年末調整とは?やり方や対象者・必要書類、確定申告との違いをわかりやすく解説
年末調整とは、給与所得者を対象に年末に行われる給与と税金の調整作業です。しかし、多くの場合では企業が処理してくれるため、具体的な内容を知らない方も多いのではないでしょうか?当記事では、年末調整の概要やスケジュール、作業のやり方や対象者を解説します。
目次
年末調整とは?
年末調整とは、給与所得者が本来払うべき年間の所得税額を算出し、その年の源泉徴収税額との差額を精算する手続きのことです。例年、11月頃〜翌年1月下旬頃にかけて行われます。
会社員の場合、源泉徴収として給与・賞与などから一定率の金額が引かれており、この差し引いた源泉徴収税額を所得税として、本人に代わって会社が国に収めています。しかし、源泉徴収税額はあくまで概算であり、本来の納税額との過不足を最終的に調整する必要があるのです。
したがって、年間の控除額を差し引いた所得が確定した時点で、正しい年間の所得税額を算出し、源泉徴収税額との過不足を計算しなければなりません。そして、源泉徴収税額に過払いがあった場合は還付され、不足があった場合は追加徴収されます。
確定申告との違い
確定申告も年間の所得税額を申告するために行う手続きですが、年末調整とはいくつか異なる点があります。
まず、大きな違いは申告・納税手続きを行う対象者です。年末調整は手続きを会社が行いますが、確定申告は納税者本人が行う必要があります。
また、申告・納税手続きを行う対象者も異なり、年末調整は給与所得者のみが対象となる一方で、確定申告は事業所得のある個人事業主や、不動産所得のある人などが主な対象となります。
なお、年末調整と確定申告では、実施時期が異なります。さらに、受けられる控除は確定申告の方が多く、給与所得者であっても給与以外の所得が20万円以上ある場合や、年末調整では手続きできない控除を適用したい場合には、必ず確定申告が必要です。
▷年末調整と確定申告の違いとは?関係性や控除の種類・両方必要となるケース
年末調整の対象者
年末調整の対象者は、その年の期日までに「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を会社に提出している人です。
条件を満たしていれば、正社員だけではなく契約社員・アルバイト・パートタイマーなども含まれます。そして、年末調整の対象者は、年末に行う場合とその年の途中に行う場合とで異なる点に注意が必要です。
それぞれの対象者となる条件について、以下に詳しく解説します。
[参照:国税庁「No.2665 年末調整の対象となる人」]
12月に年末調整を行う人
12月に年末調整を行うべき対象者は、以下の通りです。
- その年の1月1日から12月31日まで、会社に1年を通じて勤務している人
- 会社にその年の中途入社し、12月31日まで勤務している人
ただし、下記の条件に当てはまる場合は年末調整の対象外となります。
▷12月に退職した人の年末調整はどうすべき?対象条件や確定申告が必要なケース
- 1年間の給与収入が2000万円を超えている場合
- 災害の被害を受け、災害減免法の規定によってその年の所得税・復興特別所得税について徴収猶予や還付をすでに受けた場合
条件に当てはまれば、青色事業専従者も年末調整が必要です。また、年末調整の対象外となった場合は、その年の翌年2月16日から3月15日までの間に自分で確定申告を行わなければなりません。
年の途中に年末調整を行う人
年の途中に年末調整を行うべき対象者は、以下の通りです。
- 年の途中で海外勤務などになり、日本国内の非居住者となった人
- 年の途中に死亡によって退職した人
- 年の途中で著しい心身障害により退職し、その年中に再就職の見込みがない人
- その年の12月に支給されるべき給与を受け取ってから退職した人
- パートタイマーなどが退職した場合で、その年の給与総額が103万円以下の人(ただし、退職後に他の勤務先から給与を受け取る見込みがない場合のみ)
なお、その年の途中に退職したとしても、退職後に再就職先が決まっているなど、上記の条件に当てはまらない場合には年末調整の対象外です。また、年の途中に年末調整を行った場合には、年末に再度年末調整をする必要はありません。
年末調整で受けられる控除の種類
年末調整で受けられる控除は以下の通りです。
- 基礎控除
- 扶養控除
- 障害者控除
- 勤労学生控除
- 寡婦控除
- ひとり親控除
- 配偶者控除・配偶者特別控除
- 社会保険料控除
- 小規模企業共済等掛金控除
- 生命保険料控除
- 地震保険料控除
- 所得金額調整控除
- 住宅借入金等特別控除(2年目以降)
以下3種類の控除には、個人での確定申告が必要である点に注意しましょう。
- 医療費控除
- 雑損控除
- 寄附金控除
[参照:国税庁「各種控除について(給与所得者用)」]
