働き方改革関連法とは?概要や改正点・重要ポイントをわかりやすく解説

最終更新日時:2022/07/29

働き方改革

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多くの企業で働き方改革の取り組みが進められていますが、改正された関連法は多岐にわたるためすべてを理解している人は少ないかもしれません。そこで本記事では、働き方改革関連法の概要や改正されたポイントについて解説します。また、その対応策や具体的な事例も紹介しています。

働き方改革とは?

働き方改革とは、2019年に厚生労働省が発表した定義によると、「働く方々が、個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で「選択」できるようにするための改革」となっています。

一人ひとりが自由に働ける社会を実現するためには、長時間労働の是正・労働力不足解消・雇用形態を問わない公正な待遇の確保など、解決すべき課題が多くあります。

法的拘束力を持たせて民間企業の組織改革を促すため、2019年4月から働き方改革関連法が順次施行されました。

[出典:厚生労働省「働き方改革~ 一億総活躍社会の実現に向けて ~」]

働き方改革関連法の概要

働き方改革推進に向け整備された法律は、以下の通りです。

  • 働き方改革の総合的かつ継続的な推進(雇用対策法)
  • 長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現(労働基準法・労働安全衛生法・労働時間等設定改善法)
  • 雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保(パートタイム労働法・労働契約法・労働者派遣法)

一つひとつ内容をみていきましょう。

[出典:厚生労働省「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号)の概要」]

(1)働き方改革の総合的かつ継続的な推進

働き方改革は一人ひとりが自由な働き方を選択できる環境を整備し、働きやすい社会を実現することが目的です。自由な働き方を実現するためには、長時間労働・労働力不足・雇用形態での待遇格差など、様々な課題をクリアしないといけません。

2019年4月から施行されている働き方改革に関する内容を基本方針と定め、各企業は継続的に実施していくことを求められています。

(2)長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現

主に以下の3点が改正ポイントとなります。

  • 労働時間に関する制度の見直し
  • 勤務間インターバル制度の普及促進
  • 産業医・産業保健機能の強化

労働基準法や労働安全衛生法の改正によって、時間外労働の上限が明確化されました。また有給休暇の取得義務や高度プロフェッショナル制度の創設など、労働者が働きやすい環境の整備も進められています。

さらに、労働者が仕事とプライベートを両立できるように一定の休息を設けるための制度や、従業員の健康・安全管理に対する取り組みについて、企業に強化を促す法改正も行われました。

(3)雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保

正社員と有期雇用契約者の間で、雇用形態だけを理由にした労働条件の格差を無くそうとする制度です。そもそも2013年4月から施行されている改正労働契約法によって、賃金・業務内容・福利厚生などにおいて、正社員と有期雇用契約者間で理不尽な待遇格差の発生を禁じています。

今回の法改正によって、有期雇用契約者と正社員間における労働条件均等化に関する就業規則への明記を義務化しました。さらに、賃金や業務内容など、いずれかの条件における労使間協定での締結合意も同様に求めています。

ただし、正社員とパート・アルバイトでは業務内容が異なる場合があり、業務上の事情を考慮した上での労働条件の差に関しては認められています。従業員とのトラブルを避けるためにも、待遇に関する説明の場を設ける必要も出てくるでしょう。

また、法的なトラブルに発展した場合に備え、第三者を巻き込みトラブル解決を図る行政ADRの整備も求めています。中立的な立場にいる第三者が関与し、仲裁や調停で解決を図る手法です。

改正された11のポイントと施行時期の解説

働き方改革関連法によって改正された11のポイントを解説します。

  • 残業時間の上限規制
  • 勤務間インターバル制度の導入促進
  • 年5日の年次有給休暇の取得を企業に義務づけ
  • 月60時間を超える残業の割増賃金率の引き上げ
  • 労働時間の客観的な把握を企業に義務づけ
  • フレックスタイム制の拡充
  • 高度プロフェッショナル制度の創設
  • 産業医・産業保健機能の強化
  • 不合理な待遇差を解消するための規定の整備
  • 労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
  • 行政による履行確保措置及び裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備

一つひとつ内容をみていきましょう。

(1)残業時間の上限規制

労働基準法に基づき、フルタイム従業員の労働時間は1日8時間・週40時間と定められています。法改正によって36協定の締結・申請を行った場合でも、時間外労働の上限は月45時間・年360時間と明確に定められました。

