ABWとは?フリーアドレスとの違いやメリット・デメリット・導入事例を解説
ABWは社員が自由に時間や場所を選んで自律的に働くことができる仕組みです。働き方の多様化に伴い注目が集まるABWですが、どのような導入メリットがあるのでしょうか。本記事では、ABWのメリットやデメリットなどを詳しく解説し、導入方法や具体的な事例なども合わせて紹介します。
目次
ABWとは?
ABWとは「Activity Based Working」の頭文字を取った言葉で、社員が業務内容や気分に合わせて、働く場所を自由に選択できる働き方を指します。
例えば、複数人でミーティングをする際は会議室や共有スペースで仕事をすることが可能です。また、一人で作業をする際は静かなオフィス内の個室はもちろん、自宅やカフェ・コワーキングスペースなどで集中して仕事ができる働き方です。
このようにABWを採用することで、仕事の特性や社員の価値観に合わせてフレキシブルに場所を変えて働けるようになります。
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ABWとフリーアドレスの違い
ABWに似た意味を持つ働き方に「フリーアドレス」があります。それぞれ似た意味を持ちますが、考え方が異なります。
ABWは業務内容に合わせて、オフィスだけでなく自宅やコワーキングスペースなど働く場所を自由に選択可能です。
一方で、フリーアドレスは固定の席を設定せず、オフィス内であればどの席を利用しても良いといった働き方を指します。
フリーアドレスにおけるワーキングエリアは社内に限られます。一方でABWは自宅や外部のワーキングスペースも含まれることから、より自由度が高い働き方を実現できるといえるでしょう。
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ABWの導入メリット
次にABWを導入することのメリットについて、下記5点を解説します。
- コスト削減
- 生産性の向上
- 優秀な人材の確保
- ワークライフバランスの推進
- 従業員のモチベーションアップ
コスト削減
ABWを導入すると自宅やカフェでも働くことができ、全社員分の席を用意する必要がなくなるので、オフィスを縮小できるようになります。
デスクやチェアをはじめオフィス家具や備品など、仕事ができる環境を整えるのはコストがかかります。また、家賃も大きな支出の一つとなるので、オフィスが広ければそれだけコストが増加することになります。
ABWを導入することで、それらのコストの削減効果が期待できます。
生産性の向上
ABWを導入することで、社員はその日の気分や仕事内容に合わせて働く環境や時間を選択できるようになります。柔軟に働く環境を変えられるため、常に最適な環境で集中して働くことができるので生産性の向上にもつなげられるのです。
例えば、集中してアイデアを発想したい場合には静かな個室、複数人で議論しながら企画をまとめたい時にはミーティングルームを使うといったように選択可能です。
他にも、通勤時間の削減などにより時間やストレスを軽減できるので、フレッシュな状態で業務に集中できるようになり、アウトプットの品質向上にもつながります。
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優秀な人材の確保
ABWを導入していることは、世間からのイメージアップにもつながります。企業イメージが良いと優秀な人材が集まりやすくなり、採用力を高められるようになります。
近年、働き方が多様化し、遠隔地から働きたい人や自宅で働きたい人などが増加しています。そうした人材にとって、ABWを導入して柔軟な働き方を可能にしている企業は魅力的でしょう。また、働きやすい職場を作ることができれば、既存社員の流出防止にも役立ちます。
労働力人口の減少を受けて、多くの企業が人手不足の課題に直面している中でより自律的な働き方を可能にするABWを導入すれば、多様な人材の確保に貢献するでしょう。
ワークライフバランスの推進
ABWを導入すると、オフィスだけでなく自宅やカフェ、サテライトオフィスなどで仕事ができます。通勤時間や移動時間を削減できるため、自由な時間が増えてワークライフバランスの推進につながります。
ワークライフバランスが充実することで、仕事と家庭を両立できるようになったり、自己研鑽の時間を確保できるようになったりします。
結果として、心身の健康やスキルアップにつながり、社員の生産性向上が期待できます。そうした効果は、長期的に見れば会社の売上や利益の増大につながるでしょう。
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従業員のモチベーションアップ
ABWを導入すると、業務内容に合った環境や業務量に応じた労働時間で働けるようになります。
繁閑の差に応じて働き方を変えたり、気分や仕事内容に応じて最適な環境で集中して働けるので、社員にとってより快適な働き方が可能になります。
