人的資本とは?意味や注目される背景・情報開示に必要な知識を解説

最終更新日時:2022/08/15

人事管理システム

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人的資本とは、大切な経営資源のひとつである「ヒト」が持つスキルや能力などを資本と捉え、投資の対象とする考え方です。本記事では、人手不足が深刻化する現代社会における人的資本について、その意味や需要が拡大している背景などを詳しく解説していきます。

人的資本とは?

中長期的な企業価値の向上を目指す経営戦略として重要な人的資本は、近年、投資家にとっても投資先の企業を分析するうえで重要なキーワードとなっています。そんな「人的資本」について、まずはその概要を確認しておきましょう。

人的資本の意味

人的資本は、ヒトが持つスキルや能力を重要な生産要素として捉え、スキルや能力を向上させるための取り組みを「投資」とする考え方です。

そのため、新人教育や研修といった人材育成の取り組みは、人材資本への投資であると同時に、ヒト(社員)を育てることで生産性や価値を最大限に引き出す人材戦略ともいえるでしょう。

人的資本と人的資源の違い

人的資本と似た言葉として人的資源があります。

「資源」とは、生産活動において必要なモノ・コトであり、主に「すでに存在している物資」を意味している点に特徴があります。そのため、人的資源は、すでに確保できている人的リソースを表す言葉として使われることがほとんどです。

一方の「人的資本」は、教育や研修などのスキルアップや福利厚生制度の充実による社員のエンゲージメント向上といった投資(取り組み)を積極的に行い、生産性の向上へとつなげることで、将来的な人材の価値向上を目指すなど、中長期的な視点での人材戦略を意味する言葉として使われています。

一見同じような意味をもつ言葉のように感じますが、経営戦略においては「資源=消費の対象」、「資本=投資の対象」といった明確な違いがあります。

人的資本の需要が拡大している背景

ここからは、近年、人的資本の需要が増大している背景を説明していきましょう。

製造業から知識労働への変化

現在社会におけるビジネスは、単にモノを作り、売って終わる時代ではなくなっています。

消費者は、商品・サービスが容易に比較でき、より優れたモノ、かつより便利なコトを求めるようになり、企業には、それらのニーズの変化を的確に捉えたスピーディかつ創造的な商品・サービスの提供が求められています。

このようなビジネス環境においては、人材によるアイデア創出の重要性が必然的に高まることになり、人的資本の需要の拡大にもつながっているのです。

人材の多様性による組織力の向上

ビジネスのグローバル化やライフスタイルの変化などに伴い、価値観の多様化が進んでいます。

女性の社会進出が活発になる中で、年功序列や終身雇用などの、いわゆる「日本型雇用」は減少傾向が続き、必要な職種に対して適した人材を雇用する「ジョブ型雇用」が増えるなど、働き方に対する考え方も、個人や世代によって大きく異なるでしょう

このような変化は、企業の人材戦略にも大きな影響を与え、ビジネスの「多様性」や「流動性」に対応できる人材の育成がより重要な意味を持つようになっています。

SECによる人的資本の情報開示の義務化

2020年8月、米国証券取引委員会(SEC)は、上場企業に対し、人的資本に対する情報の開示を義務付けました。具体的には、人的資本についての運用状況や取り組みの詳細を社外に情報開示することが義務化されたことになります。

これらの動きは、欧米諸国を中心に拡大しており、人的資本が財務情報などと同様に企業価値や将来性を見極めるための重要な情報とされていることがわかります。

少子高齢化による慢性的な人材不足

少子高齢化による人材不足が深刻化する状況における「社員一人ひとりの生産性の向上」は、人手不足を解消するための重要な解決策です。

また、人的資本には、教育や研修といった人材育成だけでなく、評価体制の構築、福利厚生の充実といった労働環境の改善への投資も含まれます。ヒトの価値を最大化するだけでなく、優秀な人材の流出を防ぐための投資は、事業を継続・拡大するうえで欠かせない取り組みといえるでしょう。

