パタニティ・ハラスメント(パタハラ)とは?具体事例や原因と対策について
パタニティ・ハラスメント(パタハラ)とは、育休などの制度を取得する男性社員に対して行われる嫌がらせ行為や言動のことを指します。近年、育児に関わる男性が増加する中、パタハラへの対策を進める企業も増えています。そこで今回は、パタハラとは具体的にはどのような行為なのか、原因や防止するための対策方法なども解説していきます。
目次
パタニティ・ハラスメントとは?
ライフスタイルの多様化が進み、男性が積極的に子育てに関与する「イクメン」という言葉が生まれる一方で、問題となっているのがパタニティ・ハラスメント(パタハラ)です。
パタニティ・ハラスメントの意味
パタニティ・ハラスメントとは、パタニティ(父性)に対するハラスメント(嫌がらせ)行為を指す言葉です。育児を理由に休暇制度や時短勤務制度などを活用する男性社員に対して、上司や同僚から嫌がらせを受けることが該当します。
マタニティ・ハラスメントとの違い
よく似た言葉にマタニティ・ハラスメント(マタハラ)という言葉がありますが、パタニティ・ハラスメントとの違いは性別にあります。
マタニティ・ハラスメントとは、マタニティ(母性)に対するハラスメント(嫌がらせ)行為を指す言葉です。育児というライフイベントに対する嫌がらせである部分は共通していますが、マタハラの被害者は女性、パタハラの被害者は男性が該当します。
加えて、マタニティ・ハラスメントは、パタニティ・ハラスメントと異なり、妊娠・出産に対するハラスメント行為も含まれるのが特徴です。
パタニティ・ハラスメントが注目されている背景
パタニティ・ハラスメントが注目される背景には、価値観の多様化によるジェンダーバイアス問題が関係しています。ジェンダーバイアスとは、「男性らしさ」「女性らしさ」など、性別に対して固定的な役割分担の意識を持つことで生まれる、差別・偏見・言動を指す言葉です。
日本では古くから、「男性は仕事」「女性は家事」など、男女間で仕事と家事を分担する意識が根付いていました。しかし、女性の社会進出で共働きが一般化したことで、この価値観は時代にそぐわないものとなっています。
さらに、グローバル化をきっかけに商圏が拡大し、企業に集まる人材の多国籍化が進んだことで、価値観の多様化が加速しています。結果、男性から子育てを希望する声が挙がるなど、多様性の受容に対するニーズが徐々に強まっています。
このような状況下において、企業がダイバーシティを軽視し、ジェンダーバイアスによる権利の制限やハラスメント行為を放置すると、社会的信用を失いかねません。
特に海外では人権問題に対する企業の取り組みが、消費者の購買行動における判断基準の1つになりつつあります。企業が人権問題に対する責任を放棄した場合、不買行動や株価下落などによって、企業活動に大きなダメージを受ける可能性も高まるでしょう。
だからこそ、企業が業績拡大を実現するためにも、ジェンダーバイアスによる認識の偏りをなくし、多様性を受容していくことが重要視されています。
この取り組みを促進するために、政府は2025年までに男性の育児休業取得率を30%に引き上げることを目標に、「イクメンプロジェクト」などの施策を通じて、男性の育休取得を推奨しています。
[出典:厚生労働省「イクメンプロジェクト」]
パタニティ・ハラスメントの具体的な事例
パタニティ・ハラスメントの代表例としては、上司の妨害、チームの同調圧力、不当な人事などが当てはまります。
上司の妨害の例は、「育児休暇の取得希望が却下される」「出世コースから外れるとほのめかされる」などが該当します。中には自主退職を促すような発言が出てくるケースもあるようです。
チームの同調圧力としては、「暗黙のプレッシャーによって制度の取得を言い出しづらい」「誰も制度を使っていないからという理由で、利用が許されない」などが該当します。
不当な人事は、「転勤」「異動」「降格」「減給」などが該当します。男性社員が育児休暇を申し出たことに対して、これらの辞令が出された場合、育児・介護休業法の趣旨に反する可能性が高いです。
[出典:厚生労働省「育児・介護休業法のあらまし」]
パタニティ・ハラスメントが発生してしまう原因
パタニティ・ハラスメントが発生してしまう主な原因は、「組織風土」「理解不足」「アンコンシャス・バイアス」の3つが挙げられます。
長い時間の中で形成された組織風土
1つ目は、組織風土です。これは育児休暇や時短勤務に対して、職場がマイナスな言動を日常的に行っている場合、制度を利用しにくい空気感が醸成されていることが考えられます。
