BPOの積極活用で高付加価値な仕事に専念 仕組み化・マニュアル化こそ社員がやるべき仕事

取材日:2023/03/03

日本全国の中小企業の経営支援をおこなう株式会社ライトアップは、利益を生む仕組みを構築後、仕組み化・マニュアル化を進めて外部に業務を委託。それにより組織のリソースを、より付加価値の高い仕事に集中させる環境を実現しています。社員の仕事への満足度向上にもつながる取り組みについて、お話を伺いました。※本文内、敬称略

お話を伺った人

  • 杉山宏樹さん

    杉山宏樹さん

    株式会社ライトアップ

    執行役員

この事例のポイント

  1. コロナ禍で事業を加速させた前例のないシステム構築
  2. BPOサービスの有効活用によるスピード感ある事業展開

コロナを機にオンラインセミナーの自動配信システムを構築

御社の事業について教えてください。

杉山:当社は、マーケティング領域のSaaS(Software as a Service)を開発し、「全国の中小企業を黒字化する」を理念に中小企業向けの経営支援をおこなっています。そこで、中小企業が抱える悩みがいかに多岐に渡るのかといったことを改めて実感しました。

現在、日本の中小企業のうち65%が赤字で法人税を納めていません。もし中小企業が黒字化できれば、日本は今以上に財源を確保でき、さまざまな社会問題を大きく解決できるはず。そうした思いから中小企業と向き合っています。

例えば、当社はChatworkと連携し、中小企業がどんな助成金を受給できるかが簡単な問いに答えるだけでわかる「助成金診断」をおこなっていますが、中小企業の資金面を支援したいという思いが根底にあります。

新型コロナウイルス感染症の流行で、全国の取引先と実際に会えず、苦労したのではないでしょうか?

杉山:実は、新型コロナウイルス感染症が流行する1年ほど前から、出張コストなどの課題、そして、ビジネス全体での「商習慣のオンライン化」を予想していたこともあり、商談はすべてオンラインに切り替えていました。

当時はまだオンライン面談は一般的ではなかったと思いますが、スムーズに導入できましたか?

杉山:当社は経営支援をテーマにセミナーを開催し、そこで関心を持っていただいたお客様と商談を進めます。一度、セミナー時に対面でお話をしているのもあって、オンラインでのコミュニケーション自体は、スムーズでしたね。「珍しい」と喜ぶお客様もいたほどです。

ただ、今ほどはビデオツールも浸透していなかったので、場合によってはパソコン上に顔だけ映し、音声は電話を利用するケースもありました。

その経験があったので、コロナ禍になりオンライン商談が急速に拡まった時期にも慌てることはありませんでした。

セミナー開催はいかがでしたか?

杉山:セミナーも、いつかはオンラインセミナーが主流になると感じていたので、恐らく2018年ごろからでしょうか。商談のオンライン化と同時期にオンラインでの開催を始めていました。ただ、当時は主流になる気配は全然ありませんでしたが(笑)。

そのため、参加者も当時はそんなに多くなかったですが、コツコツと運営のノウハウや参加者数などのデータが集まりつつありました。そうした時に新型コロナウイルス感染症が流行し、オンラインセミナーに切り替えました。

オンラインセミナーを進めるなかで、改善を図った点はありますか?

杉山:オンラインセミナー全自動配信システムを開発しました。オンラインセミナーはトップ講師が登壇すれば、営業効果が上がります。一方でセミナーの回数が増えれば、トップ講師の稼働が増えて業務負担が重くなります。

そこで、そもそも生配信でやる必要があるかを考えたのです。その結果、配信側が思っているほど、参加者は生配信である点にこだわっていないと気づきました。

この気づきを踏まえて、セミナーを録画。セミナーの申し込みから視聴URLの送付、動画の再生、アンケートの回収まで完全自動でおこなうシステムを社内開発しました。おかげで、月間で何十回もトップ講師によるセミナーが開催されているような状態をつくり出せました。

参加者のアンケート結果を見ても、満足度は生配信とさほど変わっていません。

業務改善ミーティングで年間500個近い改善を実施

仕事の進め方を見直し改善を図る姿が伝わってきますが、普段から業務改善を図っているのでしょうか?

