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ダイバーシティを改革軸に従業員の働きがい追求 男性育休が当たり前の企業風土醸成を目指して

取材日:2023/04/21

オフィス家具の国内大手メーカーである株式会社オカムラでは、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)推進を積極的に進め、新たな企業風土の醸成や働き方改革で成果を上げています。D&Iの具体的な取り組みについて詳しく伺いました。※本文中、敬称略

お話を伺った人

  • 望月浩代さん

    望月浩代さん

    株式会社オカムラ

    サステナビリティ推進部 D&I推進室長

この事例のポイント

  1. 従業員によるプロジェクトチームが業務改善や意識改革を推進
  2. 男性・女性関係なく仕事と育休を両立できる企業風土を醸成
  3. 多様性と個性を認め合えば職場環境と企業風土は改善する

女性の活躍につながる在宅勤務制度から着手

D&Iの取り組みで高い評価を受けていますね。

望月:D&Iに取り組む企業を認定する日本最大のアワード「D&I AWARD 2022」において、2年連続で最高評価「ベストワークプレイス」の認定を受けました。また、厚生労働省の女性活躍推進企業認定「えるぼし(2段階目)」、子育てサポート企業「くるみん」にも認定されています。

D&Iの取り組みを始めた経緯について教えてください。

望月:2016年4月に女性活躍推進法が施行されたことをきっかけとして、組織としての必要性の高さから、社長からもプロジェクト推進の指示があり、同年8月に「ダイバーシティ推進プロジェクト(愛称:ソダテルプロジェクト)」を発足しました。

メンバーは私を含む10名で、全員が各部署から選抜された女性従業員です。ただ、トップダウンで決まったプロジェクトですが、具体的に何をやるかは私たちに任されていました。

「ソダテルプロジェクト」推進のための10名のメンバー。

何から着手されましたか。

望月:当時は、ダイバーシティを推進すると言いつつも、女性従業員が少ないということが課題でした。

そこで、まずは女性が活躍できるための条件を考えよう、と。すぐに全女性従業員にアンケートを実施し、その結果、仕事と育児の両立支援施策に取り組むことが最優先課題だととらえて、在宅勤務制度の導入につなげました。プロジェクトのメンバーによる在宅勤務のトライアルおよびメリットデメリットの検証はしましたが、それでも7カ月たらずという、かなりのスピード感で導入を実現しました。

その後、2018年には人事部内にダイバーシティ推進室(現サステナビリティ推進部 D&I推進室)を設置し、D&I宣言を策定するなど、働き方やライフスタイルなどで多様性を尊重し、一人一人が強みを発揮できる組織を作ることを社内外に広く発信しています。

ダイバーシティですから女性対象の施策に限らないわけですね。

望月:そうですね。実際に、次に取り組んだのは男性の育休取得推進です。

取得者が非常に少なかったのでプロジェクトメンバーに男性を加えて検討し、以前は任意取得だった3日間の配偶者出産休暇の取得を、2020年に「義務化」しました。

「ダイバーシティ推進プロジェクト」は2020年3月までの活動でしたが、このほか、2019年には介護やLGBTQに関する施策を進め、2021年には育児・介護休業法に対応するための「はぐくむプロジェクト」を発足し、施策に取り組みました。

D&Iの推進は、女性の活躍推進に限らず男性の育休、介護、LGBTQ、障がい者など、全ての従業員における働きやすさを考えないといけません。女性の働きやすさ改善を一つの契機として、今現在は、やるべきことを増やしています。

女性従業員の少なさがプロジェクト発足の契機になっているとのことですが、発足当時の女性比率は、どのような状況だったのでしょうか。

望月:女性従業員の割合は15.7%でした。プロジェクトとしては20%を目標に活動を続け、2022年度に20%を実現。2023年3月末で21%に増えています。

2018年に設置されたダイバーシティ推進室は、どのような役割を担っていたのですか。

望月:具体的な役割としては、推進室で組織全体のD&Iに関する枠組み作りをリードし、プロジェクトのメンバーと各施策を進めるといった形です。

さまざまな制度が誕生しましたが、形骸化することなく従業員に使われていますか。

望月:一番多く使われているのは在宅勤務制度だと思います。以前は育児や介護、病気療養の目的に特化した制度でしたが、コロナ禍を経て、理由に関係なく全従業員が使えるようになりました。

現在は「原則週3日出社、残りは在宅でもOK」の仕組みで、事情がある従業員は申請することで週3日以上の在宅勤務も認められる制度になっています。ただ、当社の場合、工場勤務の従業員もいて、全従業員に適用される制度とはいっても、単純に在宅勤務に置き換えるのは難しいケースが存在するという実状もあります。

育休とるの?ではなく、育休“いつ”とるの?の風土醸成へ

D&Iを推進し、社内に何か変化は生まれましたか。

望月:男性従業員の育休取得率が大幅に向上しました。改正育児・介護休業法の一環で育休取得の意向確認が義務化されたこともあり、2021年の16.2%から、2022年には6割を超えるまでになっています。

最長4週間の育休が取得できる「産後パパ育休(出生時育児休業)」が新設されましたが、労使で合意すれば休業中の仕事が可能な制度なので、これが一気に取得者を増やすことにつながりました。

早めに上司や職場に取得の意向を伝え、業務をシェアしたり引き継いだりする行動が増えたなと実感しています。仕事といっても上限や条件はあるのですが、ミーティングにはオンラインで参加するなど、休業中も仕事の状況を把握できることから職場全体の理解を得やすくなり、一段と育休を取得しやすくなっていると思います。