そのため、会社や業務への満足度が上がり、仕事へのやる気もアップすることが期待できます。
ABWの導入デメリット
ここまでABWを導入するメリットを解説しましたが、デメリットもあります。主なデメリットは次の4点です。
- 労務管理の複雑化
- セキュリティリスク
- ABWの形骸化
- 初期投資によるコスト増加
労務管理の複雑化
ABWを導入すると、時間や場所にとらわれない柔軟な働き方が可能になります。
一方で、勤怠管理や人事評価などの労務管理は複雑化し、不正や公平な評価が難しくなるケースもあり、社員から不満の声が出る可能性があります。
適切な労務管理をするためにも、ABW導入前に評価や勤怠管理に関するルールを定めることが大切です。また労務管理システムを活用して、管理を効率化する方法もあります。
セキュリティリスク
ABWを導入すると、オフィス以外での作業時間が増えるためセキュリティリスクが高まります。
例えば、カフェで仕事をする際に他人に画面を覗かれて情報を盗まれたりする可能性があります。またセキュリティリスクの高い無料Wi-Fiを利用して、情報が抜き取られるリスクも考えられるでしょう。
さらに、ノートパソコンや社用のスマートフォンを置き忘れたり、盗まれたりすることで情報が流出する危険性も否定できません。
そのため、セキュリティに関するルールを明確化し、対策を万全に行う必要があります。社員に対して研修を行うなど、セキュリティ意識を高めるための働きかけも重要になるでしょう。
ABWの形骸化
ABWを導入しても、形骸化して結局いつも同じメンバーが同じ席で働くといったことも考えられます。座席が固定化されると、例えばその席に座りたいと考えている人がいても使えないため、ABWのメリットが十分生かせなくなるのです。
ABWが形骸化しないためにも、制度の導入目的を明確化しましょう。その上で「目的を達成するためにはどうするべきか」といったことを考えて、仕組みづくりを行う必要があります。
コミュニケーション促進のため、ワークライフバランス向上のため、生産性向上のためなど、ABWの導入目的を社員に共有することで、座席やメンバーの固定化を防ぎましょう。
初期投資によるコスト増加
ABWを導入するためには、チャットツールやビデオ会議ツール、クラウドシステムなど、リモートでも働ける環境を整えなければいけません。これらのツール・システムは導入・運用費用がかかり、コストが増加してしまいます。
しかし、オフィス家賃が削減されたり、紙資料の管理コストが削減されたりするため、長期的に見るとコストは削減されるでしょう。
初期費用のことだけを考えるのではなく、長期的な費用対効果なども加味しながらABWの導入を検討する必要があります。
ABWの導入方法
次に、ABWの導入方法を解説します。一般的には次の6ステップで導入を進めていきます。
- 導入目的の明確化
- オフィスの現状調査
- レイアウトの検討
- 社内制度の見直し
- ツールの導入
- セキュリティ対策
導入目的の明確化
最初に「何のためにABWを導入するのか」といった目的を明確にすることが大切です。目的が明確でない場合、ABWの導入自体が目的化してしまい適切に運用できなくなってしまうのです。
例えば、ABWを導入する目的には「社員のワークライフバランスを実現するため」や「社員が自律的に働けるようにするため」などが考えられます。目的は組織ごとに異なるので、自社が抱えている課題を抽出した上で目的を設定しましょう。
なお、企業によっては検討段階でABWを導入する必要がないと判断されるケースもあります。その場合はABWに執着せず、他の方法を検討しましょう。
オフィスの現状調査
社員にインタビューしたり、アンケートに回答してもらったりして、「今のオフィスが働きやすいか」「不満や課題はないか」などを聞き出しましょう。
新しい仕組みを導入する際には、現場で働く社員のニーズや要望を取り入れることが重要です。そして、オフィスの現状調査の結果をもとに、ABWの制度やルールを整備していきます。
レイアウトの検討
次にABWを導入しやすいオフィスのレイアウトを検討します。仕事の特性や社員の気分によって、最適な業務スペースを選べるように設計する必要があります。
例えば、ABWを導入するには大人数でミーティングができるスペースや、一人で静かな環境で作業できるスペースなどを設ける必要があるでしょう。
ただし、ABWを導入した企業で働いたことがない人ばかりだと、効果的なレイアウトを検討するのは難しいかもしれません。デスクの位置だけでなく、配線や動線なども検討する必要があるからです。
レイアウトを検討する際は、経験者または専門家の力を借りる必要があります。
社内制度の見直し
ABWを導入する前には、社内制度の見直しを行いましょう。ABWを導入すると働き方が大きく変わります。働き方が変わったものの、社内制度はそのままといった状態では適切に運用するのが難しくなるでしょう。
例えば、人事評価や勤怠管理などの制度は特に見直す必要があります。また、来客対応や電話応対などのルールも再検討しましょう。
