発生主義とは?現金主義・実現主義との違いや関係性・メリットとデメリット
発生主義は、取引が発生した時点で収益を計上する方法です。ほかにも現金主義・実現主義があり、経理担当者はそれぞれの違いを理解する必要がありますが、よくわからないという人も多いのではないでしょうか。本記事では、発生主義の概要やメリットと、現金主義・実現主義との違いを解説します。
目次
発生主義とは?
発生主義は経理の取り扱い基準の一つであり、取引が発生した時点で収益を計上する手法です。
具体的には、商品を販売した時やサービスを提供した際に、売上が発生したと認識する前提のもと、その取引が発生した時点で収益を計上します。一方で支払いが発生した場合も、実際に現金が出て行く前に経費として計上することが特徴です。
発生主義は、現金の流れとは独立して経営の実態を時系列に沿って明確に捉えることができるため、多くの企業で採用されています。現金主義や実現主義とは異なる考え方であり、適切な経理処理にはそれぞれの特徴や適用状況を理解することが不可欠です。
発生主義と現金主義・実現主義の違いと関係性
発生主義と現金主義・実現主義は、考え方や取り扱いには顕著な違いがあります。それぞれの特性と関係性を明確に探ることで、経理の理解がより深まるでしょう。
ここからは、現金主義・実現主義の概要や考え方を紹介します。
現金主義とは
現金主義は、収益や費用を実際に受け取ったり支払われたりした時点で計上する方法です。例えば、商品の売上が発生した場合、現金が実際に入ってきた時点で売上を計上し、経費の場合は現金が実際に支払われた時点で計上します。
発生主義とは対照的で、現金の動きを直接的に反映した経理処理です。現金主義は、小規模なビジネスやキャッシュフローの管理が主要な場面で採用されることが多いです。
実際の現金の流れと連動しているため、キャッシュフローの可視化が容易であり、経営の現状を直感的に把握できます。しかし、一部の取引においては経営実態を時系列的に正確に把握するのが難しくなる場合もあります。
実現主義とは
実現主義は、収益や費用が実際に確定した時点で計上する考え方です。商品の販売やサービスの提供が確定し、対価が確実に受け取れると確信できる段階で収益を計上します。
取引の成果が確定することを重視しており、発生主義や現金主義と比較すると、計上のタイミングが遅れるケースがあることが特徴です。特に、取引の条件が複雑であり、収益の確定が一目瞭然でない場合に向いているでしょう。
発生主義のメリット
ここからは、発生主義のメリットを2つ紹介します。
収支・財務状況をスムーズに確認できる
発生主義を採用する最大のメリットは、収支や財務状況を時系列に応じてスムーズに確認できる点です。取引が発生した時点で計上するため、実際の取引の流れを直接的に反映できます。
これにより、特定の期間内での収入と支出、及び利益や損失の状況を明確に把握することが可能です。また、財務状況に関しても、発生主義に基づく財務諸表は、現在および将来のキャッシュフローや資本構成を理解するうえでの鍵となります。
具体的な数字をもとに、経営戦略の策定や投資判断の際の有力な情報源として活用できます。
納税の金額を予測しやすい
発生主義のもう一つのメリットは、納税の金額を効率的に予測することが容易になる点です。
収益や費用が取引が発生した時点で計上されるため、特定の会計期間中の課税所得を正確に計算できます。そのため、予想される税金の額をあらかじめ把握し、適切な税務対策や資金計画を立てることが可能です。
また、税務署からの調査を受けた際も、発生主義による明確な記録があることで、税務処理の正確性や適切性を容易に説明できるでしょう。
納税の予測や計画性が高まることは、企業の財務安定性を保つうえでの大きな強みとなり、予期せぬ税負担によるキャッシュフローの乱れを防ぐ助けとなります。
発生主義のデメリット
発生主義には多くのメリットがありますが、一方でデメリットも考慮する必要があります。
主なデメリットとして、実際の金銭のやり取りまでタイムラグがあるため、時価変動の影響を受けやすいことや、お金の流れを正確に把握しにくい点があげられます。また、発生主義を採用することで生じる経理処理は、専門的な知識を要求されることが多いです。
そのため、中小企業や個人事業主にとっては、経理処理の複雑さが増す可能性があります。これらの点を総合的に評価し、経営環境や業種に応じて、適切な経理基準の選択が求められます。
発生主義が適用されるシーン
ここからは、発生主義が適用されるシーンを具体的に見ていきましょう。
減価償却をするとき
