社員の育休を会社と個人が成長するチャンスに 育休が会社の業務フローや制度の改善を促進

取材日:2023/04/06

不動産の買い取り・再生を行う「空き家買取専科」を展開する株式会社Sweets Investmentは、正社員数は10名未満と少数精鋭の組織ながらも男性社員の育休取得を積極的に推進。さらに、育休を会社と社員の成長機会にする取り組みを行なっています。社員の育休を成長へつなげる、そのコツをお聞きしました。※本文内、敬称略

お話を伺った人

  • 黒田淳将さん

    黒田淳将さん

    空き家買取専科(株式会社Sweets Investment)

    執行役員兼事業部長

  • 三輪早苗さん

    三輪早苗さん

    空き家買取専科(株式会社Sweets Investment)

    子育て広報

この事例のポイント

  1. 「社員第一主義」の明確なメッセージングで業務改革をスムーズに
  2. 育休中もひと月10日または80時間以下働ける半育休を導入
  3. 育休は業務のやり方を見直す機会と捉えて、選択と集中を図る

社員第一主義を掲げ、まずは業務改善を推進

御社が組織づくりのうえで「社員第一主義」を掲げることになったきっかけを教えてください。

黒田:私は20代の頃に、中小企業の経営を専門とする坂本光司・元法政大学大学院教授に師事していました。坂本先生から社員を大事にすれば会社は成長できると学び、当社の社長に「社員を第一に考える会社にしたい」と直談判。この考え方が認められたというか、社長にも共感してもらえたことで「社員第一主義」の組織づくりがスタートしたという経緯です。

「社員第一主義」に対する社内の反応はいかがでしたか?

黒田:正社員のみならずパート社員にも、社員を大切にするというメッセージが伝わったため、好意的に受け止めてくれましたね。

私は2016年7月に当社に入社し、2017年1月に店長となりました。正式に社内にアナウンスする以前から、社員第一主義の組織風土づくりは少しずつ進めていたので、受け入れる土壌が生まれていたのかもしれません。

「社員第一主義」実現に向けて、最初に取り組まれたことは何ですか?

黒田:業務の改善です。当時は正社員が私を含めて2人、パート社員が2人の小規模な会社でした。まだ会社の体制が整っておらず、情報管理も不十分でしたし、営業やバックオフィス業務も非効率的でした。

まずは自ら改善し、それをみんなで共有して、社員全員が改善に積極的に取り組めるようにしました。書類をファイリングし、種類ごとにファイルのラベルの色を変えて一目でわかるようにするなど、基本的なことから始めました。

誰しも慣れたやり方を変えることは容易ではありませんが、改善した内容は報告書にまとめてもらい、積極的に実行した社員を必ず褒めるようにしたところ、変化にも前向きな空気が生まれていきましたね。

組織内のあらゆる改善は現在も続いているのですか?

黒田:当時とは形は変わっていますが、「カイゼン委員会」を設けて続けています。改善の目的は自分たちの仕事を楽にすることではありますが、委員会の設置には取り組みを風化させない狙いもあります。

育休を取得する半年前から業務の標準化など準備を進める

黒田さんは店長であり、組織風土を変えるうえでのキーパーソンだったわけですが、育休を取得されたと伺いました。仕事から離れることへの不安はありませんでしたか?

黒田:正直なところ、ありましたよ。でも、私が育休を取らなかったら、誰も取れないでしょう。私のような立場だからこそ、率先して取らなければならないと思い、2017年、第一子が生まれた際に1カ月、妻の職場復帰に合わせて2018年に1カ月、2021年に第二子が生まれた際に2カ月取得しました。

育休と聞くと、完全に仕事から離れるイメージを持つ人が多くいます。もちろん、完全に仕事から離れることもできますが、ひと月あたり10日間以下または80時間以下であれば働くこともできます。当社ではこれを「半育休」と呼び、男性社員の多くはこの半育休の制度を活用しています。

私の場合は第一子の育休を取得する半年前から、担当していた事務関連の仕事をパート社員ができるように標準化していきました。どうしても私がやらなければならない仕事は自宅で行えるようにテレワークの体制を整え、出勤日は決まっていないものの、大体週2日、それぞれ半日程度、顔を出すといった感じでしたね。

育休の取得に対し、ご家族の反応はいかがでしたか?

