年末調整での収入金額とは?算出方法や所得金額との違いを解説
年末調整は、労働者と雇用主の間で行われる重要な手続きの一つです。なかでも収入金額の算出は、源泉徴収額や特別控除に影響を与えるため、慎重に行わなければなりません。本記事では、年末調整での収入金額の算出方法や各申告書への記入方法、間違いが起きた場合の対処法などを紹介します。
目次
年末調整での収入金額とは?
年末調整での収入金額とは、収入から社会保険料・源泉徴収税額・住民税額などを控除する前の総支給額を指します。
この収入金額は、従業員の所得税の計算の基準となるため、正確な金額を算出しなくてはなりません。なお、年末調整でも同様の収入金額に基づいて所得税額を再計算します。
所得金額との違い
収入金額と所得金額の違いは、控除の有無にあります。
収入金額は給与や賞与などから何も控除していない総額を指すのに対し、所得金額は総支給額(=収入金額)から社会保険料や給与所得控除などの必要経費を差し引いたあとの金額を指します。
年末調整では前者の収入金額がベースとなる一方、所得金額は最終的に課税対象となる額面に基づくなど、手続きによって用いる金額が異なります。
年末調整での所得金額の算出方法
ここでは年末調整で必要な所得金額の算出方法を解説します。
給与所得控除を差し引く
給与所得控除とは、給与所得者に適用される控除の一つです。この控除は、下表のように、年間の給与収入に応じて段階的に設定されています。
給与等の収入金額 | 給与所得控除額 |
1,625,000円まで | 550,000円 |
1,625,001円から1,800,000円まで | 収入金額×40%-100,000円 |
1,800,001円から3,600,000円まで | 収入金額×30%+80,000円 |
3,600,001円から6,600,000円まで | 収入金額×20%+440,000円 |
6,600,001円から8,500,000円まで | 収入金額×10%+1,100,000円 |
8,500,001円以上 | 1,950,000円(上限) |
[出典:国税庁「No.1410 給与所得控除」]
所得金額調整控除額を差し引く
所得金額調整控除額とは、特定の条件に該当する給与所得者に対して適用される控除です。
この控除は、年間の給与収入が850万円を超えており、本人が特別障害者である場合や特別障害者である扶養親族を有している場合、23歳未満の扶養親族がいる場合などに適用されます。
具体的には、年間給与収入から850万円を超えた部分について所得金額調整控除が適用されます。
[出典:国税庁「No.1411 所得金額調整控除」]
特定支出控除額を差し引く
特定支出控除とは、給与所得者が職務に関連して支出した額の合計額が「特別支出控除額の適用判定の基準となる金額」を超える場合に、確定申告を行うことでその超えた部分の金額を所得金額から差し引くことができる制度です。「特別支出控除額の適用判定の基準となる金額」とは、給与所得控除の2分の1を超える支出とされます。
特定支出に該当する項目としては、通勤費・職務上の旅費・転居費・研修費・資格取得費・帰宅旅費・図書費・衣服日・交際費等が挙げられます。
ただし、これらの特別支出は、いずれも給与支給者が証明したものに限られる点には注意が必要です(項目によってはキャリアコンサルタントの証明も有効)。
[出典:国税庁「No.1415 給与所得者の特定支出控除」]
2020年以降の年末調整の変更点
2020年以降の年末調整では、主に以下の点が変更されています。
- 基礎控除額が38万円から48万円に引き上げられた(ただし、所得金額が2400万円を超える場合は段階的に控除額が減少)
- 給与が850万円を超える場合、特定の扶養親族がいる場合に所得金額調整控除が適用されるようになった
- 同一生計配偶者・扶養親族・源泉控除対象配偶者・配偶者特別控除の対相となる配偶者および勤労学生の合計所得金額要件がそれぞれ10万円引き上げられた
- 「給与所得者の基礎控除申告書」および「所得金額調整控除申告書」の新設、源泉徴収簿の様式変更
[出典:国税庁「昨年と比べて変わった点」]
各種申告書における金額項目の記入方法
ここでは申告書別に金額項目の記入方法を解説します。
基礎控除申告書の書き方
基礎控除申告書は、年間の収入金額に基づいて基礎控除を申請するための書類で、基本的な書き方は以下のとおりです。
- 給与明細を基に「給与所得」の行に収入金額と所得金額を記入する
- 給与以外の収入がある場合は「給与所得以外の所得の合計額」を記入する
なお、所得金額を算出する際の控除額や計算式は、申告書の裏面に記載されています。
配偶者控除等申告書の書き方
配偶者控除等申告書は、配偶者の所得が一定の基準を満たす場合に提出する書類です。
配偶者控除等申告書も、基礎控除申告書と同様に収入金額と所得金額を記入し、申告書に記載されている表を基に区分や控除額を記入します。
▷年末調整の扶養控除とは?扶養親族の条件や控除額について簡単に解説
所得金額調整控除申告書の書き方
所得金額調整控除申告書は、年間の給与収入金額が850万円を超えており、特定扶養親族などがいる場合に適用される控除を申請するための書類です。
要件に該当する場合は、配偶者や扶養親族の氏名やマイナンバーなどの必要事項を記入します。なお、所得金額調整控除は条件を満たしていればよく、控除額を計算する必要はありません。
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年末調整における収入金額で間違いが起きた場合は?
年末調整において収入金額に誤りがあった場合の対処方法を解説します。
給与明細の情報を訂正する
収入金額に関する誤りが発覚した場合、給与明細の情報を訂正することが最優先です。
該当する従業員に誤りがあった旨を連絡・謝罪したうえで、早急に正しい金額に修正します。基本給や各種手当など、項目によっては所得税額や各種保険料などの額面にも影響するため、十分注意が必要です。
▷年末調整で間違えたらどうなる?訂正方法や期限・訂正が必要なケース
迅速に過不足分を精算する
従業員への連絡と給与明細の訂正が終わったら、過不足分を迅速に精算しましょう。
労働基準法第24条において「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」という原則が定められているため、やむを得ない事情がある場合を除き、当月中に調整する必要があります。
該当する従業員との間で現金で徴収または支給するか、本人に許可を得たうえで翌月の給与で調整しましょう。
なお、過払いの場合はそこまで大きな問題にはなりませんが、支給額が不足していた場合は労基法違反に問われるリスクがあるため特に注意が必要です。
給与計算システムの導入を検討する
年末調整や給与計算におけるミスを防ぐためには、給与計算システムの導入を検討するのも一つの方法です。
最新の給与計算システムでは、収入金額や控除額の計算を自動化できるため、人為的なミスを最小限に抑えられます。また、アップデートなどによって税制の変更にも迅速かつ柔軟に対応するため、法令を遵守することにもつながるでしょう。
細かな機能は導入するシステムによって異なりますが、システムを取り入れることで、複雑な年末調整の処理をスムーズに進められます。
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年末調整における収入金額を正しく理解しよう
年末調整における収入金額は、社会保険料や税額を控除する前の総支給額を指します。この金額に誤りがあると、従業員や会社に多大な影響を与えるおそれがあるため、十分注意が必要です。従業員が多い場合や処理が煩雑になってきている場合は、給与計算システムの導入も検討しましょう。
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