ツールの導入
ABWを導入することは、遠隔地からでも仕事ができる状態にするということです。そのため、オフィス以外でも仕事ができるように各種ツールを導入することが必要です。例えば、チャットツールやビデオ会議ツール、クラウドシステムなどがあります。
ツールの導入は初期費用がかかりますが、長期的に見るとコスト削減にもつながります。しかし、機能性ばかりを重視するとコストが増大し、想定していたほどの費用対効果が得られない可能性もあるでしょう。自社に必要な機能を見極め、できるだけコストを抑える意識を持つことも大切です。
セキュリティ対策
ABWを導入するにあたって、セキュリティ対策を万全にする必要があります。オフィス以外で仕事をすると、情報漏洩やサイバー攻撃などのリスクが高まるのです。
ABWを導入する前に、情報の取り扱いルールを明確化して社員教育を実施しましょう。
情報が流出・漏洩した場合に、企業や個人にどのような影響が出るかについても周知しておくと万が一のリスク防止につながります。
またオフィス以外でのパソコンやスマートフォンの管理方法、クラウドなどを使ったデータの共有方法、Wi-Fiの取り扱いなど、さまざまな視点からセキュリティ対策を講じることが重要です。
情報漏洩や流出などは企業に大きなダメージを与える可能性があるので、ABWの導入に際しては運用ルールの明確化と共有、社員のセキュリティ意識の向上がポイントになります。
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ABWの導入に向いている職種とは?
ここまでABWの概要やメリット・デメリット、導入方法などを解説しましたが、すべての業界・職種で導入が適しているわけではありません。
ABWを導入しやすいのは、営業職やコンサルタントなどオフィスの使用頻度が多く、かつ出入りが激しい職種です。繁閑や業務内容に合わせて席を変えられるABWの利点を生かしやすい職種といえるでしょう。
一方で、エンジニアや事務職などはABWの導入に向いていない職種です。業務内容がある程度固定されていたり書類が必要になったりするため、各自デスクを持っている方が働きやすくなります。
ABWが向いている業界・職種かどうかをしっかり判断し、向いていない場合にはデスクを固定するのが良いでしょう。
ABWの導入事例
最後に、ABWを導入して成果をあげている企業の事例を3つ紹介します。
- アストラゼネカ株式会社
- アイリスオーヤマ株式会社
- 西部ガスリビング株式会社
アストラゼネカ株式会社
アストラゼネカは、イギリス・ケンブリッジに本社を置き、世界100か国以上に拠点を持つ製薬会社です。
同社は会議室が少なく、部門ごとのコミュニケーションが少ないことを課題としていました。また、エレベーターの稼働効率が悪いことから従業員の生産性も低下していました。
そのような状況で、オープンスペースの開設や在宅勤務など柔軟な働き方を導入しました。また、オフィスも9フロアから3フロアに集約しました。その結果、部門間のコミュニケーションが増え、遅刻する従業員も減少するなど、生産性や従業員の満足度向上などを実現しました。
アイリスオーヤマ株式会社
アイリスオーヤマは、家具・家電、インテリア用品などを企画・製造・販売する会社です。同社は従業員が気分に合わせて働く環境を変えられるように、以下の7つのエリアを用意しました。
- ウインドウフロントエリア
- ウェルエリア
- エキスパートエリア
- チームワークエリア
- タッチダウンエリア
- ソファエリア
- リラックスワークエリア
また、上記7つのエリアとは別に各社員専用のロッカーも用意しているため、防犯対策も万全です。さらに、高めのテーブルも設置しており、スタンディングでの作業・ミーティングもできます。
さまざまな働き方が可能になるレイアウトによって、コミュニケーションの活発化によるイノベーションの促進などにつながったといいます。
西部ガスリビング株式会社
西部ガスリビングはリフォームやマンションの管理、ホームセキュリティなどを提供する会社です。
同社は社員の意見をもとにオフィスの移転プロジェクトを実施しました。さまざまな場所に共用スペースや商談スペースを設けて、活発なコミュニケーションを取れるようにしました。また、ゴミ箱は一箇所にまとめてスペースを確保しています。
さらに、オフィスの中には個人ブースも設置して、静かな環境で集中して作業ができるようになっています。
ABWを導入して生産性を高められる環境を構築しよう
本記事では、ABWの概要やメリット・デメリット、導入事例などを解説しました。
ABWは働く時間や場所を自由に選択できる新しい働き方です。適切に運用できれば、社員の生産性を高められ、ワークライフバランスの向上も期待できます。
ぜひ本記事を参考にしてABWの導入を検討し、社員や組織のパフォーマンスを向上させられる職場環境を構築しましょう。
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