黒田:妻は「助かる」と喜んでいました。育児は女性でなければできないと思い込んでいる人もいるかもしれませんが、子どもにミルクをあげたりおむつを替えたりするのは、当然、男性でもできますし、掃除や洗濯、料理といった家事もできます。

出産直後は、赤ちゃんのお世話が大変なだけでなく、妻の体の回復期でもあるので、できるだけ睡眠を確保できるように、家事を分担し、交替で子どもの面倒をみるようにしました。

育児にも家事にも積極的に関わったのですね。

黒田:育休は、休みではありません。お父さんとしてのスキルを磨く期間です。当社の男性社員が育休を取る時には、育児はもちろん、家事経験がないのであれば育休中に家事スキルを上げるように伝えています。もしも育休中に遊んでいたり家でゴロゴロしていたりしたら、配偶者との仲が悪くなって、将来熟年離婚されてしまいますよ(笑)。

黒田さんが育休を取得している間、会社では困ったことはありませんでしたか?

三輪:半育休として完全に休んでいたわけではないですし、黒田でなくてもできる仕事は仕組み化し、しっかりと業務フローを整えた上での育休だったので困った点はなかったですね。

黒田に2人目のお子さんが生まれた際は、私自身もテレワークと併用しながら仕事をしていたので、会社には出社しない日もありました。それでも困りごとや質問があればSNSで連絡は取れましたし、早急にレスポンスが必要なケースはほとんどありませんでした。

育休取得率を高めるには経営陣のマインドセットが重要

御社の男性社員の育休取得状況を教えてください。

黒田:男性社員の育休取得率は100%です。当社の社員数は10人ですが、現在も営業職の男性社員が2人、育休を取得しています。

社員数に占める育休中の社員の割合が高いようですが、仕事に支障はありませんか?

黒田:普通だったら仕事が回らないと考えますよね。でも、どうすれば回るのかを考えるのが、当社です。

常に改善を図り、不必要な業務は削除しつつ、より効率的にできる方法を探します。

ただ、当社の主軸である中古物件をリノベーションして再生し販売する事業は、半年や一年といった長いスパンで業績を上げるビジネスモデルなので、仕事量をコントロールしやすい点も、取得しやすさにつながっていると思います。 加えて当社では、育休は業務を見直すいいタイミングとして捉えている点も大きいかもしれませんね。

どのように見直しを図っているのでしょうか?

黒田:育休中は仕事ができる時間が限られるので、成果につながる最適な方法を洗い出し、その業務を優先的に行うようにします。

例えば、訪問営業から電話営業に変えてみる。訪問回数を月2回から1回に変更してみる。仕事を棚卸し、手法を吟味して、成果につながると考えられる営業方法に絞って行ってみるのです。仮に成果が出なかったとしても、社員は責めません。集中すべき点とそうではない点が明らかになったと捉えます。

見直し自体は、育休を取得する前から行っているのですか?

黒田:2021年から業務の棚卸自体は定期的に行っています。半育休を取得する社員は、取得する半年前から、上司との1on1の際に短時間で成果を出せる働き方を検討します。自主性を尊重し、他のメンバーが育休を取得した際の計画書を参考にしながら、仕事の仕方を本人に考えてもらっています。

育休を「より成果を上げる」きっかけにするという視点が新鮮です。

黒田:私自身、例えば第二子の半育休取得時は、私が現場に行かなくても仕事が進むようにしたいと考えていました。仕事は標準化されていましたし、他の社員に権限を移譲できそうだったからです。

ただ、仕事をしていると、継続することで手一杯になってしまい、「新しいスタート」は後回しになりがちですよね。しかし半育休を取得し、状況として現場に行かなくなったことで自然と権限移譲が進みました。まさに案ずるよりも産むが易しだったかと思います。

やってみてダメだったら、元に戻せばいいんですよ(笑)。

中小企業が男性の育休取得率を上げるうえでのポイントはありますか?

黒田:休むか仕事をするかの二択だけでなく、半育休というワークスタイルの選択肢を増やすことは大切ですし、有効な手段だと思います。ただし、 これは育休中も人的リソースを確保したいという会社都合の選択肢という意味ではありません。

一定期間、しっかり育休を取得したい社員もいれば、育休は取りたいけれどブランクを不安に感じている社員もいますよね。例えば、家庭環境などでも、状況は変わりますし。そのため、選択肢があることで、より安心して自身のキャリアパスや環境に合わせて育休を取得できるようになるという意味です。

ただ、これらは全て制度の整備が必要になることなので、前提として経営陣のマインドセットとコミットメントは重要なポイントになると思います。

パラレルキャリア推奨で、自立した社員の入社を実現

男性社員の育休取得率の高さは、採用面でプラスになっていますか?

黒田:なっていますね。当社の場合、そのほかにもパラレルキャリアを推進するなど、多様な取り組みをしているので、働きやすさや自分の将来を考えて入社する人が多いです。

パラレルキャリアの推進は、いつ頃から始めましたか?