年末調整を行うための必要書類
年末調整を行うために必要な書類には、どのようなものがあるのでしょうか。実務上で重要となる必要書類について、以下に解説します。
扶養控除等(異動)申告書
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書は、全ての年末調整の対象者が提出しなければならない書類です。この書類では、扶養控除・障害者控除・勤労学生控除・寡婦控除・ひとり親控除の申告ができます。
全てのケースで共通となる記入項目は氏名・生年月日・住所・マイナンバー・配偶者の有無であり、各種控除の条件に当てはまる場合には、該当箇所にチェックを入れて提出しましょう。
また、提出した記載内容にその年の途中で異動が生じた場合には、異動の日から最初に給与支払いを受ける日の前日までに、異動申告書を提出する必要があります。
基礎控除申告書
給与所得者の基礎控除申告書は、給与所得者の配偶者控除等申告書・所得金額調整控除申告書がまとめられた書類であり、基礎控除・配偶者控除・配偶者特別控除・所得金額調整控除の申告が可能です。
基礎控除は年間の合計所得金額が2500万円以下の人が対象となり、適用を受けるためには必ず提出しなければなりません。
また、配偶者控除・配偶者特別控除など、その他の控除を受けたい場合には、扶養控除等(異動)申告書で源泉控除対象配偶者にチェックするだけではなく、この申告書も記入して提出しなければならないため注意が必要です。
保険料控除申告書
保険料控除申告書では、社会保険料控除・小規模企業共済等掛金控除・生命保険料控除・地震保険料控除の申告ができます。また、提出の際は申告書だけではなく、証明書も必要です。
基本的には、証明書は保険会社などが発行し、その年の10月頃に自宅に郵送されます。また、証明書は電子データ添付も認められているので、勤務先が電子提出に対応していれば電子データでの送付も可能です。
住宅借入金等特別控除申告書
住宅借入金等特別控除申告書は、住宅借入金等特別控除を受けるために必要となります。住宅を購入した最初の年は確定申告をしなければなりませんが、2年目以降は控除の対象者へ税務署から申告書が郵送されるため、年末調整での申告が可能です。
記入の際は、借入先の金融機関が発行した「住宅取得資金にかかる借入金の年末残高等証明書」を参照し、申告書の説明に従いましょう。また、2箇所以上から借入がある場合には、全ての年末残高等証明書に基づいた金額を記入し、控除額を計算する必要があります。
年末調整のやり方は?全体スケジュール
企業の総務部などのタスクである年末調整とは、どのようなスケジュールで何を行えばよいのでしょうか。具体的な工程について、以下に解説します。
【11月】必要書類を準備する
年末調整に向けた動きは11月頃からスタートします。まずは、対象者に年末調整の案内を行い、必要な書類を配布しましょう。
全員が提出する扶養控除等(異動)申告書をはじめ、基礎控除申告書・保険料控除申告書・住宅借入金等特別控除申告書といった書類も、漏れなく配布し、必要事項を記入してもらい回収しましょう。
また、その年の途中に入社した従業員の前職分の源泉徴収票についても、年末調整までに回収が必要です。これには、新入社員が就職前に働いていたアルバイト先から受け取った源泉徴収票も含まれます。入社時に回収していない場合には、併せて回収しましょう。
従業員から各種書類を回収したら、入力内容に不備やミスがないかをチェックします。内容に不備があった場合は、従業員に修正・再提出を依頼しましょう。
【12月】所得控除の計算
12月頃には、所得控除の計算を行います。従業員から回収した書類を参考に、一人ひとりの源泉徴収額と本来の所得税額を計算しましょう。
給与計算ソフトなどを導入すれば自動で計算してくれますが、手動で行う場合の所得控除の計算手順は以下の通りです。
年間の給与総額・天引きした社会保険料・源泉徴収税額の計算
まずは、1年間に支給した給与・賞与・手当の合計額を計算します。ただし、通勤手当は1か月あたり15万円まで非課税となるため手当には含まれません。また、年末までの給与・賞与額が確定していない場合には、その時点で支給された給与・賞与の金額を元に見積額を算出します。
さらに、給与などから天引きした社会保険料・源泉徴収税額も漏れなく計算しましょう。
給与総額から給与所得額を算出
ステップ1で求めた給与総額から給与所得額を算出します。給与所得額の計算で使用する給与所得控除の金額は、国税庁が公開している速算表に基づいて割り出しましょう。給与所得額の計算式は以下の通りです。
「給与所得額 = 給与総額 - 給与所得控除」
