ポジティブ・オフ運動とは?休暇取得の促進によるメリットについて
ポジティブ・オフ運動は、夏の電力供給対策の一つとして提唱された取り組みですが、現在では、ワークライフバランスの向上につながる施策としても注目を浴びています。そんなポジティブ・オフ運動とはどのような取り組みなのか、企業において促進のするメリットと併せて解説します。
目次
ポジティブ・オフ運動とは?
ポジティブ・オフ運動とは、休暇を積極的に取得し、外出や旅行などをもっと楽しむことを提唱する運動です。
そのため、ビジネスシーンにおける、有給休暇取得に対するネガティブなイメージを払拭し、「休暇(オフ)を、前向き(ポジティブ)に捉えよう」といった、意識改革も取り組みに含まれると言えるでしょう。
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ポジティブ・オフ運動が生まれた背景とは?
ポジティブ・オフ運動が推進される背景として、休業・休暇を分散化させる必要性に迫られている状況があります。
ポジティブ・オフのきっかけは、東日本大震災の影響による電力不足でした。特に、電力使用量が多い夏場は、企業のみならず、家庭においてもさまざまな節電対策が求められたことをご記憶の方も多いのではないでしょうか。
その中の一つが休業・休暇の長期化・分散化です。かつての夏季休暇といえば、お盆の時期に一斉に休業することが一般的でした。ただしこの場合、当該期間中の電力消費は一気に低下するものの、それ以外の期間における電力不足のリスクは変わりません。
そこで、ポジティブ・オフによって、長期の休暇取得を促進し、かつ、休暇や休業の時期を分散することで、全体で見たときの電力需要をまんべんなく抑えることできるようになります。
そもそもポジティブオフは、このような使用電力の分散化を目的に、内閣府、厚生労働省、経済産業省が共同して提唱・推進した施策だったのです。
ポジティブ・オフ運動を推進する目的
ポジティブ・オフ運動は、きっかけこそ「節電対策」の一つでしたが、現代社会においては、「休暇を前向きに楽しむライフスタイルの創出」としての意味合いが徐々に大きくなってきています。
実際に、休暇の長期化・分散化は、ワークライフバランスの改善のほか、地域産業の活性化などの効果もあるでしょう。
かねてより働き方改革によるワークライフバランスの向上が、社会全体の課題として掲げられていたこともあり、現在、ポジティブ・オフ運動は、より働きやすい労働環境の構築やライフスタイルの変革、さらには、よりよい社会を実現するための取り組みとしての役割も担っているのです。
休暇取得の促進によるメリット
ここからは「ポジティブ・オフ」を促進することで、具体的にどのようなメリットがあるのかを解説していきます。
ワークライフバランスが確保できる
休暇取得を促進することで、従業員のワークライフバランス向上が期待できます。日本の働き方には、欧米の「バケーション」のように長期休暇を楽しむ文化は浸透していません。
それどころか休暇は、慶弔時などの用事に充てるものといった「暗黙の了解」が、社内に根付いてしまっている組織もあります。しかし、休暇は本来「心身のリフレッシュ」を図る目的にて「楽しむ」ものです。
ポジティブ・オフを積極的に推進することで、従業員はプライベートを充実させるための休暇が取れるようになります。プライベートの充実は、多くの場合、仕事へのモチベーションや組織に対するエンゲージメントとして企業に還元されるでしょう。
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離職率の低下につながる
休暇取得によるプライベートの充実は、離職率の低下にも貢献します。
「ポジティブ・オフ」以前に、休暇が取りにくく、多少体調が悪くても無理して働くような職場では、いずれ従業員は労働環境や組織に対して、慢性的な不満を抱くようになるはずです。
ポジティブ・オフ運動を推進するにあたっては、適切な目標設定・適切な人員配置による、休暇が取得しやすい職場環境が前提となります。その結果、従業員エンゲージメントが向上し、従業員は長く働き続けたいと感じるようになるでしょう。
社員のモチベーションが上がる
プライベートを優先して休暇を取得できるようになると、従業員の生活の質は大きく向上します。
心身の疲れを取って十分にリフレッシュすることで、業務にも意欲的に取り組めるようになるでしょう。このようなモチベーションの向上は、従業員満足度や職場への愛着心を高めるメリットにもつながります。
仕事の生産性が上がる
高いモチベーションは、仕事における集中力やパフォーマンスに好影響を与えるはずです。
そのため、必然的に生産性も上がることになるでしょう。また、仕事に対して自発的な意欲が発生することから、業務効率の向上や資格取得といったスキルアップによる生産性の向上も期待できます。
企業の評判が良くなる
企業イメージの向上も、大きなメリットの一つです。人材不足の深刻化が続く現代社会においては、優秀な人材を確保するための他社との差別化や、自社ならではの魅力のアピールは非常に重要な課題となります。
そのため、組織的に休暇取得を促進することは、ワークライフバランスを重視する求職者が増加傾向にあることからも採用市場における強力なアピールとなるでしょう。
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休暇取得の促進によるデメリット
休暇取得の促進には注意しなければならないデメリットもあります。従業員が長期休暇を取得する場合、その間の業務は、他の従業員が引き継ぐことになるでしょう。つまり、そのようなカバーができる体制づくりが必要です。
そのうち最も重要なのが、業務の属人化を解消することです。「担当者しかわからない」「担当者がいないと業務が止まってしまう」などの状況は、休暇が取得しにくいだけでなく、組織の危機管理としても好ましくない状態と言えるでしょう。
そのため、休暇取得推進にあたっては、マニュアル作成などによる業務内容の共有や作業品質の標準化が求められます。属人化している業務が多いほど、この作業負荷は大きくなってしまうでしょう。
