地方創生にSDGsが重要?関係や役立つ理由・取り組み事例を解説
東京都への人口集中を避けるため、地方創生と呼ばれる政策が生まれました。その地方創生を効果的に進める要素として、注目されているのがSDGsです。本記事では、地方創生においてSDGsがなぜ重要なのかを、両者の関係や取り組み事例をまじえて解説します。
目次
SDGsと地方創生について
最初に、SDGsと地方創生の言葉の意味を確認していきましょう。
SDGsとは?
SDGsとは、持続可能でよりよい社会を目指す国際目標です。2015年の国連サミットで採択されました。SDGsでは17のゴールを掲げており、大きく経済・社会・環境の3つに分類されています。
「経済」では持続可能な経済成長を目指し、エネルギーや資源の活用、労働環境の改善、男女格差の是正などがテーマです。
「社会」では、貧困・飢饉の解決、教育の普及といった社会課題に取り組みます。そして最後の「環境」は、国家間の協力のもと、自然保護や気候変動への対策を取っていくものです。
現在、我が国では官民一体となってSDGsに取り組んでおり、SDGsへの認知度が高まっています。SDGsへの取り組みは企業イメージの向上にもつながるため、多くの企業がさまざまな形でSDGsに取り組んでいる状況です。
地方創生とは?
地方創生とは、日本の各地域が自分たちに合った独自の方法で、持続可能な社会を目指す取り組みのことです。
現在、我が国では人口減少と高齢化が進行しており、経済活動や社会活動が困難になりつつある地域が増加しています。このような地域では働き口が減ってしまうため、若者が都会に流れ込み、ますます過疎化が進んでしまう可能性があるのです。
2040年までには、896の市町村が行政機能を維持できない「消滅可能性都市」になると言われています。そこで、政府は問題を打開するために、「活力ある地域社会」を目指して「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定しました。この戦略における目標は以下のとおりです。
【基本目標】
- 稼ぐ地域をつくるとともに、安心して働けるようにする
- 地方とのつながりを築き、地方への新しいひとの流れをつくる
- 結婚・出産・子育ての希望をかなえる
- ひとが集う、安心して暮らすことができる魅力的な地域をつくる
【横断的な目標】
- 多様な人材の活躍を推進する
- 新しい時代の流れを力にする
[出典:内閣官房・内閣府総合サイト「まち・ひと・しごと創生「長期ビジョン」「総合戦略」「基本方針」]
地域社会の活性化は、都市部にも恩恵があります。地方移住にメリットがあれば、都市部からの移住者が増えてくるからです。結果として、都市圏の人口過密問題の解決にもつながります。
地域活性によって地方への移住者が増えていけば、交通機関の混雑、ゴミや排ガスによる環境問題、土地価格の高騰による物価上昇といったように、都市部が抱えていた問題の緩和が期待できるでしょう。
このように、地域創生は地域社会に活力をつけて、誰もが住みやすい便利な社会を実現し、日本全体の成長をもたらす取り組みです。
SDGsと地方創生の関係
地方創生とSDGsは、密接な関係があります。
SDGsの方針は、「誰も漏れることなく」「限られた資源を有効活用して」「持続可能なよりよい社会を実現する」といったものです。これは、労働人口問題を打開しようとする地方創生と方向性が似ています。
実際、SDGsが目標とする17のゴールの中には、地方創生に関係あるものが数多くあります。特に親和性が高いのは、ゴール11の「住み続けられるまちづくりを」です。
この目標では、地域社会を発展させることで、女性や子ども、お年寄り、障がい者など、多様な人々が快適に生活できる環境を目指します。また、都市部と地域が、経済的・社会的・環境的につながり合うことで、格差の是正を図るものです。
そのほかにも、以下の目標は地方創生の目指す方向に近い目標といえます。
・目標3.すべての人に健康と福祉を:
どのような人々でも、健康に過ごし、医療機関を利用できる環境を用意する
・目標5.ジェンダー平等を実現しよう:
男女格差を是正し、均等に活躍の機会を用意する
・目標8.働きがいも経済成長も:
労働環境改善や経済成長を目指す
・目標9.産業と技術革新の基盤を作ろう:
事業を創出、新技術の開発を目指す
・目標10.人や国の不平等をなくそう:
雇用を創出し、貧困格差を是正する
このように、SDGsの掲げる目標の多くは、地方創生においても重要なものになっています。そのため、SDGsへの取り組みと地方創生は、相互によい影響を与えられるものといえるのです。
地方創生にSDGsが重要な理由
ここからは、地方創生にSDGsが重要とされる理由をポイントごとに解説していきます。
SDGsと地方創生の相性が良い
SDGsと地方創生は、目指すものや方針が近いことから親和性が高い取り組みです。SDGsでは、限りある資源を活かした持続可能な社会づくりを目標にしています。これは、地方創生の考え方に近しいものといえるでしょう。
