物流業界におけるEDIとは?メリット・デメリットや導入手順、事例を解説
企業間での商取引を電子化してやりとりする「EDI」。昨今はさまざまな業界で取り入れられており、物流業界においても業務改善や効率化などの重要な役割を担っています。本記事では、物流業界におけるEDIについて、メリットやデメリット、導入手順、導入事例などを解説します。
目次
物流業界におけるEDIとは?
EDIは「Electronic Data Interchange」の略称であり、商取引に関連する情報を電子化し、コンピュータを通じてやりとりする「電子データ交換」のことです。昨今では、ビジネスや業務の効率化を目的に、幅広い業界で導入されています。
なかでも物流業界に導入されているのが、「物流EDI」です。EDIの基本的な枠組みをベースに、物流業界特有のニーズを叶える形で作成されています。例えば、これまでは紙ベースだった注文や入出荷、納品、支払いなどの情報が電子化され、異なる企業間でペーパーレスのやりとりが行われているのです。
物流EDIの導入によって、データ入力にかかる時間の削減や手動による入力ミスの防止に加え、物流業界全体における情報の透明性の向上などにつながっています。
物流業界におけるEDIの必要性
近年、ネットショッピングなどの電子商取引市場の拡大により、物流の需要が大幅に伸びています。そのため、物流業界には、多くの注文に対応できるような体制づくりが求められているのです。
しかし、少子高齢化による労働力不足は、物流業界においても深刻です。いくら注文が増加したとはいえ、対応できるだけの人材の確保は困難であるのが実態でしょう。
そこで物流EDIを導入し、今まで手作業で行っていた業務をデジタル化をすることで業務効率化を図ることが急務となっているのです。
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物流業界における標準EDI
物流業界には標準EDIとして、「物流EDI標準JTRN(ジェイトラン、以下JTRN)」と「物流XML/EDI標準」の2種類があります。
JTRNは1997年に開発が開始された規格であり、物流EDI推進委員会が開発や改良、維持管理を行っています。JTRNは物流業界だけではなく、国内の全産業の物流EDIに適用可能なのが特徴です。
具体的には、固定電話による専用回線やVAN(付加価値通信網)を使って通信を行い、現在は荷主企業と物流事業者の統一規格として活用されています。
一方の「物流XML/EDI標準」は、JTRNの後継として、インターネットの普及に対応するために、2014年に公開されました。運営元は日本物流団体連合会です。HTMLの後継言語であるXMLを使ったドキュメントの送受信ができ、高速通信が可能というメリットがあります。荷物の識別情報を格納できるため、電子タグの共有という面でも優れているといえるでしょう。
この2種類は、どちらも無償で公開されています。
名称 | 運営 | 特徴 |
物流EDI標準JTRN | 物流EDI推進委員会 | 1997年に開発を開始。固定電話の専用回線やVANを使って通信する。荷主企業と物流事業者間の統一規格として活用されている。 |
物流XML/EDI標準 | 日本物流団体連合会 | 2014年に公開。インターネットに対応している。高速通信ができ、電子タグの共有も可能。 |
個別EDI・標準EDIについて
EDIは、「個別EDI」と「標準EDI」に大きく分けられます。
「個別EDI」とは、取引先ごとに個別の通信形式や識別コードを使う方法を指します。通信形式やデータコードは企業間で決めるため、データコードの形式が異なる場合は変換しなければなりません。
一方で、取引先ごとに細かくルールを設定できるというメリットがあるため、取引先が限定されている企業には個別EDIが向いています。
一方の「標準EDI」は、中立的な機関が定めた運用ルールや取引規約、フォーマット、データ交換形式、通信手段などを利用する形式です。標準EDIは業界ごとに定められており、例として物流業界には「JTRN」、金融業界には「ZEDI」があります。
どの企業も共通のフォーマットを使っているため、データ変換の手間がかからず、スムーズに利用できる点がメリットといえるでしょう。そのため、標準EDIは取引先が多い企業に向いています。
特徴 | メリット | |
個別EDI | 取引先ごとに個別の通信形式や識別コードを利用 | 取引先に合わせて細かくルールが設定できる |
標準EDI | 標準化された運用ルールやフォーマットなどを利用 | データ変換の手間がかからず、スムーズに利用できる |
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EDIとEOS・流通BMSとの違いとは?
