マミートラックの意味とは?問題点や退職・転職を防ぐための対策について
産休や育休から職場復帰した女性が抱える問題の一つに「マミートラック」があります。現代では育児と仕事の両立を望む女性も増えていますが、マミートラックはそうした女性のキャリアにどのような影響を与えるのでしょうか。本記事では、マミートラックの意味や問題点、対策などについて詳しく解説していきます。
目次
マミートラックの意味とは?
マミートラックとは、産休や育休から職場復帰した女性が、業務内容・給与・キャリアの面で不利になってしまう問題のことです。
マミーは「母親」、トラックは陸上競技場などの「競走路」を意味します。マミートラックは「母親専用のコース」という意味で、キャリアパスを競争路にたとえた言葉です。
産休や育休から復帰した従業員は、子供がまだ幼いため、保育園の送り迎えや風邪の看病など、育児を優先しなければいけない場面が頻発します。そのため、時短勤務が必要だったり、就業時間が不安定になってしまいます。
結果として、責任のある仕事を任せられなくなり、責任の軽い仕事を任され、出世コースから外れてしまうのです。このマミートラックは女性のキャリアパスを阻む障害となってしまうため、子供を持つことがリスクになる、男女での格差を生んでしまうという問題を抱えています。
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マミートラックという言葉が生まれた背景
マミートラックという言葉は、1980年代にアメリカで生まれ、もともとは、育児中の母親でも柔軟に働けるようにするために提言されたものであり、ポジティブな意味合いを持っていました。
しかし、マミートラックに乗った従業員は、業務内容・業務時間の変化などによって、出世コースから外れる危険性も指摘されるようになりました。キャリアを重視する女性が増えている現代にあって、マミートラックという言葉は、ネガティブな言葉として使用されるようになったのです。
マミートラックが発生する原因
マミートラックはなぜ生まれてしまうのでしょうか。その原因について解説します。
無意識な思い込み
無意識の思い込みから、マミートラックが発生してしまうおそれがあります。
職場復帰した従業員に対して、「きっと子育てを優先したいだろう」「仕事の負荷は小さいほうがいいだろう」と考えてしまい、すぐに終わる簡単な仕事を振ったり、他の部署への異動を勧めたりします。
このような対応は、決して悪意からではありません。しかし、従業員の事情に配慮したつもりが、結果的にキャリアを閉ざしてしまうのです。
コミュニケーション不足
業務内容やキャリアは、上司の判断で大きく変わります。上司が部下の希望を理解していなかった場合、希望に反してマミートラックを引き起こしてしまうおそれがあるのです。
このような認識のズレの原因は、コミュニケーション不足です。上司は「子育てを優先したいだろう」と考えていても、部下は「復帰したのだからキャリアを積んでいきたい」と考えているかもしれません。
このようなすれ違いは、コミュニケーションを通して解消するしかありません。望まないマミートラックを避けるために、面談などを通じて今後のキャリアを話し合う必要があります。
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マミートラックの問題点
マミートラックには、どのような問題があるのでしょうか。具体的なものを3つ紹介します。
キャリア形成が困難になる
業務内容が変わることで、キャリア形成に悪影響を与えてしまうおそれがあります。マミートラックに乗ると、責任ある業務からはずされ、他の従業員でも代わりにできる簡単なものになってしまいます。
難易度が低くストレスのないものになりますが、キャリア面では不利に働きます。重要な会議・出張も難しくなり、評価される機会を失ってしまうでしょう。昇格も難しくなり、当初予定していたキャリア形成が困難になります。
収入の減少につながる
マミートラックに乗ることで、収入が減少する可能性があります。育児中という理由で時短勤務に切り替えるとフルタイムの時に比べて給料が大きく下がってしまい、みなし残業が給与に含まれていた場合は、さらに減少してしまうでしょう。
また、業務内容が簡単なものになることで、昇給の機会を失うおそれがあります。現在の給与に変化がなかったとしても、将来的に見れば収入が減少してしまうかもしれません。
モチベーション低下による転職・退職者が増加する
マミートラックは、転職・退職者を増加させる危険性もあります。仕事が変わってしまい、やりがいを失う、キャリア形成が難しくなる、給与が減少するなど、マミートラックにはさまざまなデメリットがあります。
このような問題は、せっかく復帰した従業員のモチベーションを大きく低下させてしまうでしょう。中には、同僚や部下と自分を比べてしまい、居心地の悪さを感じる人もいるかもしれません。
そのような従業員は転職・退職を選んでしまうリスクが高まるでしょう。人材の流出は、企業の生産性低下につながってしまいます。
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マミートラックに有効な制度
