労働基準法違反となるケース|違反に対する罰則・相談先・予防策

最終更新日時:2023/04/24

労務管理システム

労働基準法の違反になるケース

労働者を守るための法律「労働基準法」。労働基準法には労働時間、休憩、休日・休暇、賃金など労働者にとって重要な内容が定められており、使用者にはこれを遵守する義務があります。本記事では、労働基準法の役割のほか、違反となるケースや罰則、労働者としての相談先、使用者としての違反予防策などを詳しく解説します。

松田 茂樹

監修者 松田 茂樹 社会保険労務士法人しろくまパートナーズ 代表 大学卒業後、商社・証券会社に10年間勤務。2010年に松田社会保険労務士事務所を開業。企業の「本業促進」を第一に考え、人事労務面での戦略立案サポートに邁進。2019年に法人化し、社会保険労務士法人しろくまパートナーズを設立。企業が抱える多種多様な問題に誠実に寄り添い、本質からの解決を目指すコンサルティングを行う。開業以来、100社以上の企業をサポートし、助成金の申請件数は500件以上。セミナー講師実績多数。現在は、IPO支援やM&A労務監査に注力。

労働基準法とは?

労働基準法は、労働者を守るために1947年に制定された法律です。

労働基準法によって、労働者の労働時間、休憩、休日・休暇、賃金などの労働条件に関する最低基準や義務が定められています。

そして、その基準や義務を守らなかったなど労働基準法に違反した使用者(企業、経営者、管理監督者など)に対し、懲役や罰金といった罰則が定められています。

使用者に義務を課すことで、労働者の健康と生活を守ろうとしているのです。

労働基準法の対象者

労働基準法では、保護を受ける対象として「労働者」、義務を課される対象として「使用者」が登場します。

雇用契約を締結し就業する者は、職業の種類を問わず、また正規・非正規といった雇用形態を問わず、労働基準法上の労働者に該当します。(使用者の同居家族、家事使用人といった例外があります。)

よって、役員(委任契約)や個人事業主(業務委託契約など)といった雇用契約でない契約に基づき就業している場合は、労働基準法上の労働者には該当しません。ただし、使用者から具体的な指揮命令を受けているなど使用従属性が認められる場合は、形式的には「雇用契約」ではないものの、実質的には「労働契約」にあたるとして労働基準法上の労働者と判断され得ます。

一方で、労働基準法上の使用者は、労働者に賃金を支払う者のみならず、労働者に指揮命令をする者をも含みます。つまり法人のみならず、代表取締役などの経営者、(個別事案によりますが)管理監督者も使用者となり得ます。管理監督者は労働者ですが、使用者にもなり得るという両面性を持っています。

[出典:e-Gov 労働基準法 第九条]

[出典:e-Gov 労働基準法 第十条]

パワハラは労働基準法違反なのか?

パワーハラスメント(以下「パワハラ」といいます。)は、労働施策総合推進法により「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること」と定義されています。

よって、パワハラは労働基準法違反ではなく、労働施策総合推進法違反ということになります。ただし、労働施策総合推進法で事業主に課されている義務は、労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備するといった措置の義務です。

つまり労働基準監督署が違反を問うのは措置義務を履行していたかどうかであり、パワハラ行為自体は民事事案(ただし、暴力など刑法違反となるケースは、警察署の管轄である刑事事案です。)です。よって、労働基準監督署がパワハラ行為者に対し、労働施策総合推進法違反を問うことはありません。

ただし、労働基準監督署および労働局には総合労働相談コーナーが設置されており、パワハラに関する相談にも応じています。そのほか、紛争解決援助制度といって、調停委員が労働者・事業主双方から話を聞く調停という機会を労働局に申請することもできるようになっています。

労働基準法違反の疑いがある場合の流れ

労働基準法違反の疑いがある場合、通常以下のような流れとなります。

  1. 労働基準監督署による臨検監督(立入調査)
  2. 違反が認められた場合は是正勧告
  3. 是正勧告に従わない場合は送検・起訴

まず、労働基準法違反の疑いがある場合、労働基準監督署が臨検監督をします。そこで違反が認められた場合、労働基準監督署から是正勧告書が交付され、違反状態を是正し報告するよう指導されます。

もし、是正勧告に従わない場合は、送検へと進み得ます。労働局や労働基準監督署に配属されている労働基準監督官は司法警察員であり、労働関係の法令違反に対しては、強制捜査・逮捕・送検といった強力な権限が与えられているのです。

[出典:e-Gov 労働基準法 第百二条]

労働基準法違反に対する罰則

労働基準法違反に対する罰則は懲役と罰金であり次の通りです。

  • 【第117条】:1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金
  • 【第118条】:1年以下の懲役または50万円以下の罰金
  • 【第119条】:6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金
  • 【第120条】:30万円以下の罰金

労働基準法違反となる行為は数多く、それぞれの行為ごとに罰則の軽重が異なります。

[出典:e-Gov 労働基準法 第十三章 罰則]

