個人を尊重する働き方を実現し成長を遂げる 社員の自己実現を応援する数々の制度とは?

取材日:2023/08/23

「みんなで幸せになれる会社にすること」「今から100年続く会社にすること」を経営理念に掲げ、さまざまなインターネットビジネスを展開する株式会社エイチーム。個人を応援する働き方を目指すために設けている制度についてお話を伺いました。※本文内、敬称略

お話を伺った人

  • 森下真由子さん

    森下真由子さん

    株式会社エイチーム

    人材開発部長

この事例のポイント

  1. 社員のライフステージに合った働き方を導入
  2. グループ内で求人募集を行いキャリアチェンジを支援

会社へのエンゲージメントを高めたファミリーサポート制度

2017年に導入されたファミリーサポート制度の概要を教えてください

森下:ファミリーサポート制度は、主に育児中や介護中の社員を対象とした制度で、学校行事への参加時や子どもの看護、家族の介護のために使用できる特別休暇をはじめ、働き方や働く環境をサポートするための支援制度を定めたものです。

2016年から策定に向けての議論を始め、2017年から運用していますが、制度を策定した当時は、育児中という社員はまだまだ少数派でした。ただ、そう遠くない未来にライフステージが変化する社員も増えてくるだろうと考えていたのです。

そんな時に「長く働き続けられる会社」でありたいと思ったことが制度導入のきっかけです。策定を進めるにあたっては、育児・介護と仕事の両立を実現するうえでの不安や課題などのヒアリングも行いながら、議論を重ねて制度を検討しました。

導入後、ファミリーサポート制度を利用した方々の反応はいかがでしたか。

森下:制度は男女問わず活用されていますが、子どもの看護や学校行事のための休暇のほか、ファミリー誕生日休暇など、家族のための特別休暇が充実している点は、とてもありがたいという声をよく耳にします。

そのほか、病児保育や託児延長費用などの臨時的な託児費用を補助する臨時託児金銭補助も「助かる」といった声が よく挙がっていますね。

休暇のサポートだけでなく、働きたくても働けない、その根本的な課題を解決するための「働くサポート」である点が支持されているのだと思います。

ファミリーサポート制度を導入して、どのような成果がありましたか。

森下:ライフイベントに左右されることなく変化に合わせて仕事が続けられる環境は、単に「働く」という選択の理由になるのではなく、「エイチームで働く」という動機、エンゲージメントにつながっていると感じています。

また、長く働ける会社かどうか、どのようなワークライフバランスが実現できるかを重視する求職者は少なくありません。そのような点でも、採用市場での優位性を獲得する要素の1つになっていると思います。

そのほかにも働きやすい環境づくりを支える制度はあるのでしょうか。

森下:時短勤務が選べるほか、当社はフレックスタイム制を導入しているため、10時から16時のコアタイム以外は、自分のライフスタイルに合わせて、それぞれに就業時間をスケジューリングしていますね。

フレックスタイム制の導入で社員の意識が変革

フレックスタイム制を導入した成果について教えてください。

森下:2017年当時は時間外労働が270時間だったのですが、2022年には77時間まで減少させることに成功しています。

働き方の自由度を高めつつ生産性を向上できたのは、働き方の変化と同時に社員の意識が変化したことが大きな要因だと考えています。

自由度や柔軟性の高い働き方を継続して実現するには、セルフマネジメントがより重要になります。そのため、働きやすい環境づくりを推進するうえで、効率と生産性を高め、成果に対する責任を持つといったメッセージを常に発信し続けました。そのようなコミュニケーションがうまく機能したこともあり、成果にこだわる意識がより芽生えたのだと思います。

また、フレックスタイム制になったことで、社員同士が同じ時間帯に勤務するわけではなくなったので、先々を見通して段取りを組む社員が増えたのも大きいでしょう。コミュニケーションを取る相手のスケジュールや働き方を把握した上で、今何をやらなければならないのかを逆算して、無駄のない行動を取るようになったのです。

働きやすい環境と高い生産性が両立されているわけですね。2020年からは在宅勤務を導入したと伺いました。

森下:そうですね。コロナ禍をきっかけに、社員が安心して働ける環境を整えるために導入したのですが、さまざまなメリットを考慮して、現在も在宅勤務と出社勤務のハイブリッドワークを継続しています。

