働き方改革における3つの柱とは?推進する狙いや企業への影響について
働き方改革における「3つの柱」についてご存知でしょうか?本記事では、働き方改革を支える3つの柱の内容やその狙い、そして企業に与える影響について解説しています。働き方改革の問題点や取り組みを進めるうえでのポイントも紹介していますので、併せてご覧ください。
目次
働き方改革の概要
多様で柔軟な働き方を可能とする「働き方改革」。正式名称を「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」とするこの法律は、働く人の視点に立って労働制度を改革し、企業文化や社外風土も含めて改善しようとするものです。
働き方改革は、長時間労働の抑制や非正規雇用の待遇改善、女性・若者が活躍しやすい労働環境の整備などを目指す働き方の抜本的な改革とされています。
働き方改革の背景と目的とは?
日本では「生産年齢人口」と呼ばれ、労働の中心となる15~64歳の人口が減少を続けています。より多くの人が働ける社会を作っていかなければ日本の国力が低下することが懸念されており、この流れに歯止めをかけるために、働きやすい社会の実現が求められています。
また、働く人が求めるニーズの変化にも目を向けなければなりません。以前は育児や介護などで、仕事の継続を諦める人が少なくありませんでしたが、昨今では、育児や介護などに携わっていても、働き続けたいと積極的に希望する人が増えています。
こうした背景を考慮し、企業は在宅勤務・時短勤務など時間や場所にとらわれずに働ける環境を整備する必要があります。労働者にとって働きやすい社会を実現することが、働き方改革の目的となっているのです。
働き方改革の3つの柱の内容や狙いについて
働き方改革を推進するため、2019年に施行された働き方改革関連法案。この法案は「3つの柱」をもとに成り立っています。働き方改革の重要なポイントとなる柱の内容は、下記の3点です。
- 長時間労働の是正
- 正規・非正規間の格差解消
- 多様で柔軟な働き方
ここでは3つの柱の内容や狙いについて見ていきます。
(1)長時間労働の是正
1つ目の柱となるのは、長時間労働の是正です。過去の日本では、労働者の過労死やオーバーワークによる健康問題が課題とされてきました。そのような状況を改善するために労働時間についての詳細が定められ、長時間労働の是正が推進されています。
この内容では、月45時間かつ年360時間の残業時間を上限とし、繁忙期でも一ヵ月の労働時間が100時間未満であることなどが定められています。
もし定められた労働時間を超えて勤務をさせた場合、会社には刑事罰として「6カ月以下の懲役、または30万円以下の罰金」が課せられることになり、労働時間の見直しが図られました。
(2)正規、非正規の格差解消
2つ目の柱は、正規雇用者と非正規雇用者の格差の解消を目指す取り組みです。現在でも、正規雇用者と非正規雇用者の給与や福利厚生に大きな差がある企業は少なくありません。
ところが業務量については同様、もしくは非正規社員の方がより多くの仕事を担っている場合もあります。同じ仕事に就き、10年勤務しているパートタイム労働者よりも、新卒で入社した正社員の方が給与・待遇が手厚いのはある意味、矛盾があるといえるかもしれません。
昨今では「同一賃金・同一労働」を適用することにより、業務内容や成果で評価をすることに重点を置き、雇用形態のみで給与などを決定しない取り組みが進められています。
(3)多様で柔軟な働き方の実現
3つ目の柱は働き方の多様性で、ここでは「高度プロフェッショナル制度」を指しています。
この制度は欧米のワークスタイルである「ホワイトカラーエグゼンプション」を基に構築されています。これは「脱時間給制度」とも呼ばれ、働いた時間ではなく、その成果で仕事を評価して賃金を支払う仕組みです。
労働者は自由な時間で働くことを認められる代わりに、残業などの賃金が支払われなくなります。この制度は高度な専門性を有し、一定の年収要件などを満たす人に認められている制度で、対象となるのは下記の職種です。
- 金融商品の開発業務
- 金融商品のディーリング業務
- アナリスト業務(企業や市場などの高度な分析を行う)
- コンサルタント業務(事業・業務の企画運営に関する高度な考案や助言を行う)
- 研究開発業務
高度プロフェッショナル制度を取り入れることで、時短勤務希望者などの働く環境に制限がある人も柔軟な働き方を実現することが可能となります。また、介護や育児などに携わり長時間の勤務ができない場合にもこの制度が適用されるケースがあり、働き方の幅が広がります。
3つの柱が企業に与える影響とは?