36協定は時間外労働と休日労働に関する協定で、労使間での締結及び労働基準監督署へ申請をしていないと、フルタイム従業員に対し残業を命じることはできません。

特別条項を結ばずに上限以上の時間外労働を命じた場合、30万円以下の罰則または6ヶ月以下の懲役が科せられるおそれがあるので、注意しましょう。さらに、特別条項付き36協定を締結していたとしても、時間外労働の上限は年間720時間までです。

大規模なクレーム対応・機械トラブルのメンテナンス・決算業務など、明確な理由が無い限り、特別条項を適用できません。また、適用回数は年6ヶ月以内や1ヶ月の時間外労働は100時間未満など、特別条項には様々な適用条件が定められています。

<特別条項を設けた場合の内容>

  • 特別条項の適用は年6ヶ月まで
  • 予測不可能な業務量の大幅な増加時のみ適用
  • 時間外労働の上限は年間720時間
  • 時間外労働と休日労働の上限は月100時間未満
  • 2~6ヶ月単位での時間外労働と休日労働の平均は全て一月あたり80時間以内

ただし、建設業・自動車のドライバー業務・医師など、一部の業種に関しては2024年3月31日まで、上限規制が撤廃されています。

表:時間外労働の適用対象外の業種

事業や業務猶予期間中の扱い2024年4月1日からの変更点
建設事業規制適用対象外

  • 災害復旧事業を除き、上限規制を適用
  • 災害復旧事業の場合、1ヶ月での時間外労働+休日労働100時間未満が対象外
  • 災害復旧事業の場合、2~6ヶ月平均での時間外労働+休日労働が80時間以内が対象外
自動車運転業務

  • 特別条項を締結した場合、年間での上限は960時間
  • 1ヶ月での時間外労働+休日労働100時間未満が対象外
  • 2~6ヶ月平均での時間外労働+休日労働が80時間以内が対象外
  • 特別条項の適用回数年6回の制限撤廃
医師

  • 原則、年960時間/月100時間未満(例外あり)

※いずれも休日労働含む

鹿児島県及び沖縄県の砂糖製造業

  • 1ヶ月での時間外労働+休日労働100時間未満が対象外
  • 2~6ヶ月平均での時間外労働+休日労働が80時間以内が対象外

  • 上限規制を全て適用
新技術や新商品開発業務

  • 時間外労働の上限規制適用対象外
  • 一定水準以上の時間外労働を命じる場合、医師による面談指導や代替休暇の付与が必要

[出典:厚⽣労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「時間外労働の上限規制わかりやすい解説」]

[出典:厚生労働省「医師の時間外労働規制について」]

※施行日:⼤企業は2019年4月〜、中⼩企業は2020年4月〜

(2)勤務間インターバル制度の導入促進

勤務間インターバル制度は、前日の終業時刻から翌日の始業時刻まで一定の休息時間を確保するよう、企業側に求める制度です。業種や職種によって休息時間は8〜12時間と幅があり、判断は企業側に委ねられています。

勤務間インターバル制度の導入によって、ワークライフバランス改善・従業員の健康保護・離職防止など、様々なメリットが望めます。

本田技研工業・ユニチャーム・KDDIなど、大企業を中心に徐々に勤務間インターバル制度は導入されています。しかし、2020年に厚生労働省が行った調査によると、勤務間インターバルの導入率はわずか4.2%でした。中小企業への制度浸透には時間が必要です。

※施行日:2019年4月〜

[出典:厚生労働省「令和2年就労条件総合調査 労働時間制度 」]

[出典:厚生労働省「勤務間インターバル制度について」]

(3)年5日の年次有給休暇の取得を企業に義務づけ

年10日間有給休暇を付与される従業員を対象に、年5日以上の有給休暇取得を義務付けている制度です。対象は正社員だけでなく、パート・アルバイト・管理監督者なども含まれています。

年5日以上の有給取得を義務化した背景には、日本の有給取得率の低さがあります。エクスペディアが2020年に世界16ヶ国を対象に調査した「有給休暇の国際比較調査」によると、日本の有給取得率は60%でした。

これは過去11年の調査で最高の取得率でしたが、調査した16ヶ国中14位に終わっています。日本の有給休暇取得率は依然として低水準の状態が続いているため、状況を打破するために年5日の有給取得が義務付けられました。

