働き方改革関連法の罰則とは?重要な5つの条項や企業が対応すべきこと
2019年より施行された働き方改革関連法の中には、罰則が存在する法令もあります。働き方改革を進める上で罰則内容について把握することは、適切な対応を行うためにも必要です。当記事では、働き方改革関連法の罰則について重要な5つの条項や企業が対応すべきことを解説します。
目次
そもそも働き方改革とは
働き方改革とは、「一億総活躍社会」の実現を目指し、日本社会や企業における古い制度やルールを見直し、アップデートする取り組みのことを指します。
一億総活躍社会とは、全ての働く人がそれぞれの事情に応じた柔軟な働き方を自由に選択することができる社会を表したスローガンです。
▷一億総活躍社会とは?政府が推進するプランや現在の問題点について解説
2019年に施行された取り組み
2018年7月6日に交付された「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(以下、働き方改革関連法)に基づき、各種労働関連法の改正が順次進められました。
その中で、2019年4月1日に施行された関連法案には次のような制度が含まれています。
時間外労働の上限規制
時間外労働時間について、月45時間、年360時間を上限に定め、特別な事情がない限り、年間を通じて時間外労働がこの範囲を超えることのないように管理することが使用者に義務付けられています。
同一労働同一賃金
正規雇用と非正規雇用の労働者の間にある不合理な待遇差の是正を目的とし、雇用形態にかかわらず公正な待遇の確保ができるよう、各種関連法案が改正されています。
高度プロフェッショナル制度
高度な専門知識等を有し、かつ一定の年収要件(年収1,075万円以上)を満たした労働者を対象とし、労働時間に関する制限を撤廃する制度です。
▷高度プロフェッショナル制度とは?対象者やメリット・デメリットを解説
働き方改革には3つの目的が存在する
働き方改革では、「改革の3本柱」と呼ばれる目的があります。それは次の3つです。
1.長時間労働の是正
日本の労働生産性の低さは長年問題視されており、特に過剰な長時間労働による心身の健康障害や過労死、自殺件数の多さに対しては、早急な構造改革が求められてきました。
みなし残業やサービス残業が常態化し、さらには有給取得率の低さや年間休日の少なさという問題も顕在化していることを受け、働き方改革の推進により抜本的な構造改革が図られています。
▷働き方改革における長時間労働の是正とは?原因・問題点・対策について
2.正規・非正規雇用間の不合理な待遇差の解消
正規雇用と非正規雇用の労働者間で発生している待遇や賃金の不合理な格差を解消し、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保を目的とした取り組みを指し、「同一労働同一賃金」と呼ばれます。
関連法案の改正には、職務内容や配置が同じ場合の差別的取り扱いを禁じる「均等待遇」という考え方と、職務内容や配置が異なる場合でも不合理な待遇差を禁止する「均衡待遇」という考え方が反映されています。
3.多様な働き方の実現
育児や介護と両立しながらも柔軟に働くことができる労働環境の整備を目指し、テレワークやフレックスタイム、短時間勤務など、働き方の選択肢を増やすため推進・支援活動を展開しています。
▷働き方改革における3つの柱とは?推進する狙いや企業への影響について
働き方改革と合わせて把握すべき36協定とは
36協定とは、「時間外・休日労働に関する協定届」の通称です。「36」とは、労働基準法第36条に基づく労使協定であることから、「36(サブロク)協定」と呼ばれるようになりました。
働き方改革の推進には欠かせない重要なポイントであるため、ここでは協定の意義と働き方改革における取り扱いについて、しっかりと確認していきましょう。
▷働き方改革による36協定の変更点とは?時間外労働の上限規制や罰則について
労働者を守るためのルール
36協定は、労働者が過剰な時間外労働を強いられることを抑制するために設けられた制度です。その背景には、過労死件数の増加が社会問題として注目を集めていたことがあります。
36協定は、法定時間外労働を労働者に課す場合、必ず使用者との間で上限時間などの諸条件に合意した上で締結する労使協定です。
労使協定は所管の労働基準監督署への届出が義務付けられているため、違反の疑いがあれば監査が入るため、36協定はその締結により労働者を不当な長時間労働から守る役割を担っているのです。
働き方改革で規制が強化された
働き方改革による法改正では、これまでの36協定に新しい規制が追加されています。
従来の36協定では、時間外労働時間に上限が設けられていないことから、無制限な時間外労働を助長してしまった結果、長時間労働や過労死の抑止力として機能しないという問題がありました。
そこで時間外労働や休日労働の上限時間を設け、さらに1年や6ヵ月といった異なる所定期間で規定を設けることで、年間を通じて過剰な長時間残業が認められない制度へと改正したのです。
時間外労働の上限時間の違反者には刑事罰が設けられ、長時間労働の是正に対する厳しい姿勢を見てとることができます。
働き方改革関連法の罰則条項5つ
働き方改革推進により様々な関連法案の改正が進む中、5つの項目に対して罰則規定が設けられています。