物流業界においては、EDIのほかにEOSや物流BMSといった用語も使われています。それぞれの特徴や違いについて解説しましょう。
EDIとEOSの違い
EOSとは、「Electronic Ordering System」の略称であり、受発注業務用のシステムを指します。EOSはEDIの一種ともいえ、データを読み取り、インターネットや専用回線を通じて仕入先に発注数を送る、取引先からの注文を受けるといったことができる仕組みです。
EDIは受発注のみならず、生産や支払いなどにも対応している一方、EOSは受発注に特化しているのが特徴です。この二つを連携させることで、物流EDIはEOSを通じて受発注を自動で行えるようになるため、業務の効率化につながります。
EDIと流通BMSとの違い
流通BMSは「Business Message Standards」の略称であり、「流通ビジネスメッセージ標準」とも呼ばれるデータ交換方式の一つです。EDIが企業間で電子データをやり取りする仕組み・システムであるのに対し、流通BMSは流通業者が用いるEDIの標準仕様を指します。
以前は「JCA手順」と呼ばれるプロトコルが使用されていましたが、経済産業省の流通システム標準化事業によって流通BMSが制定されました。流通BMSの目的は、物流業界での情報のスムーズなやりとりです。
流通BMSを用いればシステムが異なっていてもデータのやりとりが簡単にできるため、データの一貫性を維持できるというメリットがあります。
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物流業界にEDIを導入するメリット
物流業界へのEDIの導入は、業務効率化や人為的ミスの削減など、数多くのメリットをもたらします。ここでは具体的なメリットをお伝えしましょう。
書類作成・郵送などの手間が省け業務が効率化する
EDIを導入すると、受発注データを電子化できるようになるため、書類作成や郵送などの手間を大幅に削減できます。これまでの物流業界では、発注書や納品書などを手作業で作成・郵送してきました。EDIを導入すれば電子データを自動的に取引先と共有できるため、こうした手間が省けるのです。
その結果、業務負担の軽減や生産性向上が期待できるでしょう。郵送コストや書類の保管コストも削減できるため、収益改善にもつながります
記入漏れなどの人為的ミスを軽減できる
EDIの導入は、人為的ミスの削減にも効果的です。電話やFAXで受けた注文を手入力する場合、入力ミスの発生を完全に防ぐことは困難です。また、発注書や納品書、請求書などを都度作成・発送する場合、重複発注などの発注ミスや、記入漏れなどの書類の不備、配送ミスが生じるリスクも考えられます。
また、ミス防止のためにダブルチェックを行うと、その分時間も労力も余計にかかってしまうでしょう。
その点、EDIは電子データに基づいて書類の発行を行うため、人為的ミスを防ぐ効果があります。ミスを軽減できれば、顧客サービスの向上や企業の信頼性向上にもつながるでしょう。
受発注業務の円滑化によって企業競争力を高められる
EDIによって受発注データをスピーディーに共有できるため、受発注業務の円滑化が図れるというメリットもあります。取引先からの注文に迅速に対応できれば、顧客満足度が向上するでしょう。
さらに、在庫状況や注文状況など、さまざまなデータを基に今後の予測を立てやすくなります。顧客のニーズを先読みして増産するといった対応を行うことで、企業競争力を高められる可能性があるのです。
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物流業界にEDIを導入するデメリット
EDIの導入には、企業競争力の向上を期待できるといったメリットがある一方、デメリットもあります。ここでは、導入前に知っておきたいデメリットについてお伝えしましょう。
教育体制の構築・運用体制の切り替えなど導入・運用に手間がかかる
EDIを導入・運用するには、社内の教育体制の整備などに時間とコストがかかります。システムを円滑に活用できるように、業務に携わる従業員に操作方法などを教育しなければなりません。この工程を疎かにしてしまうと、誤操作によって業務に支障をきたしたり、取引先に迷惑をかけたりする恐れがあります。
従業員が操作に慣れるまでには一定の時間を要するため、一時的な負担や売上の低下が生じる可能性もあります。しかし、導入によって図れる効率化を考えれば、将来的にはプラスとなるでしょう。