5日間の有休取得を達成できない場合、従業員一人につき罰金30万円または懲役6ヶ月以下の罰則が科せられることがあります。労働基準監督署からの度重なる指導を受けても改善されない場合、企業名が公表されることになります。

公表されると「ブラック企業」のイメージを世間に与え、社会的信用の損失や企業イメージの悪化につながります。今後の経営が厳しい状況に追い込まれるため、早急な対処が重要です。

また、5日間の有休取得を確実に達成するため、GW・夏季休暇・年末年始に有給休暇を組み込み、全従業員を一斉に休ませる方法も一つの選択肢です。

※施行日:2019年4月〜

[出典:エクスペディア「有給休暇の国際比較調査」]

[出典:厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得わかりやすい解説」]

(4)月60時間を超える残業の割増賃金率の引き上げ

月60時間以上の時間外労働をこなしている従業員に対し、60時間を超過した分から割増率50%以上で割増賃金を算出するよう義務づける制度です。

既に大企業には適用されていた一方、中小企業も2023年4月1日から制度適用が決まりました。中小企業は大企業と比べると資金面で不安な点も多いため、長らく猶予期間が設けられていました。

しかし、長時間労働に伴う病気の発症や過労死が多発している背景もあり、中小企業へ残業削減に向けての業務体制や人員配置の見直しを求めています。

残業の割増率引き上げによって倍の手当を払わないといけなくなり、今までと同じように残業を命じていると、人件費がかさみます。

例えば、基礎賃金1,000円の従業員に70時間の時間外労働を命じたとしましょう。60時間までの残業代は割増率25%で算出するため、1,000×1.25×60=75,000円が手当となります。一方、残りの10時間は割増率50%を適用し、1,000×1.5×10=15,000円が割増賃金です。合計で90,000円となり、従来よりも2,500円負担が増します。

割増賃金の引き上げまで残り1年を切っているため(2022年7月時点)、早急な対応が必要です。また、50%の割増賃金を支払う代わりに、有給休暇を付与する代替休暇制度も利用できます。ただし、導入する場合は労使間協定での締結と就業規則への明記が必要です。

そして、割増賃金の受け取りと代替休暇の利用を選ぶ権利は、従業員側にあります。企業側が勝手な判断で決められません。

※施行日:⼤企業は適用済(2010年4月〜)、中⼩企業は2023年4月〜

[出典:厚生労働省「2023年4月1日から月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます」]

(5)労働時間の客観的な把握を企業に義務づけ

「裁量労働制」が適用されている労働者や「管理監督者」に対しても、正確な労働時間を把握するよう義務づけられました。裁量労働制は業務の成果が労働時間の長さと関連性が低く、業務遂行手段を従業員側に大きく委ねる職種に適用できる労働形態です。

デザイナー・ゲームクリエイター・コンサルタントなど、専門的なスキルや知識を使って、業務を進めていく職種に適用されています。裁量労働制は一定の労働時間を決め、実際に労働したか関係無く決めた時間分を働いたとみなす点が特徴です。

例えば、みなし労働時間を8時間と決めた場合、実働時間が10時間でも5時間でも8時間分働いたとカウントする仕組みです。労働時間の撤廃でオンとオフの切り替えを促せる一方、従業員が成果を求めすぎると長時間労働が慢性化し、体調を崩すリスクが高くなります。

一方、管理監督者は労働時間・休憩・休日など、一般的な従業員に適用される規制の対象外です。管理監督者は経営者と一体的な立場にあり、労務管理を評価できる立場にあります。

つまり、自分自身で労働時間をコントロールできるため、企業側から有給休暇の取得や割増賃金の支払いなどを受ける立場にありません。

しかし、法改正によって、「裁量労働制」で働いている人も「管理監督者」も正確な労務管理が求められる形になりました。具体的な方法としては、勤怠管理システムの導入です。出退勤時刻・有給休暇の取得状況・残業時間など、労務管理に関するデータを一元管理できます。

データ入力・集計・計算は勤怠管理システムに一任できるため、社員の業務負担軽減にもつながります。

※施行日:2019年4月〜

[出典:厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」]

