廃業手続きの流れについて|法人・個人事業主の手続きや注意点、費用について

2024/02/05 2024/02/05

経営

廃業手続きの流れ

廃業を決めた経営者が取るべき次のステップの「廃業手続き」。特に法人企業の場合は複雑な手続きが多く膨大な労力が必要ですが、廃業手続きはどのように進めればよいのでしょうか。本記事では、法人・個人事業主ごとの廃業手続きの流れを、注意点や費用などとあわせて解説します。

この記事の要約

・廃業とは、経営活動を継続することが困難になり、経営者の判断で事業を終了させること
・債務超過、業績悪化や運転資金の不足、経営者が廃業を希望したの3つが廃業となる3つのタイミング

廃業とは

廃業とは、何らかの理由で経営活動の継続が困難となり、経営者の判断で事業を終了させることです。経営者が自主的に経営活動をやめるという点で、倒産や破産とは区別されます。

国内企業の廃業率は2010年度から減少傾向にあったものの、コロナショックによって深刻な打撃を受けた企業が多く、近年では廃業数が増加傾向にあります。

帝国データバンクの全国企業「休廃業・解散」動向調査(2023)によると、2023年の休廃業・解散は5万9,105件で、前年比10%増となりました。

なお、2023年は、コロナ禍の経営ダメージを緩和する支援制度を活用した企業が、融資の返済を開始した時期でもあります。その期間での業績回復を図ったものの、物価高や人件費の高騰などの新たな問題がのし掛かり、あきらめ廃業を選ぶ経営者が多かったようです。

[出典:帝国データバンク「全国企業「休廃業・解散」動向調査(2023)」]​​

なお、廃業するタイミングには、主に3つの種類があります。

債務超過・業績悪化のタイミング

債務超過とは、企業の負債が売掛金などを含む資産の総額を上回る状態のことです。この状態に陥ると、すべての資産を売却したとしても借金や固定費を支払うことができず、倒産の危機に直面します。

債務超過は、一般的に業績が悪化した場合に起きやすいシチュエーションです。企業としての信用力の低下につながり、資金繰りも困難になります。

そのため、業績回復に必要な投資や改革が行えず、結果として競争力を失ってしまうのです。

経営者が廃業を希望したタイミング

経営者が廃業を希望するタイミングは、資金や業績の問題だけではなく、経営者の心理的・環境的な要因も関与します。主な要因としては、以下のようなものがあげられます。

  • 経営者の高齢化
  • 人手不足
  • 家庭の事情
  • 後継者の不在
  • 技術継承の問題
  • 顧客や販売先の減少

その他にも経営者は自分の意思だけでなく、周囲の状況や将来の見通しも考慮して、最適な廃業のタイミングを見極める必要があります。

運転資金が不足したタイミング

経営活動に必要な運転資金が不足すると、企業の存続に直結する重大な問題です。運転資金の不足は売上の減少を招き、さらに運転資金が不足するという悪循環に陥ります。

この問題の打開策としては売掛金の回収を早める、借入を増やすなどがありますが、いずれも対処療法でしかありません。そのため、業績回復による本質的な解決が難しくなった場合、廃業を決断することになるでしょう。

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【法人】廃業手続きの流れ

法人の廃業手続きには、主に以下の9つのステップがあります。

  1. 営業を終了する日を決める
  2. 社内外に廃業を知らせる
  3. 株主総会で解散決議と清算人を選定する
  4. 解散登記と清算人選任登記をする
  5. 廃業届出を提出する
  6. 官報で解散公告する
  7. 債務を清算する
  8. 解散確定申告をおこなう
  9. 清算結了登記をおこなう

1.営業を終了する日を決める

廃業の手続きをおこなう際、まずは事業を計画的に停止するために営業終了日を決定します。

関連各所への報告や清算の手続きなどをスムーズに処理するためにも、営業終了日までは数ヶ月間ほどの猶予期間があることが望ましいでしょうまた、取引先に迷惑がかかったり、在庫が余りすぎるタイミングで営業を終了したりしないように注意する必要があります。

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2.社内外に廃業を知らせる

営業終了日を決めた後は、社内外のステークホルダーに対して挨拶状を送付し、廃業する旨を伝えましょう。

挨拶状には廃業の時期や理由だけでなく、廃業に伴う取引の終了や未払金の支払いなど、必要な手続きの内容を具体的に伝えることが重要です。

3.株主総会で解散決議と清算人を選定する

株式会社を廃業する場合、会社法により株主総会での解散決議が必要で、株主の3分の2以上の賛成が求められます。

解散が承認された後は、清算人の選定をおこないます。清算人とは、法人の財産を換価し、債務の弁済を遂行する担当者です。定款に記されていない場合、一般的には代表取締役が選出されます。

4.解散登記と清算人選任登記をする

廃業には、法務局に対する解散登記と清算人選任登記が必要です。登記は解散日から2週間以内におこなうことが義務付けられています。

解散登記と清算人選任登記には、主に以下の書類が求められます。

  • 登記申請書
  • 解散決議の議事録
  • 定款
  • 清算人の就任承諾書
  • 株主リスト
  • 印鑑届出書
  • 清算人個人の印鑑証明書

また、債務超過の状態ではない場合は、株主へ残余財産を分配しなければなりません。分配の際は、債権者間で不公平がないように調整する必要があります。

5.廃業届出を提出する

次に税金関連の手続きをおこなうために、所轄の税務署に対して廃業届を提出します。具体的には異動届出書、事業廃止届出書、給与支払事務所等廃止届が必要です。

6.官報で解散公告する

法人を廃業する場合、債権者に対して官報による解散公告をおこなわなければなりません。掲載期間は2ヶ月以上で、債権回収のための猶予を設けることが会社法で義務付けられています。