システムトラブルによって業務が停滞する可能性がある
万が一、ネット回線の不具合やシステムダウン、停電などによるシステムトラブルが生じた場合、業務に大きな影響が及ぶ恐れがあります。受発注などの業務が停滞すれば、売上を上げることができないだけでなく、企業の信頼も揺らぐでしょう。
こうした状況を避けるため、トラブル発生時のサポート体制やシステムの保守などについて、導入前にベンダーに十分に確認してください。また、トラブルが発生した際の具体的な対応方法も事前に決めておくと安心です。
取引先企業もEDIを導入している必要がある
EDIは企業間で電子データをやりとりするためのシステムであるため、取引先もEDIを導入していなければ効果が発揮されません。また、取引先がEDIを導入していても、自社のEDIと互換性がなければ連携は困難です。
十分なメリットを得るために、取引先が導入しているEDIを事前に確認しましょう。
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物流業界におけるEDIの導入手順
ここからは、物流業界でのEDIの導入手順を見ていきましょう。今後EDIの導入を検討している企業の方は、ぜひ参考にしてください。
物流EDIの仕組み・機能などの知識を習得する
物流EDIを導入する前に、物流EDIの仕組みや機能、種類などを学ぶ必要があります。仕組みや機能がわからないまま導入しても、自社が抱える課題解決にはつながらないためです。
インターネットや書籍、ベンダーが開催しているセミナーなどを活用し、基本的な知識を習得しましょう。 可能であれば、成功事例や失敗事例についても調べておくと、自社への導入の際に役立ちます。
自社のニーズ・予算に合った物流EDIシステムを選定する
物流EDIに関する知識を習得したあとは、実際に物流EDIシステムを選定する段階に入ります。この段階では、まず自社の課題やニーズを明らかにしましょう。
そのうえで、各システムの特徴や料金、サポート体制やセキュリティ対策などを比較します。課題解決につながるかどうかだけでなく、予算内に収まるかどうかも検討する必要があります。
比較検討する際は、長期的な視点を持つように心がけてください。一度導入したシステムは、その後長期間にわたって使用します。事業拡大や取引先の増加などを見据え、導入しようとしているシステムでどこまで対応できるのかを確認しましょう。
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導入に必要な予算・人的リソースをまとめ社内稟議にかける
導入する物流EDIシステムを選定したら、社内稟議にかけるため、費用や人的リソース、導入スケジュールをまとめた稟議書を作成しましょう。この際、稟議書には現状の課題と導入によって得られる効果を必ず記載してください。
導入には、当然コストがかかります。メリットがコストを上回ることを伝えるためにも、業務効率化を行うことで削減できる人件費などを数字で示すことが重要です。
業務フローの説明・取引先への確認など導入準備をする
EDIを円滑に運用するために、社内外に対する説明や確認作業を進めましょう。社内に対しては、新たな業務フローやシステムの操作方法を説明する場を設けます。この際、物流EDIシステム導入の意義や目的も併せて伝えると、導入への理解を得られるでしょう。
取引先に対しては、運用開始日などの具体的なスケジュールを伝えるとともに、運用方法の確認を行います。
本格導入を開始し定期的な改善をする
社内外への周知が終わったら、物流EDIシステムの本格運用を開始します。運用開始後にトラブルが生じた場合は、すぐにサポートセンターなどに連絡を取りましょう。
実際に運用してみることで、これまでは気付かなかった課題が見つかるケースもあります。定期的に運用方法を見直して改善を図ることで、さらなる業務効率化が見込めるでしょう。
物流業界におけるEDIの導入事例
物流業界では、各社が業務効率化を目的としたEDIの導入を進めています。実際の導入事例から、EDI導入で得られた効果をご紹介しましょう。
ブラザー販売株式会社
ブラザー販売株式会社は、プリンティング製品やミシン、工作機械などの製造を手掛けるブラザーグループの国内マーケティングを担っています。
同社はEOSを利用しており、一部の注文はパソコンで受けていたものの、電話やFAXでの注文も多く、人為的ミスも発生していました。