ここでは、マミートラックを発生させないための有効な制度を紹介します。
フレックスタイム・裁量労働制
従業員のライフスタイルに合った、柔軟な働き方を可能にしましょう。
社員のほとんどがフルタイムで画一的な時間で就業していると、子供のために早く帰ったり、急な休みを取ることが、キャリアの面で不利になりがちです。また、育児を優先することが、後ろめたさや申し訳なさといったストレスにつながるおそれもあります。
そのため、すべての従業員が自分のライフスタイルに合わせた働き方を選べるよう、制度を充実させましょう。たとえば、就業時間帯を調整できるフレックスタイム制度や、労働時間を従業員の裁量に委ねる裁量労働制などが挙げられます。
また、勤務終了時間と勤務開始時間の間に一定の休息時間を保障するインターバル制度は、よいワークライフバランスを実現する上で有効です。
産休・育休制度
厚生労働省が2021年度(令和3年度)に実施した雇用均等基本調査によると、男性の育児休業者は13.97%と、女性の85.1%に比べて非常に低い水準になっています。これには、業務の都合、職場の雰囲気、収入やキャリアパスへの不安など、さまざまな原因があります。
男性の育休取得率が低いと、育児の負担が女性にかかってしまいます。仕事以外のプライベートも大切にするというワークライフバランスの観点からも、男性の育休取得率を向上させる取り組みが必要です。
その助けとなるのが、2022年(令和4年)4月1日から段階的に施行される改正育児・介護休業法です。これは男性・女性問わずに仕事と育児を両立できる育児休業の枠組み整備、雇用環境の整備、従業員への個別の周知・意向確認、社内規則の整備を義務付けるものです。
同改正法には男性の育児休業取得を促す取り組みも定められています。具体的には、2022年(令和4年)10月1日からは、子供が生まれて8週間以内に、最大4週間の育休を取得できるようになります。
育児・介護休業法の改正によって、男性の育児への参加が広がり、職場の理解も深まると期待されています。
[出典:厚生労働省「令和3年度雇用均等基本調査 事業所調査結果概要」]
託児所の設置
福利厚生を充実させることで、復職にかかわる問題を解消できます。効果的な施策の一つが託児所の設置です。会社の近く、もしくは社内に託児所を設置することで、子供の送迎の時間が短くなり、空いた時間を就業や家事に充てることができます。
また、預かり先が見つからず復職ができないという従業員も、託児所を設置することで復職が可能になるでしょう。その他にも、ベビーシッターや家事代行といった、生活をサポートする制度が考えられます。このような福利厚生は育児・家事の負担を軽減し、高いコンディションでの就業を可能にします。
テレワーク・サテライトオフィス
テレワークを導入すれば自宅で仕事ができ、通勤時間がなくなるため、育児の時間を確保できます。
出勤が難しいので働けないという従業員にも、復職の機会を提供できます。また、サテライトオフィスを設置することで、通勤時間を短くすることが可能です。リモートワークは場所を選びませんが、サテライトオフィスは通勤が必要になります。
サテライトオフィスであれば本社と同じ環境を構築できるので、高いセキュリティを確保できる、備品や仕事道具を自宅に用意する必要がない、などのメリットがあります。
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マミートラック解消に向けた対策
マミートラックに陥らないために、企業ができる具体的な対策について紹介していきます。
フォロー体制を整える
柔軟な業務体制を構築することで、急な欠勤などに対応できるようにしましょう。
業務が属人化していると、担当者が不在の時に代わりが見つかりません。このような状態では、突発的な休みなどで就業時間が安定しないワーキングマザーに、責任ある仕事を割り振ることが難しくなってしまいます。
そのため、従業員が休んでも周りがフォローできるような業務改善が必要です。具体的には、「一つの業務を複数人で担当する」「業務のマニュアル化」「顧客情報やノウハウの共有」などが挙げられます。
業務のフォロー体制を整えることで、ワーキングマザーだけでなく、他の従業員も休暇を取得しやすくなるというメリットが得られるでしょう。
希望を考慮した人材配置
従業員の希望をしっかりと把握した上で、人材配置をおこないましょう。「育児中だから業務は簡単で少ないほうがいいだろう」などの思い込みは、マミートラックの原因になります。
復職後にどのようなキャリアを希望しているのか、本人の意思を上司や人事部はしっかり把握しなければなりません。ヒアリングを定期的におこない、可能なかぎりミスマッチを避けることが大切です。
1on1ミーティング
上司との1on1ミーティングを定期的におこないましょう。
1on1ミーティングは、コミュニケーション不足による行き違いを防止したり、信頼関係を構築できるといったメリットがあります。本人の希望する働き方、キャリア、現状、悩みなどを上司が把握する貴重な機会になるでしょう。