ESG投資への需要の高まり

環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)について積極的な取り組みを行っている企業を評価して投資先として選ぶESG投資への社会的な重要性が高まっている点も背景にあります。

人的資本の取り組みは、企業統治の要素に含まれており、具体的には人材育成のほか、ダイバーシティへの取り組みなどが挙げられます。そのため、人的資本はSDGsの観点からも、企業の社会的な責任として無視できない考え方なのです。

人的資本を強化するメリット

ここからは人的資本を強化すること、つまり、人材へ積極的に投資することにはどのようなメリットがあるでしょうか。そのメリットについて解説していきます。

投資家にアピールすることができる

ESG投資への関心が高まっていることからもわかるように、財務情報だけではなく、人材戦略や人的資本といった非財務情報を加味しつつ、企業の「持続的な成長」や「長期的な企業価値向上」を見極めた上での投資先の選択は、世界的な潮流といえます。

そのため、持続的な成長と競争力の根幹となる人材への投資、つまり人材資本という考え方は、投資家との関係構築の上でも重要な意味を持っているのです。

社会的イメージを上げることができる

人的資本への投資は、人材育成と労働環境の整備により個々の生産性を上げ、事業の利益を拡大し、得られた利益を新しい事業へと投資し、さらに賃金として人材へと還元するといった好サイクルの基礎となるものです。

また、上記のようなサイクルを回す過程における、人材育成プログラムの充実や健全かつ柔軟性のある労働環境の整備、公平な評価制度の構築といった取り組みを積極的に情報開示することで社会的な企業イメージの向上も期待できるでしょう。

生産性が向上する

人的資本への投資により向上した社員の能力やスキルは、いずれ「生産性の向上」という成果として企業に還ってきます。さらに、労働環境の改善は、社員のエンゲージメントを高め、安定した労使間の信頼関係の構築にも貢献してくれるでしょう。

人的資本を有効活用するための世界の取り組み

企業の「持続的な成長」に欠かせない人的資本ですが、実際に人的資本を有効活用するためには、どのような活動が行われているのでしょうか。ここからは、人的資本を有効活用するための世界の取り組みを紹介していきます。

人的資本とSDGs

持続可能な社会の実現を目指すSDGsが掲げる17の目標のなかに、「働きがいも経済成長も」という目標があります。

この目標の達成においては、まさに持続可能な社会を実現するために、ヒトを単なるコストや労働力とするのではなく、投資の対象として価値を向上させるための人的資本の考え方が求められています。つまりは、人材も企業において成長を支援し、継続的に開発すべき資本として考えるべきとする目標なのです。

そのため、人的資本の考え方を前提とした人材マネジメントを実施しているか否かは、今後、企業価値を大きく左右する要素のひとつになり得るといえるでしょう。

人的資本に関するISO規格

人的資本に関する情報開示には、国際標準化機構( ISO)による、国際的なガイドライン(ISO30414)も設けられています。

ISO30414では、​​コンプライアンスやダイバーシティへの取り組み、生産性向上に向けた施策など、ステークホルダーの関心が高い11項目・58指標が網羅的にカバーされているため、企業の人材戦略を定量・定性の両面において明確に開示できる内容になっています。

日本の関連法規

日本国内でも人的資本経営に向けた、さまざまな施策が進行しています。

2020年「労働施策総合推進法」が改正され、従業員が301人以上いる企業については、2021年4月1日より中途採用比率を公表しなければならないことが義務化されました。この改正の狙いは、労働者による能動的なキャリア形成やワーキングライフの充実にあります。

企業に中途採用に関する情報の公表を求めることで、長期的かつ安定的な雇用の機会を中途採用者にも企業が提供していることがわかるようになり、積極的に企業が中途採用を行うようになることが企図されています。

人的資本経営を実現するために必要な取り組みとは?

