年末調整で前職の源泉徴収票が必要なケース|提出できない時の対処法や見方
1年間の収入や納付税額が記載されている「源泉徴収票」。確定申告の際などに提出を求められますが、転職時に前職の源泉徴収票が必要になるのはどのような場合なのでしょうか。本記事では、年末調整で前職の源泉徴収票が必要なケースについて、提出できない時の対処法と併せて解説します。
目次
源泉徴収票とは?
源泉徴収票とは、1年間の給与収入や控除額、源泉徴収して納付された所得税額などを記載した書類です。
源泉徴収とは、給与支給時に所得税などをあらかじめ天引きし、会社が従業員に代わって納税する仕組みです。ただし、毎月天引きされる税額は想定の収入に基づくものであり、支払った税額と実際の給与額に基づく税額との間にずれが生じることが一般的です。
そのため、年間の収入が確定する年末に、正確な税額を再計算するために「年末調整」が行われています。この年末調整を行うにあたり、計算に必要な正しい給与額などを知るために源泉徴収票が必要となるのです。
源泉徴収票は雇用形態を問わず発行され、年間の所得を証明する重要な書類として確定申告などにも使用されます。
なお、源泉徴収票には「給与所得の源泉徴収票」と「退職所得の源泉徴収票」の2種類があります。
給与所得の源泉徴収票
給与所得の源泉徴収票は給与所得者に対して発行されるもので、会社は毎年1月末までに前年分の源泉徴収票を発行するのが一般的です。
この源泉徴収票には前年の給与所得や控除額、源泉徴収された所得税額などが記載されています。年末調整後の金額が反映されており、従業員が納めた正確な所得税が記載されているのが特徴です。
退職所得の源泉徴収票
退職所得の源泉徴収票は、退職金を受け取る際に発行されるもので、退職金の支給額や退職所得控除額、源泉徴収された所得税額が記載されています。
退職所得は一度きりの収入であるため、給与とは異なる特別な控除が用意されており、給与所得よりも税負担が軽減されるようになっています。退職所得の源泉徴収票には、源泉徴収された所得税や住民税が記載されているため、給与所得の源泉徴収票とは別に大切に保管しておかなければなりません。
▷年末調整とは?やり方や対象者・必要書類、確定申告との違いをわかりやすく解説
源泉徴収票の見方
ここからは、4つのカテゴリーに分けて源泉徴収票の見方を解説します。
支払金額
源泉徴収票に記載される支払金額は、基本給や残業手当、賞与などをすべて含めた年間の給与所得の総額です。
ただし、社会保険料や所得控除が差し引かれる前の金額が記載されるため、実際の手取りとは異なる点に注意が必要です。
給与所得控除後の金額
給与所得控除とは、給与所得者の税負担を軽減するために定められている減税措置の一つです。
源泉徴収票では、支払金額から給与所得控除額を差し引いた金額が「給与所得控除後の金額」として記載されています。差し引かれる控除額は所得額によって異なり、具体的な金額は以下のとおりです。
収入金額 | 給与所得控除額 |
162万5,000円以下 | 55万円 |
162万5,000円超180万円以下 | 収入金額×40%-10万円 |
180万円超360万円以下 | 収入金額×30%+80,000円 |
360万円超660万円以下 | 収入金額×20%+44万円 |
660万円超850万円以下 | 収入金額×10%+110万円 |
850万円超 | 195万円(上限) |
[出典:国税庁「源泉徴収のしかた 令和6年版」]
所得控除の額の合計額
所得控除には、給与所得控除以外にもさまざまな種類があり、それらを合計した金額が「所得控除の額の合計額」として記載されています。
控除の具体例としては、社会保険料控除・生命保険料控除・配偶者控除・扶養控除などが挙げられ、概要や控除額は以下のとおりです。
