対面重視が育む信頼と創造性 年齢や肩書不問の抜てき文化に見る組織づくり

取材日:2023/04/04

プレスリリース配信サービスのリーディングカンパニーである株式会社PR TIMESが2022年にオフィスを集約・拡大。対面コミュニケーションの機会を増やし、年齢や肩書不問の抜てき文化を組織づくりに生かしています。効果や成果について詳しくお話を伺いました。※本文中、敬称略

お話を伺った人

  • 山田真輔さん

    山田真輔さん

    株式会社PR TIMES

    執行役員兼 Jooto事業部長

  • 伊藤麻美さん

    伊藤麻美さん

    株式会社PR TIMES

    人事本部

この事例のポイント

  1. フェイス・トゥ・フェイスの重要性を認識しオフィス集約・拡大
  2. 年次や役職より、能力と行動力を見極めリーダーに
  3. 重責を担う経験と、重責を目指す意欲こそが働きがいを生む

コミュニケーション機会の増大に効果あり

コロナ禍で働き方が多様化しオフィス不要論や縮小論が叫ばれる中、御社は2022年2月にオフィスを集約した上で拡大しました。

伊藤:オフィス移転前は外苑前の本社に加え、組織拡大に伴ってサテライトオフィスを開設していました。2020年4月の開設だったので、新型コロナウイルスの感染リスク軽減にもプラスに働く結果となりましたが、社員のオフィス間の移動やコミュニケーションコストなどの面で、組織として考えた時のデメリットも大きかったんです。
そこで、もともと社員数が増加していたフェーズで、それに伴う組織の拡大を見据えていた時期だったこともあり、先行投資として、本社とサテライトオフィスを集約し、オフィススペースを拡大する形で現在の新オフィスの開設に至りました。

もちろんこれまでもチャットツールを活用してコミュニケーションは活発におこなわれていましたが、対面で言葉を交わし共感が生まれることには大きな価値があると考えています。

山田:確かにオフィスを集約しましたが、全社員が一度に出社する体制にしたわけではありません。都度、政府や自治体の指示に従いながら出社人数を調整しつつ、その一方で、社員同士のフェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションも大切にしたいとの共通認識のもと、テレワークとのバランスを保ちながら進めてきました。

伊藤:現在は、開発職はリモートワークが主体で、そのほかの部門では出社をベースに、週1~2回テレワークを取り入れるハイブリットな働き方に落ち着いています。出社日は、各部門の責任者が状況をみながら個別判断していますが、近頃は、出社する人数が増えてきたと感じていますね。

新オフィスはどれくらい広くなりましたか。

伊藤:以前の本社比で約2.7倍です。サテライトオフィスを合わせた広さと比べても約2.1倍に拡大しました。

オフィスの集約・拡大は「先行投資」とおっしゃっていましたが、現時点で効果や成果は感じられていますか。

山田:全部門がワンフロアにそろっているので、業務内容はもちろんですが、会社の方向性や価値観が一目で分かる感覚はあります。その点は、新入社員にとっても「PR TIMES」という会社の風土や各部署の役割、業務などをいち早くキャッチアップしてもらえるという意味でも、役立っていると思います。

伊藤:座席は以前は固定のみでしたが、移転を機に固定席をベースにしつつ、オフィス内で働く場所を自由に選べる「アクティビティ・ベースド・ワーキング(ABW)」を導入しました。ワークスペースの自由度は、業務ではなかなか関わりを持てないメンバー同士で偶発的なコミュニケーションが生まれ、各自の業務に生かされています。

また、部門単位の配置として、業務上関わりの多い部署をあえて離すことも試みました。合理的に考えれば非効率なのですが、能動的に話しかけにいくことで生まれる偶発的な出会いと、社員同士のコミュニケーション機会の増加を目的に、オフィスレイアウトを工夫しています。

山田:フェイス・トゥ・フェイスの話が出ましたが、新オフィスのプロジェクトには3つのテーマがあり、その一つに「共感醸成」があります。フェイス・トゥ・フェイスの対話や交流の場を意識的に設けるなど、偶発的なコミュニケーションの“仕掛け”を作るようにしました。その機会が増えることで、そこから創造性が生まれたり、社員同士の信頼関係が深まったりと、事業・組織の両面が活発化すると考えています。