1.時間外労働の上限超過
時間外労働の上限は原則「月45時間、年360時間」に定められており、この上限を超えて労働を課した場合、罰則の対象となります。
ただし、「臨時的に特別な事情がある場合」は、「特別条項」を設けることにより、以下の規定内であれば時間外労働の延長が可能となります。
- 年720時間以内
- 複数月の平均80時間(休日労働を含む)
- 月100時間未満(休日労働を含む)
これらの規定に違反した場合は、「6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金」という刑事罰が科されるおそれがあります。
[出典:e-Gov 労働基準法第三十六条]
[出典:e-Gov 労働基準法第百十九条]
2.割増賃金の未払い
働き方改革により、時間外労働に対し支払いが義務付けられている割増賃金の割増率引き上げが行われました。
対象となるのは、60時間以上の時間外労働です。
企業規模にかかわらず、60時間を超える時間外労働に対しては割増率50%以上の割増賃金の支給が定められ、体制整備のため2023年4月までの猶予期間が設けられています。
未払いや規定に達しない割増率での支給などの違反に対しては、「6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金」という刑事罰が科されます。
[出典:e-Gov 労働基準法第三十七条]
[出典:e-Gov 労働基準法第百十九条]
3.フレックスタイム制の違反
フレックスタイム制とは、精算期間内の総労働時間の条件を満たしていれば、出退勤時間や出勤日を本人が自由に決定することができる制度です。
これまでは給与計算との兼ね合いから精算期間は1ヵ月とされていましたが、個々の事情に合わせて柔軟に働くことができるよう、法改正により精算期間が3ヵ月まで延長されました。
また、精算期間を1ヵ月以上に設定する場合は、労使協定を締結し労働基準監督署へ届出ることが義務付けられています。
この届出義務に違反した場合、「6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金」という罰則が科されます。
[出典:e-Gov 労働基準法第三十二条の三]
[出典:e-Gov 労働基準法第百十九条]
4.年次有給休暇の取得義務
日本の有給休暇取得率の低さは、長時間労働体質の改善にもかかわる重要な問題です。そこで、働き方改革により、年次有給休暇の時季指定取得が義務付けられました。
年間10日以上の有給休暇を付与される従業員に対し、年5日は時季指定の上取得させなければいけません。
使用者から従業員に対して取得を促すことを義務付けることで、有給取得率の向上を目指しているのです。
違反者には、「6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金」という罰則が科されます。
[出典:e-Gov 労働基準法第三十九条]
[出典:e-Gov 労働基準法第百十九条]
5.医師の面接指導
過剰な時間外労働が発生している従業員に対しては、月100時間の時間外労働を超えた時点で、医師による面接指導を実施することが義務付けられています。
これは労働安全衛生法の観点からの取り決めです。企業は従業員の心身の健康を守るため産業医を選任する必要があります。
産業医は適切なメンタルヘルスケアを行い、過労死やうつ病の発症を防止する役割を担っているのです。
産業医や医師との面談を拒否したり、面接指導に従わないといった違反行為に対しては、「50万円以下の罰金」という罰則が科されます。
[出典:e-Gov 労働安全衛生法第六十六条の八]
「高度プロフェッショナル制度」なら罰則はなし?
働き方改革の中でも注目を集めた新制度が、「高度プロフェッショナル制度」(以下、高プロ制度)です。高プロ制度の導入は義務ではなく、罰則規定もありません。
高い専門性と高度なスキルを持つ人材を対象とし、欧米型成果主義の働き方を推奨するこの制度では、労働時間や休日、割増賃金などの規則が適用外となっています。
この「労基法の適用外」という点のみが独り歩きしてしまい、無茶な働き方をしても罰則が課されることはないというイメージがあるかもしれません。しかし、「働き方に関する規則」が全くないわけではありません。
まず、労働安全衛生法上の観点から、労働時間が週40時間を超えた時に、その月の労働時間が100時間以上となった場合には医師の面接指導が義務付けられており、違反すると50万円以下の罰金が課されます。
次に、年休日104日以上、または、4週間を通じて4日以上の休日の確保義務に違反すると、高プロ制度の適用から外れるため、労基法で定める働き方を遵守しなければ罰則が発生します。
同様に、年5日の有給休暇取得義務が高プロ制度対象者にも適用となるため、違反すれば高プロ制度適用外とみなされ、労基法に基づき罰則が発生します。
このように、高プロ制度は、対象者本人の裁量に任せた自由度の高い働き方を推奨している反面、雇用主に従業員の心身の健康を管理する義務があることに変わりはありません。
高プロ制度は、優秀な人材を無制限に働かせてもよいという制度ではないことを、企業も対象となる本人もしっかりと理解を深めたうえで導入を進めるようにしましょう。
[出典:e-Gov 労働安全衛生法第百二十条]
罰則の対象者に該当するのは?