労働基準法違反となるケース

ここからは、労働基準法違反となる行為をいくつか解説します。

送検されなければよいということではなく、未然に労使紛争を防ぐためにも、どのような行為が労働基準法違反に当たるかを把握しておくことは重要です。

強制的に労働させる

使用者が暴行・脅迫・監禁・その他精神または身体の自由を不当に拘束して労働者に労働を強制することは禁止されています。違反した使用者には、1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金刑が科せられます。

[出典:e-Gov 労働基準法 第五条]

解雇を予告しない

使用者が労働者を解雇する場合、30日前までにその予告をするか、または30日分以上の解雇予告手当を支払わなければなりません。(予告と手当を併用することも可能です。)

違反した使用者には、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金刑が科せられます。

ただし、予告すれば解雇できる、解雇予告手当を支払えば解雇できる、ということではありません。客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、権利を濫用したものとして、その解雇は労働契約法により無効とされます。

予告や手当の支払いにより無効な解雇が有効になるわけではありません。有効な解雇に対しても予告や手当の支払いが必要である、という流れです。

[出典:e-Gov 労働基準法 第二十条]
[出典:e-Gov 労働契約法 第十六条]

法定労働時間を超えて労働させる

使用者が法定労働時間(原則1日8時間・1週間40時間)を超えて、または法定休日に労働者に労働(以下「残業」といいます。)を命じる場合、労働者代表と事前に話し合い、協定(いわゆる36協定)を締結しておく必要があります。

36協定を締結しないまま残業をさせた使用者には、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金刑が科せられます。使用者には、部下に残業を命じる上司も含まれ得ること、あらためて触れておきます。

[出典:e-Gov 労働基準法第三十二条]

割増賃金を支払わない

使用者は、法定時間外や法定休日に労働(残業)させたときは、割増賃金を支払わなければなりません。

法定時間外労働に対しては25%以上(ただし、月60時間を超えた時間は50%以上)、法定休日労働に対しては35%以上の割増賃金の支払いが必要です。また、残業であるかないかを問わず深夜時間帯(午後10時から午前5時まで)の労働に対しては更に25%以上の割増賃金の支払いが必要です。

違反した使用者には、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金刑が科せられます。

[出典:e-Gov 労働基準法 第三十七条]

国籍・性別で差別する

使用者が、労働者の国籍を理由として労働条件を差別することは禁止されています。また、性別を理由として賃金を差別することも禁止されています。(なお、性別を理由とする差別の禁止は、男女雇用機会均等法でも定められています。)

違反した使用者には、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金刑が科せられます。

[出典:e-Gov 労働基準法 第三条]

[出典:e-Gov 労働基準法 第四条]

中間搾取する

中間搾取とは、他人の就業に介入して利益を得ることをいいます。当然ながら、労働局の許可を受けて適正に業を行っている労働者派遣事業者(いわゆる人材派遣業)や職業紹介事業者(いわゆる人材紹介業)は中間搾取には該当しません。

違反した者には、1年以下の懲役または50万円以下の罰金刑が科せられます。

[出典:e-Gov 労働基準法 第六条]

休憩・休日・有給休暇を与えない

使用者には、休憩、休日、年次有給休暇を労働者に与える義務があります。休憩の時間は、労働時間が1日6時間を超える場合は1日45分以上、1日8時間を超える場合は1日60分以上でなければなりません。

休日の日数は、原則週1日以上でなければなりません。つまりは、週6日を所定労働日とすることが可能ということです。ただし、たとえば1日の所定労働時間が8時間の場合、週の所定労働時間は8時間×6日で48時間となり、第32条(所定労働時間は原則1週間40時間まで)違反となります。労働基準法の労働時間の規定(第32条)も休日の規定(第35条)も共に遵守する必要があります。よって1日の所定労働時間が8時間の場合は、休日は週2日以上でなければなりません。

年次有給休暇は、所定労働日の8割以上継続勤務した労働者に対し、勤務年数や所定労働時間に応じて労働基準法で定められた時期以前に定められた日数以上を与えなければなりません。

違反した使用者には、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金刑が科せられます。

[出典:e-Gov 労働基準法 第三十四条]

[出典:e-Gov 労働基準法 第三十五条]

[出典:e-Gov 労働基準法 第三十九条]

産前・産後休業させない

使用者は、女性労働者から産前休業が請求された場合、妊婦の保護のため休業させなければなりません。また、産後は女性労働者からの請求の有無に関わらず、産婦(母体)の保護のため休業させなければなりません。

出産予定日の6週間前(多胎妊娠の場合は14週間前)から出産日当日までが産前期間、出産日翌日から8週間までが産後期間です。

違反した使用者には、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金刑が科せられます。

[出典:e-Gov 労働基準法 第六十五条]

就業規則の作成・届出違反

常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出なければなりません。また、就業規則を作成した使用者は、労働者数に関わらず労働者に周知しなければなりません。

違反した使用者には、30万円以下の罰金刑が科せられます。

[出典:e-Gov 労働基準法 第八十九条]

