが、おかげで慌てることはありませんでした。

今、テレワークはBCP(事業継続計画)の一部としても捉えています。万が一大きな災害があった場合でも、各自の自宅がBCP対策室のようになれたら組織として強いですよね。

ちなみにBCP関連では、全国に6か所ある支社・支店のうち、4か所におHRSマーケティング部のメンバーを配置。分業によるリスク管理の体制を作りました。強い組織作りのため、できることをどんどん進めています。

着実に大きな改革を実現されていますね。秘訣はありますか?

朝比奈:「自分ごと」として始めることです。達成できたら自分にはどのようなメリットがあるのか。それをしっかり腹落ちさせることがスタートですね。その上で、他の社員や求職者、会社など、それぞれの立場のメリットを明確にします。旗振り役が、信じるビジョンと「だからやりたいんだ!」というパッションを持っていなければ、何も進みませんからね。

私は「トップに言われたからやる」というイノベーションは好みません。というのも、現場を担う一人ひとりに「だからやるんだ」という目的が浸透し、能動的な動きが広がっていく過程にとても価値があると思うからです。

だから、例えばテレワークを導入するときも、誰よりも先に実務を担うメンバー全員と対話しました。みんなのおかげで現場が回っていることへの感謝を伝えた上で、どんなメリットを手にしたいか、そのために何ができるか対話していくのです。チームの仲間とビジョンを共有して一緒にチャレンジしていくスタイルを、私は大切にしています。

各メンバーが「とんがり」を発揮できれば強いチームになる

チームをまとめる立場になり、気づいたことはありますか?

朝比奈:私の部署の初期メンバーは全員、図らずも産休育休明けや契約社員という立場の女性たちでした。会社が当てにしやすいのは、残業をいとわずバリバリ働くような「人生仕事一直線」の人材かもしれません。でも、私たちのチームでは「子どもを保育園に預ける間だけ働きたい」「キャリアよりもワークライフバランスを重視した働き方がしたい」など、働くことへのモチベーションや人生の選択肢が多様だったのです。

毎日オフィスに出社して、定時勤務はもちろん、いつでも残業OKといった人材は、いつ何時も仕事へのフルコミットが望めますし、会社としては管理しやすいかもしれません。

ですが、彼女たちとチームになって気づきました。多様なメンバーが集まることによる個性や能力の集約は「強いチーム」であると。私自身、細かい事務作業は苦手ですが、イノベーションやパイオニアという役割を与えられたら、それこそ力を発揮します。でもそこに集中できるのは「事務作業なら任せて!」という、人材の支えがあるからこそでしょう。彼女たちの支えなしでは、思いを形にすることができないのです。

具体的にはどういうことですか?

朝比奈:例えば、私は企画や交渉は得意なのですが、デスクワークになると「こんな細かい作業、めちゃくちゃしんどい!」と辟易することが多々あります。ところが、私にとっては苦痛でしかない仕事を「得意なのでもっとやらせてください」と喜んでやってくれるメンバーがいる。しかも、非の打ち所もないほど完璧に仕上げてくれる。本当に尊敬しています。

チームを持って初めて「みんな凸凹があっていいんだ」と確信しました。苦手な部分を無理やり伸ばすより、それぞれの得意な部分を磨く方がずっと強い組織を目指せる。生産性もアップする。そう捉えています。

リーダーとして素晴らしい視点ですね。

朝比奈:私自身、できないことが山ほどありますから。レーダーチャートをイメージすると、ある分野だけが頭抜けた鋭角三角形になるはずです(笑)。このような「とんがりタイプ」は、一人ひとりで見ると不得意だらけかもしれません。でもチームになると、平均的な円をはみ出して、一回りも二回りも大きな力を発揮できるのです。

どの分野も平均的にこなせる人材も素晴らしいのですが、その場合は5人10人集まっても爆発的な強みは生まれにくい。だから、多様な「とんがり」を認め、活かしていくことが強い組織作りのカギだと思っています。

人材育成も改革も「一人ひとりのメリット」を明確にして進める

チームで多様性を認め合い、生産性を上げるためのポイントは?

朝比奈:リーダーが、メンバーそれぞれの好きなこと、得意なこと、働くモチベーションを丁寧な対話によって拾い上げることが何より大事です。要は「その人にとっての働くメリット」を明確にすることですね。

私の部署では月1回、1on1を行います。そこで、働くモチベーションと得意なことを聞き出し、それを実務でどう掛け合わせるか、どういう体制で実現させるか、リーダーとして私が考えます。

もちろん、しんどい業務をゼロにはできませんが、本人にとって一番強いモチベーション、コアの要望は100%叶えている自負があります。例えば「定時でさわやかに退社したい。子どもがいるから帰宅後は仕事の電話も受けたくない」という社員なら、「全部叶える。だから、勤務中は電話面接を1日⚪︎件やれる?」という具合に、その人がメリットを手にするための方法を確認する。こうした対話があれば、やりがいを持って活躍してくれます。

大切にしたいものを叶えながら生き生きと働ける会社にしたい

これからの目標を聞かせてください。

朝比奈:多様性ある組織づくりを全社的な文化に育てたい。私が部長を務めるHRSマーケティング部は、ハンディキャップを抱えるメンバーを4人雇用したり、遠方に転居した元社員をテレワーク専任で再雇用したり、多様性を尊重したうえで、個々の能力を有効活用できています。

ただ、全社的にはまだ濃淡があるので「バリバリ働けます!」という人材以外も活躍できる仕組みを定着させたいですね。そのためにも、私自身が当社初の女性役員になれる方法を本気で考えているところです(笑)。

多くの人が働きたくなる会社になりそうな気がします。

朝比奈:繰り返しになりますが、組織づくりも「自分ごと」で考えることから始まると思っています。自分が病気やケガ、介護などで、突然今までと同じように働けなくなる可能性はゼロではない。そうなったとき「バリバリ働けないなら辞めてください」という会社でいいのか?ということですよね。

そう考えると、働き方だけにこだわらず、メンバーが適材適所で力を出せる体制は、最強のセイフティーネットだし、組織としても強くなると気づけます。

私は今でも、育休明けに時短で退社する女性社員が「すみません、すみません」と小さくなっていた姿が忘れられません。二度とあのような状況を作りたくない。自分が大切にしたいものを遠慮なく大切にしながら、やりがいを持って働ける会社づくり。それが、パイオニアを自負する私が叶えたい最大の目標です。


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