今は、出社勤務の割合は2割程度でしょうか。出社ルールは特になく、必要有無も含め部署に判断を委ねていますが、エンジニアやデザイナーは、「在宅の方が集中して制作・開発を行いやすい作業」という声もあるため、在宅勤務率が高い印象ですね。

対面で議論した方がよいと判断した場合は集まったり、部署によっては出社推奨日を設ける等、チーム単位の課題感に応じて柔軟に対応しています。

ハイブリッド×フレックスという働き方の中で、コミュニケーションの質・量はどのように確保されているのでしょうか。

森下:ハイブリッドワークやフレックスタイム制の導入に合わせた仕組みづくりは特に行っていません。当社は、もともと議論が活発に交わされるカルチャーがあり、働き方が変わってもそのカルチャーが薄まることはなかったので、必要性が高くなかったと言う方が正しいかもしれませんね。

しいて言えば、これまで対面で実施していた会議をオンラインに切り替えて実施できるように迅速に環境を整えたことやオンライン会議の際は、可能な限りカメラをオンにして、お互いの顔を見て議論できるようにすることを推奨しているくらいでしょうか。

当社の特徴でもあるのですが、集まって議論する機会が多いんですよね。部署のミーティングに加えて、スキルアップのための情報共有ミーティングや勉強会などを頻繁に開催しています。

会社の方向性を共有するという点では、週に一度、子会社も含めたグループ全体の社員が参加する全体ミーティングの効果が大きいです。また、社内報も活用して全体ミーティングでは伝えきれなかったメッセージや詳細情報を補足して伝えることで共通理解を深めています。

“社内転職”ができる制度でキャリアチェンジを支援

御社では社内公募で人材を募集する「ジョブポスティング制度」を設けています。詳しく教えてください。

森下:ジョブポスティング制度は、募集したい人材やポジションを、子会社を含めたグループ全体に公開して、社内公募できる制度です。

募集後の流れは、基本的に通常の採用フローと同じで、求めるスキルや条件に応募した社員の経験や能力がマッチしているかを見極めて判断します。

採用が決まった場合は、異動元の上司がそれを止めたり、拒否したりすることはできません。そのため実施時期は、4月と10月の年に2回のみとなっており、余裕をもった引き継ぎ期間を設けた上で異動することになっています。

会社の規模が小さかった頃は、社員個々の能力や強みなどの特性、希望するキャリアパスを把握した人員配置ができていたのですが、規模が大きくなってくると、どうしても全ての社員との意思疎通が難しくなったり、理解が十分に至らない場面も出てきたりします。

ただ、キャリアパスと現状の業務に相違があり、それを理由に優秀な人材が離職してしまうのは、会社にとっても大きな損失です。この部分のギャップは、社内で解決することもできるのでは?と考えた中で生まれたのが、ジョブポスティング制度でした。

実際、ジョブポスティング制度でキャリアチェンジした社員も多いのですか。

森下:多いですね。カスタマーサポート部門からコーポレート部門に異動したり、営業部門からマーケティング部門に異動したりと多種多様なケースがあります。

当社では、1on1ミーティングで社員の目標やチャレンジしたいことなどを入念にすり合わせているのですが、自身の業務に対する満足度や納得度が低ければ、当然、離職リスクが高まります。

もちろん異動の希望が叶うかどうかは、本人のスキルや適性次第ではありますが、「社内転職」という選択肢があるということは、個人のキャリアを応援しながら人材の流出を防ぐ一つの手段になっていると思いますね。

ちなみに不採用になった社員にはどのように対応しているのですか。

森下:選考を担当した部署にヒアリングを行い、どのような点が条件に合致しなかったのか、どのようなスキルがあればよかったのかをヒアリングして、しっかり応募者にフィードバックしています。

透明性が確保されているので、不採用だからといって“気まずい”雰囲気になるようなことはあまりありません。フィードバックによって現状足りないスキルや能力が明確になることで、改めて目標を持てる社員もいます。

