働き方改革に対応に対応するための労務管理|業務効率向上の秘訣
多様で柔軟な働き方の実現は、雇用する側とされる側の双方にメリットがあることから働き方改革に向け積極的に取り組む企業も増加しています。本記事では、働き方改革に対応するための労務管理を適切かつ効率的に行うためのポイントを解説します。
目次
働き方改革とは?
働き方改革とは、働く人々の働き方を見直し、労働時間の短縮、柔軟な働き方の導入、生産性の向上などを目指す政策のことです。
過労死や長時間労働による健康被害の問題が相次いだことから、国を主導に取り組みが進められ、より良い労働環境やワークライフバランスの実現、女性や高齢者、障害者などの社会参加の促進などへの効果も含めて、各企業が取り組んでいます。
働き方改革は、特に、過労死やメンタルヘルス不調といった問題を背景に、法定労働時間の設定や、有給休暇取得に関する法改正が実行されたことにより、日本の労働文化を大きく変えるターニングポイントの一つとなりました。
▷【簡単】働き方改革とは?目的・取り組み背景・内容をわかりやすく解説
働き方改革の施策
働き方改革の施策は、多岐にわたります。ここでは主要な施策について紹介していきます。
時間外労働の上限規制
日本では労働基準法により、1日8時間、1週間40時間を超える労働は原則として禁止されています。ただし、特別な事情がある場合には、「時間外労働等に関する協定」である36協定を締結することで時間外労働や休日労働が認められ、その際の上限は、月45時間、年間360時間と定められています。
時間外労働の上限規制は、働き方改革の主要な施策の一つであり、労働者の健康維持を目的として上限を設けることで、過度な労働を防ぐことができるのです。
勤務間インターバル制度の導入
勤務間インターバル制度も労働者の健康保護を目的とした制度です。
具体的には、残業などで労働者が一定の時間以上働いた後には、次の勤務の始業時間を後ろ倒しにして一定の休息時間を確保する、あるいは、一定時刻以上の残業や始業前の勤務を禁止して休息時間を確保するなどの方法もあります。この休息時間のことを「インターバル」と呼び、勤務間インターバル制度の導入は、法律により企業の努力義務とされました。
この制度は、長時間労働による過労死や健康被害を防ぐ目的のほか、労働者が十分な休息を取ることで、仕事の生産性やクオリティを向上させる効果も期待されています。
▷勤務間インターバル制度とは?注目される背景や導入メリット・注意点を解説
有給休暇取得の義務化
有給休暇取得の義務化も働き方改革の重要な施策の一つです。
これまでも有給休暇は与えられていましたが、実際に取得するかどうかは従業員の自由でした。しかし、長時間労働が常態化し、過労死や心身の健康問題が社会問題化する中で、休暇を取得してリフレッシュする時間を確保することの重要性が認識されるようになったのです。
具体的には、年次有給休暇が10日以上付与される従業員を対象に、年間5日の有給休暇取得が義務づけられています。また、5日の休暇は、休暇を付与した日から1年以内に取得させなければいけないため、企業は、計画的な休暇取得の推進、正確な取得状況の把握とモニタリングをあわせて行わなければなりません。
割増賃金率の引き上げ
割増賃金率の引き上げは、月60時間を超える法定時間外労働に対する割増賃金率の引き上げを定めた制度です。
大企業や中小企業は、月60時間を超える法定時間外労働に対して、50%以上の率で算出した割増賃金を支払わなくてはなりません。そのほか、引き上げ分の割増賃金の支払う代わりに有給の代替休暇を付与することもできます。ただし、代替休暇はあくまで「引き上げ分」の支払いを免除するものであって、60時間以下の時間外労働に対して通常支払われる25%の割増賃金の支払いは必要である点に注意しましょう。
フレックスタイム制の清算期間の変更
フレックスタイム制とは、一定の期間についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内であれば、日々の始業・終業時刻・労働時間は、従業員がを自ら決めることのできる制度です。
フレックスタイム制は、これまで清算期間が「1ヶ月」とされていたため、1ヶ月の中での調整しかできませんでした。しかし、法改正により清算期間の上限が3ヶ月に延長されたため、月をまたいだ労働時間の調整が可能となっています。
フレックスタイム制を導入する場合は、就業規則への規定と労使協定の締結が必要であり、労使協定では、主に以下の4点および任意項目の2点を定めなければなりません。
- 対象者の範囲
- 清算期間
- 清算期間における総労働時間
- 標準となる1日の労働時間
- コアタイム(※任意)
- フレキシブルタイム(※任意)
高度プロフェッショナル制度の創設
高度プロフェッショナル制度は、一定の年収要件(年収1075万円以上)を満たした高度な専門知識を持つプロフェッショナルな労働者に対して、労働時間の規制の適用が免除される制度です。
この制度は、高度な専門職に対しては、時間に基づく労働ではなく、成果に基づく労働を推進し、その成果に応じた報酬を得られる環境を整備することを目的としています。つまり、短時間の労働であっても効率よく成果を上げることができれば、労働時間によって給与が変動することはなく、より自由な時間を確保することができるというものです。
そのため、対象となる職種は主に、金融商品の開発、ディーリング、アナリスト、コンサルタント、研究開発など、いずれも労働時間と成果の関連性が高くない職種であることが特徴です。
▷高度プロフェッショナル制度とは?対象者やメリット・デメリットを解説
同一労働・同一賃金
同一労働・同一賃金は、同じ企業(あるいは団体)内において、正規雇用者と非正規雇用者の間の不合理な待遇の格差を解消するための取り組みです。
「雇用形態にかかわらず、同じ仕事をする人に対しては、同じ賃金を含む待遇が提供されるべき」とする考え方であり、正社員とパート、派遣社員、契約社員といった異なる雇用形態間での不合理な待遇差を是正し、公平な労働環境の実現を目指すものです。
なお、不合理な待遇差には、賃金だけでなく、福利厚生、キャリア形成・能力開発など働く環境を含めた待遇も含まれています。
労務管理とは?
