経営者が考える、組織にもプラスのテレワークとは テレワークでQOL向上、生産性を下げずに自由な働き方を実現

取材日:2023/05/24

ウェブサイト構築・運用を支援するCMSプラットフォームの開発などを手がける、シックス・アパート株式会社。自由な働き方をすすめる目的や、いち早く全日テレワークを導入した企業経営者としての考え方について、お話を伺いました。※本文内、敬称略

お話を伺った人

  • 古賀 早さん

    古賀 早さん

    シックス・アパート株式会社

    代表取締役社長

この事例のポイント

  1. 仕事を含めたQOL向上を目的に、全日テレワークを導入
  2. 自由度の高い制度の活用法を社員が工夫、多様な働き方が実現
  3. テレワークの不安を払拭するアウトプット評価の考え方

仕事も含めたQOL向上を目的に、新たな働き方を導入

御社がテレワークを始めたきっかけについて、教えてください。

古賀:きっかけは、2011年3月に起きた東日本大震災です。その年の夏に、政府から企業に15%の電力削減が要請されました。要請は大企業向けだったのですが、我々中小企業でも何か出来ることがないかみんなで知恵を出し合ったところ、平日5日のうち1日オフィスを閉めれば、20%電力削減できるのではないかという意見が出たんです。

単純なやり方ではありますが、まずはやってみようということで、その年の夏は、毎週水曜日をテレワークの日として開始しました。

開始した当時はまだテレワークは一般的ではなかったと思います。社員のみなさんの反応はどうでしたか?

古賀:当社はもともと、米国企業の子会社として設立されました。海外とオンライン会議をすることも多かったために、オンラインをベースにした働き方に社員が慣れていたというのは、拒否反応が少なかった理由の一つかもしれません。

電力も削減することができ、「やってよかったね」という意見が大半でしたし、暑い時期だったこともあり、通勤しなくても良い日をちょうど週の真ん中に作ったことで、身体も気持ちも楽になったと大変好評でした。

そのため、以降、毎年夏は「週一テレワーク」を実施することにしたんです。

週一回から、現在の全日テレワークにしたのは、どのような理由があったのでしょうか?

古賀:2016年に、従業員による企業買収、「EBO(Employee Buyout)」を実施しました。従業員が株式を買い取り、経営権を取得したんですね。これを機に、より自分たちらしいスタイルで仕事をしようと、働き方に関する新しい制度を作ったのがきっかけです。

この制度を、「シックス・アパートらしいワーキングスタイル」の頭文字をとって、「SAWS(サウス)」と呼んでいます。

具体的には、どのような制度になるのでしょうか。

古賀:一言で言うと、いつどこで働いてもいいですよ、というのがSAWSです。

「いつ」は、朝5時から夜10時の間であれば、いつ仕事をしてもOKで、勤怠管理システムも、1日に何回でも打刻できる仕組みになっています。例えば、朝7時から11時まで働いて、11時から夕方4時まで抜けて、また午後4時から夜8時まで働く…というように、中抜けも可能です。何度も自由に打刻できるので、1日の勤務時間を3回に分けても4回に分けても問題ありません。

それから「どこ」は、在宅に限らず、カフェでも図書館でも、もちろんオフィスでも、自由に働く場所を決めることが可能です。

どのような目的で、このSAWSを作ったのでしょうか。

古賀:SAWSは、社員のQOL(クオリティオブライフ)を高めるというのが目的です。自由な働き方をすることで、通勤がなくなり家族との時間をより多く持つことができたり、平日の日中に時間を作って地域とのつながりを深めたり、生活の質を上げることができると考えています。

さらに、クオリティオブライフの「ライフ」には、仕事も含まれると考えています。シックス・アパートで働くということもあわせて、ライフ全体のクオリティやレベルを上げていく、すなわち仕事の効率を上げたり、成果を出したりすることにもつなげるのが、SAWSの目的です。

社員がそれぞれ工夫し、自由度の高い制度をうまく活用

テレワークは実際に働く姿が見えない分、さぼってしまったり、生産性が下がったりするのではという懸念はなかったのでしょうか。

古賀:誰が何をやっているか、どういう仕事を担当しているか可視化できるツールがたくさんあるので、そうした懸念はありませんでした。実際に業務可視化のツールを複数使っていて、案件の進捗具合なども、テレワークをしていなかった以前よりも把握しやすくなったと思います。

また、いざ全日テレワークにしてみたところ、さぼってしまうのではなく「働きすぎてしまう」というリスクの方が大きかった。つい時間を忘れて仕事をしすぎてしまうんです。

集中して働くのは悪いことではありませんが、働きすぎの代償は必ずありますし、継続できる働き方ではありません。効率が下がるのはもちろんですが、実は私自身、最初のころは集中して時間を忘れてしまい、予定していた約束を逃してしまったことがありました(苦笑)。

そのため、今は1時間や2時間のミュージックリストを作って、音楽が切れたら次にやるべきことを確認する、あるいは、一息つくなどしつつ管理しています。みんな、タイマーで時間管理をしたり、スケジューラーを使ったり、それぞれ工夫をしているようです。

テレワークでもモチベーション高く働くことができる秘訣は何かあるのでしょうか?

