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【解説】女性の昇進を阻む障壁「壊れたはしご」とは?

2022/09/28 2023/06/20

ダイバーシティ

壊れたはしごとは

近年では、男性優位な社会から女性が活躍しやすい社会へと変化を続けています。女性の社会進出によって生じる課題を比喩的に表した言葉がいくつかあり、「壊れたはしご」もそのひとつです。本記事では、「壊れたはしご」とはどのような意味を持つのかを解説していきます。

壊れたはしごの意味とは?

壊れたはしごとは キャリアパスを「はしご」にたとえたもので、女性の昇進が最初の段階から難しい状態であることを意味する言葉です。

McKinsey&CompanyとLeanIn.Orgの調査によると、男性100人につき、女性は86人しか昇進できていない状況にあります。これは、女性がファーストレベルの管理職(主任、グループリーダーなど)になる段階で、すでに不利な状況であることを意味します。

このように、はじめから昇進が難しい状態は「壊れたはしご」と形容され、女性の昇進問題を表す言葉として利用されるようになりました。壊れたはしごはキャリアの最初の段階だけでなく、上級管理職になるまで影響を与え続けます。結果として、上級管理職での女性比率が著しく小さくなるという結果になってしまうのです。

今までは、女性の上級管理職への昇進が難しい現状を「ガラスの天井」と表現して、問題提起されてきました。しかし、女性の昇進問題はキャリアの初期から始まっており、より抜本的な問題解決が必要だと指摘されるようになりました。

「壊れたはしご」は、女性のキャリアパスのあらゆる段階で起こる問題のため、男女格差の是正のために避けられない問題として注目されています。

【解説】女性管理職比率の現状と向上で得られる6つのメリット

男女格差のもうひとつの原因「ガラスの天井」

壊れたはしごの存在が指摘される以前にも、「ガラスの天井」という言葉がありました。これは、性別や人種を理由に、その先のキャリアが見えているにもかかわらず、実際には進めない問題を意味します。

記者でありコンサルタントである、マリリン・ローデンが1978年、初めてこの言葉を使ったと言われています。ガラスの天井という言葉はこれ以降広く使用されるようになり、1991年には、アメリカ連邦政府労働省が、公的な場面でガラスの天井という表現を用いました。

最近では、2016年にヒラリークリントンが米大統領選に敗北したとき、「ガラスの天井が破れなかった」という主旨の発言をしています。さらに2020年には、アメリカ初の女性副大統領となったカマラ・ハリス上院議員に対して、「ガラスの天井を破った」と賛辞が送られました。

このようにガラスの天井は、今まで到達が難しかった役職に女性が就く際に、しばしば使用されている言葉です。それでは「ガラスの天井」と「壊れたはしご」との違いはなんでしょうか。両者の違いを一言で言うなら、女性の昇進が阻まれる段階にあります。

ガラスの天井は、いわゆる上級管理職や政界など、高いレベルでの昇進に注目している言葉です。先述したカマラ・ハリス氏の副大統領就任がその一例です。

ただし、問題はガラスの天井だけではありません。ガラスの天井のみが問題であれば、天井にぶつかるまでの昇進は順調に進むはずです。実際は最初の昇進から、女性は不利な状況に立たされています。

この問題を表すメタファーとして、「壊れたはしご」という言葉が生まれました。ガラスの天井は依然として解決すべき問題ですが、「壊れたはしご」はより広範囲で根本的な問題に焦点を当てているのです。

ガラスの天井とは?意味や事例・日本の男女格差の現状や問題点を解説

日本の男女格差の現状について

我が国では男女共同参画社会の実現を目指し、さまざまな政策や運動が展開されています。しかし、そのような努力にもかかわらず、日本の男女格差は他国に比べて大きいのが現状です。

2021年3月、世界経済フォーラムが独自調査をもとに、ジェンダーギャップ指数を公開しました。ジェンダーギャップ指数とは、世界経済フォーラムが、経済・政治・教育・健康の4つの分野から、男女格差を産出した指数のことです。0が完全不平等で、1が完全平等を表しています。

男女格差がもっとも少ないのがアイスランドで、ジェンダーギャップ指数は0.892です。対して、男女格差が156カ国中もっとも大きいのがアフガニスタンで、ジェンダーギャップ指数は0.444でした。日本は156カ国中120位と、先進国の中で最低レベルです。

我が国のこのような男女格差は、いくつかの深刻な問題を生み出しています。

1つがシングルマザーの貧困問題です。日本では、女性の給与は男性に比べて低水準に留まっています。平成29年のデータでは、男性を100とした場合、女性の給与は73.4とはっきりとした差が出ている状況です。

また、非正規雇用労働者の割合は、令和2年時点で、女性は54.4%、男性は22.2%となっており、倍近い差がついています。このような経済格差は、シングルマザーの貧困化を招きます。

さらに、貧困問題はシングルマザーだけでなく、子供にも悪影響を与えます。教育費を捻出できない家庭の場合、子供は高校・大学に進学することが困難です。結果として、就職で不利な立場になってしまうでしょう。

もう1つが暴力や虐待です。女性は身体的に非力な傾向があり、家庭内暴力の被害を受けやすいと言われています。令和2年度の配偶者暴力相談支援センターへの相談件数は、女性が12万5916件、男性が3,575件と、女性が全体の97%以上という結果でした。

