流通BMSとは?JCA手順との違いや導入メリット・注意点をわかりやすく解説

2024/05/22 2024/05/23

EDIツール

流通BMSとは

流通業者が統一して利用できるEDIの仕様である「流通BMS」。経済産業省「流通システム標準化事業」により開発され、業界全体の業務改善を期待されています。本記事では、流通BMSとは何か、JCA手順との違い、導入メリット・注意点について、わかりやすく解説します。

流通BMSとは?

流通BMSとは「Business Message Standards」の略称で、流通業界で統一的に利用されるEDI(電子データ交換)の仕様を指します。長年にわたり普及していた「JCA手順」の後継として2007年に導入され、流通業界における、より効率的な情報のやり取りを可能にしてくれるプロトコルです。

JCA手順は2024年をめどに終了予定とされているISDNサービス(INS回線)と共に使用不可能になると予想されているため、流通BMSの導入を迫られる企業が増えています。2024年をめどに全流通業者の標準となるよう、徐々に移行が進んでおり、2024年5月時点では小売業215社、卸売・メーカー業203社での導入が済んでいます。

[出典:流通システム標準普及推進協議会「社名公開企業一覧」]

流通BMSの普及状況

流通システム標準普及推進協議会が行った調査によると、調査対象企業の中で流通BMSを導入しているのは、2021年時点では小売業で60.0%、卸売業及びメーカーで70.3%となっています。

これらの数字は年々増加しており、2024年のISDN廃止を控え、さらに多くの企業が流通BMSへと切り替えることが予想されています。

[出典:流通システム標準普及推進協議会「2021年度流通BMS導入実態調査」]

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流通BMSとJCA手順の違いとは?

流通BMSの導入が加速していますが、利用されてきたJCA手順とはどのような違いがあるのでしょうか。以下に詳しく説明します。

使用する回線について

JCA手順の通信回線は電話回線を利用しており、通信速度が非常に低速です。一方、流通BMSではインターネット回線を使用しているため、JCA手順も通信速度が圧倒的に高速であることが大きな違いです。

また、JCA手順では半二重通信という通信方式を採用しており、双方向での同時送信が不可能でしたが、インターネット回線を使用する流通BMSではこのデメリットも解消されました。

専用モデムについて

JCA手順では専用モデムが必要でしたが、インターネット回線を使用する流通BMSでは専用モデムは不要です。

近年、専用モデムを生産する企業は減少しており、現在使っているモデムが壊れた場合、新しいモデムを確保することが困難な状況にあります。

漢字・画像の送信について

JCA手順では、英数字とカタカナのテキストデータしか送信できず、漢字や画像データは扱えない仕様となっていました。また、扱えるデータサイズにも限界があり、あらかじめ定義された情報以外は送受信できない制限がありました。一方、流通BMSは、漢字や画像を含むより多くのデータの送受信が可能です。

流通BMSを導入するメリット

流通BMSを導入すると、日々の業務プロセスをスムーズにできる多くのメリットがあります。以下に詳しく見ていきましょう。

通信にかかる時間・費用を大幅に削減できる

流通BMSの導入により、JCA手順と比較して通信時間を90%以上削減できることが、共同実証プロジェクトにて確認されています。現場からは以下のような効果が報告されています。

  • 発注データの受信に日々40分程度要していたが、1~2分程度に短縮できた
  • 従来に比べ、1時間半早く出荷業務に入れるようになった
  • 出荷までのリードタイムが伸びて余剰時間が確保できることで、ピッキングにかかる作業を平準化できた

通信にかかる時間や通信コストが大幅に削減されることで、業務の効率化や運営コスト削減にも寄与するでしょう。

[出典:キヤノンITソリューションズ株式会社「流通BMS特集|流通BMSとは(概要)」]

メッセージの統一化でシステム開発の手間を削減できる

これまでは取引先ごとに通信方法や仕様を定めてシステム開発を行う必要がありましたが、流通BMSではメッセージ形式が標準化されています。どの取引先でも同じシステムを使えるため、個別に開発を行う手間や費用を削減できます。