働き方改革では、長時間労働の是正のために厳しい罰則を設けています。これまであげてきたような罰則を受けることになった場合、対象者は誰になるのでしょうか。
企業が罰則の対象者となる
仮に従業員が無断で長時間外労働を行った場合でも、罰せられるのは企業です。
企業は、従業員に過剰な長時間労働が課せられないように管理する義務があるため、従業員の規定違反は企業の責任なのです。
▷働き方改革が管理職の仕事に及ぼす影響は?変更点や役割・注意点を解説
適用されない可能性もある
法改正により設けられた時間外労働の上限時間ですが、上限規制を超えた場合でも罰則とならないケースがあります。
そのケースとは、上限規制が適応されない業種であるか、業種の特性上今すぐに長時間労働を是正することが難しいと判断され、猶予期間を設けられているケースです。
上限規制が適用されない業種は以下の5つです。ただし、法改正から5年経過後(2024年1月〜)には上限規制が適用されます。
- 建設事業
- 自動車運転業務
- 医師
- 鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業
- 新技術・新商品等の研究開発業務
加えて以下の法律・制度においては、法的に罰則は設けられていません。
- 高度プロフェッショナル制度
- パートタイム労働法
- 労働者派遣法
※前述の通り、医師の面接指導を実施していない場合などは労働安全衛⽣法の罰則対象
▷働き方改革関連法とは?概要や改正点・重要ポイントをわかりやすく解説
働き方改革に罰則が必要である理由
働き方改革に伴う法改正では様々な条項に対し罰則が設けられました。
中には刑罰が科されるケースも含まれています。働き方改革の推進と各違反行為の厳罰化との間にはどのような関係があるのでしょうか。
本来は残業が禁止されているため
もともと労働基準法で定められている法定期間とは、全ての人が守るべき労働時間の上限です。
「1日8時間、週40時間」という法定時間の上限を超えた労働は、本来は禁止されているのです。
36協定による弊害を防ぐため
改正前の36協定では、時間外労働時間の上限を月45時間、年360時間と定めていましたが、法的効力がなかったため、実際は無制限に時間外労働を重ねることができました。
そのような法の抜け穴によって時間外労働は青天井となり、労働者は過重労働を課せられ精神疾患や自殺、過労死に発展するケースが少なくなかったのです。
長時間労働を抑制するため
法改正が行われる以前の労働関連法には、過剰な長時間労働を抑制できる程の法的拘束力はほとんどありませんでした。
働き方改革では、経済や社会の成長と共に過労死や自殺といったリスクが顕在化してきたという事実を改めて受け止める必要性に迫られています。
そこで、より法的効力の高い規定を加えることが従業員を守るための最善策という考えから、厳しい罰則や刑罰を設けるに至ったのです。
罰則に違反しないために企業が対応すべき対策
当たり前のことですが、きちんとルールを守っていれば罰則を課せられることはありません。
ここからは、企業が罰則を受けないための対策について解説していきます。
生産性の向上を図る
業務が効率化され、各従業員のパフォーマンスが高まれば、自ずと時間外労働や休日労働は無くなっていきます。
そのため、勤怠管理システムや業務システムの導入も前向きに検討しながら、自社に適した業務効率化計画を策定しておくとよいでしょう。
社員間の報連相を徹底する
仕事上で必要なコミュニケーション方法として、基本的な「報連相(報告・連絡・相談)」を意識してチーム内で実行してみましょう。
コミュニケーションが活性化されることで意思疎通がスムーズに行え、業務を効率的に進めることができ、時間外労働の必要が無くなる効果が期待できます。
勤怠管理を正確に行う
時間外労働の過剰な発生を防止するためには、従業員の勤怠管理体制を整えることが重要です。
労務管理システムや勤怠管理システムを導入することで、従業員の勤務実態を正確かつリアルタイムに確認することができ、効率的に管理業務を進めることができます。
働き方改革関連法の実際に起きた罰則事例
長時間労働の規制強化は、働き方改革の要ともいうべき重要な取り組みです。順次改正が行われている関連法案の中には、過去に罰則が発生する事態に至った事例も数多くあります。
ここからは過去に実際に発生した違反と罰則事例について解説していきます。
勤務時間が合計100時間以上の残業と休日出勤をさせた
働き方改革の一環として新たに定められた時間外労働の上限規制に関する規定では、残業と休日出勤の勤務時間が合計100時間以上となった場合、罰則の対象になるとされています。
時間外労働の上限規制は、特別条項を締結していても、完全に適用を免れることはできません。
そのため日頃から勤怠管理をしっかりと行い、突発的にやむを得ない時間外労働が発生した時にある程度の時間的余裕をもって対応できるようにしておきましょう。
36協定を締結せず時間外労働をさせた
36協定を締結していない状態で法定時間(1日8時間、週40時間)を超えて働かせることは、違法行為にあたります。
36協定締結による取り決めは今回の法改正でもさらに厳罰化されているため、36協定未締結での時間外労働に加え、従業員代表を選任しない場合でも違反とみなされてしまいます。
働き方改革関連法に違反しない取り組みが必要
働き方改革は、日本社会に古くから残る前時代的な制度や企業風土を改めて見直し、必要に応じてアップデートしていく取り組みです。
違反をしないためには、法改正を都度念入りにチェックし、企業全体で長時間労働や残業を良しとしない風土の醸成と仕組みを構築していくことが大切です。
違反を免れることに焦点を定めるだけではなく、ポジティブに業務効率や生産性を高める取り組みに焦点を定め、全社一丸となって取り組んでいきましょう。
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