社員がつながる“きっかけ”を仕掛ける 活発なコミュニケーションが新たな価値を創造

取材日:2023/03/27

持続可能な社会の構築を目指し、人事業務効率化ツールなどを開発するjinjer株式会社。社員同士の交流が組織のブラッシュアップにもつながっているそうです。活発なコミュニケーションを促すために、どのような取り組みをしているのかお聞きしました。※本文内、敬称略

お話を伺った人

  • 芳田知恵さん

    芳田知恵さん

    jinjer株式会社

    CEO室/マネージャー

この事例のポイント

  1. 社員紹介などを発信する動画コンテンツが会話の種に
  2. 「シャッフルランチ」で部署役職の垣根を越えて交流
  3. 良好な人間関係の構築でネガティブな理由での離職を防止

社会に価値を提供するため、まずは社内の基盤を整える

組織作りをするうえで、御社が大切にしている理念はありますか?

芳田:当社では「『テクノロジー』のチカラで持続可能な社会を実現する」をパーパスに設定し、行動原則として、ワンチーム、イノベーション、インテグリティといったバリューを定めています。パーパスやバリューの根底には「お客様に価値を提供し続ける」という思いが込められており、会社設立時から大切にしています。

しかし理念を掲げただけでは「浸透」はしません。理解し、共感してもらってはじめて行動へと反映されていくものです。そこで社員が同じ目標に向かうための基盤作りとして、まずは社員同士のより良い関係構築に力を入れています。

インナーコミュニケーションの部分は、実質的なメリットが見えにくいものでもあります。注力するのは、なぜでしょうか?

芳田:そうですね。ただ、理念共有や社内コミュニケーションの円滑性は、意思決定の確度やスピード感に間違いなくつながると思っています。また、社内の人間関係が良好であれば、良い仕事ができるのは、多くのビジネスパーソンが実体験として経験されているのではないでしょうか。さらに、良い仕事は、お客様への価値提供にも直結する。そうすることで組織に利益が還元されるというサイクルが生まれると考えているためです。

例えば、10+10=20ではなく、10×10=100を目指して、社員同士の能力を“足し算”ではなく“掛け算”できるようになると、相乗効果でより素晴らしいパフォーマンスができるはずです。能力を掛け合わせていくうえではコミュニケーションが不可欠ですし、互いをよく知る必要もありますよね。そのために、会社としては社員同士のコミュニケーションのきっかけ作りに力を入れています。

具体的には動画コンテンツ「JIN ON AIR」を社員に配信したり、「シャッフルランチ」などをおこなっています。

コミュニケーションのきっかけを生む「JIN ON AIR」

「JIN ON AIR」とはどのような取り組みでしょうか?

芳田:もともとは「社員同士でもっと気軽にコミュニケーションをとっていきたい」という社員の声からスタートした取り組みです。現在は社内のプロジェクト紹介や新入社員紹介などを中心に、動画コンテンツを社員に対して発信しています。

コンテンツのなかでも、特に社員紹介は人気ですね。

以前は、朝礼で新入社員の方に自己紹介をしてもらっていましたが、挨拶程度で終わってしまい、その人の人となりを知るような機会にはなっていませんでした。そのため、その後に話すきっかけを見つけられないまま過ごす社員も多かったように思います。

JIN ON AIRでは趣味や経歴などのインタビューを動画として配信するので、人柄を知ることができる点が魅力です。たとえば新入社員が野球好きだと分かると、野球の話題をきっかけに先輩社員が話しかけて仲良くなるというようなことがよくありますね。

なぜ動画コンテンツにしたのでしょうか?

芳田:文章でもいいのですが、動画であれば何かの作業中に“ながら聞き”ができます。JIN ON AIRは、内容をじっくりみてほしいというよりも、会話のきっかけ作りとして運用していますので、手軽に見聞きできる動画で配信しています。もちろん「動画はちょっと恥ずかしい......」という方もなかにはいますので、その場合は文章で発信するなど、強制はしていません。

社内での反応はいかがですか?