杉山:普段の仕事でも改善をしていますが、加えて1年ほど前から業務改善ミーティングをおこない、1年間で500個近く改善を図ってきました。

始めたきっかけは、若手社員との雑談です。負担の大きい業務の話になった時に、私が効率化の仕方をアドバイスしたところ、とても喜んでくれました。そういうプチストレスが、誰かのちょっとしたアイデアやスキルで大きく改善されることは少なくありません。であれば、仕組み化しようと。

当時、当社は組織が拡大しつつあり、中間管理職が増えていたタイミングでもありました。業務改善ミーティングで課題解決を話し合い実行すれば、中間管理職の課題解決の質やスピードが上がることも期待できます。そのためミーティングの開催を決めました。

具体的な進め方をお聞かせください。

杉山:社内の困りごとの吸い上げは、Googleフォームを利用し、誰もが投稿できるようにしています。そして、投稿内容を週1回開催の業務改善ミーティングで議論します。

具体例を挙げると、目視でおこなっていたデータの突き合わせを効率化したいという悩みに対して、GAS(Google Apps Script)でシステムを組み、それまで1時間かかっていた作業を2分でできるようにした、などの改善です。 こういうこともGASの知識がある人からしたら「簡単」な改善ですが、そうでない人からしたら「想像もつかないこと」だったりしますよね。そういう意味でも、共有する場がある意義は、非常に大きいと思います。

また、ミーティングでは解決策を考えるだけではなく、再発防止策のフロー化までおこない、議事録も全社員に公開していますし、参加している中間管理職が実際に改善を担当します。

業務改善ミーティングを開催する前は、この仕組みがこんなにも多く活用されると予測していましたか?

杉山:想像以上だったかもしれませんね。ただ実際は、最初から活発に利用されていたというわけではなく、どんな困りごとも必ず議論し、結果を公開していくというフローを続けていくうちに、「困りごとを伝えれば話してもらえる」という空気が生まれ、投稿が増えてきたという経緯があります。

業務改善ミーティングをおこなううえで注意している点はありますか?

杉山:2つあります。

1つ目は、業務フローを改善する場合、きちんと解決策の定義ができる人、もしくはフロー化する際に適切なアドバイスができる人が必要です。実践につなげなければ意味がありませんし、間違った業務フローをつくってしまうと余計な業務が増えてしまうので注意が必要です。

2つ目は、定期的に参加者を変えることです。ミーティングには4~5人が参加していますが、同じメンバーのタスクが増えてしまわないようにしています。そこで3ヶ月おきにメンバーの入れ替えをしていますが、業務改善ミーティングは、中間管理職の課題解決力の育成にもつながるので、定期的なメンバー交代は、人材育成にも貢献していると思います。

BPO活用により、社員3名・業務委託150名での事業を成功

業務改善の1つの方法として、BPO(Business Process Outsourcing)も積極的に活用されていると伺っています。そのきっかけを教えてください。

杉山:世の中の動きを見た時に、人材不足の深刻化は、これからも変わらないだろうと思っています。

当社も例外ではありません。社員のリソースをいかに最適化、有効化するうえで、社員でなくてもできる仕事をアウトソーシングで効率化するのは、ある意味、当然の流れだったと思います。

それまで社員が担ってきた業務のうち、どの部分を外部に委託していますか?

杉山:社員の役割は業務のマニュアル化・仕組み化だと考えています。利益を生み出すためのノウハウをしっかり固め、業務がスムーズに進むように仕組みを構築する。

つまり業務を始めるにあたって、最初に汗をかくのは社員ですが、ある程度のルール化、標準化ができれば、必ずしも同じ人がやり続ける必要はありません。

そこにアウトソーシングをうまく取り入れることで、社員が担当する仕事はどんどん高付加価値化されていくと思っていますし、実際されています。そうなれば、給料も上げやすくなりますし、単純作業が減るので仕事の面白さも増しますよね。

BPOにあたって留意点はありますか?

