バリュー活用を意識した設計が成功を導く 全社員でつくったバリューが働きやすい風土を醸成

取材日:2023/05/18

ネット宅配クリーニングサービス「リネット」を手掛ける株式会社ホワイトプラスは、社員全員でバリューを策定。バリュー浸透により働きやすい職場づくりを実現した経緯をお聞きしました。※本文内、敬称略

お話を伺った人

  • 田中雅子さん

    田中雅子さん

    株式会社ホワイトプラス

    HRグループ/マネージャー

この事例のポイント

  1. 制度運用を視野に入れてバリュー策定プロセスを決定
  2. 評価制度や採用基準に盛り込み表彰を行うことで体現を促進
  3. 手厚い福利厚生とバリュー浸透で働きがいのある環境を実現

バリュー選定基準の1つは社員が具体的行動を想像できるか

御社がバリューを策定された背景を教えてください。

田中:2017年頃、当社の社員数が50人を超え、いわゆる「50人の壁」にぶつかろうとしている時期でした。当社はネット宅配クリーニングというリアルが絡むサービスを手掛けているため、IT人材だけではなく、大手企業やクリーニング業界など多様なバックボーンの社員がいます。

一般的なITベンチャー企業に比べると、さまざまなカルチャーが入り混じった状態で、仕事の進め方も人によって異なるなかで、組織として共通の判断基準で動けること、また社員同士のコミュニケーションを円滑にするために、行動の判断基準となるバリュー策定をすることにしました。

実は、当時も人材理念とそれに基づく行動指針はありましたが、項目数が多くて覚えにくいという課題もあったため、これを機に刷新しようということになったのです。

策定の際に重視したポイントは何ですか?

田中:バリューの浸透です。バリューは「策定」がゴールになってしまい、いつの間にか形骸化してしまうケースは多いですよね。策定にあたってオーナーだった役員は、単に策定するだけではなく、最終的な制度運用まで考えたうえで策定プロセスを設計しました。

その結果、全社員を巻き込みながら、時間をかけて策定する運びとなったのです。

まずは何から着手しましたか?

田中:社員によるワークショップです。ワークを行うグループ分けにあたっては、部署や社歴などが異なるメンバー構成になるようにし、ワークショップを通じて部署や役職を超えた仲間意識が生まれるようにしました。

現状の課題、そして、社員自らが働きたいと感じる「目指す会社像」をグループごとに話し合い、意見を整理してバリュー案を検討するというプロセスを時間をかけて行いました。最終的には、各グループで出来上がったバリュー案のプレゼン資料を作成し、全社員の前で発表しています。

各グループから出たバリュー案をお聞かせください。

田中:最も多かったのは「思いやりを持った組織」「『ありがとう』がたくさん生まれる関係性」など、コミュニケーションを重視する言葉と、「挑戦」といったキーワードでした。ベンチャー企業の特性上、挑戦や成長を求める人材が多かったからでしょう。誠実さに価値を置く意見もありました。

発表されたバリュー案から、どのように絞っていきましたか?

田中:事務局がバリュー案を分類し、それを経営陣が定量的・定性的両面の組織課題と照らし合わせながら検討しました。合わせて着目したのが、実際の行動につながるかです。

たとえば、仕事をするうえで誠実さはとても大切です。ただ、誠実さと一言に言っても人によって思い浮かべるものは違いますし、定義しづらいですよね。バリューを体現した行動を社員に求める以上、具体的な行動につながるバリューでなければなりません。その観点から「誠実さ」という言葉は使わずに、わかりやすい言葉をチョイスしました。

ある程度、案を絞った後、デザイナーやPRと人事でワーディングやデザインを考え、言葉選びもこだわり、何度も何度もブラッシュアップして、現在のバリューに仕上げていきました。

具体的なエピソードを元にバリューを体現した社員を表彰

最終的にどのようなバリューが策定されましたか?

田中:次の3つです。

・のびしろで戦う ~White Space~
・心遣いで仲間を笑顔にする ~All Happy~
・気づいたらすぐ行動 ~From You~

覚えやすさを重視して3つに絞ったうえ、シンプルかつ英語でも表現できるように工夫をしました。また、大切にしたのは、ホワイトプラスらしさです。例えば、成長を表現するにあたっては、あえて「しろ」という言葉が入った「のびしろ」を選びました。

バリュー発表時には、決定した理由や他の候補やそれを選ばなかった理由を経営陣が丁寧に社員にも説明したので、社員の納得感も得られました。

それぞれのバリューに込めた思いをお聞かせください。

田中:「のびしろで戦う」は、創業以来ずっと当社の根底にある挑戦や成長への意欲を表現しています。会社も人も、良い時もあればうまくいかない時もある。それでも、大変な時こそ挑戦と成長への意欲を持ち続けたいという気持ち、そして、新しいことにチャレンジする楽しさが込められいます。

「心遣いで仲間を笑顔にする」には、仲間がいるからこそ個人も会社も成長ができるという思いを表しています。もともと当社は部署を超えて「手伝うよ」と声掛けができる社員が多くいます。そうした社員の行動を肯定するとともに、経営陣も社員のそれらの行動を評価しているという想いが込められています。

「気づいたらすぐ行動」には、当事者意識と主体性を重視しているというメッセージが含まれています。たとえば担当が決まっていない仕事を見つけたら、「誰かがやってくれるだろう」と放置するのではなくオーナーシップを持って取り組む。社員1人ひとりが自ら動ける組織でありたいという気持ちです。

制度運用も見据えてバリューを策定されたわけですが、策定後はどのような施策を実施されたのでしょうか?

