年末調整の対象者は?アルバイトも含まれる?対象外の人との違いを解説
年末調整は、給与所得者が正しい納税を行うために必要な手続きです。正社員やアルバイトなど、雇用形態に関係なく対象となりますが、適用される条件が定められています。どのような場合に年末調整の対象者になるのか、対象外のケースと併せて確認しましょう。
目次
年末調整とは
年末調整とは、1年間の給与や賞与の総額を確定し、源泉徴収した所得税と本来納めるべき所得税の差額を精算する手続きを指します。
企業は従業員に代わって所得税を国に納めなければなりません。そのため企業は従業員に支給する給与や賞与から所得税を天引きしています。天引きしている所得税は、あくまでも従業員のひと月あたりの給与から1年間の所得を概算して算出しているので、正確な額ではありません。というのも、年の途中で給与や賞与が増減したり、従業員の扶養親族に変化が生じたりする可能性があるためです。
12月に年内最後の給与の額が決まれば、1年間の所得は確定します。そこで所得税を再計算し、従業員から提出された書類で扶養親族などを確認したうえで、これまで徴収した額と比較して過不足を精算するのです。
▷年末調整とは?やり方や対象者・必要書類、確定申告との違いをわかりやすく解説
年末調整の対象者
企業は年末調整を行いますが、企業に勤務している人全員が必ずしも年末調整の対象となるわけではありません。年末調整の対象者について説明しましょう。
[出典:国税庁「No.2665 年末調整の対象となる人」]
対象になる人の条件
年末調整の対象となる人は、以下の条件を満たす人です。
- 12月31日時点で、その企業に在籍している(年の途中で入社した人を含む)
- 「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している
- 1年間の給与の総額が2,000万円以下
なお、海外支店などへの転勤によって非居住者(国内に住所などがない人)になった人や、その年の途中で死亡した人、著しい障害を理由に退職し再就職が困難な人も年末調整の対象です。
対象外になる人の条件
年末調整の対象外となる人は、以下の条件に当てはまる人です。
- 1年間の給与の総額が2,000万円を超える
- 災害減免法の規定により所得税の徴収猶予や還付を受けている
- 2か所以上から給与を受け取り、他の勤務先に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している
- 年の途中で退職した
- 非居住者
- 日雇労働者など継続して雇用されていない
アルバイト・パートも年末調整の対象
給与額や状況によっては、正社員だけではなくアルバイトやパートも年末調整の対象となります。企業が毎月の給与から源泉徴収を行っていれば、年末調整をすることでアルバイトやパートも還付金をもらえる可能性があるのです。
基本的に年収が103万円以下の場合は、源泉徴収を行う必要はありません。しかし、ひと月の給与が88,000円以上だと源泉徴収がされているので、ひと月でも給与が88,000円以上であれば年末調整が必要です。
退職者を対象とした年末調整の対応
年の途中で退職した場合は、退職した時期によって年末調整を実施するかどうかは変わります。11月までに退職したケースと12月末に退職したケースを見てみましょう。
[出典:国税庁「No.1910 中途退職で年末調整を受けていないとき」]
11月までの退職者は基本的に対象外
11月までに退職した人については、基本的に企業が年末調整を行う必要はありません。
なぜならば、12月末時点で在籍していないため対象外となることと、退職後に再就職をしている可能性があり、その場合は再就職先が年末調整を行うからです。企業は、退職者が再就職先で年末調整をしてもらえるように、源泉徴収票を発行しましょう。
12月末で退職する場合は対象になる
12月末に退職する社員に関しては、企業が年末調整を行う必要があります。
12月末に退職する場合、12月分の給与は受け取ります。そのため、1年間の所得が確定しているので、企業が年末調整を行えるからです。もし年始から再就職することが決まっていたとしても、年末調整は行いましょう。
▷12月に退職した人の年末調整はどうすべき?対象条件や確定申告が必要なケース
年末調整を行うための必要書類
年末調整を行うには、必ず従業員に記入・提出してもらわなければならない書類があります。各書類について解説するので、ご一読ください。
扶養控除等(異動)申告書
「扶養控除等(異動)申告書」とは、扶養親族の有無などを勤務先に申告し、扶養控除などを受けるための書類です。扶養親族の有無にかかわらず、従業員は全員提出しなければなりません。扶養親族がいない場合でも、いないことを申告することが必要です。
「扶養控除等(異動)申告書」により、扶養控除・寡婦控除・障害者控除・勤労学生控除・ひとり親控除を受けられます。控除を受けるときは、該当する親族の名前や生年月日などを記入します。
なお、複数の企業で働いているケースでも、同書類は1か所にしか提出できないので注意してください。
基礎控除申告書
「基礎控除申告書」とは、1年間の所得が2,500万円以下の場合に控除を受けるための書類です。控除される額は所得によって異なり、最大で48万円です。
令和6年は定額減税が行われたため、書類には定額減税に関する欄が設けられています。また、同じ書類の中に「配偶者控除等申告書」と「所得金額調整控除申告書」の欄もあり、配偶者控除・配偶者特別控除・所得金額調整控除を受けるうえでも欠かせない書類です。
保険料控除申告書
「保険料控除申告書」は、生命保険料や社会保険料などを支払った場合に控除を受けるための書類です。具体的には、生命保険料・地震保険料・社会保険料・小規模企業共済等掛金について控除が受けられます。
地震保険は火災保険とセットで加入するケースが多くありますが、火災保険も対象になるかどうかは保険会社に確認が必要です。なお、iDeCoも「小規模企業共済等掛金控除」に含まれ、控除の対象となります。企業が支払っている掛金は対象外で、個人で支払った分のみが対象です。