フラットな組織づくりが、個人と会社の成長を促進

年齢や肩書に左右されないフラットな組織づくりを進めていますね。

伊藤:業務上の意思決定は合議制ではなく、責任者が決断するカルチャーがあります。物事を進める際、まず決めるべき人、つまり責任者を決め、メンバー全員が協力します。年次や役職の高い人が責任者となりトップダウンで進めるように聞こえるかもしれませんが、行動と実績が伴えば新卒でも責任者に据える仕組みです。

もちろん決定までのプロセスで、メンバーとの賛成・反対両方の意見交換は活発におこないますが、それらを踏まえた上での責任者による最終判断には、必ず協力する組織文化を醸成しています。

採用面接や入社後の研修でもミッションやバリューとあわせて、このカルチャーについても説明しており、責任者についてそれまでの実績はもちろん、本人の意欲や成果のプロセス、積み上げた信用、成長ポテンシャルなど、総合的に判断してアサインが決まります。もちろん本人の立候補も歓迎です。

責任者はプロジェクトベースで選ばれますか。部長や役員なども同様に抜てきされるのでしょうか。

伊藤:基本的には、役職を伴うものでも、プロジェクト単位でも、責任者を任せる際は人物重視であり、いずれもその人の能力やスキルに対する期待値を見据えての抜てきです。

当社はプロジェクトへの参画が成長の起点となることが多いですが、それも結局は本人次第。やる気のある人が機会を得られるよう部門内プロジェクトも、部をまたぐ全社的なプロジェクトも数多くあります。仕事で深く関わるメンバーが変わり、プロジェクトの成功という視座で物事を進めていくことになるので、求められる能力も視座も変わり、それが大きく飛躍するきっかけになるんです。

役職を伴う人事を例にすると、先日、入社7年目の20代社員が執行役員に抜てきされました。彼はお客様をサポートするカスタマーリレーションズ本部の部門長を務めており、新卒で入社後、2年目で新規事業の責任者に抜てきされ実績を積みました。ほかに入社2年目でマネージャーになったケースもあります。プロジェクトベースの責任者であれば入社1年目でも可能性はあります。

責任者は誰がどのように決めているのでしょうか。

伊藤:それもケースバイケースです。代表が決定することもありますし、継続プロジェクトであれば前任者が決める場合もあります。また社内公募で、立候補した社員の中から人事部門がサポートに入り最終決定するケースもあります。

責任者抜てき方式のメリットは何でしょう。

伊藤:最近私もプロジェクトの責任者を任されたのですが、継続プロジェクトで、前任者は取締役という状況でした。

前任の取締役は今回のアドバイザーとして参加していたので、初めての経験である私からすると、どうしても意思決定の際に頼りたくなってしまっていたんです。それでも取締役からは必ず「伊藤さんが決めてください。僕はそれに従います」と言われました。

「裁量を持つ」ことは、働きがいの要素としてよく挙げられていますが、実際に「責任者」としての緊張感やプレッシャーが、いかに大きいものなのかを実感しました。それでも、このような状況での経験は自分の視野を広げ成長につながると思っています。

責任者を任せるかどうかの判断は企業の業績に直結します。特に若手を抜てきする場合、単に「若手を登用したい」との思いではなく、かなりシビアな評価軸が必要ではないでしょうか。

山田:年功序列ではないのですが、一方で若手がみんな実力者かというとそうではありません。もちろん、若手を抜てきする場合は期待をかけている面が前提としてあります。ただし、もし失敗した時に取り返しがつかない内容を含んでいるか否かを考慮した上で、適任者かどうかは普段の行動や言動、結果から判断しています。当然のことですが、普段の仕事をおろそかにしている人に大切なプロジェクトは任せられません。

この仕組みがうまく回っている背景には、何があるのでしょうか。

山田:それは理念だと思います。当社は「行動者発の情報が、人の心を揺さぶる時代へ」のミッションに共感している人が集まっています。人の気持ちを理解しながら頑張ること、行動することに真摯に取り組む「大人」の集団です。