控除の種類 | 概要 | 控除額 |
雑損控除 | 災害・盗難・横領などによる損害を受けた場合に適用される控除 | 以下のうち多いほうを適用
|
医療費控除 | 一定額以上の医療費を支払った場合に適用される控除 生計を同じくする配偶者やその他の親族の分も含めて申告できる | (支払った医療費-保険金などで補填される金額)-10万円 ※その年の所得金額が200万円未満の場合は所得金額×5% |
社会保険料控除 | 健康保険料や国民年金保険料などの社会保険料を支払った場合に適用される控除 生計を同じくする配偶者やその他の親族の分も含めて申告できる | 支払った保険料の合計額 |
小規模企業共済等掛金控除 | 小規模企業共済の掛金を支払った場合に適用される控除 | 支払った掛金の合計額 |
生命保険料控除 | 生命保険・介護医療保険・ 個人年金保険を支払った場合に適用される控除 | 規定の方法で算出した金額 (ただし最大12万円) |
地震保険料控除 | 地震保険料を支払った場合に適用される控除 | 規定の方法で算出した金額 (ただし最大5万円) |
寄附金控除 | ふるさと納税や認定NPO法人などに対して寄附をした場合に適用される控除 | 「寄附金支出合計額」か 「所得 ×40%」いずれか少ない方から2,000円を差し引いた額 |
障害者控除 | 納税者・控除対象配偶者・扶養親族が障害者である場合に適用される控除 | 1人につき
|
寡婦控除 | その年の12月31日時点で「ひとり親」に該当しない寡婦に適用される控除 ※寡夫控除は2020年度分より「ひとり親控除」に変更 | 27万円 |
ひとり親控除 | 納税者がひとり親である場合に適用される控除 ※ひとり親控除は2020年分の所得税から適用開始 | 35万円 |
勤労学生控除 | 通学しながら働いている学生に適用される控除 ※ただし、合計所得金額が75万円以下 | 27万円 |
配偶者控除 | 配偶者の合計所得が48万円以下の場合に適用される控除 (給与のみの場合は給与収入が103万円以下が対象) |
(控除対象配偶者のうち年齢がその年12月31日現在70歳以上) |
配偶者特別控除 | 以下を満たす場合に適用される控除
| 配偶者の所得金額によって 最大38万円 |
扶養控除 | 16歳以上の子どもや両親などを扶養している場合に適用される控除 |
|
基礎控除 | 所得金額以外の制限なく、すべての人に適用される控除 | 所得金額に応じて最大48万円 |
[出典:国税庁「No.1100 所得控除のあらまし」]
源泉徴収税額
源泉徴収税額は、給与支給時にあらかじめ天引きされた所得税額の合計が記載されています。
源泉徴収額は、支払金額から控除額を差し引いた課税所得に基づいて計算されますが、最終的な調整は年末に行われます。所得税は収入に応じた税率で算出され、その際に用いられるのが以下の「所得税率の速算表」です。
課税対象の所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円〜194万9,000円 | 5% | 0円 |
195万円〜329万9,000円 | 10% | 97,500円 |
330万円〜694万9,000円 | 20% | 42万7,500円 |
695万円〜899万9,000円 | 23% | 63万6,000円 |
900万円〜1799万9,000円 | 33% | 153万6,000円 |
1800万円〜3999万9,000円 | 40% | 279万6,000円 |
4000万円以上 | 45% | 479万6,000円 |
[出典:国税庁「No.2260 所得税の税率」]
アルバイトや年の途中で退職した人の源泉徴収票とは?