書類を提出する際は、控除証明書の添付などが必要となるので注意してください。紛失した際は、保険会社などに再発行を依頼しましょう。
住宅借入金等特別控除申告書
「住宅借入金等特別控除申告書」とは、マイホームの購入やリフォームのために住宅ローンを利用した人が、住宅ローン控除を受けるための書類です。住宅ローンを借りた最初の年は確定申告をする必要がありますが、2年目以降は年末調整で控除を受けられます。
住宅ローン控除は住宅ローンの年末残高に応じて一定額を税額から直接差し引くので、「住宅借入金等特別控除申告書」を提出するときは、「住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書」も添付してください。
▷【初心者必見】年末調整の書き方|提出すべき書類・記入例をわかりやすく解説
年末調整のスケジュール
年末調整は10月頃から翌年1月頃までかかります。労務担当者と従業員のそれぞれのスケジュールは、次のとおりです。
労務担当者 | 従業員 | |
10月~ | 従業員に必要な書類を配付する。 | 年の途中に転職してきた従業員は前職の源泉徴収票を提出する。 |
11月 | 年の途中に転職してきた従業員の源泉徴収票を提出する。 従業員から書類や証明書を受け取り、抜け漏れがないかチェックをする。 | 書類に必要事項を記入して提出する。 控除を受けるのに必要な証明書を提出する。 |
12月 | 各従業員の源泉徴収税額と所得税額の差額を計算する。 過剰に徴収していた場合は還付し、不足していた場合は徴収する。 源泉徴収票を作成する。 | |
翌年1月 | 法定調書を作成する。 源泉徴収税額を納税する。 各種法定調書を作成し、1月31日までに税務署や市区町村に提出する。 従業員に源泉徴収票を渡す。 |
対象者が年末調整をしないとどうなる?
年末調整の対象になっているにもかかわらず年末調整を行わなかった場合、従業員も企業も不利益を被るだけではなく罪に問われる可能性もあります。対象者が年末調整をしなかったときに想定されるリスクを解説しましょう。
還付金が受け取れなくなる
毎月天引きされている所得税と実際に納付すべき所得税に差があっても調整されないため、従業員は還付を受けられません。多くの企業では、天引きされた所得税の方が実際の納税額よりも多いため、年末調整で還付するのが一般的です。
もし年末調整をしなければ過不足が精算されないので、従業員は還付を受けられず、損をしてしまいます。
支払う税金が増える
年末調整で各種控除の申告ができないと、本来であれば控除される分が控除されません。その結果、翌年の住民税が高くなる可能性があります。
年末調整を行わず所得税を納税できなかったら、延滞税が発生します。また、納税額が本来の額を下回ったときは、過少申告加算税が発生するので、注意が必要です。
確定申告の手続きが必要になる
年末調整が行われないと所得税の還付が受けられず、従業員が還付を希望するときは確定申告をしなければなりません。各種控除を受ける場合も同様です。
確定申告をするには書類の準備などが必要となり、年末調整以上に労力がかかります。従業員の負担が増えるため不満が高まり、エンゲージメントが下がる恐れがあるでしょう。
資産の差し押さえが起こる
所得税を納めず、さらに税務署から指摘を受けても対応しなかった場合、資産の差し押さえのリスクがあります。
差し押さえに至るまでは、督促状の送付や電話での催促など段階的に督促が行われるので、実際に差し押さえられるのは稀なケースではあります。しかし、差し押さえが行われれば、企業の対外的な信用は失われてしまうでしょう。
雇用主に罰則が科せられる
年末調整は雇用主の義務なので、故意に確定申告を行わなかったり所得税を納税しなかったりすると、罰則が科せられます。年末調整を行わず、従業員から正しい所得税を徴収しないと、所得税法第242条に違反し、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。
年末調整を行ったものの、追加の徴収額を納付しなかったときは、所得税法第240条に違反するので10年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金、またはその両方が科せられるので注意してください。
年末調整の作業が期限内に終わらなかった場合の対処法
「書類の記入方法が分からない」「必要な証明書が見つからない」などの理由で年末調整の作業が期限内に終わらないこともあるでしょう。そうしたケースでも諦める必要はありません。万が一、期限内に年末調整が終わらなかったときの対処法をお伝えします。
提出前なら再調整できる可能性がある
企業から指示されていた締切までに書類が提出できなかった場合でも、まだ税務署に法定調書を提出していなければ再調整できるかもしれません。
所得税の納付は1月10日、法定調書などの提出は1月31日までに行うこととされています。この期限までであれば、まだ納付や提出がされていない可能性があるため、労務担当者に相談してください。
1月中に終わらなければ確定申告を行う
すでに企業が納付を済ませ、法定調書などを提出していて再年末調整にも間に合わなかった場合は、従業員は自分で確定申告をしましょう。確定申告は2月16日から3月15日までで、土・日曜日にあたる場合は次の月曜日までです。
この期間に確定申告を行えば、所得税を還付してもらったり控除を受けたりできます。確定申告のやり方が分からないときは、国税庁のWebサイトを確認してください。
年末調整の対象者を把握して忘れず申告しよう
年末調整は、雇用主の義務です。もし年末調整を行わなければ、従業員は控除を受けられず、企業は罰せられる恐れがあります。前もって年末調整の対象者を把握し、計画的に書類を配付・回収するなどして年末調整を行ってください。
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