労務管理とは、基本的に従業員の労働環境に関する管理を行う業務です。
具体的には、主に以下の業務が挙げられます。
- 入社・退社時の手続き
- 勤怠管理
- 給与計算
- 従業員の健康管理
- 福利厚生制度の管理・運用
- 安全衛生管理 など
労務管理は、従業員が安心して働ける環境を作り出すことで、仕事や組織へのエンゲージメントを高め、従業員一人ひとりがその能力を最大限に発揮できるようにすることを目的に行われています。
▷労務管理とは?どんな仕事?具体的な仕事内容や重要性を詳しく解説!
働き方改革に対応するための労務管理
長時間労働の是正、柔軟な働き方の実現などを目的とした働き方改革の推進により、それを管理するための新たな労務管理の枠組みも求められるようになりました。
ここからは、働き方改革に対応するための労務管理の具体的な取り組みをご説明します。
労働時間の徹底管理
従来、日本の労働環境は「長時間労働=努力=成果」という考え方が根強く、これが過労死や労働者の健康問題を引き起こしていました。
しかし、働き方改革により、労働時間の上限や休暇の取得に法的な規制が設けられ、十分な休息が取れる環境の確保がより重視されるようになったのです。
現在は、高度プロフェッショナル制度の対象者を除くすべての労働者の労働時間の状況の把握が企業に義務付けられており、その把握方法も「原則、労働時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること」と定められています。
なお、客観的な記録の手段としては、タイムカードやICカードによる記録、パソコンの使用履歴などが挙げられ、やむを得ないと判断できる場合を除いて、従業員の自己申告による管理は原則禁止されています。
働き方の多様化実現のための環境整備
テレワークやフレックスタイム制といった多様な働き方の導入を実現するための環境整備も重要な業務の一つです。
物理的なオフィス環境の見直し、ITインフラの整備、組織文化の醸成、福利厚生制度の拡充など、幅広いアプローチによる環境づくりが不可欠となります。また、ワークスタイルが変わることで、勤怠管理のシステム化をはじめとした労務管理自体の体制変更も求められるでしょう。
▷テレワークとはどんな働き方?日本の現状や導入メリットをわかりやすく解説
働き方改革で複雑化した労務管理を正確に行う方法
働き方改革により、労務管理は、法令を遵守した正確かつ徹底した管理をしなくてはなりません。その一方、働き方が多様になったことで、労務管理がより煩雑になり業務の負担が増してしまった側面もあります。
そこでここからは、複雑化した労務管理を正確かつ効率的に行うための方法を見ていきましょう。
労務管理システムを活用する
労務管理システムとは、勤怠管理、給与計算、人事評価などに関する業務を一元的に管理する機能を搭載したシステムのことです。
勤怠管理では、労働時間を正確に記録し、リアルタイムで総労働時間が可視化されることから、休暇の取得状況結果を含めたアラート表示などにより勤務状況をいち早く確認しやすくなります。
また、勤怠データを給与計算へと自動連携することで、手作業による入力や計算の手間がなくなり、労務担当者の負担が軽減されるのはもちろん、ヒューマンエラーの削減による正確性の向上も期待できるでしょう。
労務管理システムの活用は、業務効率化、正確な管理、そして、法令遵守のうえでも効果的な手段となるのです。
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労務管理セミナーを受講する
労務管理は、関連する法令の知識を身につけたうえで違反することのないよう対応しなければなりません。また、労務トラブルは、訴訟へと発展してしまうケースもあるため、問題を未然に防いだり、肥大化させないための対策も必要です。
労務管理セミナーでは、最新の労務トピックや労働関連法の解説、実務のノウハウなどが提供されます。法律の専門家や労務実務のエキスパートから直接指導を受けることで、日常の業務に応用可能な知識やスキルを身につけることができるでしょう。
また、セミナーでは、他社の事例が紹介されることも多く、自社の労務業務の改善に役立つヒントを得ることも可能です。
労務管理を見直し働き方改革を推進しよう
労務管理と働き方改革は、組織の持続的な成長と従業員の満足度を向上させるための両輪といえます。
しかし、働き方改革によって増えた労務管理の負担を放置していては、新たな課題を生む要因の一つとなってしまいます。業務のシステム化、正しい知識の習得などを実行し、法令を遵守しながら、自社の働き方改革を推進していきましょう。
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