[出典:e-Gov 労働基準法 第百六条]

労働条件を明示しない

使用者は労働契約の締結に際し、労働者に対して労働時間、賃金など法で定められた事項を明示(絶対的必要記載事項は書面交付)しなければなりません。

違反した使用者には、30万円以下の罰金刑が科せられます。

[出典:e-Gov 労働基準法 第十五条]

労働基準法違反の事例・事案

労働基準法違反のうち送検された事案は、労働局のHPにて企業・事業場名称も含め公表されます。次表はその抜粋です。(本記事では企業・事業場名称は伏せています。)

社会的信用の失墜にも繋がりますので、是正勧告がなされた場合、真摯に是正し是正報告書を提出し労働基準監督官の納得を得て送検を避ける、また、そもそも是正勧告がなされるような労務管理をしないことが肝要です。

所在地公表日違反法条事案概要 送検日
東京都江戸川区R4・9・7労働基準法第32条労働者1名に、違法な時間外労働を行わせたものR4・9・7
東京都新宿区R4・12・15労働基準法第24条労働者9名に、4か月間の定期賃金合計約1,250万円を支払わなかったものR4・12・15


[出典:厚生労働省労働基準局監督課「労働基準関係法令違反に係る公表事案」]

労働者としての相談先

使用者の労働基準法違反が疑われる場合、労働者としては次のような相談先があります。

1.勤務先の上司・人事部門

まず、勤務先の上司や人事部門に相談することが考えられます。違反の事項・内容、上司との関係・社風、故意か過失か、違反者が誰なのかといった各種状況にもよりますが、まずは、勤務先に相談することを考えてみてはいかがでしょうか。

たとえば、労働条件通知書が交付されないという場合、上司が渡し忘れているだけ、または人事部門が発行し忘れているだけなのかもしれません。このように、外部に相談するよりも、勤務先に相談する方が早く解決に繋がるというケースもあろうかと思います。

相談しても改善しなかった、相談しても改善するとは思えないといった場合は、次の方法が考えられます。

2.勤務先の相談窓口

勤務先に相談窓口が設置されている場合、そちらに相談することが考えられます。企業によりますが、匿名やメールでの相談を受付けたり、外部の専門家を運営に参画させたりしているところもあります。

3.労働条件相談ほっとライン(厚生労働省)

電話(フリーダイヤル)での相談です。平日の日中のみならず、平日の夜間、土日・祝日も対応していますので、自宅で相談することができます。

4.総合労働相談コーナー(労働基準監督署内・労働局内)

総合労働相談コーナーでは幅広い相談に対応しています。無料、予約不要、秘密厳守ですので、安心して相談することができます。

使用者としての違反予防策

労働基準法違反を予防するには、使用者としては次のような予防策が考えられます。

1.労働時間の把握方法の見直し

まず、クラウド勤怠管理ソフトを導入することを検討されてみてはいかがでしょうか。勤怠管理ソフトの利用により、時間外労働・休日労働などの残業状況、年次有給休暇の取得状況などが、簡単・正確にリアルタイムで把握できるようになります。

近年ではテレワークの導入も拡大(令和3年 51.9%)しています。自宅で就業をするテレワークでは、労働時間や休憩時間が曖昧になりやすく、また、上司の目も行き届かず、その結果として長時間労働に繋がる懸念があります。

人事部門が、部署ごとの労働時間を把握することで採用戦略に活かしたり、上司が、直属の部下ごとの労働時間を把握することで仕事の割り振りに活かしたりと、労働基準法違反を予防するのみならず、生産性の向上にも寄与させることができます。

[出典:厚生労働省/総務省: テレワークの導入状況]

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2.社内ルールの見直し

次に、就業規則に明記していることのみならず、就業規則に明記していないルール(慣例)も含め、労働基準法に違反している内容がないかを一度確認してみましょう。

確認し見直した後も、定期的に確認されることが肝要です。円滑に無理なく運営できているかの確認のためでもあり、都度行われる法改正に対応出来ているかどうかの確認のためでもあります。

3.相談体制の見直し

まだ企業内に相談窓口を設置されていない場合には、相談窓口の設置も検討してみましょう。

労働者の立場からは、上司や人事部門には相談しづらいこともあります。その際に、社内に相談窓口がなければ、その相談は外部の相談窓口になされることになります。

社内に相談窓口があることで、その声を拾い、実際に違法な状態であったのであれば、その改善に活かすことができます。また、実際には違法な状態でなかったのであれば、その誤解が大きくなる前に解くことができます。

労働基準法の遵守からはじめよう

この記事では、労働基準法の役割のほか、違反となるケースや罰則、労働者としての相談先、使用者としての違反予防策について解説しました。

労働基準法はあくまで最低基準です。労働基準法を守っているだけでは最早足りず、優れた人材の採用や定着に支障を来す環境ともなってきています。

すこやかな人事労務が行われている企業では、労働問題は未然に防がれ、パワフルで生き生きとしたエネルギーが生まれます。それは、労働基準法の遵守から始まるのではないでしょうか。

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