働き方改革による36協定の変更点とは?時間外労働の上限規制や罰則について
働き方改革により改正された36協定。従業員の労働時間に関する重要な協定のため、使用者と労働者双方にとって変更点の確認は必須です。本記事では、36協定の主な変更点を3つ解説します。あわせて、罰則や企業が取るべき対応などについても紹介していきます。
目次
36協定とは?
36(サブロク)協定とは、企業に所属する従業員の労働時間を策定した協定で、「1日8時間、週40時間」という法律によって決められた勤務時間を超過する場合に労働基準監督署へ申請するものです。
36協定を締結する際には、企業と従業員の双方が合意する必要があります。
「時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)」締結の際は、その都度、当該事業場に①労働者の過半数で組織する労働組合(過半数組合)がある場合はその労働組合、②過半数組合がない場合は労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)と、書面による協定をしなければなりません。
[引用:厚生労働省パンフレットより]
時間外労働や休日労働をさせない場合は、36協定の締結は必要ありません。ただし、36協定を締結しておかないと、突発的なトラブルの対応や繁忙期などによる業務量の増加などに対応できなくなるおそれがあります。
そのため、従業員に時間外労働を行わせることができるように、事前に36協定を結んでおいた方がよいケースもあります。ちなみに、2019年時点での36協定の締結割合は、日本労働組合総連合会(連合)の調査では60%程度となっています。
[出典:連合「「36協定」「日本の社会」に関する調査2019」]
これまでの36協定
これまでも、36協定で定める時間外労働については、厚⽣労働⼤臣の告示によって、月45時間、年360時間、週1日は休みを取得するという勤務時間・日数の上限基準が定められていました。ただし、あくまでも告示であり法的強制力はありませんでした。
これに違反した場合は、行政による指導はあるものの法的な罰則などはなかったので、多くの企業で特別条項の適用により無制限の残業が横行していました。業界によっては過剰な労働を従業員に強いていた企業も存在していたことなどを受け、法改正による「新36協定」の運用が順次始まりました。
働き方改革による36協定の変更点
新しい36協定の内容は、これまでの36協定で法の抜け道となっていた問題点を解消するために3つの変更点が加わりました。
- 時間外労働の上限規制を設定
- 新しい届出様式の導入
- 健康確保措置の追加
以上の内容を順番に解説していきます。
働き方改革による36協定の変更点1:時間外労働の上限規制
1つ目の変更点は「時間外労働の上限規制」を設けるというものです。原則は、「月45時間・年360時間」が時間外労働の上限です。
今までは目安時間の提示のみで拘束力が弱かったものが、罰則を設けることで強制力を持つようになりました。
ただし、臨時的な事情があり、月45時間・年360時間の上限を超えて労働をさせたい場合、月100時間未満、年間720時間まで労働者に残業をさせることが可能となります。この場合、かならず労使の合意が必要となります。
臨時的なケースでの上限規制は次の通りです。
- 時間外労働が年720時間以内
- 時間外労働と休⽇労働の合計が⽉100時間未満
- 時間外労働が⽉45時間を超えることができるのは、年6ヶ⽉が限度
- 時間外労働と休⽇労働の合計について、2~6ヶ月の平均が全て1ヶ月当たり80時間以内
[出典:厚生労働省「時間外労働の上限規制」]
上限規制が猶予される事業と除外される業務
ただし、上限規制を設けてもすぐに適用することが難しいとされている事業については、2024年3月31日まで猶予期間が設けられています。
該当する事業・業務は次の通りです。
<業種>
- 建設業(2024年4月以降は、災害の復旧・復興の事業を除き、すべての上限規制が適用されます)
- 自動車運転者(2024年4月以降は、特別条項付き36協定を締結することで時間外労働の上限が年960時間になります)
- 医療に従事する医師(2024年4月以降の時間外労働の上限規制は、原則年960時間/月100時間未満[休日労働含む]になります。ただし例外あり)
- 鹿児島・沖縄の砂糖製造業(2024年4月以降は、上限規制がすべて適用されます)
<業務内容>
専門的、科学的な知見を用いた新しい技術の開発や新製品の開発など、専門性の高い職種については特殊な業務であるとみなされ、免除対象とされています。
ただし、時間外労働が100時間を超えた場合、医師の面接指導が義務付けられています。企業は、定期的な検診・面談で体調を崩さないようサポートしていく必要があります。
上限規制に違反した場合の罰則について
上限規制を超えて従業員に労働させた場合、労働基準法32条の違反として、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されるおそれがあります。
違反者は企業はもちろん、管理者も対象になります。部長・工場長・所長などの労務責任者の監督不行き届きとして、刑事罰を受けることになります。
また、書類送検されると企業名も公表されるため、企業イメージにも影響を与えます。取引先との関係性に影響が出たり、採用活動の際に不利に働く可能性があります。
働き方改革による36協定の変更点2:新しい届出様式の導入
2つ目の変更点は、2021年4月1日から36協定の届出様式が新しくなったという点です。具体的に変わったのは次の点です。
- 「一般条項」「特別条項」における様式の変更
- 押印・署名の廃止
- 36協定の代表者に関するチェックボックスの新設
届出様式の変更
36協定についての届出様式は、全部で以下の7つがあります。
- 様式第9号(時間外労働・休日労働に関する協定届:一般条項)
- 様式第9号の2(時間外労働・休日労働に関する協定届:特別条項)