また、上司からの提案やアドバイスをおこなうことで、部下の視野も広がります。お互いの考えを理解し、一緒に解決できる関係は、マミートラックを防止する大きな助けになるはずです。
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タイムマネジメント
育児中の従業員は就業できる時間が限られていため、短い時間で効率的に業務をこなさなければなりません。
個人レベルでできることもありますが、職場の全員で協力することで、より効果的に業務を効率化できます。たとえば、「無駄なミーティングを減らす」「スケジュールをオンライン共有する」「ITツールを活用する」などです。
短い就業時間でも同等の成果を出せれば、マミートラックを避けることができます。
男性社員への理解
産休・育休から復帰した従業員の働き方について、男性社員の理解を得られるようにしましょう。
無意識の思い込みなどから、マミートラックは仕方のないことと考えたり、ワーキングマザーは仕事を優先したがらないという偏見を持っている可能性もあります。そのような誤解を避けるために、ワーキングマザーについての理解を深める、全社的な取り組みが必要です。
方法としては、講習会や刊行物の配布、グループウェアでの資料配布などが有効でしょう。無意識の思い込みや偏見に気づくことで、男性社員も自身を省みることができます。
女性社員間のコミュニティ形成
女性社員同士が交流できるコミュニティづくりも重要です。マミートラックを経験した人からのアドバイスは非常に貴重なものです。
部署が違うと交流が難しい場合もあるので、会社がコミュニティづくりをサポートできるとよいでしょう。たとえば、定期的に社内交流イベントを企画したり、親睦会のための補助金制度を設ける、などの方法が考えられます。
出産前から出産後の働き方について相談する
出産前から今後の希望するキャリアをヒアリングしておくことにより、マミートラックを防止できます。
事前に上司としっかり相談しておくことで、認識の齟齬を原因とするマミートラックを防げるでしょう。
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マミートラックを希望する女性社員もいる?
マミートラックはネガティブな面ばかりではありません。人によっては、マミートラックに乗ることをメリットと捉える人もいます。
マミートラックで得られるメリットとはなんでしょうか。具体的に解説します。
家庭と仕事の両立
家庭と仕事の両立は、マミートラックの大きなメリットです。育児・介護休業法では、3歳に満たない子を養育している従業員は、原則6時間の時短勤務をすることになっています。
その他にも、テレワークを推奨するなど、独自の育児支援制度を用意している企業もあります。マミートラックに乗ることで、育児を優先しながら、ワークライフバランスを保つことが可能です。
[出典:e-Gov 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律 第二十三条]
[出典:e-Gov 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律施行規則 第七十四条]
自分・家族との時間の確保
プライベートの時間を確保できるようになるのも、マミートラックのメリットです。育児中は時短勤務やテレワークなどが利用しやすくなります。
そのため、育児に専念したり、家族のために時間を使うことができるようになります。また、自分のために時間を使うなど、プライベートな時間も増えるので、心身を健康に保てるようになるでしょう。
自分・会社に負担がかからない
マミートラックに乗ることで、自分と会社への負担を最小限に抑えられます。
責任ある業務を任されている時に、急に会社を休んでしまうと、別の従業員の負担が増してしまうこともあります。自分自身も休みづらくなってしまい、精神的にも大きな負担になってしまうでしょう。
マミートラックに乗ると、業務は比較的簡単でフォローしやすいものになります。上司と相談して業務を調整してもらうことは、自分にも会社にもメリットがあるでしょう。
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社会全体でマミートラック問題の実態に向き合うこと
マミートラックが発生する理由はさまざまです。代表的なものは、悪気のない思い込みです。育児中なら負担の少ない仕事がいいだろうという気遣いから、マミートラックに乗せられてしまいます。また、ワーキングマザーが働きやすい環境を、企業側が用意できていないケースもあります。
マミートラックを避けるために、しっかりと今後のキャリアについて話し合える環境をつくることが大切です。加えて、マミートラック問題についての啓発活動や、欠勤をフォローしやすい業務体制の構築も必要になるでしょう。
このような取り組みは、1つの企業だけでは不十分です。育児は母親だけでなく、家族の協力が必要になるため、父親の職場も育児の支援体制が必要になります。そのため、マミートラックは、企業単位ではなく、社会全体で向き合う問題と言えるでしょう。
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