役割分担の性差を解消して女性が活躍する職場へ 社員が経営に「関心」と「自主性」を持つ組織とは?

取材日:2023/02/13

日本茶など食品パッケージの企画製造・販売を手がける株式会社吉村。令和4年度東京都女性活躍推進大賞の受賞をはじめ、自社で考案した「ノーベル起案制度」「ドリームジャンボ起案制度」など意欲的に取り組む働き方改革についてお話を伺いました。※本文内、敬称略

お話を伺った人

  • 石井佳代子さん

    石井佳代子さん

    株式会社吉村

    経営企画部

この事例のポイント

  1. 社員の意欲向上と業務改善を両立するユニークな休暇制度
  2. 「会議スキル研修」で業務の生産性と正確性を促進

社員の声をもとに制度化する「ノーベル起案制度」

「ノーベル起案制度」とはどのような制度でしょうか?

石井:社員が日常業務においての課題を発見し、その改善を提案できるのが「ノーベル起案制度」です。事業のアイデアはもちろん、働き方や福利厚生、ちょっとした業務改善にいたるまで全社員が自由に起案でき、「制度化すべき」と判断されたアイデアは、関連部署で検討されるようになります。最近の例を挙げると、「これまで入社時のみにおこなっていたハラスメント研修を、全社が集まる経営計画発表会で定期的に実施してはどうか」という起案があり、昨年の経営計画発表会から実際に研修が行われました。

起案が制度化されるまでの流れを教えてください。

石井:以前は各部署の責任者が推薦した社員が集まり「ノーベル会議」を開催し、話し合う場を設けていました。ただ、それだとどうしても、「起案」自体が、会議参加者だけのものになりがちです。

そこで現在は、誰でも起案しやすく、かつスピーディな承認フロー構築の一環として、Chatworkのグループチャットで「承認の部屋」を作りました。まずは起案を関連部署で検討したのち、全社で検討すべきと判断された起案は、この「承認の部屋」で全社的に検討されることになります。

そこで多数の「いいね!」のリアクションが集められたアイデアは、実際に承認の手続きへと進むといったイメージです。賛成意見のほかにも、「(アイデアに)もう一捻り欲しい!」、「当社の事業方針に合わないのでは?」といった反対意見も出ますが、反対する際には、必ずダメな理由を添えて伝えるなどのコミュニケーションを徹底しつつ、活発な話し合いの場になっています。

“一人の社員”が全社的なテレワーク導入のきっかけに

社員さんを巻き込んで働き方改革を推進されているのですね。

石井:トップダウンで制度を決めるのではなく、社員の声を大切にしています。実は、テレワークの導入についても一人の社員から相談を受けたことがきっかけでした。

2018年ごろ、ある社員が家庭の都合で遠方に引っ越すことになり、会社を辞めるかどうかの話し合いが持たれたんです。当時は、在宅勤務できるような体制が整っておらず、退職という方向で話を進めざるを得ない状況でした。しかし会社としてはこれを問題として受け止め、テレワーク制度を導入できるよう早急に対策を打つことに。社内ネットワークの整備などを通じてテレワーク制度の土台ができあがったタイミングで、当時退職された社員にも、ありがたいことに復帰してもらえるようになりました。

社員さんの声は、どのようにして集めていますか?

石井:当社は、社員が直接社長に相談するケースも意外と多いです。先ほどの「承認の部屋」でも、頻繁に社長が発言するなど、ほかの会社に比べて社長と社員の距離が近いかもしれませんね。現在の従業員数は230名ほどですが、毎年「社長面談」の希望者が50名ほど集まり、直接話す機会をつくっています。

「ドリームジャンボ休暇制度」でその人にしかできない仕事を無くす

「ドリームジャンボ休暇制度」とはどのような制度でしょうか?

石井:社員に賞金と有給休暇をプレゼントする制度です。実際の宝くじのようにくじ引きをして、例えば、1等当選者には、賞金20万円と10日間の有給休暇が授与されます。

「ドリームジャンボ休暇制度」を始めたころは、当選機会を全社員一律にしていたのですが、そもそもこの制度には、組織として「業務の属人化を防ぐ」といった狙いがありました。そのため、現在は1等当選資格は「勤続10年以上とする」などの制限を設け、ベテラン社員が不在でも、業務が遂行できる環境づくりの一環として役立てています。

ボーナスという意味だけではなく、経営上の目的があるということですね。

石井:そうですね。また、当選した賞金や休暇は、何に使ってもいいというわけではありません。社員には、自己投資の機会として捉えてもらうため、どのように過ごしたのかをレポートにまとめて提出してもらっています。

実際、皆さんどんな風に休暇を活用されていますか?

