アンコンシャス・バイアスとは?意味や職場での具体的な事例について解説
無意識の偏見や思い込みを意味するアンコンシャス・バイアス。アンコンシャス・バイアスは誰もが持っているものですが、果たしてどのような要因で生み出されるのでしょうか。本記事では、アンコンシャス・バイアスについて、原因や具体的な事例を詳しく解説していきます。あわせて、企業が取り組める改善策についても紹介します。
目次
アンコンシャス・バイアスとは?
ここではアンコンシャス・バイアスの意味と注目される理由について解説します。
アンコンシャス・バイアスの意味
アンコンシャス・バイアス(Unconscious Bias)とは、直訳で「無意識の偏見」を意味し、日常の中で知らず知らずのうちに価値観が偏ってしまうことを指す言葉です。
相手の属性をはじめ、自分の知識や経験などから、無意識に決めつけていることは、意外と多いのではないでしょうか。例えば、国籍、性別、年齢、経歴などをベースに、認識や接し方が変わる場合は、アンコンシャス・バイアスに該当します。
アンコンシャス・バイアスが注目されている理由
アンコンシャス・バイアスが注目される理由は、人材の多様化にあります。
- 外国籍人材の採用
- 女性管理職の登用
- 高齢者の再雇用
- LGBTQ+の浸透
- テレワークの普及
ダイバーシティの推進によって属性が多様化し、様々な価値観を持つ人材が企業に集まっています。またテレワークの普及によって、働き方も急激に変化しています。
一方で、この変化に企業の風土醸成や制度改革は追いついていません。結果、ハラスメントが横行し、コミュニケーションに溝が生まれ、生産性の低下や不信感の増幅につながってしまっている状態です。
また、企業がSNSアカウントを運用するようになってからは、アンコンシャス・バイアスを起因に炎上するケースが増えています。
SDGsなどをきっかけに、差別・格差・不平等に対する社会意識が高まっている現代において、アンコンシャス・バイアスへの配慮は欠かせません。
そのような状況下でアンコンシャス・バイアスを意識せずにいると、社内での信頼関係だけでなく、社外でのブランドイメージまで失墜するリスクがあります。
そのため、企業が社内外で信用を獲得していくためにも、アンコンシャス・バイアスへの配慮を通じた倫理観の見直しが重要であるといわれています。
アンコンシャス・バイアスの職場での具体的な事例
アンコンシャス・バイアスの具体例として、性別・年齢に基づく職場での事例をいくつかご紹介します。
性別に基づくアンコンシャス・バイアス
アンコンシャス・バイアスは、性別による偏見を引き起こします。
- 単身赴任は男性がするもの
- 産休や育休は女性が取るもの
- 力仕事は男性のほうが向いている
- 事務作業は女性のほうが向いている
性別で制度や仕事を限定している職場も多いかもしれません。これらは無意識的な決めつけであり、多くの場合事実に即したものではないでしょう。
年齢に基づくアンコンシャス・バイアス
アンコンシャス・バイアスは年齢による偏見も引き起こします。具体例は次の通りです。
- 部下が上司よりも先に帰るのは失礼
- 雑用や飲み会の幹事は新入社員の仕事
- 管理職は年齢が高い人のほうが向いている
- IT業務は年齢が低い人のほうが適している
職場において、年齢で行動や役割を制限しているケースも無意識的な決めつけによるアンコンシャス・バイアスが働いているケースが考えられます。
アンコンシャス・バイアスの代表的な例
アンコンシャス・バイアスにはいくつか種類があります。ここでは代表的な7つの例について解説します。
- 正常性バイアス
- ステレオタイプバイアス
- アインシュテルング効果
- 集団同調性バイアス
- 権威バイアス
- 確証バイアス
- ハロー効果
正常性バイアス
正常性バイアスとは、予期せぬ事態に直面した際、正常の範囲内であると思い込むことで、平静を保とうとする心理現象です。
- 災害警報が出されても、自分は大丈夫と思い込み、避難が遅れる
- 会社の業績が悪化しても、一時的なものだろうと考えて、対策を講じない
正常性バイアスが作用すると、都合の悪いデータを根拠なく無視・過小評価するようになります。この行動によって平常心を保てる反面、事態への対応が遅れてしまうのです。
ステレオタイプバイアス
ステレオタイプバイアスとは、経験や文化に基づき、相手を先入観で判断する心理現象です。
- 男性は高圧的だ
- 女性は感情的だ
- 若い世代は常識がない
- 外国人は自己主張が強い
- 政府高官には男性しかなれない