芳田:理解を深め合えるきっかけとして、社内でも好評です。また、配信を見る側だけでなく、意外と出演する側のテンションが上がっている節はありますね。

誰でも自分のことを知ってもらえることはうれしいものですし、入社に対してウェルカムな雰囲気を感じ取っていただけているのだと思います。

加えて、JIN ON AIRでは、新規事業やプロジェクトの紹介もしており、直接プロジェクトに関係していない社員であっても、どんなことをしているのかを知る機会になっています。発信することによって他部署の動向にも興味を持ってもらい、自分の仕事だけでなく組織全体の事業を「自分ごと」として捉えてもらうきっかけ作りにもなっていますね。

垣根を超えた「シャッフルランチ」で新たな文化を醸成

部署を越えたつながり作りというと、「シャッフルランチ」もその一環でしょうか?

芳田:そうですね。3カ月に1回ほどのペースで開催しているシャッフルランチでは、「コスメ好き集まれ!」のようなカジュアルなテーマを含む、20個くらいのテーマを設け、それぞれで参加者を募集し、部署や役職関係なくランチを楽しんでいます。

毎回、テーマを考えるのが大変なのですが(苦笑)。WBCが開幕した時には「元野球部集まれ!」のテーマを入れてみたりと、その時のキャッチーな話題のテーマや、「人事と関わりたい人集まれ」とか「経理と関わりたい人集まれ」というような、普段関わりのない部署や経営陣とのランチも大変人気ですね。

シャッフルランチの魅力は何でしょうか?

芳田:ランチの機会があることで、中途や新卒の社員がはやく会社に馴染めていると思います。お互い仲良くなりたいと思っても、全く接点のない者同士の場合は、ランチを誘う側も誘われる側も勇気がいるもの。場が設定されていることで気軽に交流ができ、良いオンボーディングの場にもなっているのではないでしょうか。

特に中途採用の方との交流は会社の成長につながる価値ある時間となっています。当社はもともと、ネオキャリアという会社から独立した組織です。共に長く働いている社員ばかりではどうしても考えが偏り、同じような意見になってしまいます。そこで、さまざまなバックボーンやスキルを持つ中途社員が入ることで新たな視野が生まれ、考え方が多様化するのです。

現在のカルチャーを活かしつつも、中途社員による、ある意味で新鮮な視点も、組織をブラッシュアップする一つの要素になって、より良いカルチャーが築かれていると感じています。

社員同士のコミュニケーションが活発化することによって、業務面でのメリットはありますか?

芳田:仕事は一つの部署だけで完結することはなく、横断的にさまざまな部署と関わる必要があります。縦・横・斜めのつながりができていることで、些細なことでも相談しやすくなったり、意思疎通を取りやすくなったりするため、結果として業務も円滑に進んでいますね。

社内コミュニケーションを促す際に注意すべきポイントはありますか?

芳田:心理的安全性が一つのポイントになるかと思います。そのため、「コミュニケーションを強制しない」ことは心掛けていますね。例えば、シャッフルランチも参加の頻度は、人それぞれですし、そもそも全員参加を目的としておこなっているわけではありません。あくまでも「コミュニケーションのきっかけになればいい」という姿勢なので、自分に合ったものを取り入れてもらえたらうれしいと思っています。

また、お互い気を使わないよう、ランチ代の「おごり」もシャッフルランチではなしにしていますね。お互い気軽に参加しやすいようなルールを作るように心掛けています。

充実した人間関係がネガティブな離職の予防に

「持続可能な組織づくり」という観点からお聞きしたいのですが、日本企業が抱える課題として新入社員の離職があると思います。御社の場合はいかがですか?