ポジティブ・オフ運動への賛同条件
観光庁が主体となって提唱するポジティブ・オフ運動に賛同するためには、観光庁が提示する条件を満たす必要があります。
具体的には、以下の表にまとめた4つの取り組みのうち、必ずいずれか1つを実行しなければなりません。
①既存の休業・休暇の制度の範囲内 社内メール等で外出/旅行の実施を啓発する | ②既存の休業・休暇の制度の範囲内 福利厚生として費用負担などを行い、外出/旅行をサポートする |
③既存の休業・休暇に関する存制度の変更または新規制度の設定 社内メール等で外出/旅行の実施を啓発する | ④既存の休業・休暇に関する存制度の変更または新規制度の設定 福利厚生として費用負担などを行い、外出/旅行をサポートする |
ポジティブ・オフ運動に賛同している企業
次に、実際にポジティブ・オフ運動に賛同している企業の取り組み事例をご紹介します。
東武トップツアーズ株式会社
東武トップツアーズ株式会社は『Warm Heart〜ありがとうの連鎖を~』という経営理念を掲げており、従業員が本来の能力を発揮できるよう、生活と仕事の調和した職場環境の整備に努めています。その一環としておこなっているのが、休暇取得の促進です。
同社では休暇取得を促進するために、従業員全員が5日以上の休暇を連続で取得できるよう休暇計画表が用いられています。
さらに、ポジティブ・オフを推進するために、従業員が自発的に社会貢献活動に参加するためのボランティア休暇を導入。このボランティア休暇には、従業員が社外とのつながりを得られる、地域社会への貢献でモチベーションが向上する、などの効果が期待されています。
同社のような旅行会社では、従業員自身が、外出先や旅先に実際に出向き、レジャーなどを体験することで業務に役立つ情報や経験が得られるといったメリットにもつながっています。
フォーユーメディカル株式会社
医療・介護機関向けの福利厚生アウトソーシングサービスを提供しているフォーユーメディカル株式会社では、自社のサービスを自社の従業員にも活用することで、ポジティブ・オフを推進しています。
まず、自社のレジャー・学習・生活に関する相談といった福利厚生サービス(@Benefit)を自社の従業員が利用できる制度を整えました。その結果、ワークライフバランス向上による、モチベーションの維持や高いパフォーマンスが発揮できる環境を実現しました。
福利厚生を単なるコストではなく、よりよい職場環境の実現による優秀な人材の採用や生産性を向上させるための戦略的な投資と捉えている同社では、自社のみならず医療・介護業界全体の職場環境の改善に貢献しています。
東京海上日動火災保険株式会社
東京海上日動火災保険株式会社では、1999年にボランティア休暇を創設しています。この制度により年間最大10日間の休暇が取得できるようになるなど、従業員が積極的に社会貢献に携わることのできる環境づくりをおこなっています。
このようなボランティア活動を通じて、従業員は通常の業務では得られない経験を積むことができ、その結果、視野や考え方が広がる、仕事へのモチベーションが向上する、といった効果が得られています。
東京モノレール株式会社
管理部門の有給取得率の低さが課題となっていた東京モノレール株式会社では、会社規定の夏季休暇期間に、土日を含めた3連休を2回、4連休を1回取得するよう義務付けることで、休暇取得率の向上を図りました。
同時に、休暇取得の推進により業務に支障を来さないためのルール作りも実行。具体的には、前月の25日までに休暇取得申請をおこなうよう義務付け、チーム内で事前に調整できる期間を設けたのです。
同社では今後も、従業員がレジャーを通じて新しい発見ができるよう目的意識を持った休暇が取れるような意識改革を進めていくとしています。
株式会社日立ソリューションズ
株式会社日立ソリューションズは、従業員同士のコミュニケーションを通じて、ポジティブ・オフを推進しています。
注目すべき取り組みとして挙げられるのは、昼休みを活用した意見交換会です。そこでは従業員同士が、ポジティブ・オフ運動を通じて、どのような変化を得たか、周囲からどのような反応が得られたか、今後どのような計画を立てているのかなどを話し合います。
さらに、同社ではイントラネットや社内SNSを活用し、従業員のポジティブな休暇の過ごし方を全社的に共有するようにしました。
このような「休暇の過ごし方」の共有は、休暇を前向きに捉えるための意識改革に役立っています。
株式会社wiwiw
女性の活躍応援をはじめとした、ワークライフバランス、ダイバーシティへの推進支援をおこなう株式会社wiwiwでは、仕事と家庭を両立するための支援制度を積極的に導入しています。
都合に応じて出社・退社の時間を調整できるシフト勤務制の導入のほか、将来的には、在宅勤務、週4日勤務の導入も検討しており、より自由な働き方の実現を目指しています。
また、新たな休暇制度では、有給休暇を時間単位で取れる制度を実施。必要な分だけ使えるこのような休暇制度は、特に従業員からの評価が高い取り組みです。
そのほかにも1週間以上のリフレッシュ休暇や、研修休暇を設けるなど、さまざまな制度によりオンポジティブ・オフの推進をおこなっています。
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ポジティブ・オフ運動とは休暇を積極的に楽しむ運動
ポジティブ・オフ運動は、労働者が自由に休暇を取得できる環境づくりを促進し、かつ、休暇をポジティブに楽しめる環境をサポートするための取り組みです。
ワークライフバランスを重視する傾向が高まる現代社会において、プライベートや余暇が重要視されると共に、いかに過ごすかが注目されるようになるのは自然な流れとも言えるでしょう。
そのような背景の中で、有意義な休日の過ごし方を啓発するポジティブ・オフは、さらに企業の「求心力」としての役割が期待できる取り組みとなるはずです。まずは「自社でできる施策」を考えてみることから始めてみてはいかがでしょうか。
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