石井:レポートの提出には、「気が休まらない」との反対意見もあるのですが(笑)、旅行に出かけたり、人間ドックに行ったり、読んだ本についてレポートにまとめてもらったりと人それぞれです。スキルアップまではいかなくても、リフレッシュも含めて自分にちょっとプラスになるようなことに取り組むようお願いしています。

オンライン化やワークフロー管理で業務効率を改善

続いて、業務を効率化するために取り組まれていることを教えてください。

石井:ワークフローを管理するツールを新たに導入し、社内で活用している書式をペーパーレス化しました。例えば、以前は紙を回覧して各部署の承認をとっていましたが、コロナ禍では出社しない社員もいますのでスムーズに進みませんでした。ツールの導入により、2週間かかっていたような社内決裁も1日で完了するほどになりました。また、紙で回覧していたアンケートもグループウェアのアンケート機能を活用することで効率が良くなるなど、ツールの導入前と比べて、スピーディーに会社が回っていると実感しています。

テレワーク導入後の変化や状況はいかがでしょうか?

石井:もちろんワークライフバランスが取りやすくなったというのもありますが、営業面にもポジティブな変化がありました。

お客様との商談の際、これまでデザイナーが同席することは、ほとんどなかったんです。背景としては、移動時間などの制約が大きな理由だったのですが、オンライン商談になり、デザイナーも参加できるようになりました。デザイナーとお客様が直接コミュニケーションをとるようになったことで、双方の細かい認識のずれがなくなり、より的確なデザイン提案ができるようになったことから、デザインの採用率も上がっています。

テレワークの推進において社員さんから反発はありましたか?

石井:コロナ禍で全員出社させないと決めた際は、社員から大きな反発を受けました。当時はテレワーク制度がまだ確立されていなかったので、郵便の受け取り、電話やファックスの対応に困るという声が多々ありましたね。

当社はトップダウンをしない方針ですが、その時だけは社長からの強いメッセージとして「社員の命を守ること」「会社を存続させること」の重要性を社員に伝え、理解を促しました。すると初めは困惑していた社員も、部署ごとに交代勤務制にするなどのアイデアを出し合うなど、協力してコロナ禍を乗り越えようという意識に変わってくれたと思います。

今現在、テレワークの課題はありますか?

石井:テレワークと出社のハイブリッドな働き方は実現できているものの、「完全在宅ワーク」を全社的に実現できる環境ではありません。現状では、完全在宅ワークの社員が2名おり、主に営業活動やSNSの運用などを担当していますが、今後は、完全在宅ワークの社員が増えてきた時にも対応できるよう検討しています。

コミュニケーション能力に重点を置く人材育成

人材育成についてはどのように取り組まれていますか?

石井:新卒の社員向けに「Y+研修」という制度があります。社名のイニシャルである「Y」に「+」が付いた名前には、自社のことだけに限らず、ビジネスパーソンとしてのスキルアップにつながる、多様な知識を身につけてほしいという想いが詰まっています。

具体的には、実技と座学を繰り返して学んでもらうという内容で、まずは社会人として、当社の社員として一人前になってもらうことが目的です。実技では、1、2カ月ほど静岡の工場で勤務してパッケージの製造工程を体験してもらうのですが、どんな部署に配属されても、自社の製造工程を理解しておくことは後々役立っていますね。そのほか新卒以外の社員に向けて、コミュニケーション能力を磨く研修を積極的に取り入れています。

「会議スキル研修」などもおこなっているそうですね。

石井:はい。業務効率を上げるために、会議のスキルを重要視しています。具体的には、部署内のちょっとした会議でも詳細のアジェンダと分刻みの進行スケジュールを決め、目的や目標に沿った話し合いが効率よくかつ無駄なくできるよう、会議の事前準備を徹底しています。 また会議の中で「ミニ会議」を行い、議題について良い点、悪い点や改善点などを制限時間2分以内に発言していくという仕組みもあります。

会議の質を高めることによってどのように変化しましたか?