はぐくむプロジェクトの効果もありましたか。

望月:2021年に始まった「はぐくむプロジェクト」は、法改正対応と男性の育児休職希望者がスムーズに育児休職を取得できるような仕組みづくり・風土醸成を目的に、1年間活動しました。制度系分科会、啓発系分科会、広報分科会の3つのチームに分かれ、毎月プロジェクト全体で会議を行うほか、各分科会も2週間に1度ミーティングを実施して施策を練り、実践してきました。

テーマは、「育休とるの?」ではなく、「育休“いつ”とるの?」という会話が自然に生まれるような雰囲気づくりです。社内への啓発や情報発信をおこなったほか、全管理職を対象に「イクボスセミナー」を実施。子どもができたと部下から報告を受けたときの対応方法や、法改正について上司として知っておく必要がある内容を学んでもらいました。

また、セミナーの最後には「こんなイクボスになります!」と宣言してもらっています(笑)。性別問わず育児への理解を高めることが、結局は女性活躍にもつながると実感しています。

従業員に対するアンケートでも「オカムラのD&Iの定義に共感できるか」との設問に対し、肯定的な回答の割合が約90%を占めるなど、かなり上がりました。

セミナーで「こんなイクボスになります!」を宣言した時の様子。

D&Iの浸透がビジネス面でプラスに働いたことはありますか。

望月:取り組んできたことが各種アワードの認定につながり、外部から高い評価をいただきました。特に「えるぼし」や「くるみん」認定については、公共調達での入札時に加点されますので、あらたなビジネスチャンスにもつながっています。

また、D&Iについて他の企業からレクチャーを依頼されたことが契機となって案件を獲得したこともあり、営業活動にプラスになっていることは間違いないと思います。

営業部経由で聞いた話では、育休を取ることを取引先に話すと、「きちんと育休が取れるのは、いい会社だね」と感心されることがあるそうです。男性育休取得については、復帰した直後に昇進した事例もあるので、育休取得がマイナス評価にならないと認知されたことも、心理的安全性の確保という面で大きいのではないでしょうか。

ダイバーシティが進むことで多様な視点や多様性への理解も深まりますが、より良いオフィス環境づくりの提案に生かされることもあるのでしょうか。

望月:D&Iの活動と直結しているかどうかわかりませんが、もともと多様性を意識した製品開発をおこなっていますし、障害の有無に関係なくあらゆる方が使いやすいユニバーサルデザインに基づいた製品開発や空間構築を意識しています。

一緒にD&I推進に取り組んでいる従業員に、車いすユーザーでパラ卓球の日本代表選手がいまして、障がい者とともに働くことや障がい者の理解を深める体験型のイベントを実施し、定着の支援と誰もが快適に働ける環境づくりを目指しています。

また、LGBTQの対応として、広い更衣室のみだったところを、個室タイプも新設し対応しています。

D&I が浸透することで、生じた課題や問題点はありますか。

望月:同じ部署で複数の育休取得者が出ると、仕事をシェアして特定の従業員に業務が偏ることのないよう対応していますが、それでも現場の負担が一時的に増すことに変わりはありません。

そのため現在、育休中に業務を担ってくれた人に還元する仕組みを検討中です。何らかのインセンティブを考え、気持ちよく育休に送り出せる環境を整えていきたいです。

無意識バイアス解消と女性の意識改革が必要

D&Iを推進する上で必要なマインドや資質は何でしょうか。

望月:昨今は女性の管理職が増えてきましたが、そもそも女性従業員が少ないと管理職も少なく、また、合理的な理由なく、昇格させるなら男性からという考えを持つ人もいるでしょう。

このような無意識のバイアスは、全従業員が思い込みや偏見に「気づく」ことが重要です。少しずつ意識は変わってきていると思いますが、D&I推進室としても年間を通じて、多様な可能性を理解し、違いを受け入れることの大切さについて、定期的に情報発信する必要性を感じています。

また、女性の意識改革も求められています。管理職に打診されても「私には無理です」と躊躇してしまう人も少なくありません。ここ2年ほど取り組んでいるリーダーシッププログラムの中で、リーダーは引っ張っていくタイプばかりではなく、従業員に寄り添ってフォローしていく支援型も数多くいると伝え、自己肯定感を高めています。プログラム終了後には、2割以上の受講者が、リーダーに打診された際はやってみたい、という意識の変化がみられています。

ダイバーシティな組織を目指す企業は、何から取り組めばいいのでしょうか。

望月:テーマが多岐に渡りますので、まずは重点課題を絞り込み、優先順位をつけて一歩ずつ進めていくことが大切でしょう。啓発活動は時間がかかり、足並みがそろわないことや反発もあるかもしれませんが恐れずに取り組みを進め、段階的にテーマを広げることが効果的です。また、長期的な視点で取り組むことも重要ですね。

今後、御社が目指しているダイバーシティの取り組みについてお聞かせください。

望月:D&Iに公平性(Equity)を加え、DE&Iを推進することを目指しています。具体的にどのような施策が公平性につながるか検討中ですが、誰もが、目標に向けてチャレンジできる機会を得られるように、個々人に見合った対応を検討する必要があると思います。

また、障がい者の定着施策と介護に関する取り組みを強化したいと考えています。

定年の延長により、介護に関わる従業員が増えることも予想されるので、介護のための帰省費用や柔軟に使える休暇の仕組みを整えるほか、障がい者雇用も新卒、中途を問わず拡大するなど、組織の多様性を高めつつ、誰もが気持ちよく働ける組織を目指していきたいですね。

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