田中:評価項目にバリューの体現を盛り込みました。当社の評価項目は、「業務成果」「能力の向上」「バリューを体現した行動」なので、評価項目に占める割合からもバリューの体現を重視していることが伝わると思います。

当社では半期ごとに目標設定、中間振り返り、最終振り返りを上司と行います。その際にもバリューを体現した行動を書き出してもらうので、バリューの体現について考える機会がたくさんあります。

また、半年に一度バリューを体現した社員を表彰する「ホワイトプラスValue Awards」を開催しています。これは、バリューを体現したエピソードをノミネートしてもらい、そのなかから役員が受賞者を選ぶというもの。毎回多くのノミネートがあるので、行動による周囲への影響度合いなどを考慮して判断しています。

どんな行動が選ばれていますか?

田中:例えば、本人にとって難易度の高い業務に取り組んだり、収益に大きく貢献した社員は「のびしろで戦う〜WihteSpace〜」で表彰するのですが、それだけではなく、新卒1年目の社員が「心遣いで仲間を笑顔にする~AllHappy~」部門のアワードを受賞したこともあります。

彼女は入社してすぐに在宅勤務となったにもかかわらず、モチベーションを高く保ちながら周囲への気遣いを忘れずに仕事をしてくれていました。

当社は、年に2回全社イベントを実施していて、そこではオンラインでの開催となってしまうけど「コロナ禍でもみんな一つに」と思いを込めてグッズのデザインを担当してくれました。そのグッズは配送で各社員に届けられたのですが、みんなに笑顔になってもらおうと、なんと手書きのメッセージを添えてくれたのです。もちろん受賞理由は他にもたくさんあるので、ここでは話しきれませんが、こういった社員の「心遣い」を見逃さず表彰しています。

エピソードが具体的なので、バリューを体現しているのが伝わってきます。

田中:表彰する際も、表彰状には実際にとった行動をぎっしり書き込むんですよ。だから自然と文字が小さくなってしまって読みにくいんですけど(笑)。それを全部読み上げるので、他の社員にもバリューを体現した行動の具体例が伝わります。

受賞を目標に頑張る社員も多数いるので、浸透につながっていると実感しています。

時間をかけ全社員を巻き込んだからこそ愛されるバリューに

採用面ではいかがですか?

田中:とても活かされていますね。当社では応募者に対して、事前に当社のビジョンやバリュー、事業概要などを記載した資料をお送りしているほか、社員の活躍を紹介するブログでもバリュー体現を伝えています。コロナ禍により、面接はオンラインが中心ですが、社員のバリュー行動を通じて当社の雰囲気が伝わっていると感じています。

また、面接時の採用基準にもバリューが落とし込まれています。もちろん、1回の面接ですべてのバリューを満たしているかは確認できませんので、何回かの面接で複数の社員が違う着眼点で確認させていただくようにしています。仮にスキルや経験が豊富な人材が応募してきても、バリューに合わなければ採用を見送るケースもあります。

バリューの策定による社内の変化はありましたか?

田中:毎月測定しているエンゲージメントスコアが上がりましたね。バリューを策定してから徐々にスコアが上がっていき、2年後ぐらいから定着を感じるようになりました。

また、個人的には、バリュー表彰のエントリー内容の変化にバリューの浸透を感じました。エントリーするには具体的なエピソードが必要です。最初のうちは数行のみのエピソードもあったのですが、年を追うごとに詳しくなって……。バリューを体現した行動が増えているとも考えられますし、上司がより部下の行動に着目するようになったとも言えるでしょう。

これからバリューを策定しようと考えている企業にアドバイスをお願いします。

田中:カルチャー作りはすぐに結果が出るものではありません。当社の場合、2017年11月に策定を開始し、完成したのは2018年6月です。途中で違和感を覚えたら立ち止まり何度も考え直しながら策定しました。

もし経営陣だけでバリューを決めていたら、もっと早く完成していたでしょう。でも、全社員を巻き込みながら丁寧に策定したからこそ、社員から愛されるバリューとなりました。

策定後の運用も、まさに継続は力なりです。すぐに結果は出ないかもしれませんが、やり続けることが大事だなと感じています。

仲間への心遣いが実現した男性社員の育休取得率100%

バリューは社員の働き方にも影響はありますか?