芳田:他社さんと比較したことがないので正確には分かりませんが、個人的にはネガティブな理由で辞める社員は少ないように感じています。

永続的に社員が誰一人やめない組織というのは存在しません。ライフステージが変わって働く環境が合わなくなったり、ポジティブな理由で転職する方もいます。会社の努力で変えられない部分は当然あります。そのうえで、大多数にとって働きやすさを左右する理由の一つを挙げるとするなら、やはり社内の人間関係は大きく関わってくるのではないでしょうか。

そのため、「JIN ON AIR」や「シャッフルランチ」などの取り組みのほか、社員同士が雑談できるラウンジがあるなど、コミュニケーションを取りやすい場づくりは意識しています。お互いのことを知ることによってコミュニケーションエラーが起きにくく、会社に不満を持って離職するという事態を防げていると感じています。

活発なコミュニケーションは、社員の年齢層が若い会社だからできることなのでしょうか?

芳田:設立して間もない当社は若者が多いと思われがちですが、実はミドル世代も多いんです。代表の桑内(孝志氏)もその一人ですし、経営陣と社員に壁は感じないので、むしろ経営陣が積極的に社員に興味を持って接している印象です。

持続可能な社会づくりにはITツールが一役

御社のパーパスでもある「持続可能な社会づくり」に向けて、どのような取り組みをしていますか?

芳田:人口減少、特に労働人口の減少などから、どの企業も何とかして労働生産性を上げていかなければいけません。世界に対して競争力を保っていかなければ経済は回復しませんし、一人ひとりの生活も潤わない。人手不足のなか労働生産性を上げていくためには、テクノロジーの活用は有効な対策の一つですし、これは当社が業務IT化ツールを開発している理由の一つでもあります。

なかなかIT化が進まない企業もあると思いますが、具体的にどのようにIT化を進めていけばよいのでしょうか?

芳田:それぞれの会社によって課題が異なるので、「絶対こうした方が良い」という回答は難しいです。抱える課題によってファーストステップも変わるので、IT化を始める前に業務整理と課題や目的の言語化からしてみるといいかもしれませんね。

世の中では、DXやデジタルサイエンティストという言葉が、若干一人歩きしている部分もあり、やみくもにツールを導入すれば良いわけではありません。「この問題を解決したい」「この目標を実現したい」という目的を明確にし、できることからスモールスタートで導入していくことが大切かと思います。

目的の明確化とスモールスタートがIT化のキーワードですね。

芳田:そうですね。そのうえでアドバイスするならば、人事の業務は属人化しがちな面があると感じています。たとえば、「営業の成約率が上がる」という、業績に直接関係のあるサービスであれば会社としても導入を検討すると思います。一方「人事の工数が軽減される」というサービスは、「人事が楽になるだけで売上にはつながらない。むしろ経費がかかる」と判断されてしまう傾向にあるのではないでしょうか。

しかし、属人化しやすい人事業務にテクノロジーを導入することで、入社手続きや給与の支払いといったプロセスを低コストで遂行できるようになります。そうすると、浮いた予算でほかの事業に多くのコストを使えるため、結果的に会社の発展につながるのではないでしょうか。

日々の仕事一つ一つが「持続可能な社会づくりにつながっている」と感じるのはなかなか難しいものですが、振り返ってみた時に「これだけのことをやってきたんだ」と感じるタイミングが来るはずです。IT化はもちろん、働き方改革においても、できることから積み重ねていくことが大切だと思っています。

馴れ合いや対立を生まず、個々がベストを発揮できる組織に

最後に、今後目指していきたい組織像について教えてください。

芳田:一つのプロダクトを世に提供するまでには、開発する人、営業する人、バックオフィスで支える人など、非常に多くのメンバーが関わっています。それぞれのパフォーマンスを最大限に発揮してほしいですが、「間に落ちたボールをどっちが拾うのか」といったけん制はしたくないもの。お互いが理解し合い、腹を割って議論ができる組織でありたいと思います。

ベストなパフォーマンスを発揮するためにお互いを知らなきゃいけないし、お互いの思いを尊重しなければなりません。当社としても今後はピアボーナスを導入するなど、互いを評価し合える仕組み作りを進めていきたいと思っています。目指すべきはお客様のハピネス。社員同士で妥協や慣れ合い、対立することなく、それぞれ誇りを持った仕事をし、社会に価値を提供していきたいです。

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