また、給与総額が660万円未満の場合は「年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」からも給与所得額を求められます。さらに、その年の給与総額が850万円を超えており、かつ特定の条件を満たす場合には、所得金額調整控除の計算も必要です。対象となるケースでは、上記で計算した給与所得額からさらに所得金額調整控除額を引きます。
[参照:国税庁「No.1410 給与所得控除」]
[参照:国税庁「令和6年分の年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」]
所得控除額の計算
次に、所得控除額の合計値を計算します。ここでの所得控除額に該当する値は、年末調整で適用できる所得控除のうち、所得金額調整控除・住宅借入金等特別控除を除いたものです。従業員ごとに適用される控除は異なるので、提出された申告書・証明書に基づいて計算します。また、ステップ1で算出した社会保険料は社会保険料控除に合算しましょう。
課税給与所得金額の計算
所得控除額を計算したら、課税対象となる給与所得金額を計算します。計算式は以下の通りであり、1,000円未満は切り捨てです。
「課税給与所得金額 = ステップ2の給与所得額 - ステップ3の所得控除額」年調所得税額の計算
ステップ4で求めた課税給与所得金額を元に、算出所得税額を算出しましょう。計算に必要な所得税率・控除額は国税庁が公開している「所得税率の速算表」から導き出します。また、計算式は以下の通りです。
「算出所得税額 = ステップ4の課税給与所得金額 × 所得税率 - 控除額」
もし、住宅借入金等特別控除がある場合には、算出所得税額からさらに引き、以下のように算出された数字が年調所得税額となります。
「年調所得税額 = 算出所得税額 - 住宅借入金等特別控除」
年調年税額の計算
ステップ5で算出した年調所得税額に、復興特別所得税を上乗せしたものが年調年税額となります。復興特別所得税とは、東日本大震災の復興を目的として作られた税制度です。2013年から2037年までの間、所得税額に応じて上乗せされ、所得税と一緒に納めます。年調年税額の計算式は以下の通りであり、100円未満は切り捨てです。
「年調年税額 = ステップ5の年調所得税額 × 102.1%」
源泉徴収額と年調年税額との差額を計算
算出した年調年税額と、源泉徴収税額との差額を計算しましょう。求めた差額は12月の給与計算に追加し、従業員に対して不足分の追加徴収、または過払い分の還付を行います。
以上で、所得控除の計算は終わりです。
所得控除の計算を済んだら、従業員ごとに源泉徴収票を作成します。源泉徴収票は税務署への提出用と、従業員への交付用・市区町村へ提出する給与支払報告書(個人別明細書)の2種類があり、従業員用は12月の給与を支払う際に併せて交付しましょう。
[参照:国税庁「No.2260 所得税の税率」]
【1月】法定調書を作成・提出する
年末調整の計算が終了したら、法定調書の作成・提出をします。提出が必要な書類は支払調書・法定調書合計表・源泉徴収票・給与支払報告書の4つです。これらの書類は、年末調整を行った翌年の1月31日までに提出しなければなりません。
また、翌年1月10日までに所得税徴収高計算書(納付書)の提出と、源泉徴収税の納付をする必要もあります。ただし、納期の特例事業者となる個人事業主などでは、1月20日が納付期限となります。
年末調整の提出を忘れた場合のリスク
年末調整の提出を怠った場合には、どのようなリスクがあるのでしょうか。具体的なペナルティについて、以下に解説します。
正しく納税できない
年末調整を行わないと、正しい納税ができなくなります。
多くの場合では、会社があらかじめ天引きしている源泉徴収税は、本来の所得税よりも高いことが多いでしょう。つまり、過払い分の所得税が還付されないため、従業員は払い過ぎた金額を損してしまいます。
控除が受けられない
年末調整では、各種申告書を元にさまざまな控除を適用するため、提出を忘れると本来支払うべき所得税よりも高い税金が徴収されてしまうでしょう。
さらに、翌年6月からの住民税は前年の課税所得を元に計算されるため、本来納めるべき額よりも高い税額が課されてしまいます。
確定申告が必要になる
年末調整の提出を忘れた場合には、本来する必要のなかった確定申告を個人で行わなければなりません。自分で給与・控除額などの集計をしなければならず、大きな手間がかかるでしょう。
なお、給与所得者であっても、副業がある場合や確定申告でしか適用できない控除を申告する場合には、個別で確定申告を行う必要があります。
▷年末調整をしないとどうなる?デメリットや対処法・簡単に済ませる方法を解説
スムーズに年末調整をするポイント
年末調整をスムーズに行うには、どのようなポイントに気を付ければよいのでしょうか。実務で役立つノウハウについて、以下に解説します。
手続きの申告を電子化する