SDGsと地方創生の目標が類似しているため、組み合わせて進めることで相乗効果が期待できます。現在、我が国では官民一体となってSDGsに取り組んでいます。この協力体制を地方創生にも活かせれば、官民の連携がスムーズになっていくでしょう。
地方の活性化につながる
SDGsの場合、環境保全や差別撤廃などに関する取り組みがクローズアップされる傾向にありますが、地方の活性化に向けた取り組みも存在します。
たとえば「目標11:住み続けられるまちづくり」への取り組みは、弱い立場の人々でも住みやすい社会の実現を目指すものです。ほかにも、「目標5:ジェンダー平等を実現しよう」「目標8:働きがいも経済成長も」といった目標に向けた取り組みは、皆が活躍できる快適な労働環境づくりにつながります。
このように、SDGs関連の取り組みが地方活性化につながるケースも少なくありません。
各方面と利害関係を結びやすい
SDGsは、世界共通の問題に対する取り組みです。そのため、普段は関わりのない公共団体や民間企業であっても、SDGsを通じて協力関係を築ける可能性があります。
たとえば、SDGsで連携している企業と行政が、地方創生へ向けた取り組みでも同様に連携することは難しくありません。なぜなら、SDGsと地方創生の目指す方向は類似しているからです。
地方創生のためにゼロから協力関係を築いていくのは困難ですが、SDGsの取り組みがすでに地域に根ざしていれば、SDGsでのネットワークを地方創生へ活用できます。
政府による地方創生SDGsの後押し
政府は、SDGsを原動力とした地方創生を「地方創生SDGs」と呼び、積極的に推進しています。
政府の取り組みとしてまず挙げられるのが、「SDGs未来都市・自治体SDGsモデル事業」です。これは、自治体によるSDGsの達成に向けて、優れた取り組みを提案する都市を「SDGs未来都市」、先導的な取り組みを「自治体SDGsモデル事業」として選定するものです。政府はこれらの取り組みを支援し、成功事例の普及展開を他の都市へ試みています。
「官民連携プラットフォーム」の設置も、地方創生SDGsの取り組みのひとつです。本プラットフォームでは、会員が主催するイベントの普及促進、会員同士のマッチング支援、課題検討や知見共有を目的とした分科会の開催などが実施されています。
さらに、SDGs推進に関わる事業に民間資金を充当し、SDGs地方創生を加速させる好循環を生み出せるよう、政府は金融フレームワークを示しています。
そこでは、地方創生SDGs金融を実現するために、地域事業者、地方公共団体、地域金融機関、機関投資家、大手銀行、証券会社などが連携する3つのフェーズが提案されました。
- SDGsのための事業内容の見える化
- 事業者と地域金融機関との連携促進
- 地域金融機関、機関投資家、大手銀行、証券会社などの連携促進
このような政府の後押しを活用することで、効果的な地方創生が図れるでしょう。
日本が取り組んでいる地方創生SDGs
ここでは、日本が実際に取り組んでいる地方創生SDGsを確認していきましょう。
環境モデル都市
低炭素社会の実現に向けた先駆的な取り組みをしている都市の中から優れたものを、政府は「環境モデル都市」として選定しています。
現在、全国で23都市が選定されており、施策の集中投入が行われている状況です。環境モデル都市の目的は、「低炭素社会への転換」と「地域活力の創出」にあります。具体的な目標は以下のとおりです。
【低炭素社会への転換】
- ライフスタイルの変革
- ビジネススタイルの変革
- 都市・交通の変革
- 地域資源の活用
【地域活力の創出】
- 生活の質向上
- 新規ビジネス創出
- 経済成長
- 地域間交流の促進
- 地域コミュニティ復活
環境モデル都市では社会の仕組みを根本から変革し、他の都市へ普及展開できるモデルを生み出すことが期待されています。
環境未来都市
環境未来都市は、環境問題と少子高齢化に対応し、環境・社会・経済の3つの側面から、新しい価値創造を目指す都市のことです。平成23年度の時点で、11の都市が選定されています。
政府は環境未来都市への積極的な支援を表明しており、関連予算の集中、規制・制度・税制改革などの支援が実施される予定です。環境未来都市では、国内外と経験を共有することで知のネットワークを構築し、都市で実践した結果を他地域に展開することが期待されています。
SDGs未来都市
SDGs未来都市とは、SDGs達成に向けた取り組みを積極的に進めている自治体の中で、内閣府が「SDGs未来都市」として認定した都市のことです。経済・社会・環境の3つの側面から新たな価値を創造し、SDGs都市としての先例になることが期待されています。
また、SDGs未来都市の中で、特に先導的な事業を実施し、自律的な好循環形成が期待できるものを「自治体SDGsモデル事業」と認定し、総額2.5億円の支援をおこなっています。2021年度の段階で、124のSDGs未来都市、40の自治体SDGsモデル事業が選出されている状況です。