3つの柱を取り入れる際、企業にどのような影響があるのか、メリットとデメリットの両面から見ていきましょう。
(1)3つの柱のメリット
下記の内容が3つの柱が企業に与えるメリットとされています。
- 従業員の生産性向上
- 人材の確保や定着率の向上
- 残業代のカット
労働時間の是正により働く時間が低減することで生産性の向上が期待されます。このことは企業、従業員の双方にとってメリットとなり、ワークライフバランスの推進にもつながるでしょう。
また、働き方が多様になったことから、家庭の事情などで就業を断念していた人材の雇用を確保します。さらに、高度プロフェッショナル制度による残業代の削減も経営のスリム化に直結します。
(2)3つの柱のデメリット
3つの柱はメリットがある一方で、下記のようなデメリットも有しています。
- 残業が不可となり、業務が滞る
- 人材の追加雇用が必要となる
- 従業員の評価が難しくなる(定量評価が成果制にシフト)
「労働時間の是正」によって残業が制限されるため、業務が滞る場合があるでしょう。また、不足する労力に対応するために新たな雇用を必要とする可能性もあります。さらに、雇用格差の解消によって人件費が大きく増加することも指摘されています。
高度プロフェッショナル制度については、成果を出すために残業が増加したり、評価が難しく、人事担当者の負担となることが懸念されています。
働き方改革の問題点
3つの柱のデメリットについて述べてきましたが、ここでは働き方改革の問題点にも言及します。人件費の増加問題や
(1)人件費やツール導入コストの増加
1つ目の問題はコストの増加です。長時間労働を撤廃すると、残業が制限されるため、人材を追加投入するなどの対応が必要になるでしょう。従って人件費などの増加が考えられます。
また、正規・非正規間の格差を解消することにより優秀な人材の流出を防げる一方で、人件費が大幅にアップする可能性も否めません。昨今では、業務効率化のためにシステムの導入を検討する企業が増えています。
この場合、生産性の向上や人件費の低減にはつながるものの、ツールの導入費用が発生します。こうした中でコストの削減にどう向き合うかが重要になってきます。
(2)高度プロフェッショナル制度の乱用
2つ目は高度プロフェッショナル制度の乱用が起きうるという問題です。もともとこの制度が適用されるのは、一定額(年収1075万円以上)以上の収入を得ている一部の専門職に就く人に限定されており、労働基準法の対象外となります。
そのため有給の取得や過剰残業の抑制など、企業が指示・命令していく対象には該当しません。結果的に働き方は改善されず、むしろ評価を得るために無理のある働き方をしていても表面化されないケースも想定されます。
(3)従業員の働く意欲の低下
3つ目の問題点として予想されるのは、従業員のモチベーションの低下です。残業がカットされたことで収入が落ちることや、残業ができない環境でありながら業務量が変わらないことなどから、働く人の意欲が低下することが懸念されます。
業務量を変えずに勤務時間をカットしても、根本的な課題は解決しません。人材を追加したり業務内容の見直しを図るなど、働く人に寄り添う対策を取ることが大切です。
(4)サービス残業や管理職への負担が増加
4つ目の問題点は、サービス残業が横行したり管理職への負担が増すことです。会社でどれだけ規制を設けても、自宅に仕事を持ち帰るなど社外で仕事をすることは可能です。業務量を減らさず残業規制を行うと、高確率で発生するのが、終業後に業務を行う事例です。
これでは従業員の労働環境が改善されないばかりか、逆に従業員の不満も募りかねません。また、管理監督者に対しては残業時間の規制がありません。時間内に終わらない部下の業務を上司が対応し、業務過多になってしまうリスクも生じます。
従って、特定の従業員にしわ寄せがいくような働き方改革ではなく、業務そのものの量や質を見直す必要があるのです。
働き方改革を進めるための方法3選
労働環境の問題点を解消して働き方改革を進めていくためには、経営者の方針を打ち出し、従業員の意識を改革することが大切です。ここではこれらの内容について見てみましょう。
(1)経営トップの明確な方針の打ち出し
まずは会社の経営陣と連携を取って働き方改革の方針を打ち出しましょう。そのとき企業目線・従業員目線の両面から考えることが重要で、どちらかに偏ってしまうと抜本的な改革にはつながりません。働く人の共感を得られる、バランスの良い指針を打ち出しましょう。
また、トップダウンで社内への発信を続けていくことも重視ポイントです。経営者が働き方改革について高い意識を持ち、明確なメッセージで方向性を示すことが早期の目標達成にもつながるのです。
(2)働き方の現状把握と施策の検討
現状を把握することも大切です。従業員の残業時間や休暇の取得状況、賃金格差や評価制度について確認し、課題を見極めることで働き方改革につなげましょう。また、問題をクリアにする際は、優先順位を付けて取り組むこともポイントです。
計画を実現するためにどの程度の時間やコストを必要とするのかなども試算しましょう。コストや時間、予想される結果などを総合的に考えて検討していくことが、効果的な働き方改革につながります。
(3)従業員の意識改革
従業員の意識の改革も必要です。どれだけ会社が施策を試みても、状況が改善されないケースも少なくありません。タイムカードの打刻後に残業することなど容易です。それは従業員が「まあいいだろう」などと、ものごとを軽く見てしまうからです。
こうしたことが起きるのも、働き方改革に対する従業員の理解が得られていないからです。働く人が自発的に行動するためには労働者自身が、本来あるべき働き方について理解することが求められます。
3つの柱を理解して働き方改革を推進しよう
本記事では働き方改革の内容と、3つの柱について解説してきました。人口減少が続く日本では働く人、一人ひとりが当事者意識を持ち、労働環境を改善していくことが求められます。誰かがやってくれるだろうなどと人任せにせず、前向きな姿勢で取り組むことが大切です。
働き方改革は、「長時間労働の是正」・「正規、非正規の格差解消」・「多様で柔軟な働き方の実現」の3つの柱で成り立っています。これらの取り組みを推進することで、充実したワークライフバランスを実現できる、質の高い働き方改革を目指しましょう。
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