(6)フレックスタイム制の拡充

フレックスタイムにおける清算期間が、最大3ヶ月まで延長できるようになりました。清算期間は労働時間を定める場合の期間を指します。フレックスタイム制は暦日数によって算出された法定労働時間を総労働時間と定め、超過した分を時間外労働とみなす労働形態です。

例えば、所定労働時間を1日8時間と定め、年間休日を125日設けていたとしましょう。月の平均所定労働時間数=(365-125)×8÷12=160時間です。所定労働時間数は月の暦日数によって変動し、1ヶ月が31日ある場合の法定労働時間は177.1時間となります。

従来は最大177.1時間の中で1日の労働時間を調整していました。今回の法改正で清算期間が3ヶ月に延長されたため、清算期間は最大で92日となり、法定労働時間は525.7時間となります。

従来よりもプライベートの時間確保や先のスケジュールを見据えた働き方が望めるといったメリットがある一方、一定期間に業務量が集中する懸念がありました。過重労働を防ぐため、以下2点のルール遵守が求められています。

  • 清算期間の総労働時間が平均週40時間以下
  • 1ヶ月の総労働時間が週平均50時間以下

繁忙期に業務量が一時的に増えたとしても、上記のルールによって過労死ラインに匹敵する長時間労働の発生を防いでいます。また、清算期間を3ヶ月に延長する場合、労使協定の申請と就業規則への明記が必要です。

表:清算期間が1ヶ月の労働時間

清算期間法定労働時間の総枠
28日160時間
29日165.7時間
30日171.4時間
31日177.1時間

表:清算期間が3ヶ月の場合

清算期間法定労働時間の総枠
89日508.5時間
90日514.2時間
91日520時間
92日525.7時間

※施行日:2019年4月〜

[出典:厚生労働省「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」]

(7)高度プロフェッショナル制度の創設

高度プロフェッショナル制度は年収1,075万円以上で、専門的な知識やノウハウを活用して業務を進めていく職種に適用される労働形態です。研究開発・ライター・アナリストなど、19の業務に適用が限定されています。

高度プロフェッショナル制度を導入した場合は、時間外・休日・深夜労働の管理対象から外れるため、割増賃金を支払う必要はありません。ただし、健康保護の観点から年間104日以上の休日確保に加え、勤務間インターバルや健康診断の実施を義務化しています。

※施行日:2019年4月〜

[出典:厚生労働省「⾼度プロフェッショナル制度わかりやすい解説」]

(8)産業医・産業保健機能の強化

長時間労働や職場の人間関係が原因でストレスが蓄積すると、体調不良を引き起こす可能性が高くなります。特に近年はメンタルヘルスの不調を訴える従業員も多く、重症に発展する前に対応することが重要です。

早期に対処するためには従業員の健康状態に関する情報提供やストレスチェックの実施など、産業医が活動しやすい環境を企業が整えないといけません。

職場巡視や健康相談など、従業員が産業医へ相談しやすい環境を作れると、体調不良に伴う休職や退職を未然に防げます。

※施行日:2019年4月〜

[出典:厚生労働省「働き方改革関連法により2019年4月1日から「産業医・産業保健機能」と「長時間労働者に対する面接指導等」が強化されます」]

(9)不合理な待遇差を解消するための規定の整備

正社員と有期雇用契約者の間で業務内容や労働時間が同じ場合、正社員と同等以上の待遇確保と就業規則への明記を求める制度です。2021年3月に総務省が行った調査では、会社員として働く有期雇用契約者は36.7%の割合を占めています。

企業にとって有期雇用契約者は正社員と同様、事業運営に欠かせない存在です。有期雇用契約者が安心して働ける環境を整えるため、企業側は待遇改善と職場環境の整備に努める必要があります。

※施行日

【パートタイム・有期雇用労働法】大企業は2020年4月〜、中小企業は2021年4月〜

【労働者派遣法】2020年4月〜

[出典:総務省「労働力調査(基本集計)2021年(令和3年)」]

[出典:厚生労働省「同一労働同一賃金ガイドライン」]

(10) 労働者に対する待遇に関する説明義務の強化

業務内容や責任範囲の観点から正社員と待遇に差を付けている場合、有期雇用契約者に向けて説明の場を設けなければなりません。合理的な理由が無く待遇に差を付けていた場合、裁判に発展する可能性があります。