7.債務を清算する

廃業における債務の清算とは、清算人が法人の資産と負債を整理し、資産の売却を経て債務の弁済をおこなうことです。

余剰財産がある場合は株主に分配するため、清算人は決算報告書を作成し、株主総会の承認を得る必要があります。

8.解散確定申告をおこなう

解散確定申告とは、法人が解散したことを国税庁に届け出ることです。解散日の翌月から2ヶ月以内に申告をおこない、法人の税務上の存続期間を終了させます。

9.清算結了登記をおこなう

清算結了とは、債権者への支払いや余剰財産の分配が完了し、株主総会で清算手続きの承認を得た状態のことです。清算結了後は、2週間以内に法務局に対して清算結了登記をおこなう必要があります。

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【個人事業主】廃業手続きの流れ

個人事業主が廃業をおこなう場合、手続きの流れは法人と部分的に異なります。

ここからは、個人事業主の廃業手続きの流れを紹介します。

1.事業を終了する日を決める

最初におこなうべきことは、事業の終了日を決めることです。事業終了日は、事業の種類や規模によって異なりますが、確定申告のタイミングを考慮して税務上の事業年度の終了日と合わせることが一般的です。

2.関係各所に廃業を知らせる

事業終了日が確定した後は、顧客や取引先などの関係者に対して、廃業する旨を通知しましょう。

特に従業員を雇用している場合は、給与や税金の支払いに関する手続きが必要なため、可能な限り速やかに廃業の通知をおこなうべきです。

3.廃業に関する書類を提出する

個人事業主が廃業する際は、税務署や地方自治体に書類を提出する必要があります。主な提出書類は以下の通りです。

  • 個人事業の開業・廃業等届出書
  • 所得税の青色申告の取りやめ届出書
  • 事業廃止届出書
  • 給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出書
  • 所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請書

これらの書類は、廃業後の税金の計算や納付に影響するため、正確に作成したうえで期限内に提出しましょう。

4.負債と資産を整理する

個人事業主の廃業には負債と資産の整理が必要ですが、その方法は法人とは異なります。

法人は会社の財産を売却して負債を返済しますが、個人事業主の場合は自分自身が廃業するため、個人の資産を売却してでも負債を返済しなければなりません。そのため、個人事業主は廃業前に負債と資産の状況を正確に把握し、返済計画を立てることが大切です。

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【法人】廃業手続きに必要な費用

法人の廃業には、複数のプロセスにおいて費用が発生します。ここでは、法人の廃業手続きに必要な費用を詳しく解説します。

登記に関する費用

法人の廃業には複数の登記が必要で、その際に登録免許税が発生します。それぞれにかかる費用は以下の通りです。

登記種目費用
解散登記30,000円
清算人の選任登記9,000円
清算結了登記2,000円

官報公告の掲載費用

債権者に対して廃業の意思を明らかにするため、掲載が会社法で義務付けられている官報公告には、1行あたり3,589円(税込)の掲載費用が発生します。

一般的に10行前後で公告を掲載することが多いため、おおよそ35,890円(税込)程度の金額がかかる計算になります。

専門家への依頼費用

廃業手続きを進めるうえで、社内の人間だけでは対応が難しいシーンも出てくるでしょう。

特に登記や清算業務などは、司法書士や税理士などの士業の専門家の知見が必要になってくることが多いです。事業の規模や依頼内容の難度によって変動しますが、士業専門家へのおおよその依頼費用は以下の通りです。

専門家の種類依頼費用
司法書士50,000円〜10万円
税理士15万円〜30万円

設備処分に関する費用

廃業を進める際は、不要なオフィス家具や機材の撤去が必要です。

設備の種類や数量、処分方法によっては数万円で収まりますが、事業規模が大きくなると1,000万円以上の費用が発生することもあります。また、商品や原料などの在庫が残っている場合、売却・寄付などで費用を最小化することが大切です。

売却が難しい場合は廃棄物処理業者に廃棄を依頼する必要があり、在庫処分したいものの種類などに応じて費用が発生します。

不動産の原状回復に関する費用

オフィスを賃貸で契約していた場合、退去時に原状回復が必要です。

費用は物件の種類や規模、契約内容や使用状況によって異なりますが、一般的に1坪あたり数万円〜10万円程度といわれています。特に内装工事などをおこなっている場合は、費用が増す可能性があるでしょう。

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【個人事業主】廃業手続きに必要な費用

個人事業主は法人企業と異なり、登記や官報公告などの法的な手続きが発生しないため、発生する費用は最小限に抑えられます。事業所が自宅を兼ねている場合は、退去費用も発生しません。

発生する主な費用は、士業専門家に相談した場合の費用、在庫や備品の処分費用、従業員を雇用している場合の退職金などです。

経営者は廃業の手続きやタイミングを理解しておこう

​​経営者が廃業を決断するタイミングは複数ありますが、いずれも慎重に廃業の手続きを進めていくことが重要です。

従業員に加え、顧客や取引先との契約を円満に終了するためにも、廃業の旨を伝えたうえでの誠実な対応が求められます。本記事を参考に廃業の手続きや費用感を理解し、計画性をもって進めていきましょう。

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