言いたいことだけ言うのではなく、物事を前へ進める姿勢を重視する。これを一般の社員はもちろんですが社長も役員も部長も実践しているため、組織として崩れることがないと考えています。特に、社長、役員、部長といった組織上、重要な責務を担う人が一番行動している状態にすることが大事だと考えています。

働く意味を再認識、自分を奮い立たせる仕組み

フラットな組織づくりを進める上で、自社のサービスも活用して情報の一元化や可視化に積極的に取り組んでいますね。

山田:情報の一元化や可視化には2つの目的があります。1つは機能面で、情報の漏れや齟齬を防ぐことです。

当社ではプロジェクト・タスク管理ツール「Jooto(ジョートー)」を使い、プロジェクトやオンボーディングを進める際に、進捗状況や教えている内容について明確に把握できるようにしています。

また、当社のメイン事業であるプレスリリース配信事業では、日々多くの問い合わせ対応が発生するので、カスタマーサポートツール「Tayori(タヨリ)」を使って問い合わせのフォームを統一し、回答状況がどのステータスにあるか一元的に可視化される体制を構築しました。

このようなツールによる徹底した効率化は、情報の行き違いや共有の不備がなくなり、作業負担の軽減や業務品質向上につながる点も大きなメリットですが、事務的な情報共有の時間を削減することで、高付加価値な情報に集中したコミュニケーションが増えるといったメリットもあると考えています。

もう1つの目的についてもお教えください。

山田:もう1つは、自社のサービスを利用することによる情緒的な理由です。もちろん私たちにとっても有益なツールであるからこそ活用している前提ではありますが、自分たちが使うことで、自分たちの事業に対するエンゲージメントも高まりますし、より実践的な価値を熱量を持ってお客様に伝えられると考えています。

さらに言えば、社内で使うことで社員が「一番身近なお客さん」となるわけですから、そこで出た日々の意見がプロダクトをよりよいサービスへと成長させることにつながるのは、まさに一石二鳥ですよね。自社のサービスに誇りを持つ、といった働きがいの創出にもつながっているのではないでしょうか。また、働きがいを作るのは、組織でも会社でもなく、従業員一人ひとりの「自分」だと思っており、その状況に気づけるかどうかは自分次第だと思っています。

では、今後の展望も含め働きがいのある組織、働きやすい組織づくりへ、御社が取り組もうとしていることや目指している姿を教えてください。

伊藤:先ほどお話した部門横断のプロジェクト自体が、ひとつの働きがいを生む要素に該当します。当社はプロジェクトにアサインされると、所属部署の仕事8割、プロジェクト業務2割を上限に取り組みを進めます。

「プロジェクトのために、2割の時間を割いてもいい」との考え方が浸透しており、所属している部門では体験できない仕事にも取り組めることはタフな側面もありますが、PR TIMESを代表して真剣に取り組むことでこそ得られる成長環境が、一種の福利厚生と言えるかなと思っています。また、プロジェクトは全員が必ず担当できるわけでもないので、任されたプロジェクトをしっかり成功に導いていくこと、あるいはプロジェクトを任されるように頑張ることが、働きがいを生むのではとも思います。

山田:オフィス環境や補助制度の点で「働きやすさ」も重要ですが、今後は「働きがい」をもっと追求する組織になりたいですね。働きやすさと働きがいは混同して語られることが多いのですが、当社では、意識的に分けて検討するようにしています。

例えば、表彰制度で社内の誰かが表彰される姿を見るのは、自分が何のために働いているかを定期的に見直せる機会にもなると考えています。一般に表彰制度は選ばれなかった社員のモチベーションを下げるとも言われますが、他人が表彰される姿を見て奮い立たせられるような機会を作り出し、会社の未来を担う若手やポテンシャルのある層が率いる仕組みを作りたいです。

次に読みたいおすすめ事例

ビズクロ編集部
「ビズクロ」は、経営改善を実現する総合支援メディアです。ユーザーの皆さまにとって有意義なビジネスの情報やコンテンツの発信を継続的におこなっていきます。