田中:当社の男性の育休取得率は100%です。これも、「心遣いで仲間を笑顔にする~All Happy~」が影響しているかもしれません。

いくら制度を整えても、一緒に働く仲間へのリスペクトがなければ、なかなか育休取得に協力は得られにくいですよね。

その点、当社の場合は、取得する側も「権利」ばかりを主張するのではなく、周囲のサポートあってこそだという理解と心遣いを感じます。もちろん周囲は本人が安心して取得できるようにサポートしますし、どちらも相手への心遣いがあるからこそ、思いやった行動がとれるのでしょう。

策定から5年が経ち、バリューが浸透しているようですね。

田中:もちろん、バリューの浸透だけが理由ではありません。 2022年10月から施行された「産後パパ育休」により条件を満たせば休業中でも働けるため、育休中でも代替が難しい業務だけ在宅勤務で行えるようになったのも大きいですね。

さらに、当社の手厚い福利厚生も影響しています。当社は有給の付与日数が多く、加えて祝祭日が土曜日に該当する場合は振替休日が取得できる「祝日プラス制度」があるので、子どもの受験時期に合わせて、まとめて休むなど家庭の事情に柔軟に対応できます。仕事とプライベートを両立している上の世代の姿が、若い世代にとっては良いロールモデルになっているようですね。

今後もバリューの浸透に力を注ぐ予定ですか?

田中:バリューに関してはかなり浸透していると感じています。ただ、バリューは普遍的なものではありません。これは策定する際にも社員全員に伝えましたが、その時に最適なもの。ですから、社員数が増えたらバリューは変わる可能性がありますし、それによって新たな組織風土が生まれるかもしれません。

コロナ禍は経営戦略や事業戦略への共通認識を持てるよう工夫

話は変わりますが、新型コロナウイルス感染症で働き方に変化はありましたか?

田中:在宅勤務制度とフルフレックス制を開始しました。在宅勤務に関しては、部署によってさまざまな工夫を凝らしています。

例えば、エンジニアのチームはスクラム開発を採用しているため、もともと毎朝ミーティングでタスクを個々人に振り分けながら開発を行っていましたが、在宅勤務への移行後も毎朝ミーティングは継続しつつ、Google Meetを常時接続したままで仕事を進めるなど、困りごとが生じてもすぐに聞ける状態にしています。

また、新卒や若手の社員には、1日に2回ショートミーティングの時間を用意し、フォローできる体制をつくっている部署もあります。

在宅勤務の際は、コミュニケーションの希薄化がよく懸念事項として挙げられていました。御社ではいかがでしたか?

田中:当社も例外ではなかったので、工夫しました。

一つ例を挙げると、ある年の新卒社員の出身地がさまざまだったので、それぞれのご当地お菓子の詰め合わせを社員みんなに送るサプライズギフトを用意しました。

渡された瞬間は、「駄菓子かぁ~」と思わずつぶやいた社員もいたそうですが、よくよく見ると地域限定だし、さらには一人ひとりがお菓子を選んだ理由を書いたメッセージも入っていてるなど、「凝ったプレゼント」に気づいて驚いたそうです。しかもそのメッセージは顔を覚えてもらえるように似顔絵付き!

社員を喜ばせたいと何にでも全力で取り組むのは、バリューが浸透しているからかもしれませんね。こういったたくさんのバリュー行動がもはやカルチャーを作っているんです。

そのほかの課題はありましたか?

田中:例えば、在宅で顔を合わせなくなると、最初のうちはこれまでの貯金で特に問題ないのですが、徐々に情報の伝達量が人によってバラツキが出てきているように感じました。

特に経営戦略や事業戦略に対する理解度や認識のバラツキは、全員が同じ方向を向いて業務を進めるためにも早めに解消しておきたいと感じていました。

どのようにして経営戦略や事業戦略を意識してもらうようにしましたか?

田中:経営戦略や事業戦略は、以前から半期に1回キックオフイベントで発表してきましたが、さらに解像度を上げるため、経営陣によるトークディスカッションも行うようにしました。プレゼンテーションではない本音の考えが聞けるのでとても良いと思ってます。

加えて、月1回の締め会で事業戦略上の注力事項について、経営チームから進捗を発表するようにしましたし、週1回週次報告ミーティングを設け、事業の進捗と執行役員会議で議論されたことを共有するようにしています。また、その議事録は全社員に公開するようにしています。

新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行となりましたが、在宅勤務制度は継続予定ですか?

田中:在宅勤務は、2022年11月に制度化していて、今後も継続予定です。

ただ、業務の性質によって出社をメインにしている部署もあります。在宅勤務は業務の生産性が上がる一方で、やはり対面でのコミュニケーションのメリットもあるので、出社頻度に関しては、5類感染症に移行したことでこれから徐々に増えていくかもしれませんね。

そのほかにも、オンラインで行っていたキックオフイベントをオフラインに戻す予定です。今ちょうど準備をしているところですが、社員同士が対面で会えますし、表彰式では実際にトロフィーを渡せるなど、やはりリアルならではの良さがあるので、楽しみです。

これからも、オフラインによる働きやすさを継続しつつ、コミュニケーションがとりやすくなる変化も楽しみながら、より良い組織づくりを実現したいと思っています。

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