また、派遣社員の採用を検討している場合、入社時に昇給・賞与・退職金の有無に関する説明を行う必要があります。また、派遣決定後は賃金や有給休暇の取得に関する説明も実施しましょう。

※施行日

【パートタイム・有期雇用労働法】大企業は2020年4月〜、中小企業は2021年4月〜

【労働者派遣法】2020年4月〜

(11) 行政による履行確保措置及び裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備

行政ADRを整備しておくと派遣社員や派遣元とトラブルが起きた際、都道府県労働局長や紛争調整委員会へ無料で仲介を依頼できます。調停内容が非公開で、プライバシーが保護される点も行政ADRの持つ魅力の一つです。

また、行政ADRの利用を理由にした、派遣社員に不利益が被る扱いは禁止されています。

表:派遣元と派遣先が対応すべき処置

派遣元派遣先
内容

  • 正社員と同等の待遇を用意し、雇用形態を理由にした差別的取扱いは禁止
  • 労使協定に基づき待遇を決定
  • 雇い入れ時に労働条件や契約期間を明確化
  • 派遣社員から説明を求められた際、説明要求を理由とした不当な取り扱いの禁止

  • 業務遂行能力を高めるための研修やOJTの実施
  • 食堂、更衣室、休憩室は正社員と同じように利用できる環境を整備

※施行日

【パートタイム・有期雇用労働法】大企業は2020年4月〜、中小企業は2021年4月〜

【労働者派遣法】2020年4月〜

[出典:厚生労働省パンフレット]

中小企業が施行すべき対応策3選

働き方改革関連法の施行に伴い、中小企業が実践すべき対応策は以下の3点です。

  • 従業員の労働時間を把握する
  • 残業を削減する
  • 高度プロフェッショナル制度への対応を検討する

法改正に伴い、正確な労務管理を行うよう各企業は求められています。また、長時間労働を是正するため、新たなデジタル技術を導入し、労働力不足とワークライフバランス改善を同時に図ります。

(1)従業員の労働時間を把握する

労働安全衛生法の改定によって、正確な労務管理が義務化されました。一般従業員だけではなく、管理監督者も管理の対象に含まれています。

従来は労働時間が正確に記録されていないことが原因で、長時間労働に伴う過労死や残業代未払いなどのトラブルが相次いで発生していました。

裁判に発展した場合は杜撰な勤怠管理や劣悪な職場環境を世間に公表する形になり、社会的信用が低下します。世間に「ブラック企業」のイメージが定着し、取引停止や入社希望者の減少につながるおそれがあります。

正確な労務管理を実現するための手段としては、勤怠管理システムの導入が挙げられます。勤怠管理システムのメリットは、労務管理に必要なデータを一元管理できる点です。

労働時間・残業時間・有給休暇の取得状況など、労務管理に必要な各種データをシステム上で管理できます。データ入力や計算はシステムへ一任できるため、従業員が作業を行う必要もありません。

さらに、一定水準以上の残業時間が発生した場合はアラートを発し、過重労働を防ぎます。また、時間外労働の上限規制や年5日の有給取得義務など法改正に対応しているシステムも多く、法改正に伴う業務負担増加を最小限に抑えられます。

なお、勤怠データ・労働者名簿・賃金台帳など、労務管理のために作成した各種データは、3年分保存しておく必要があります。労働基準法によって、保管が義務づけられているためです。

[出典:厚生労働省「労務関係の書類をパソコンで作成して保存したいのですが、可能でしょうか。」]

(2)残業を削減する

新たにデジタル技術を導入し、無駄な残業の削減と労働力不足の解消を同時に図ります。業務の省人化・自動化を実現し、業務効率改善・成果物の品質向上・ミスの削減も期待できます。

例えば、RPAを導入するとデータ入力・請求書作成・給与計算など、バックオフィス業務全般を自動化できる点がメリットです。また、産業用ロボットを導入した場合は24時間体制で稼働でき、市場ニーズの増加に伴う大量生産にも対応できます。