地方創生SDGsの取り組み事例
ここからは、地方創生SDGsの事例を5つ紹介します。
愛知県犬山市の事例
愛知県犬山市にあるシルバー人材センターでは、ミニトマトの栽培によって農業の再生と雇用の創出を目指しています。
同市では人口減少にともない、耕作者の高齢化と担い手不足という問題に直面していました。また、耕作放棄地は県平均11.7%を上回る、14.3%となっていました。この問題への対策として考え出されたのが、アイメック農法を利用したミニトマトの栽培です。
アイメック農法とは、メビオール株式会社が開発した特殊なフィルムを使って栽培する方法です。高度な知識を必要とする土壌の制御が不要となるため、誰でもできる農法として注目されています。
そのほかにも、場所を選ばない、環境にやさしい、高品質な作物が栽培できる点がメリットです。このアイメック農法を通じて、高品質なミニトマトを朝市や学校給食、直売所へ提供し、市場での販路開拓や事業収入増加を目指しています。
栃木県宇都宮市の事例
栃木県宇都宮市は、人口減少、少子超高齢化社会に備えて、未来都市実現のための取り組みを進めています。
注目すべきなのは、同市が独自に設置した「宇都宮市SDGs人づくりプラットフォーム」です。これは、SDGsに取り組んでいる地域の企業・NPO・教育機関などが協力・連携し、SDGsの理解や認知度を広げるために設けられました。
本プラットフォームの会員になることで、自分たちの団体の取り組みを宣伝したり、会員同士の交流によって新たな協力体制が築けたりすることが可能です。
同市は2030年までに、誰にとっても便利で安心して暮らせる「スーパースマートシティ」の実現を目指しています。
山梨県南部町の事例
山梨県南部町では、バイオマスを活用した「公民連携木質バイオマスガス化事業」に取り組んでいます。
バイオマスとは、消費しても再生可能な資源のことです。石油や石炭などは、地中に埋まった動植物の死がいなどが何億年もかけて変化したものであるため、限りある資源といえます。
一方、バイオマスエネルギーは、廃棄物や植物など再生の早い資源を原料とするため、持続的な利用が可能です。南部町では適切な間伐で得た木質バイオマス資源を利用して、発電を試みる予定です。
発電した電気は、株式会社東京電力パワーグリッド社に買い取ってもらいます。また、発電工程で発生した熱は、地域の温水プールや木質チップの乾燥に利用されます。
南部町バイオマス発電所は、2021年5月に完成しました。この取り組みにより、雇用の創出、エネルギー自給率の向上、二酸化炭素の排出抑制などの効果が期待されています。
鹿児島県大崎町の事例
鹿児島県大崎町では、リサイクル率12年連続日本一という強みを活かして、循環型地域経営モデルを推進しています。
大崎町のリサイクルシステムは「大崎システム」と呼ばれており、住民・企業・行政それぞれが協力した結果、埋立ごみの80%以上の削減に成功しました。
このリサイクルの取り組みによる大きなメリットは、処分コストの削減と、リサイクル資源売却による増益です。大崎町が得た利益は、子どもたちの教育奨学金へ活用しています。
また、リサイクルセンターでは、この取り組みを通じて約40人の雇用創出が実現しました。大崎町の地域経営モデルは海外からも注目を集めており、海外での指導・実証にも注力している状況です。
岡山県真庭市の事例
岡山県真庭市では、バイオマスを利用した地方分散型の地域モデルに取り組んでいます。具体的には、木質バイオマスによる発電の推進事業です。
また、農業へのバイオマス利用にも注力しています。2014年にはモデルプラントを設立し、市内で出た生ごみ・し尿・浄化槽汚泥を田畑で利用する「バイオ液肥」を生成しました。生成過程で発生したバイオガスは、発電に利用可能です。
ほかにも、地域米である里海米(さとうみまい)のブランド化や販路開拓にも取り組んでいます。里海米は瀬戸内海の牡蠣殻を肥料に使っているお米で、里山里海資源循環農業の一環として栽培が推進されている状況です。
SDGsの取り組みは地方創生の手助けとなる
地方創生を実施するうえで、SDGsの取り組みは大きな助けになります。理由は大きく分けて2つです。
1つ目は、地方創生とSDGsは、目指すゴールや方向性が類似している点です。SDGsの「すべての人にとって持続可能でよりよい社会の形成」という目標は、地方創生が目指すところと同じであるため、双方に取り組むことで相乗効果が期待できるでしょう。
2つ目は、SDGsの取り組みで生まれた支援体制やネットワークは、地方創生へと転用可能であるという点です。すでにSDGsで連携を取っている団体同士であれば、効率的かつ効果的な地方創生が図れるでしょう。
SDGsと地方創生の関係性を理解したうえで、活動地域の活性化を進めていきましょう。
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