アルバイトやパートタイマー、あるいは年の途中で退職した人にも、勤務先から源泉徴収票が発行されます。
この源泉徴収票にも、収入や天引きされた所得税額、各種控除額などが記載されています。項目自体は一般的な正社員と同様ですが、会社で年末調整が行われなかった場合は「給与所得控除後の額」と「所得控除の額の合計」が空欄で発行されます。
複数箇所でアルバイトしている場合や年の途中で退職した場合は、その会社で把握できる給与と源泉徴収税額しか記載できず、正確な税額や控除額を計算できないためです。
▷年末調整の還付金とは?支払日はいつ?受け取り方法や平均額・対象者について
年末調整で前職の源泉徴収票が必要なケース
退職後に再就職をしており、12月末時点で就業している場合は、年末調整を行うために前職の源泉徴収票が必要になります。
現在の職場で年末調整が行われる際に、前職の収入や所得税額の情報が必要になるため、前職の源泉徴収票の提出が求められるのです。
前職の源泉徴収票がないと年末調整で正確な税額が計算できず、納税額の過不足が生じる可能性があるため、注意が必要です。
年末調整で源泉徴収票の提出を忘れた場合のリスク
ここでは、年末調整で源泉徴収票の提出を忘れた場合に発生する2つのリスクについて解説します。
年末調整をしてもらえない
源泉徴収票の提出を忘れると、そもそも年末調整をしてもらえない可能性があります。源泉徴収票がないと、年末調整に必要な計算ができないためです。
年末調整の計算には、その年のすべての収入と税額が必要なため、それらが記載された源泉徴収票が必要不可欠です。複数箇所でアルバイトをしている場合や、年の途中で転職している場合など、勤務先が一つでない場合は、全体の収入を把握できないと年末調整自体が行えません。
ただし、年末調整を行えない場合でも、従業員自ら確定申告を行って自身で税額を計算・調整すれば、正しい税額を納めることが可能です。
還付金がもらえない
源泉徴収票を提出し忘れて年末調整をしてもらえなかった場合、税金の還付を受けられない可能性があります。
還付金とは、本来納めるべき税額より多く収めている場合に返還される分を指します。納めた額と本来の額の差額を明確にするためには、源泉徴収票に基づいて再計算を行う必要があるのです。
源泉徴収票を提出し忘れると、税金を過剰に支払っていたとしても、還付金を受け取れないことがあるため注意しましょう。
▷年末調整をしないとどうなる?デメリットや対処法・簡単に済ませる方法を解説
年末調整で前職の源泉徴収票が提出できない時の対処法
何らかの理由で前職の源泉徴収票を提出できない場合でも、正しい税額を納めるための対処方法があります。ここからは、ケース別に4つの対処方法を解説します。
源泉徴収票をもらう前に会社が倒産した場合
前職の会社が倒産してしまい、源泉徴収票を受け取れない場合は、税務署でその年の収入証明を取得できます。
税務署に前職の会社が倒産してしまっている旨を伝えて相談することで、会社側から提出されている「給与支払報告書」の控えを基に収入証明を発行してもらえるのです。
収入証明が源泉徴収票の代わりになるため、これに基づいて計算することで年末調整や確定申告を行うことができます。
退職した会社が発行してくれない場合
退職後に何らかの理由で前職の会社が源泉徴収票を発行してくれない場合は、前職の総務部や経理などの担当部署に問い合わせてみましょう。元上司など、相談する相手を間違えている可能性があるためです。
それでも対応してもらえない場合は、最寄りの税務署に相談する必要があります。税務署には会社から提出されている「給与支払報告書」があるため、源泉徴収票に代わる収入証明を発行してもらえるのです。
源泉徴収票を紛失した場合
万が一、受け取った源泉徴収票を紛失してしまった場合は、前職の会社に再発行してもらえないか問い合わせましょう。ほとんどの場合、会社にはデータが残されているため、再発行に応じてくれる可能性があります。
ただし、時間がかかる場合もあるため、紛失に気付いたら可能な限り早めに依頼することが重要です。
何らかの理由で前職の会社に再発行してもらえなかった場合は、税務署に相談して収入証明の発行を依頼しましょう。
源泉徴収票の発行が間に合わない場合
退職時期によっては、前職の会社からの源泉徴収票の発行が年末調整に間に合わないケースもあります。
年末調整を行う時点で提出が間に合わない場合は、後日確定申告で調整する方法があります。確定申告であれば前職の給与支払報告書のコピーなども有効なため、イレギュラーな状況にも十分に対応可能です。
ただし、確定申告は年末調整に比べると手間がかかることは理解しておく必要があります。
年末調整における源泉徴収票の重要性を理解しよう
源泉徴収票は、年末調整において正確な税額計算を行う際に必要不可欠な重要書類です。転職や掛け持ちなどの理由で複数箇所から給与所得がある場合などは、前職の源泉徴収票を提出できないと現職での年末調整が行えない可能性があるため注意が必要です。源泉徴収票がない場合は、税務署で収入証明を取得するなどの代替手段を検討しましょう。
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