作業の再現性も高く、品質がばらつく心配もありません。自社の業務プロセスを見直し、無駄な工数や人手が多く掛かっている箇所に、デジタルツールの導入を検討しましょう。

(3)高度プロフェッショナル制度への対応を検討する

年収1,075万円以上で、以下の職種に該当する場合は高度プロフェッショナル制度の導入を検討しましょう。

<高度プロフェッショナル制度の主な該当職種>

  • 金融商品開発
  • アナリスト
  • コンサルタント
  • 研究開発
  • 公認会計士
  • 弁護士

高度プロフェッショナル制度は、業務の成果と労働時間の関連性が低い職種に対し、労働時間を撤廃する制度です。

従業員は出退勤時刻を自由に決められるため、業務へのモチベーションが高まります。評価基準も成果物の質によって評価される体制が確立され、無駄な残業が無くなります。

一方、時間外労働・休日労働・深夜残業の概念が無くなるため、企業側は36協定の締結や割増賃金の支払い義務が発生しません。

ただし、104日以上の法定休日確保・勤務間インターバル制度の導入・医師の面談指導など、導入する場合は従業員の健康管理義務が求められます。

中小企業による働き方改革の事例

働き方改革を積極的に進めている中小企業の事例を6つ紹介します。

  • 株式会社スズキアリーナ大隅
  • ヤマグチ株式会社
  • 株式会社長野銀行
  • 鹿児島製茶株式会社
  • 株式会社ありがとうファーム
  • 株式会社佐藤工機

今後、働き方改革を進める上での参考事例としてご活用ください。

(1)時間外労働の削減の事例:株式会社スズキアリーナ大隅

鹿児島で自動車ディーラー業を50年以上営むスズキアリーナ大隅は、『健康経営優良法人2021』、『鹿児島「働き方改革」推進企業』、『鹿児島県女性活躍推進宣言企業』を受賞するなど、働き方改革を積極的に進めている企業です。

スズキアリーナ大隅が推進した働き方改革は、ワークライフバランスの改善です。きっかけは新卒採用での失敗でした。

慢性的な労働力不足を解消するため、中途採用で欠員補充を繰り返していた採用形態から、新卒採用で多くの学生を獲得する育成重視のスタイルへ切り替えた時の出来事です。

求人を掲載したにもかかわらず、一人の学生からも応募がありませんでした。応募が無い理由を分析した結果、職場環境に原因があると判明し、働き方改革に着手します。年間休日を1年で20日間増やし、残業時間を極力減らす業務体制に転換しました。

従業員の意識の変化によって業務効率が高まり、残業時間を半分に減らしつつ売上が倍増しました。さらに、計画年休の導入によって有給休暇の取得率を高め、2019年には有給休暇取得率100%を達成しています。

職場環境の改善努力によって新卒採用では多数の応募が寄せられるようになり、従業員の若返りや職場の活性化にもつながっています。

(2)生産性の向上による処遇改善の事例:ヤマグチ株式会社

創立70年以上を誇る総合建設業のヤマグチは県内の公共工事を多数手掛けており、鹿児島県内で業界トップの売上をあげています。ヤマグチの働き方改革はデジタル技術を積極的に活用し、ワークライフバランス改善につなげた事例です。

スマートフォン向けのビジネスチャットアプリの導入で、従業員同士の情報共有や意見交換が活発になりました。進捗状況の報告や施工方法のアドバイスなど、従業員同士が気軽にコミュニケーションを交わせる環境が整ったからです。

さらに、ドローン・3次元測量・レーザースキャナの導入で、業務プロセスと施工の自動化を実現し、業務のスピードアップと成果物の品質向上を実現しました。デジタル技術の積極的な導入で残業時間は半減し、週休2日制への完全移行にも成功しています。

(3)幅広い人材活用の事例:株式会社長野銀行

長野銀行は、県内に50店舗以上の支店を展開する国内有数の第二地方銀行です。長野銀行が行った取り組みは、女性が働きやすい職場環境の整備です。「女性活躍推進チーム」を行内に設け、仕事と育児を両立できるような様々な改革を進めました。

具体的には短時間勤務の導入によって、保育園の送迎や通院に充てられる時間を確保しました。さらに、女性だけに育児の負担が掛からないよう、男性行員の育児休業利用も積極的に推進しています。

また、産休・育休明けの職場復帰をサポートする制度や管理職を目指す女性行員向けの研修制度の導入など、育児後もキャリアアップを目指せる環境を整備しています。

様々な取り組みの成果が認められ、子育てに優しい企業の証明でもある「プラチナくるみん」を政府から受賞しました。

(4)多様な休暇制度の事例:鹿児島製茶株式会社

鹿児島製茶は、緑茶の製造・販売を140年以上にわたって継続している歴史のある企業です。鹿児島製茶の取り組みは多様な休暇制度の導入です。結婚や出産を機に退職する女性従業員が後を絶たなかったため、離職率低下に向け休暇制度を導入しました。