最後に、経営に人的資本という考え方を取り入れるために、どのような取り組みが必要かについて解説していきます。

人的資本に対する全社的な意識の統一を図る

まずは人的資本の考え方を、適切に理解することから始めましょう。また、人的資本の強化は、社員の協力なくして成し遂げることはできません。そのため、人的資本に対する全社的な意識の統一も重要です。

具体的には、企業のミッションやビジョンに人的資本に関する事項を取り入れるなどの取り組みが挙げられるでしょう。

自社の現状を把握する

人的資本経営の実現においては、自社の社員が現状どのような不満や不安を抱えているのかを把握することも大切です。

上司との1on1の実施のほか、忌憚のない意見が聞けるような匿名性のアンケートを行うのも現状把握の手段として効果的です。実状を無視した施策を走らせることのないよう、しっかりと社員の声に耳を傾けるようにしてください。

社員のモチベーションをアップさせる

やりがいや働きがいを感じながら主体的に仕事に取り組めるような労働環境の整備は、人的資本強化のための取り組みそのものといえます。

資格取得のための支援、ワークライフバランスの向上など、社員が働きやすい環境が整えば、モチベーションを高く保つことができるようになり、生産性の向上へとつながるはずです。

教育体制を見直す

社員の能力やスキルを向上させるための、人材育成も人的資本経営の根幹となる部分です。

業務に関するスキルアップ研修のほか、社会人としてあるべき姿を再認識するためのコンプライアンス教育なども重要な要素となることを忘れないようにしましょう。

時間や場所にとらわれない働き方を実現する

ライフスタイルや仕事観が画一的ではなくなった現代社会においては、柔軟な働き方の導入も、社員のワークライフバランスを保つために不可欠な働き方改革です。具体的には、リモートワークやフレックスタイム制の導入、副業の許可などが挙げられます。

人材ポートフォリオを常に更新し続ける

事業活動に必要な人材戦略は、さまざまな要因によって変化するのが通常です。したがって、人材設計を表す人材ポートフォリオを常に更新し続けることで、人材の適材適所を徹底し、無駄なく生産性を最大化させることも人的資本経営には欠かせない取り組みとなります。

人材戦略による効果を算出する

人材戦略の効果測定に関しては、定性的なデータとなってしまうことから、定量的な効果の算出ができていない企業は少なくありません。

しかしながら、生産性のほか、離職率や女性管理職の割合など、定量的なデータを算出できる指標は多々あります。何にどのくらいの費用や労力が使われ、どのような変化や効果を得られたのかを測定し、適切なPDCAサイクルを回してください。

人材データを蓄積させる

人的資本を適材適所で活用するためには、人材情報の管理が鍵となります。

社員がもつスキルや経験だけでなく、キャリアパスなどの将来的な本人の意向も一元的に管理することで、スキルや能力を最大限に活かした人材マネジメントができるだけでなく、モチベーションを維持しながらの自主的な成長を促せるようになるでしょう。

人材の多様化を推進する

多様な価値観を持つ人材による組織形成は、新しいアイデアやイノベーションが生まれやすい環境となるかもしれません。ただし、多様性のある組織が、そのままイノベーションの創出に直結するわけではありません。

イノベーションには、「多角的な意見交換の活性化」が必要であることを理解し、積極的、かつ、いい意味で遠慮のない意見交換ができる環境、そして、それらを価値観の違いとして受け入れることのできる企業文化を醸成する必要があることも併せて認識しておきましょう。

人的資本を強化する取り組みについて検討しよう

人的資本への投資は、企業の「持続的な成長」における重要かつ必須の取り組みです。人的資本に関する情報開示についても、義務化が進む欧米の潮流は今後さらに大きな流れとなることが予想されます。

人的資本への投資は、その効果が顕在化するまでに時間がかかるため、人的資本の考え方に懐疑的な経営層にとっては一見単なるコストにしか感じられないかもしれません。

しかし、人材不足やビジネス環境の変化が激化の一途を辿る現代社会においては、中長期的な人材戦略による計画的な人的資本への投資が、企業の「生き残り」を掛けた重要な要素であることを改めて認識する必要があるといえるでしょう。

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