ステレオタイプバイアスでは性別、年齢、国籍、職業など、属性ごとに特徴を決めつけ、多様性を否定してしまうのです。この心理は固定的な性別役割分担意識を生みやすいことから、ジェンダーバイアスとも呼ばれています。
アインシュテルング効果
アインシュテルング効果とは、成功体験に固執してしまう心理現象です。
- 将棋で正攻法にとらわれた結果、奇襲戦法に対応できない
- 過去の成功体験を重視するあまり、新しい手法を取り入れられない
この心理効果が作用すると、慣れ親しんだ思考の癖により、既存の選択肢以外を認識できなくなり、新たなアイデアが生まれにくくなります。
職場でアインシュテルング効果が起こると、斬新なプロジェクトの企画が生まれても、前例がないという理由で却下されるケースもあるようです。
集団同調性バイアス
集団同調性バイアスとは、集団に所属することで周りの行動に合わせてしまう心理現象です。
- 店の前に長蛇の列ができていると思わず並んでしまう
- コンプライアンス違反が常態化していても問題視されない
集団同調性バイアスが作用すると、自分の意見と異なっていても、周りに合わせておけば間違いないだろうと思い込み、集団に同調してしまうのです。この心理現象は多数派の意見・行動に偏りやすいことから、多数派同調バイアスとも呼ばれています。
権威バイアス
権威バイアスとは、地位や肩書きを持つ人の発言を高く評価してしまう心理現象です。職場では管理職をはじめ、自分よりも職位の高い人の発言に従うことが当てはまります。逆に職位の低い人の発言は、たとえ有益でも実際よりも低い評価を下してしまうのが特徴です。
- 専門家の意見に従っていれば間違いない
- 新入社員の意見がなかなか採用されない
権威バイアスが作用すると、誰が言ったのかに重きが置かれるため、何を言ったのかは重視されません。この場合、地位の低い人の成長機会が失われてしまうため、後進の育成が難しくなってしまい、企業としての推進力も低下していくリスクがあります。
確証バイアス
確証バイアスとは、自分自身の考えに肯定的な情報ばかりを集めてしまう心理現象です。
- 自分は嫌われていると思い込み、ネガティブな評価ばかり集めて、ポジティブな意見を疑ってしまう
- ワクチン接種は危ないという認識のもと、リスク情報ばかりを集めてしまう
確証バイアスが作用すると、自分が正しいと思い込み、それを裏付けるための情報だけを集めてしまい、反証する意見や情報を蔑ろにしてしまいます。これによって客観的・科学的な意思決定ができなくなってしまうのが特徴です。
ハロー効果
ハロー効果とは、人や物が持つ顕著な特徴に引っ張られて、評価が歪められてしまう心理現象です。
- 高学歴な人材を優秀と決めつけてしまう
- 自分を慕う後輩に良い評価を付けてしまう
ハロー効果が作用すると、人や物が持つ本質的な価値を見極めるのが難しくなります。その結果、主観や印象による評価誤差が起きてしまい、適切な評価ができなくなるのが特徴です。
アンコンシャス・バイアスが発生してしまう原因
アンコンシャス・バイアスの発生には、「エゴ」「習慣や慣習」「感情スイッチ」という3つのファクターがあります。
自分を正当化しようとする「エゴ」
1つ目は、物事を自分本位に考えるあまり、周囲の利益を考慮しないエゴイズムです。
- 少しでも自分をよく見せたい
- 自分が心地良い状態を保ちたい
- 今の地位や名誉を守り抜きたい
このような考えから保守的になりやすく、自分自身の言動を正当化するために、アンコンシャス・バイアスによる偏見が生まれる傾向にあります。
「習慣や慣習」によって作られた常識
2つ目は、習慣・慣習をベースに根付いた常識です。長い時間をかけて常識が定着すると、そこに対する変化を受け入れにくくなります。
同質性から多様性へのシフトが起こる現代において、常識を変えることはストレスの原因にもなります。そのため、変化を嫌ってアンコンシャス・バイアスが生まれ、暗黙のルールを作ってでも現状を維持しようとするのです。
「感情スイッチ」が呼び起こす自己防衛
3つ目は、感情スイッチによる本能的な自己防衛反応です。人には肉体や経歴など、十人十色のコンプレックス(劣等感)が存在します。
このような触れられたくない部分を刺激・否定されると、感情スイッチが呼び起されて、アンコンシャス・バイアスによる攻撃的な言動を取ってしまうのです。
多くの場合、価値観の相違や批判的な意見が人格否定に直結するという思い込みから、感情スイッチが働く傾向にあります。
アンコンシャス・バイアスがもたらす企業への影響
アンコンシャス・バイアスが発生すると、企業にはどのような影響があるのでしょうか。ここでは具体的な3つのポイントについて解説します。