5日間の連続休暇を取得できるリフレッシュ休暇と半年に2日休めるシーズン休暇の導入で、プライベートな時間の確保に努めました。家族・友人・恋人と一緒に過ごせる時間を確保し、仕事のモチベーションアップやエンゲージメント向上につなげています。

また、短時間正社員制度の導入によって、育児と仕事の両立が望める環境が整いました。育休から復帰後も正社員として働けるだけでなく、一般社員よりも労働時間が短いからです。育児目的休暇も導入されており、子どもの学校行事にも参加できます。

多様な休暇制度の導入によって、2016年に鹿児島企業初の「プラチナくるみん」として認定されました。

(5)テレワークの推進の事例:株式会社ありがとうファーム

ありがとうファームは就労継続支援A型を展開している企業です。特定の障がいを持つ方と障がい者のサポートへ積極的に取り組んでいる企業をつなぎ、雇用契約を結んだ上で働けるようにサポートします。

利用者は編み物やアクセサリーを製作して企業に納品し、報酬を獲得する仕組みです。これまで利用者は雇用契約を結んだ企業へ通い、作品作りを行うのが基本でした。

しかし、利用者の中には通勤や集団行動がストレスになって上手く環境に適応できず、遅刻や欠勤を繰り返す方もいました。次第に利用者が「仕事を続けられるかどうか」、「安定した収入を確保できない」と不安になり、作品作りも思うように進みません。

状況を打破するためにありがとうファームでは、テレワークを導入しました。利用者が携帯電話で作業進捗の報告連絡や完成した作品を写真で送り、企業担当者がPCで内容を確認するシンプルな仕組みです。

わからない点があった場合は、ビデオ通話で企業担当者とコミュニケーションを図れるため、不安や孤独感に襲われる心配も減りました。テレワークの導入で通勤の負担が軽減され、出勤率・作業効率・作品の質が改善されました。

利用者の中には作品作りを進めるかたわら、ワークショップの講師を務めている方もいます。上記の取り組みが認められ、ありがとうファームは総務省が選ぶ総務省テレワーク100選企業に選出されました。

(6)同一労働同一賃金の実現の事例:株式会社佐藤工機

佐藤工機はパイプ加工や切削加工を手掛ける部品メーカーです。完成した部品は業務用空調機・列車空調・大型チラーなどに導入され、特注品や受注生産品も多く、製造には高い技術力が要求されます。

優れた技術力を持つ社員が多数在籍していた一方、従来の給与形態は雇用形態や在籍年数に左右されており、中には技術力の高さが正当に評価されていない従業員がいました。従業員一人ひとりのスキルを正確に評価するため、「職能別力量比較マップ」を作成します。

穴あけ・バーリング・NC曲げなど、各項目を細かくスコア化し、他の従業員と自身が持つスキルの差を明確化しました。スコアに客観性を持たせるため、テスト・研修プログラム・インストラクターからの評価など、様々な指標に基づき判断を下しています。

さらに、同一労働同一賃金の実現によって雇用形態に伴う不合理な待遇差を解消し、成果に応じた報酬が得られる体制が確立しました。

成果報酬型の給与体系と同一労働同一賃金の実現によって、従業員のエンゲージメント向上・業務効率改善・成果物の品質向上を実現しています。

働き方改革関連法の重要なポイントを押さえよう

今回の記事では以下の4点について解説してきました。

  • 働き方改革関連法の概要
  • 法改正に伴うポイント
  • 中小企業が実施すべき対策
  • 働き方改革に成功した中小企業の事例

働き方改革関連法の施行によって、時間外労働の上限明確化・有給休暇取得5日の義務化・不合理な待遇差の解消など、様々な内容が改正されました。

多くの企業が働き方改革へ取り組むことで、長時間労働の是正・自由な働き方の実現・従業員の待遇改善など、働きやすい職場環境や社会の実現が期待されています。ただし、労働力不足に悩む企業にとっては、どこから始めるべきかわからない場合も多いでしょう。

今回の記事で取り上げた対応策や事例を参考に、自社に合った形で働き方改革を進めてください。

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