- 様式第9号の3(時間外労働・休日労働に関する協定届:新技術・新商品等の研究開発業務)
- 様式第9号の4(時間外労働・休日労働に関する協定届:適用猶予期間中における、適用猶予事業・業務。自動車運転者、建設業、医師等)
- 様式第9号の5(時間外労働・休日労働に関する協定届:適用猶予期間中における、適用猶予事業・業務において、事業場外労働のみなし労働時間に係る協定の内容を36協定に付記して届出する場合)
- 様式第9号の6(時間外労働・休日労働に関する労使委員会の決議届)
- 様式第9号の7(時間外労働・休日労働に関する労働時間等設定改善委員会の決議届)
以前は1つの様式にまとめられていたのですが、改定後は一般条項と特別条項つきで様式が変わりました。一般条項は「様式第9号」、特別条項つきは「様式第9号の2」を使用するように定められています。
一般条項の場合
一般条項の場合、「様式第9号」を使用します。以前の様式と異なるのは下記4点です。
- 労働保険番号と法人番号が記載事項へ
- 1年間の上限規制の「起算日」の記載(対象期間の特定)が必要
- 時間外労働の上限規制の確認チェックが必要
- 時間外労働の具体的な事由の記載が必要
いずれも、これまで曖昧にしてきた事由をはっきりさせることが目的です。具体的に記載させることで、大幅な強制残業をさせないための抑止力にも繋がります。
特別条項ありの場合
特別条項がある場合の様式は「様式第9号の2」を使用します。あくまでも臨時の際の措置なので、あらかじめ予測できるような事象には適用されません。こちらに関しても以前のものよりも記載事項が増えています。
- 「限度時間を超えて労働させる必要がある場合」の理由が必要
- 限度時間を超えた労働に係る割増賃金率の記入
- 労働者の健康および福祉を確保するための措置が必要
- 時間外労働の上限規制の確認チェックが必要
署名・押印について
2021年4月から、労働基準監督署に届ける36協定への使用者の署名・押印が不要になりました。テレワークなどの推進も相まって、ペーパーレスに移行していることが背景にあります。
署名・押印にかける時間や手間を省けるようになったおかげで、手早く作成することができるようになりました。
労働者代表の確認について
同様に新様式から、労働者の代表について確認を行うチェックボックスが新設されました。名ばかり代表ではなく、きちんと当事者意識をもって自発的に立候補しているのかを確かめる意図があります。
企業に指名されている人物ではないということを、証明するためのものになります。
[出典:厚生労働省パンフレット]
働き方改革による36協定の変更点3:健康確保措置の追加
3つ目の変更点は健康確保措置の追加です。限度時間を超えて労働させる場合は、具体的な「健康確保措置」を盛り込み、労使協定を締結します。
労働者の勤務時間を規制するだけではなく、健康的に働き続けてもらうために企業が体制を整える必要があります。
働き方改革により新しくなった36協定で企業が対応すべきこと
新たな36協定において、企業がおさえるポイントは大きくわけて3つあります。少しでも働きやすい環境を作るためには、従業員の健康面にも企業が責任を持つことが重要となります。
適切な勤怠管理の整備
1つ目は、勤怠管理をきちんと行うことです。残業時間を把握することは生産性の高さをチェックしたり、過重労働をさせている部署や職種の発見と是正に繋がります。
残業時間の確認だけではなく、労働者の健康を維持するためにも必ず行いましょう。特に、テレワークなどの新しい働き方が普及している昨今にあっては、適切な勤怠管理が機能していない職場もあるかもしれません。
そうした職場では、勤怠管理システムなどのITツールを導入するなど、正しい管理が行える仕組み作りに着手しましょう。
休息時間の確保
2つ目のポイントは休憩時間の確保です。法定の休息では労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩をとることが必要とされていますが、これはあくまでも最低レベルの休息時間になります。
集中力を保つためには1時間に1回の休憩をとったり、座りっぱなしのデスクワークの場合は定期的に席を立って歩いたりストレッチを行うことが推奨されています。
いくら休息時間を確保していても、仕事のことを考えなければならない状況では意味がありません。十分な休息と同時に、メリハリの利いた働き方が可能となるような職場環境の整備やルール作りが大切です。
労働者の健康への配慮
企業が特別条項を適用する場合、下記10個の項目について任意に選択した項目の番号と、その概要を36協定に記入する必要があります。
- 労働時間が一定時間を超えた労働者に医師による面接指導を実施する
- 労働基準法第37条第4項に規定する時刻の間において労働させる回数を1ヶ月に一定回数以内とする
- 開始から終業までに一定時間以上の継続した休息時間を確保する
- 代替休日または特別な休暇を付与する
- 健康診断を実施する
- 年次有給休暇について連休含めて取得を促進する
- 心と身体の健康問題についての相談窓口を設置する
- 労働者の勤務状況や健康状態によっては、適切な部署に配置転換をする
- 産業医等による助言・指導を受け、または労働者に産業医等による保険指導を受けさせる
- その他
36協定を遵守して長時間労働が発生しないよう対策していこう
新しくなった36協定は、労働者と企業がよりよい関係を築きながら、健康的に働ける職場作りを目指す内容となっています。
36協定の内容を遵守することで、健康を維持しながら、高い生産性で業務にのぞむことができます。また、働きやすい職場は既存社員の定着を促すと同時に、採用活動においても優位に働きます。
本記事で解説してきた36協定の3つの変更点をよく理解し、時間外労働の上限規制を守りながら、より働きやすい職場作りに努めましょう。
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