ハラスメントの発生
先入観や固定観念によってレッテルが貼られると、人間関係が悪化し、ハラスメントの発生につながる可能性があります。それが善意での言動であったとしても、ジェンダー平等に反するリスクはゼロではありません。
セクハラ、モラハラ、マタハラなどのハラスメント行為を放置すると、最悪の場合は告発や訴訟に発展し、組織として社会的な信用を失ってしまうこともあり得ます。
企業に必要な成長の妨害
アンコンシャス・バイアスによって意見の封殺が常態化してしまうと、イノベーションが生まれにくくなり、企業に必要な成長を妨害するリスクがあります。
企業内での職位を基準にバイアスがかかった結果、一般社員は「どうせ分かってもらえない」と諦観ムードになってしまいます。この状態に陥ると、コミュニケーション不全や相互不信を招き、個人や組織のパフォーマンスが低下しかねません。
ダイバーシティ推進の妨害
従業員の属性で役割を定義してしまうと、多様な人材の受け入れが難しくなり、ダイバーシティの推進を妨害するリスクがあります。
アンコンシャス・バイアスが刷り込まれた状態では、人材採用や評価基準に無意識的な偏見が生まれてしまう可能性も否定できません。人材の持つ個性を最大限に活かすためにも、アンコンシャス・バイアス対策を立てることは急務といえるでしょう。
アンコンシャス・バイアスを改善する方法
企業がアンコンシャス・バイアスを改善する具体的な方法としては、「存在把握」と「トレーニングの実施」が挙げられます。それぞれの内容について詳しく解説します。
アンコンシャス・バイアスの存在把握
まず重要なのが、従業員がアンコンシャス・バイアスを認知することです。具体的にはアンケートや研修を通じて、従業員1人ひとりが無意識的な偏見や思い込みに気づく機会をつくりましょう。
加えて、アンケートの集計結果を分析することで、従業員やチーム単位でアンコンシャス・バイアスの発生度合いを把握することも可能です。アンコンシャス・バイアスの発生度合いが分かれば、それによってどのような問題が起きているかの実態把握にもつなげられ、対策を立てやすくなるでしょう。
トレーニングプログラムの実施
アンコンシャス・バイアスを改善するためには、トレーニングプログラムを通じたコミュニケーション環境の整備も欠かせません。自己開示やフィードバックの習慣が生まれることで、相互理解を深めやすくなるでしょう。
とはいえ、コミュニケーションの意識でバイアスを取り除くことには限界があります。さらなる効果を得る場合は、行動デザイン(望ましい選択・行動が行えるように環境を整備すること)やクオータ制(性別、年齢、人種などの基準で一定の人数を割り当てること)などで意思決定の多様化を促進しつつ、トレーニングを継続しながら、新たな文化を醸成していくことが重要です。
アンコンシャス・バイアスに取り組む企業事例
ここではアンコンシャス・バイアスに取り組んだ企業事例として、Google LLCの事例をご紹介します。
世界最大級の検索エンジンを提供するGoogle LLCでは、検索エンジンの日替わりロゴ(Google Doodles)に登場する著名人の大半が白人男性であるという指摘を受け、アンコンシャス・バイアス対策の研修を本格化しています。
同社がアンコンシャス・バイアス対策として重視しているのが、「評価の仕組み」「結果の測定」「日常的な偏見の見直し」「1人ひとりの意識変革」の4つです。
具体的には成功要因をジェンダーで決めつけず、必要な要件や目標を設定しながら、データによる客観的な判断を取り入れ、組織全体で何気ないやり取りを見直すことで、アンコンシャス・バイアスの解消を図りました。
同社はこの取り組みの結果、従業員1人ひとりが責任ある言動を意識するきっかけを作りながら、Google Doodlesのジェンダー平等も実現しています。
アンコンシャス・バイアスについて理解を深めておこう
本記事では、アンコンシャス・バイアスの意味や原因、代表的な言動、企業への影響などを中心にご紹介しました。グローバル化によって人権意識が高まったことで、企業に対する社会的な責任要求は着実に強まっています。
このような状況下でアンコンシャス・バイアスを放置してしまうと、企業成長の妨げになるだけでなく、ハラスメント行為の横行をきっかけに、社会的信用を失ってしまう可能性もあり得ます。
そのため、アンコンシャス・バイアスの存在を把握し、対策に向けた具体的な取り組みを実践することは、ダイバーシティの推進やブランドイメージの向上にも貢献できるでしょう。
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