黒田:私が入社する際に、もともと個人で行っていたバーの運営やイベント企画の仕事は続けさせて欲しいというお願いをし、「仕事で成果を出せば構わない」ということで、副業が認められたのが始まりだったんです。なので、2016年ですね。ただ、パラレルキャリアという言葉とともに、会社の方針として掲げたのは三輪が入社した頃です。

三輪:私は、個人事業主としてベビーマッサージや食育指導を行っていて、最初はパート社員として週2~3日程度働いていたんです。その後、子育てなどにも少し余裕ができるようになり、テレワークも取り入れて働けること、また、副業としてこれまで行ってきた自身の事業も続けられることなどから、時短正社員を経て、正社員になることを決めました。

現在「子育て広報」という肩書で仕事をしているのは、会社としても子育て応援企業であり、私自身も子育てに関する事業を行っているため、それを広報に活かしているからです。一般的な広報とは異なる特色が打ち出せているのも、パラレルキャリアのおかげです。

パラレルキャリア推奨による会社のメリットを教えてください。

黒田:パラレルキャリアを選ぶ人は、仕事や事業に対してアグレッシブなマインドを持つ人が多い印象です。自分のスキルなどをプレゼンして仕事を受注しているわけですから。仕事に対する向き合い方が違いますね。

スキル面では、マネジメント能力や協業する能力が高いですね。会社から任された仕事とは異なる仕事を行うなかで自らスキルを伸ばしてくれるので、会社としても助かっています。

多様な働き方を用意しライフステージの変化による離職を防止

育休復帰後も育児は続きますが、御社ではどのような子育て支援策を行っていますか?

黒田:フレックス制を導入していますし、働く時間も場所も問いません。創業当時から子育て中の女性が多かったため、子育て優先の風土も醸成されています。

三輪:時短正社員の制度もありがたいですね。私はパート社員として入社し、週4日勤務の時短正社員になり、現在はフルタイムの正社員として働いています。

私の場合、当時フルタイムの勤務時間が8時間から7時間15分に変更されたことに伴って、時短正社員の勤務時間も27.5時間/週となり、子育てと仕事が両立できると思えたことが時短正社員になるきっかけになりました。

子どもに手がかかる時期は時短で、子育てがひと段落してより収入を得たいという時期はフルタイムで、とライフステージに合わせて働き方が選べるのは助かります。

当社は、ボトムアップで社員の意見を働き方や制度に反映してくれるので、社員は自分の仕事に責任を持って取り組めば、仕事も子育ても問題なく両立できます。

勤務時間の短縮は、生産性に影響はありましたか?

黒田:生産性は上がりました。人間は「時間に合わせた仕事」をしてしまう側面もあるのではないでしょうか。時間が制限されれば、そのなかで結果を出そうとします。当社のビジネスモデルは特に、今の半分の時間でも成果を出せる可能性はあると思っています。

私個人としては、ライフスタイルの面でも勤務時間の短縮の影響は大きいですね。子どもを預けている保育園が18時までなので、17時に会社を出られれば買い物をしてから、子どものお迎えに行けますし、子どもと一緒にお風呂に入ることもできますから。

多様な施策を行っていますが、ライフステージの変化による離職は防げていますか?

黒田:ある程度柔軟に対応できるので、防げていると思います。今後ももし社員から声が上がれば、さらなる制度の導入などを考えていきます。

採用面での取り組みを教えてください。

黒田:現在はリファラル採用を行っています。 中小企業では、採用にあまりお金をかけられません。その点、リファラル採用は、広告料などをかけることなく、スキルセット+人柄もある程度わかった上での採用ができるため、非常に「コスパ」の良い採用手法になります。

そのため、社員が人材を紹介しやすいように、紹介社員と入社社員の双方に、永続的に報奨金を払う仕組みがあり、パート社員の場合は月500円、正社員だと月1,000円を、紹介されて入社した人が退職するまで支給しています。

三輪:最近入社した人は、リファラル採用か、当社のホームページを見てビジョンや取り組みに共感して入ってきた人のいずれかなので、効果を実感していますよ。

今後の展望をお聞かせください。

黒田:当社は、空き家問題の解決を目指しています。空き家を買い取りリノベーションして再販するビジネスモデルを全国展開するため、コンサル事業にも力を入れています。今後も空き家を減らすために、新規事業を立ち上げていきたいと思っています。

組織面で目指しているのは、ティール組織の中の「グリーン」の組織です。社員の意見を取り入れながら会社を成長させつつ、社員一人ひとりが主体性を持ちながら気持ちよく働けるようにしていきたいですね。

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