杉山:費用対効果は当然考えますし、クオリティに関しては外注先に責任を負わせるのではなく、担保するためのプロセスをしっかり用意しています。

決して外部に丸投げはしません。定例ミーティングを行い、報連相を意識しながら、課題があればマニュアルを見直し、改善も図っています。

現在は営業、新規事業の立ち上げ、人材採用など多くの分野でBPOを導入しているんですよ。

効果はいかがですか?

杉山:特に新規事業を立ち上げるスピードは上がっています。

2022年4月に新規事業を立ち上げましたが、準備期間はわずか2ヶ月。正社員3名と数名の業務委託のスタッフで準備を進めました。立ち上げ後は外部委託約150人と事業をスタート。ほぼ業務委託のメンバーで始めた事業にも関わらず、初年度から、その分野では国内トップレベルの成果を上げることができました。

仕組み化、そして、BPOの活用による結果として、当社にとっては大きな成功体験でしたね。

出世したい、定時に帰りたい…キャリアパスに合った目標設定

御社の働き方についても教えてください。個々人の働き方が多様化するなか、御社はどのように対応していますか?

杉山:毎月社員にアンケートをとり、希望する働き方をヒアリングしています。

具体的には、「最終的に目指すポジション」「プライベートと仕事のバランス」「希望する給与額」などです。定時に帰りたい人は帰れるように、出世したい人はそのために必要なスキルや経験が得られるように支援するうえでも、社員の希望を聞くことは大事です。ヒアリングした結果をもとにマネージャーは1on1を行い、仕事の進め方などをサポートしています。

働き方や目指すポジションによって、個々人の目標も大きく変わるのでしょうか?

杉山:目標は、個人の希望に合わせて設定しています。会社としての売上目標は当然ありますが、ここは、それぞれが希望する働き方の中で達成できるレベルを考慮して設定しています。

自分の部署の業績を上げるために、個人の希望をないがしろにするマネージャーが生まれる恐れはありませんか?

杉山:ありませんね。部下に無理をさせたからといって、結果が出るわけではありません。利益を生む仕組みをつくり、業務が円滑に進むようにマニュアルを整備する。それこそが結果を出すことにつながると考えています。

個々の希望を尊重して管理するには、マネージャーの質が問われますね。

杉山:先ほどの業務改善ミーティングがマネージャーの質向上につながっていますし、週に1~2回、マネージャー層と社長によるランチもしています。ランチでの話題は幅広いのですが、短期的、長期的な目標を達成するための話がメインです。そこでの話を元に、マネジメントに取り組んでいます。

地方拠点をつくり地方で雇用を生み出していきたい

社長と社員のコミュニケーションの機会は、他にもありますか?

杉山:毎月1回フィロソフィートークを行っています。これは入社1〜2年目の社員を対象に、社長が会社の歴史について話すというもの。社員を支援する場として始めたもので、もちろん質問もできます。社員からは、社長の過去の経験から会社の将来、日常業務に至るまでいろいろな質問が寄せられています。

参加者はどれくらいですか?

杉山:前回私が参加した時は、40~50人ぐらいいましたね。入社1〜2年目の社員が対象ではありますが、誰でも参加できるので、社長の話を聞きたいと、マネージャーが参加することもあります。

こうした場を設けることは、社員によい影響がありますか?

杉山:業務改善ミーティングと共通しているのかもしれませんが、自分の言葉を上の層が聞いてくれる場があることは社員の安心につながっているように思えます。

今後の展望をお聞かせください。

杉山:地方拠点をつくりたいですね。当社の仕事の一端を担える地方拠点があれば、コストメリットが生まれます。また、地方には高い能力を活かせる場を求める人材もたくさんいます。そうした人材の雇用を創出していきたいと考えています。

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