石井:会議全体を通じて時間ごとに議題が決まっているので論点がぶれることがなくなり、会議そのものの生産性が上がりましたし、社員一人一人に発言する機会がありますので参加意識が高まります。

また、自分の意見が会議で取り入れられることで、会社と社員のエンゲージメントが高まったり、自主性が生まれたりするなどのメリットも得られると感じています。さらに、承認された議案は、いつまでに誰が何をするのか、その場で宿題として「宿題シート」にタスク化されるので、「(やるべきことが)決まっているはずなのに、宙に浮いている」ようなこともなくなりましたね。

男女別の役割分担意識を解消して女性社員の活躍の場を広げる

令和4年度東京都女性活躍推進大賞の受賞について、どのような取り組みをされましたか?

石井:経営会議への参加枠の約半数を「21世紀枠」と位置づけて、女性社員や若手社員に参加してもらっています。経営会議について「偉い人が集まって難しい話をしている」という印象をもたれがちですが、参加した「21世紀枠」の社員に尋ねると「こうして物事が決まっていくのか」「会社の決めごとに参加できて良かった」とう前向きな見方に変わります。「21世紀枠」という制度を通じて社員が会社をより身近なものに感じられますし、経営会議の内容を自分の部署で、自分の言葉でシェアしてもらうことで、事業理解が深まるなどの相乗効果につなげています。

「令和4年度東京都女性活躍推進大賞」贈呈式の様子。

女性社員の活躍の場を広げようと思ったきっかけはありますか?

石井:弊社の社長(橋本久美子氏)の講演が、女性社員の入社のきっかけになるケースも多く、女性社員が増えたことで、もっと活躍の場を広げたいと考えたことが要因の一つです。弊社にも、まだまだ営業は男性、営業事務は女性というような無意識の性別役割分担意識がありましたので、性別ではなく能力で適正を判断できるよう制度を整えています。

男女別の役割分担意識は、どのように解消していますか?

石井:工場では重いものを持ち運ぶのは男性社員だと決まっていました。確かに筋力などの性差は、一般的に男性の方が上ですので合理的な理由なのですが、その一方で、設備を整えれば解消できる問題でもあります。そこで女性でも重いものを持ち運べるよう補助機などを導入して、男性社員にしかできない仕事というハードルを取り払いました。

また機械操作は男性の方が得意といった、まさに無意識のバイアスなどもありましたが、研修制度を整えるなど、これまでの当たり前を疑い、常に「どうすれば女性でもできるのか?」という視点で考えています。

女性が活躍できる職場づくりにおいて課題はありますか?

石井:会社全体として見れば女性管理職は13名まで増えましたが、工場での女性管理職は一人もいないということが大きな課題です。いま女性が管理職についている部署は経営企画部をはじめ営業や物流などです。それぞれの現場で結果を出した社員が結果的にマネジメントをするようになったという現状なので、管理職を育てるという点ではまだまだ課題が多いかと思います。

工場で女性管理職が生まれない理由はなぜでしょうか?

石井:前提として工場で管理職になるには、やはり現場のことをよく理解している工場勤務の社員から選ぶ必要があります。ただ工場勤務の方はどちらかと言えば職人気質で、いつまでも現場で働いていたいという意思が強く、管理職に必要なデスクワークや会議などに消極的な人が多い。その辺りの意識改革や、管理職を含むキャリアパスに興味や魅力を感じてもらう取り組みが必要だと考えています。

働き方改革の課題と新たな取り組み

働き方改革で、これから取り組もうと思われていることはありますか?

石井:就業規則がなぜそのように決められているのかを社員に納得してもらえるように、規則を作った理由を文書化してまとめるプロジェクトを進めています。そのプロジェクトを通じて「規則だから守りなさい」ではなく「○○だからこうしよう」というように社員の意識が変わることを目指しています。業務改善に関しては、定期的に改善する機会を設けて、昔からある仕事のルーティンなども本当に必要なのかどうか精査していきたいと考えています。

働きやすい職場づくりについて心がけている点はありますか?

石井:とても難しいと感じる点は、働きやすさだけが先行すると甘えが出てきてしまうことです。テレワークをする社員の勤怠状況のチェックも限界がありますし、管理する側の社員がそのチェックをするために残業するのも本末転倒です。ITツールなども活用していますが、「性善説」として、社員を信じるしかない部分を完全に排除することは難しいですよね。

もちろん会社として、ただ静観するという訳ではありません。研修や必要に応じた制度の新設・変更などを通じて、自律した社員を育てる体制づくり、また、社員と経営層との「近い距離感」によるエンゲージメントの構築などは、引き続き推進していきたいと考えています。

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