こうした組織風土が根付いてしまうと、集団同調性バイアスによって制度利用に対する肯定的な意見が少なくなります。従業員にとっては、育児休暇や時短勤務を利用しないことが当たり前であり、利用することは組織やチームの考え方に反することであると捉えられる可能性があります。
育休に関係する制度への理解不足
2つ目は、理解不足です。育児に対する制度自体が存在していたとしても、従業員が認知していなければ、理解を得ることはできません。
場合によっては「あの人だけズルをしている」など、抜け駆けをされていると誤認する従業員も出てくるでしょう。パタニティ・ハラスメントを発生させないためには、制度を整えるだけでなく、従業員に対して周知を行い、理解を育むことが重要です。
アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)
3つ目は、アンコンシャス・バイアスです。アンコンシャス・バイアスとは、無意識的な価値観の偏りを意味する言葉です。自身の知識や経験、相手の属性などから、「こういうものである」と決めつけてしまう思考パターンを指します。
アンコンシャス・バイアスの影響を受けると、「男性だから、育休を取ってまで子育てに注力する必要はない」など、性別役割分担意識に基づいた発言をしてしまい、パタニティ・ハラスメントにつながる可能性があります。
パタニティ・ハラスメントは法律に違反する?
パタニティ・ハラスメントは仕事とプライベートの両方に悪影響を与えることから、政府でも問題視されており、防止策の1つとして法改正が実施されました。これが2021年に改正し、2022年4月より段階的に施行されている育児・介護休業法です。
育児・介護休業法とは?
育児・介護休業法とは、労働者が仕事と育児・介護を両立し、働き続けることを支援するための法律です。この育児・介護休業法の改正により、育児休業に対する企業側の義務が強化されています。
改正育児・介護休業法では、労働者による育児・介護休業の取得などを理由に、「解雇」「雇い止め」「降格」「減給」といった不利益な扱いの実施が禁止されています。つまり、パタニティ・ハラスメントによって、企業が労働者に不利益を与えることは法律違反にあたるということです。
さらに今回の法改正によって進められているのが、事業者に対する義務の強化です。研修の実施や相談窓口の設置など、育児・介護休業を取得しやすい環境の整備を求めることで、育児・介護休業に対する理解の深化が期待されています。
[出典:厚生労働省「育児・介護休業法について」]
パタハラ防止は企業の責務
育児・介護休業法では、事業者に対して労働者への不利益な扱いを禁止することに加えて、マタハラやパタハラなどのハラスメントの防止措置義務も定められています。
制度の利用によって労働者の就業環境が害されないように、企業は体制を整備するだけでなく、労働者の関心・理解の醸成や、再発防止策などによるハラスメントの予防も求められます。
現代においてパタハラの防止は推奨ではなく、企業の責務となっていることを念頭に置き、対策を検討することが重要です。
パタニティ・ハラスメントを防止するための対策
では、パタニティ・ハラスメントを防止するために、企業は具体的にどのような対策を取るべきなのでしょうか。ここでは主な対策方法を4つご紹介します。
育休の社内制度化
1つ目は、社内における制度化の実施です。パタニティ・ハラスメントの予防に向け、従業員の理解を得るためには、まずは育休が社内制度として整備されている必要があります。
すでに育休の制度が存在する場合は、取得するための条件、取得可能な期間、申請フローなどにパタニティ・ハラスメントに該当する内容がないかチェックを行い、状況に応じて条件の緩和やフローの見直しを検討しましょう。
徹底した社内への共有
2つ目は、社内共有の徹底です。どれほど魅力的な育休制度が存在していても、それを利用する従業員の認知がなければ意味がありません。
特に男性の育休取得者が少ない企業の場合、性別役割分担意識が強く、男性は育休を取得できないという誤った認識が広まっている可能性もあります。そのため、性別にかかわらず育休制度の利用ができることを周知することが重要です。
ポスターや社内メールなど、従業員の目に触れやすい方法で、経営者のメッセージや取得実績なども踏まえて情報を提供することで、男性の育休取得に対する意識改善が期待できるでしょう。
相談窓口の整備
3つ目は、相談窓口の整備です。パタニティ・ハラスメントに対して適切に対処するためには、情報を収集するための窓口の設置や、相談対応者の存在が欠かせません。