そこで、株式会社インテックのEDIを導入することを決定しました。主要顧客約10社と同じEDIを利用することで、受注データの8割を自動で入力できるようになり、生産性が約4倍に向上したのです。
2012年からは、残り2割の受注データもEDIで処理できるよう、Web-EDIの仕組みを導入しました。これは、顧客のWebサイトにアクセスしてデータをダウンロードし、そのデータをビジネスソフトウェアのSAPにアップする仕組みであり、アウトソーシングすることで業務負担軽減につなげています。現在では、受発注データに加えて、顧客から提供される在庫情報を分析し、1~2か月先の在庫数量を予測しながら生産することで、在庫切れの防止にも役立てています。
[出典:EINS WAVE(アインスウェーブ)~TISインテックグループ「ブラザー販売株式会社様」]
株式会社ニッスイ
株式会社ニッスイは、水産事業・食品事業・ファインケミカル事業・物流事業を手掛けている企業です。物流事業では、-50℃の超低温から、冷凍・冷蔵、常温など幅広い温度帯に対応し、通関から保管輸送まで一括したサービスを提供しています。
日配品については、午後3時までに受注した分は当日夜までに出荷しなければならず、迅速な対応が必要とされていました。同社では、食品全般の受発注を担当する受注センターでオンプレミス型(自社内にサーバーを構築し運用を行うタイプ)のEDIシステムを導入していましたが、EDIサーバーのサポートが終了するに伴い、システムを刷新することとなったのです。
同社は、2012年にクラウド型の「EDI-Hub Nex」の導入を決定。決め手は、クラウド型であってもオンプレミス型と遜色ない運用が可能な点です。受注データの集配状況の可視化によって注文データの処理状況を把握できるうえ、障害発生時にもプロセスの確認ができます。同社は障害が発生しても迅速に対応できる点を評価しました。
本格的な運用を開始したのは2013年です。それまでのオンプレミス型では社内ネットワークを通じて対応しなければなりませんでしたが、クラウド型を採用することでインターネットに接続すればすぐに対応可能となったのです。これにより、緊急対応の負担軽減や時間の短縮を実現しました。
[出典:EINS WAVE(アインスウェーブ)~TISインテックグループ「日本水産株式会社様」]
株式会社Mizkan Partners
1804年に創業したミツカングループは、家庭用・業務用調味料や加工食品、納豆の製造販売を手掛けており、2023年度の売上高は3001億円に上ります。同社の日本・アジア事業の内務を担っているのが、株式会社Mizkan Partnersです。
同社では、1980年代後半からオンライン受注の比率を高めるために、EDIの活用に取り組み始めました。EDIの導入によって注文の手入力やダブルチェックの必要がなくなり、迅速かつ正確に注文に対応できるようになったのです。
特にオンラインでの受注の比率が高いのがチルド製品で、受発注の90%以上の処理をオンラインで行っています。チルド製品は一日に何度も受注があるため迅速な出荷が求められますが、EDIによってトラブルなく円滑に運用できているのです。
現在はクラウド型EDIサービス「EINS/EDI-Hub Nex」を導入し、運用は株式会社インテックにアウトソーシングしています。「EINS/EDI-Hub-Nex」の活用によるメリットとして挙げられるのが、トラブル原因の特定しやすさです。例えば通信ができなかった場合、原因が回線の不具合にあるのか人為的ミスにあるのかをすぐに特定できるため、スピーディーに対処できます。
運用をアウトソーシングしたことで情報システム部の負担が軽減され、ほかの業務に注力できる効果も生まれているようです。
[出典:EINS WAVE(アインスウェーブ)~TISインテックグループ「株式会社Mizkan Partners様」]
EDIを導入し物流業務を改善しよう
電子データをやりとりするEDIには注文書や納品書などの書類作成・郵送の手間を省けるなどのメリットがあり、業務効率化や企業競争力の向上に大きく貢献します。また、入力漏れや誤発注などの人為的ミスの軽減にもつながるため、EDI導入のメリットは非常に大きいといえます。労働力不足が深刻化している今こそ、自社に合ったEDIを導入し、物流業務を改善しましょう。
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