また、家庭内暴力下にあっても、経済的な理由で離れられないなど、前述の貧困問題が問題を深刻化させている側面もあります。

このように、日本の男女格差は依然として大きい状態です。日本のジェンダーギャップ指数は2006年から多少の上昇を続けているものの、他国と比べれば横ばいです。

男女格差を実際に感じている人も多く、令和元年度の「男女共同参画社会に関する世論調査」では、職場で男性が優遇されていると感じている人が、過半数の53.5%いることがわかりました。対して、女性が優遇されていると感じている人の割合は5.0%です。

男女共同参画への取り組みは官民で継続しておこなわれていますが、まだまだ努力が必要な状態といえるでしょう。

ダイバーシティと女性活躍推進の関係性|課題や女性活躍推進法について

女性管理職の割合の現状について

日本の女性管理職の割合は、わずかに上昇傾向にあるものの、依然として低い水準に留まっています。帝国データバンクが実施した、女性登用に対する企業の意識調査によると、従業員の女性比率は26.5%です。

この数字から、管理職になれる女性の比率も同水準に留まると考えられます。政府は男女共同参画社会を目指して、女性管理職の比率を30%にすることを目標にしています。

しかし、管理職の女性比率は、目標の30%と大きく乖離しているのが現状です。帝国データバンクの同調査では、女性管理職の平均割合が過去最高を記録した一方で、その割合はわずか8.9%と、目標の30%には程遠いものになっています。

また、平成27年に、常用労働者100人以上を雇用する企業を対象に、男女共同参画状況の調査がおこなわれました。本調査によれば、役職者に占める女性の割合は、係長級が17.0%、課長級が9.8%、部長級が6.2%です。

他国と比較してみても、日本の女性管理職の少なさは明らかです。我が国の女性人口に占める女性就業者は51.8%と他国と同水準ですが、管理的職業従事者の女性比率は、13.3%に留まっています。

対して、フィリピンは50.5%、スウェーデンは42.3%、その他の国も多くは30%前後となっています。次の表をご覧ください。

女性人口に占める女性就業者割合(%)管理的職業従事者に占める女性の割合(%)
日本51.813.3
フランス48.335.5
スウェーデン47.742.3
ノルウェー47.234
米国4739.2
英国46.736.8
ドイツ46.628.1
オーストラリア45.937.8
シンガポール44.838.9
韓国4215.7
フィリピン39.650.5
マレーシア38.323.3

[出典:国土交通省「2 世界各国との比較」]

このように、日本の管理職の女性比率は依然として低いのが現状です。そのような実情も踏まえて、女性活躍推進法が2022年4月に改正されました。

改正後は、常時雇用する労働者数が101人以上の事業者に対し、一般事業主行動計画の策定が義務付けられました。企業はこの行動計画の策定のために、自社の女性の活躍状況の分析と、課題設定をおこなわなければなりません。

また、同法では女性の活躍に関する情報公開を、求職者が閲覧しやすい形でおこなうよう義務付けています。女性従業員の割合や管理職での女性割合、男女の平均勤続勤務年数の差異などさまざまな公開内容が設定されており、企業は内容を選択して公開します。

女性活躍推進法の改正により、管理職に就く女性の増加が期待されていますが、実際にどのような効果が出るのかは、まだ予測できない状態です。

また、男女共同参画社会の実現のために、ポジティブ・アクションも推進されています。ポジティブ・アクションとは、女性など社会的に不利な立場に置かれている人に活躍の場を提供することで、機会均等を目指す暫定的な措置のことです。

ポジティブ・アクションの方法はさまざまですが、管理職の女性割合の設定、研修機会の充実、メンター制度の実施などの方法が考えられます。

このような優遇を一時的におこなうことで、女性が参画しやすい社会のきっかけになると期待されています。

女性管理職が少ない理由とは?増やすための取り組みやメリットを解説

壊れたはしごとは経営陣の中に女性が少なくなる原因

今回は「壊れたはしご」と類似用語の「ガラスの天井」を解説しました。

女性はキャリアの面で、世界中で不利な状況に立たされています。ジェンダーギャップ指数調査で、男女格差がもっとも少ないアイスランドですら、完全な男女平等は達成できていないのが現状です。

そのような状況で、女性は能力があるにもかかわらず、なかなか昇進できないという問題に直面しています。「壊れたはしご」という言葉は、そのような現状に問題提起するために生まれた言葉です。

壊れたはしごは、キャリアの始めから悪影響を与え続けます。そのため、上級管理職では女性の数が著しく低い状況です。また、日本はジェンダーギャップ指数で、先進国の中では最低クラスの男女格差があります。

壊れたはしごは、他国より深刻な状態といえるでしょう。女性活躍推進法の改正、ポジティブアクションの推進など、さまざまな施策が講じられていますが、いまだ大きな格差改善には繋がっていません。

壊れたはしごが解決されれば、経営陣に女性が増え、女性に配慮した職場環境が実現できるでしょう。たとえば、育児中のワーキングマザーが働きやすい業務体制や、キャリアパスを維持する施策は、女性の視点が欠かせません。

女性が活躍できる社会が実現すると、今まで不当な評価がされ、能力を発揮できなかった人々の活躍の場が広がります。今後人口減少で人手不足が深刻化する日本において、男女格差の是正は必須の課題といえるでしょう。

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