減価償却とは、機械設備や車両など時間の経過とともに価値が減少する固定資産の費用を複数年に分割して計上する方法です。基本的には使用した期間を基準として、費用を分割して計上します。
たとえば、耐用年数が5年の機械設備を購入した場合は、購入価格の5分の1を毎年分割して減価償却費として扱い、5年にわたって計上して減価償却を行います。
減価償却の対象となる資産の法定耐用年数は国税庁ホームページで公表されているため、事前に確認して正しい計上を行いましょう。
引当金を計上するとき
将来の損失や経費に備えて予め計上する金額を引当金といいます。
引当金の計上は、企業の財務状態をより正確に反映させ、透明性を高める役割を果たします。リスク管理や未来に向けた戦略策定にも大きく寄与するため、適切な計上を心がけましょう。
発生主義と現金主義の仕訳方法の違いについて
発生主義と現金主義は、仕訳方法が大きく異なります。
ここからは、「9月に15万円分の商品を仕入れて10月に代金を現金で支払い、掛け取引で同じ商品を20万円で売却し、11月に代金が振込入金された」場合を例に、それぞれの仕訳方法を紹介します。
発生主義の仕訳例
発生主義の仕訳では、現金の受取や支払いの実際の動きよりも、取引の発生を基準にして仕訳が行われます。
【9月】
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
仕入高 | 150,000 | 買掛金 | 150,000 |
【10月】
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
買掛金 | 150,000 | 現金 | 150,000 |
売掛金 | 200,000 | 売上 | 200,000 |
【11月】
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
普通預金 | 200,000 | 売掛金 | 200,000 |
現金主義の仕訳例
現金主義の仕訳では、現金の実際の流れに基づいて取引を計上します。実際の現金の動きと連動しているため、仕訳はシンプルで直感的です。
【9月】
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
仕入高 | 150,000 | 現金 | 150,000 |
【10月】
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
普通預金 | 200,000 | 売上 | 200,000 |
新収益認識基準について
新収益認識基準は、売上をどのように認識して財務諸表などにどのように反映させるかを定めた新しい基準です。企業の収益認識に関する方法やタイミングを標準化し、国際的な取引の透明性と比較可能性を高めることを目的としています。
従来の収益認識基準は実現主義で収益認識をしていましたが、新基準では売り手側が義務を果たした際に収益を認識するルールに統一されます。
統一化によって、多くの産業や企業で収益認識のタイミングや方法に影響を与える可能性があり、経営者や会計担当者は新基準の適用による影響を十分に理解し、適切な対応を行わなければなりません。
新収益認識基準が導入される背景
新収益基準の導入背景には、国際的なビジネスの増加とともに生じる会計の不一致や複雑性を解消するという強い要望がありました。
従来の会計基準は、地域や国ごとに異なる解釈や適用が存在し、国際的な取引や投資の際の情報の比較や評価が困難でした。特に、収益認識に関するルールは多岐にわたり、企業や産業によって大きな違いが見られていたのです。
これに対し、新収益認識基準はIFRS(国際会計基準)の考えに則って収益認識の方法を統一し、透明性を高めることを目的としています。新収益認識基準は、2021年4月以降の事業年度か新たに適用されることとなりました。
発生主義・現金主義・実現主義の違いを理解し会計処理を適切に行おう
発生主義、現金主義、実現主義は、それぞれ異なる会計の取り扱い基準を持っており、経営実態や目的に応じて適切に選択する必要があります。
発生主義は取引が発生した時点での経済的な出来事を計上し、現金主義は現金の実際の流れに基づいて計上、実現主義は収益や費用が確定した時点で計上します。それぞれの基準には特有のメリットとデメリットがあるため、経営者や会計担当者は違いを十分に理解して適切な会計処理を行うようにしましょう。
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