相談窓口を設置することで、これまでパタニティ・ハラスメントに関する悩みを打ち明けられず、ストレスを抱えていた従業員のフォローができるようになります。ただし、窓口を設置するだけでは利用を促すことが難しいため、複数の連絡手段を整えるなど、利用しやすい環境構築も重要です。
育休を取りやすい環境作り
4つ目は、育休を取りやすい環境を作ることです。具体的には次の内容が挙げられます。
- 全体研修を通じて、従業員にパタニティ・ハラスメントを認知してもらう
- パタニティ・ハラスメントへの厳正な対処など、会社としての姿勢を共有する
- 就業規則や行動規範を見直し、パタニティ・ハラスメントの原因となる意識の改革を促す
- ハラスメントの発生要因となり得る制度や業務の改善を図る
パタニティ・ハラスメントは原因や背景が共通化しているわけではないため、発生ケースに応じて原因や背景を特定し、再発防止策を立てることが重要です。適切にコミュニケーションを取りながら、パタニティ・ハラスメントの原因を着実に取り除いていきましょう。
パタニティ・ハラスメントが発生した場合の対処法
もしパタニティ・ハラスメントが発生してしまった場合は、次の4つのポイントを踏まえて対応しましょう。
実態の把握
パタニティ・ハラスメントの相談を受けた際は、まず内容の実態を把握することが重要です。具体的にはいつ、誰が、どのような言動を取ったかなど、対応方針を決めるための判断材料を集めていきます。
実態把握において大切なのが、事実関係の確認です。パタハラなどのハラスメント行為の場合、相談者と行為者の間で主張が食い違うことも珍しくありません。そのため、双方の言い分を聞くだけでなく、第三者にも事実確認を行い、物事の全容を多角的な視点で捉えましょう。
関連部署や外部機関などの第三者と連携を取る際、パタハラを受けた男性社員のプライバシーを侵害しないように注意が必要です。事態の収束よりも先に問題が社内に広まってしまうと、パタハラを受けた社員に大きなダメージを与えてしまいかねません。個人情報の取り扱いは慎重に行いましょう。
被害を受けた男性社員への対応
事実確認が完了したら、被害を受けた男性社員に対応方針を共有します。男性社員の信頼を取り戻すためにも、企業として厳正に対処するスタンスを示すことが重要です。
特に不適切な対応や処分が行われていた場合は、行為者に謝罪を求めても本質的な解決には至りません。原因となった職場環境や制度の改善に加え、関係修復やメンタルケアの支援を行い、被害を受けた男性社員がさらなる不利益を被らないように対処しましょう。
パタハラを行った社員への対応
実態把握の結果、パタハラの事実が確認された場合、パタハラを行った社員に対応方針を共有します。具体的には注意勧告を行い、パタハラの発生原因について振り返りながら、再発防止に向けた対策を話し合っていきましょう。
パタハラは本人の自覚がない場合もあるため、今回の言動がなぜパタハラに該当し、どのような問題を引き起こしているのかを説明し、理解を得ることが重要です。対応後も同社員によるパタハラが繰り返され、改善が見られないようであれば、懲戒規定に沿って処分を検討します。
原因の究明・再発防止措置の検討
パタハラは局所的なものではないため、他部署で同様の事象が起きる可能性は十分にあり得ます。だからこそ、同じ過ちを繰り返さないためには、原因の究明・再発防止措置の検討が欠かせません。
具体的には次の2点を検討しましょう。
- 従業員の認知や理解が足りていない場合は、社内浸透の強化施策を立てる
- 職場環境や制度に問題がある場合は、ダイバーシティに配慮した見直しを検討する
健全な企業経営を行っていくためにも、課題の特定・改善を図っていきましょう。
パタニティ・ハラスメントや育休に関する制度への理解を深めよう
本記事ではパタニティ・ハラスメントの意味や発生原因、具体的な対応方法を中心に紹介しました。価値観の多様化が進んだ現代において、旧来の性別役割分担意識は薄まり、育児に対して積極的に関わる男性が増えています。
そのため、男性社員が育休や時短勤務を利用することは、決して珍しいことではありません。そのような中で企業がパタニティ・ハラスメントへの対策を怠ると、従業員からの信用を失うばかりか、訴訟問題に発展する可能性も十分にあり得ます。
ダイバーシティを通じて多様な人材を受け入れ、持続的な企業価値の向上を実現するためにも、パタニティ・ハラスメントの対策に取り組んでいきましょう。
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