個人の自己実現を叶える数々の制度を導入

社内異動に関連した制度で言うと、異動したい部署に自ら手を挙げる「フリーエージェント制度」もあるそうですね。

森下:はい。フリーエージェント制度は、社員が行きたい部署に応募できる制度です。どのように貢献できるのかを記載した自己PRを基に面談を行い、成立すれば異動できます。

利用率はジョブポスティング制度より少ないですが、社内求人の有無にかかわらず行きたい部署を逆指名できる点がジョブポスティング制度との違いですね。

会社として個人を尊重した働き方を取り入れている理由を教えてください。

森下:多様な人材が個々のパフォーマンスを最大限に発揮できれば、事業の成長につなげられると思っているからです。

人事考課では、半年ごとに目標を立てて評価しているのですが、あわせて1年後と3年後のビジョンの擦り合わせも行っています。個人の意見やキャリア観を尊重するのは大切ですが、会社組織としては、事業成長につなげる必要がありますし、社員のキャリア観が企業のビジョンとあまりにも乖離しているようでは問題です。

そこで、その両立を叶えるために、中長期の視点で見た社員が実現したいビジョンと会社のビジョンを擦り合わせて、重なりが大きくなる部分を重視しつつキャリアアップを図るといった取り組みを行っています。

会社のビジョンと擦り合わせるという観点では、当社は「みんなで経営について考える」文化が根付いています。先述の全体ミーティングで全社員に会社の数字・状況を開示することもこの文化ゆえです。他にも、「A+(プラス)」という新規事業案コンテストがあり、新規事業を提案できる機会もあります。

「A+(プラス)」について、詳しく教えてください。

森下:A+は3ヶ月に1度のペースで開催していて、年齢や社歴、役職などの条件はなく、誰もが新規事業をプレゼンできる新規事業コンテストです。

これまでに、結婚式場情報サイト「すぐ婚navi(現ハナユメ)」や自転車専門通販サイト「cyma-サイマ -」(2023年事業譲渡)など多数のサービスが、このA+から誕生しました。

どのような方が挑戦されているのですか。

森下:これまで新卒の若手からベテラン社員まで、さまざまな社員が挑戦していて、なかにはコンテストでプレゼンした新規事業が採用され、その後、子会社の代表になった社員もいます。

何回チャレンジしてもいいので、フィードバックされた点を改善して事業案をブラッシュアップできるのも特徴です。「A+(プラス)」という制度があることは、採用面において時代の変化に合わせていくという会社のメッセージにもなっています。

自社の社会的意義を言語化し浸透を図る

現在、注力されている取り組みを教えてください。

森下:“Ateam Purpose”(エイチームパーパス)の浸透です。当社の社会的意義を言語化したものなのですが「Creativity × Techで、世の中をもっと便利に、もっと楽しくすること」を掲げて社内外に向けて発信しています。

社外向けにはラジオCMやYouTubeで発信しており、社内向けには全体ミーティングの中で取り上げたり、日報に記載してもらったりしています。

パーパス策定の背景としては、2021年のホールディングス化を機に、社内アンケートを実施したところ、会社として目指す方向性や社会的意義を明確にしたいという声が挙がってきたことがきっかけです。会社の規模が拡大するにつれて、会社の歴史を知らない人が増えていたんですね。

今、当社の存在があるのは、これまでの事業や活動が、社会に一定の価値を提供できている証でもあります。

しかし、これまでと同じことを続けていては、経営理念のひとつである「今から100年続く会社にすること」を実現することはできません。時代の変化に合わせた進化が必要になりますし、どうしたら実現できるのかは、経営陣だけでなく社員一人ひとり考えてほしい。“Ateam Purpose”には、そういった当事者意識を高めるためのメッセージも込められています。

”Ateam Purpose”の実現が事業面や組織作りの面でも活きてくるということですね。

森下:そうですね。既存事業の拡大に加えて、新たな価値を創出することでパーパスの実現を目指したいと思っています。

組織作りの面では、人材に求める解像度を高めていきながら、パーパスに適合する人材を育成していきたいですね。そのためにも、社内ではパーパスに関する対話の機会を増やしていきたいと考えています。

次に読みたいおすすめ事例

ビズクロ編集部
「ビズクロ」は、経営改善を実現する総合支援メディアです。ユーザーの皆さまにとって有意義なビジネスの情報やコンテンツの発信を継続的におこなっていきます。