年末調整を手軽に効率化する方法として、手続きの申告の電子化が挙げられます。
ただし、電子化にあたっては専用ソフトの導入が必要です。国税庁が無償で提供している「年調ソフト」に加えて、民間企業が提供・販売しているソフトが多数ありますので、自社の状況に応じて、どの製品を導入すべきか検討しましょう。
外部サービスの導入を検討する
自社で年末調整を行うことに慣れていない場合には、外部サービスを利用するという手段もあります。
年末調整業務を請け負う代行会社へのアウトソーシングや、会計ソフトを導入すれば担当者の業務負担を大きく軽減できるでしょう。年末調整業務のために新たな人材を雇用するよりは、外部サービスを利用した方がコストを抑えられるケースが多いでしょう。
▷【2024年最新】年末調整ソフトおすすめ12選|選び方や無料製品を紹介
年末調整の効率化におすすめの会計ソフト
最後に、効率的な年末調整を実現するための、おすすめの会計ソフトを紹介します。
マネーフォワードクラウド年末調整
マネーフォワードクラウド年末調整は、年末調整業務を全てクラウド上で完結できる会計ソフトです。
アンケートビューで質問に答えるだけで簡単に入力作業を終えられるうえ、わかりにくい文言には解説ページが用意されており、経験の浅い従業員でも理解しやすい点が特徴です。
また、年末調整業務単体で利用できるソフトであるため、他の会計ソフトを利用している場合でも気軽に導入できます。さらに、メールアドレスがない従業員にもID・Passを発行し、クラウド上で書類を回収することも可能です。
提供元 | 株式会社マネーフォワード |
初期費用 | 要問い合わせ |
料金プラン | ※基本料金+従量課金+オプション料金の合計額 ■個人向け(基本料金)
■法人向け(50人以下/基本料金)
■法人向け(51人以上):要問い合わせ |
機能・特徴 | アンケートビューで入力作業が完了/管理画面でのステータス管理/年末調整業務単体で利用可能/分かりにくい文言の解説ページ付き/メールアドレスのない従業員にも対応可能 |
URL | 公式サイト |
SmartHR
SmartHRは人事・労務業務からタレントマネジメントまでカバーできるソフトです。
ペーパーレスで年末調整ができる機能が魅力的であり、アンケート形式で入力を完了させられます。また、スマートフォン向けアプリと連動すれば、スムーズに書類の回収作業を進められる点も大きな強みです。
管理者側の操作画面もシンプルな設計であり、ステータスをひと目で確認できます。さらに、サポートコンテンツも充実しているため、導入・運用中の不安やトラブルも素早く解決できるでしょう。
提供元 | 株式会社SmartHR |
初期費用 | 無料 |
料金プラン |
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導入実績 | シリーズ全体の登録社数60,000社以上(※2024年10月時点) |
機能・特徴 | アンケート形式で入力作業が完了/ステータスを確認しやすい操作画面/スマートフォン向けアプリ対応/充実のサポートコンテンツ |
URL | 公式サイト |
ジョブカン労務HR
ジョブカン労務HRは従業員情報を一元管理し、社会保険・労働保険の手続きにも流用できる多機能なソフトです。
もちろん、年末調整にも対応しており、アンケート形式でデータを収集し、自動で書類を作成してくれます。また、前年の年末調整データとの連携機能を活用すれば、前年と変更のない情報を再度入力する必要がありません。
さらに、CSVファイルのアップロードもできるため、別のシステムや紙で収集した給与情報・団体保険のデータの素早い取り込みにも対応できます。
提供元 | 株式会社DONUTS |
初期費用 | 無料 |
料金プラン | ■中・小規模企業向け
※月額最低利用料金2,200円(税込) ■大規模企業(500名目安):要問い合わせ |
導入実績 | シリーズ累計導入実績25万社(※2024年10月時点) |
機能・特徴 | アンケート形式で入力作業が完了/前年年末調整データとの連携/CSVアップロードに対応/ジョブカンシリーズ連携 |
URL | 公式サイト |
年末調整とは所得税の過不足を精算する手続き
年末調整は、所得税の過不足を精算するための重要な手続きです。
年末調整を行わなければ正しい納税ができず、本来なら受けられた控除が無効になるなどの実害が生じる以上、毎年的確に処理する必要があるでしょう。
また、年末調整は電子申告も可能となっており、近年では正確でスムーズな申告をサポートする会計ソフトも充実しています。当記事で紹介したソフトなどを活用しながら、年末調整に抜かりなく対応しましょう。
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