取引をスムーズに進められる

流通BMSの導入で通信時間の削減や業務の効率化が実現することで、発注から出荷、請求、支払いなど、一連の業務スピードが向上します。その結果、取引が従来よりもスムーズに進められるようになるでしょう。取引のスピードが向上することで、市場の変化にも柔軟に対応できるようになります。

発注から請求・支払までのデータを都度確認できる

従来のJCA手順では、もし誤った情報を送信したとしても、それに気づくためには長時間の通信が終わるのを待つ必要がありました。しかし、流通BMSでは、発注から請求・支払までのデータをリアルタイムで確認できます。ミスをした際にも早期発見・解決ができるため、トラブルを最小限に抑えられるでしょう。

流通業界の業務改善が促進する

流通BMSを活用することで、受領したデータは税法上の取引記録としても使用可能です。つまり、煩雑な伝票発行や保管などの事務作業が不要になります。流通BMSを活用することで、流通業界全体におけるルーチン業務の改善が期待されます。

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流通BMSの導入手順

ここからは、実際に流通BMSを導入する際の手順を説明します。

インターネットの接続環境を整備する

まずは、インターネット回線を安全に使うための環境を整えましょう。

流通BMSはインターネット回線を利用するため、不正アクセスやデータの改ざん・漏洩リスクに備える必要があります。EDIや流通BMSのシステム自体にもセキュリティが備わっていますが、その土台となる通信環境そのものに脆弱性があると、安全な通信を確保することができません。ファイアウォールの適切な導入や電子証明書の取得など、より盤石な通信環境を構築してから流通BMSを導入してください。

通信プロトコルを取引先と協議し決定する

流通BMSでは、利用可能な通信プロトコルが3種類に定められています。

取引データ量や企業規模なども考慮したうえで、双方に効率的なデータ交換が実現できるよう、最適なプロトコルを協議することが大切です。以下に、3種類のプロトコルを解説します。

JX手順

JX手順は日本独自の通信規格であり、XML形式でファイルを送受信するプロトコルです。

クライアント側からサーバにアクセスし、データを送受信するプル型と呼ばれる仕組みで動くモデルになっており、卸業者やメーカーはクライアント側、小売店ではサーバ側を導入することが一般的です。クライアント側はPCで利用できるため、大量のデータを扱う必要がない中小企業に適しているでしょう。また、残る2つのプロトコルより安価であることも強みです。

ebXML MS

ebXML MSは国際標準のプロトコルであり、OASISとUN/CEFACTというWebサービス標準化団体によって策定されました。近年はアジア圏でのシェアが拡大しています。

前述したJX手順とは異なりプッシュ型を採用しており、サーバ同士が都度データの送受信を行うモデルです。大量のデータ交換に適していますが、サーバの運用が必須となることから、JX手順と比べるとやや導入のハードルが高いという特徴があります。また、常にサーバへの接続が求められる以上、より強固なセキュリティ対策が必要となるでしょう。

EDIINT AS2

EDIINT AS2も、ebXML MSと同じく国際標準のプロトコルであり、欧米を中心に普及しています。

大量のデータ交換に適したプッシュ型を採用しており、国内では日用雑貨分野などで限定的に採用されています。

既存システムのメッセージの種類・バージョンを確認する

流通BMSでは、メッセージの交換がXML形式で行われます。しかし、連携させたい自社の既存システムがXML形式に対応していない場合も少なくありません。

流通BMSを導入する際には、既存システムのメッセージの種類・バージョンをよく確認し、要件に応じた互換性を備えているかを事前に確認する必要があります。

流通BMSを導入し流通業界の業務改善を促進しよう

流通BMSを導入することで、従来のEDIシステムに比べて通信時間の大幅な短縮や、システム改修のコスト削減などのメリットが得られ、業務の効率性に大きな影響を与えます。

発注から支払いまでの業務がスムーズになり、検品レスや伝票レスも実現できれば、流通業界全体の業務効率化にも大きく貢献するはずです。一方で、インターネット回線の利用に伴うセキュリティ対策や、XMLデータへの対応の必要性など、導入時にチェックが必要な課題も存在します。流通BMSの性質をよく理解したうえで、流通業界の活性化に役立ててください。

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