古賀:秘訣といいますか、当社独自の事情としては、先ほどお伝えしたようにEBOをしているため多くの社員が株主である、という点が大きいと思います。

社員でありオーナーでもあるので、会社全体のオーナーシップが高ければ高いほどモチベーションというのは維持されますし、意識の高い状態がそれほど苦労しなくても保てているという利点はありますね。

あわせて、自由度が高く社員のQOLを重視したSAWS制度があることで、仕事へのエンゲージメントが保てるという社員の声もありました。うれしいことに「会社からの信頼を感じ、それに見合う貢献をしようと自然と思う」という意見です。 EBOとSAWS制度が合わさって、良い結果につながっているのかもしれませんね。

実際、みなさんはSAWS制度を使って、どのような働き方をしていますか?

古賀:例えば、海外旅行をしながら働く人や、帰省して実家に滞在しながら働く人、中には東京から地方へ移住した人もいます。SAWSを活用して、それぞれが自分にあったワークスタイルを編み出している印象です。

コロナ禍の時期は、ほとんどの社員が在宅勤務でしたが、徐々にコロナ禍も明けてきているので、好きな場所で好きな時間に働くというスタイルがまた当社でも戻りつつありますね。

それぞれが、制度を利用した働き方を工夫しているんですね。SAWSをより活用してもらうための施策などは、何かありますか?

古賀:通称「SAWS手当」と呼んでいる、使途の限定がない自由に使える手当を支給しています。SAWSを開始した2016年は1万5000円、現在は月2万円を支給しているのですが、このSAWS手当も、使い道は社員によって様々です。

特にコロナ禍では、在宅ワークの環境をより快適にしようと、パソコンの周辺機器を揃えたり、長時間座っても疲れにくい椅子を購入したり、自宅ワークスペースのセルフリフォーム資金にした社員もいましたね。 在宅ワークで発生する光熱費や通信費に対する手当でもあるのですが、テレワークを無理なく推進するために、広くプラスになっています。

コロナ禍で問い合わせが殺到、培ったノウハウを積極的に外へ

コロナ禍では、それまで出社が当たり前だった企業も一斉にテレワークをスタートしました。先んじて実施していた御社では、積極的にノウハウの発信も行っていたんですね。

古賀:そうですね。もともと、コロナ以前に全日テレワークを導入した企業ということで注目していただいて、テレビや新聞など、たくさんのメディアから取材を受けていたんです。加えて、当社の広報担当者がTwitterで積極的にテレワークに関する発信を行っていました。

それらの影響か、コロナ禍に入って、もうテレワークをせざるを得ない状況に多くの企業がなった際には、各企業の担当者だけではなく個人からもたくさんの問い合わせが寄せられました。

どのような質問が多かったのでしょうか。

古賀:問い合わせの内容は、本当に様々です。そもそもテレワークってどうやるのかという質問から、先ほどお話が出たような通信費はどうしているのかという問い合わせ、家族もテレワークをしているときのオンラインミーティングの音声問題や、腰が痛くならない椅子や机はあるかなど、実際に始めてみて直面する細かい課題にみなさん四苦八苦しているようでした。

これはおそらく日本全国のみなさんが知りたい情報だろうということで、広報担当者がハッシュタグをつけてテレワークに関するお役立ち情報を発信したり、出版社からお声かけをいただいてテレワークに関する書籍を出版したりして、蓄積したノウハウを外に向けて発信していったんです。

テレワーク導入の先駆者といった立場ですね。

古賀:おかげさまで、コロナ禍前から今日に至るまで、たくさんのメディアに我々の取り組みを紹介していただいて、あわせて、政府や自治体からいろいろな賞もいただきました。自分たちが取り組み発信してきた働き方が、コロナ禍で困っている企業や個人の参考にしていただけたことは、とても良かったなと思っています。

経営者にとって社員不在は怖い?アウトプット評価の秘訣とは

毎日出社・定時勤務こそ一番生産性が高い働き方だという考えをお持ちの経営者の方も少なくないと思います。御社の場合は、SAWS制度を導入するにあたって不安はなかったのでしょうか。経営者としてのテレワーク導入に対するお考えについて、改めてメッセージをいただけますか。

古賀:経営者にとって、社員がどこで何をしているかわからない状態は、ある意味怖いものだと思うんです。テレワークのときはパソコンのカメラをずっとオンにするとか、パソコンの稼働状況をシステムで監視するというやり方もあると聞きますが、私はそれはおかしいと思っています。大切なのは机に向かう時間ではなく、あくまで成果ですから。

例えば、どんな企業でも、業務委託や他の企業との取引では、アウトプット、つまり成果物で評価しているはずです。外の人の仕事に対してアウトプットで評価できるのだから、社内の人間に対してもできないわけはありませんよね。できないというのであれば、それは目標管理がされていないからではないでしょうか。

確かに、わかりやすい事例ですね。

古賀:社員が働く姿を確認することが安心につながり、目の前で仕事をしていれば信用できる、という気持ちもわからなくはありません。しかし、それを評価につなげてしまうのは駄目だと私は思っています。もちろんそういった勤務態度について否定するものではありませんが、それで結局その人は何を成し遂げただろうか、という点を見るようにしています。

結果が出るまでの進捗については、先ほどお伝えしたようにいろいろなツールがあるので、一つ一つ細かく可視化され、確認できるようになっています。そうしたツールをうまく活用しながら、日常的にみなさんが外の人に対して行っている「アウトプットによる評価」を内向きにも行うことができれば、テレワークに踏み切るのも怖くないのではないかと思います。

SAWSは、社員の家庭や日常生活だけではなく、仕事の質も上げるための制度です。テレワークをうまく推進することができれば、生産性もあがり、企業にとってもプラスの効果をもたらすことができるのではないでしょうか。

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