経営の多角化とは?メリット・デメリットや事例を詳しく解説
経営状況や市場ニーズの変化に対応するために必要な「経営多角化」。既に多角化に成功し大きな利益をあげている大手企業も存在しますが、そもそも経営の多角化とはどのような状態をさすのでしょうか。経営の多角化の意味、そして、メリット・デメリット等を詳しく解説します。
目次
経営の多角化とは?
近年は消費者ニーズの多様化やプロダクトライフサイクルの短命化が進行しており、単独事業に注力することに対する経営リスクが高まっています。その打開策として注目されているのが経営の多角化です。
経営の多角化とは、既存事業と異なる市場に進出し、事業活動を拡張する成長戦略です。
経営の多角化を通じて新規事業を立ち上げることで経営リスクを分散し、経営資源の共有化による範囲の経済性(単独事業では実現できないコストメリットを得ること)の確立が期待されています。
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経営多角化の分類
経営多角化は、既存事業との関連性や成長戦略の方向性に応じて、4つのタイプに分類されます。具体的には「水平型」「垂直型」「集中型」「コングロマリット型」の4タイプです。
経営多角化はタイプによって進め方が異なるため、自社に適した戦略を選びましょう。
水平型
水平型は、企業が保有するノウハウを活用し、新たな製品・サービスを既存事業と似た市場で展開する戦略です。既存の生産技術や販売ルートを活かせることから、新規事業を低コストで立ち上げたり、既存事業とのシナジー効果を高めたりする場合に用いられます。
<具体例>
- 二輪車メーカーが四輪車を生産する
- スマホメーカーがタブレット端末を生産する
垂直型
垂直型は、バリューチェーンの川上・川下に拡大して事業を展開する戦略です。既存事業と類似した市場を対象とするため、既存の顧客や取引先との親和性が高く、事業を軌道に乗せやすいのが垂直型のメリットです。
一方で、既存事業にはないノウハウや設備が求められる場合が多いため、水平型と比べるとコスト面での負担が大きくなるリスクがあります。
<具体例>
- アパレルショップが製販一体のSPA(製造小売業)へ
- 食品小売業が外食産業に進出する
集中型
集中型は、これまでに培った技術・ノウハウを、既存事業と関連性の少ない市場に投入する戦略です。既存の経営資源を有効活用し、未開拓分野に進出することで新たな顧客層を獲得できるのが集中型のメリットですが、新規顧客の獲得には、新たな製品開発力やマーケティング能力が求められます。
<具体例>
- 竹炭メーカーが化粧品業界に参入する
- カメラのレンズ技術で医療用レンズを開発する
コングロマリット型
コングロマリット型は、既存事業と関連性のない市場に新規参入する戦略です。経営リスクの分散における効果が高く、成功すれば大きなリターンを獲得できます。
一方で莫大な初期投資が必要で、他の多角化タイプと比べて新規事業を展開するリスクが大きいのがデメリットといえるでしょう。そのため、近年ではM&Aで事業を買収するケースも増えています。
<具体例>
- ECモール事業者が金融ビジネスを展開する
- 家電メーカーがコンテンツビジネスを展開する
経営多角化のメリット
2023年時点で国内企業の平均寿命が23.3年といわれるなか、経営多角化によって新規事業を立ち上げることは、企業にとって複数のメリットがあります。
[出典:株式会社東京商工リサーチ「平均寿命23.3年~2022年業歴30年以上「老舗」企業の倒産~」]
利益の拡大が期待できる
経営多角化によって市場を拡大・変更することは、企業にとって新規顧客の開拓につながります。これにより、企業は新たな収入源を確保し、利益の拡大が期待できるのです。
また、類似市場に進出した場合、既存事業のサービスが付加価値となり、競争力を高める効果もあります。
ビールメーカーを例とした場合、自社のビールを軸にビアホールを展開することで、ブランド力を高めることも可能です。これが結果的に競争優位性として機能するのです。
経営リスクを分散できる
ビジネス環境は世界情勢や消費者ニーズによって日々変化します。法改正や破壊的イノベーションなど、外的要因による予測不能な変化に巻き込まれることもあるでしょう。
この際、単独事業だけに注力していると経営不振に陥りやすくなります。しかし、経営多角化によって収益の柱が複数あれば、経営リスクを分散できるのです。
相乗効果が期待できる
企業が新しい事業領域に進出することで、既存事業との相互作用により、相乗効果が期待できるのが経営多角化のメリットです。
特に類似市場で新規事業を展開した場合、新規事業で得た技術やノウハウは既存事業に応用しやすくなります。また、販路や生産を共有できれば、コスト的にもプラスに働くでしょう。
さらに新規事業での成功は、企業のブランド力を高めます。これが結果的に既存事業の競争力を高めることにもつながるのです。
製品のライフサイクルに対応できる
経営多角化で異なる市場に参入すると、製品のライフサイクルの変化に対応しやすくなります。
製品のライフサイクルとは、製品が市場に投入されてから廃止されるまでに通過する4つの段階(導入期・成長期・成熟期・衰退期)を指す言葉です。
ライフサイクルの4段階は、それぞれ製品の需要や競争状況が異なります。市場が縮小し、売上が減少する衰退期のタイミングで、別の市場の製品が売上・利益が拡大する成長期に入ると、安定した経営が可能です。
これにより、企業は持続的な成長が見込めるようになります。
社員のやる気向上が期待できる
一般的に企業の組織図はピラミッド型であるがゆえに、上のポストが埋まりがちです。この閉鎖的なキャリアパスに対して、経営多角化はプラスの影響を与えます。
経営多角化で新規事業が立ち上がると、新たなポストが設けられ、社員には新たな知識・経験を得るチャンスが生まれます。これにより、スキルアップ・キャリアアップの機会が拡張されて、社員のやる気の向上が期待できるのです。
また、経営多角化で異なる事業が展開されると、企業活動が世の中に与える影響度も大きくなります。このことから自分自身の仕事が多様な分野を支えていることを実感し、社員が仕事への意義や誇りを感じやすくなるでしょう。
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経営多角化のデメリット
リスクヘッジやブランド力の向上など、複数のメリットがある反面、経営多角化への取り組みは、必ずしもプラスに働くとは限りません。
デメリットを軽視すると、逆に経営状態を悪化させるリスクもあるため、注意が必要です。
費用がかかる
経営多角化で新規事業を立ち上げることは、どれだけ初期投資が少なかったとしても一定の費用がかかります。
既存の技術・ノウハウを応用して類似市場に参入した場合、研究開発費や設備投資は抑えられても、市場調査や宣伝・販売活動の費用が発生します。
特に新規で参入する市場では、自社の製品・サービスの認知がありません。製品・サービスに対する消費者の認知度を上げ、購買までの態度変容を促すためには、入念な市場調査と宣伝・販売活動が不可欠です。
したがって、初期投資力が乏しい状態での経営多角化は、事業のリスクを高めることにもなるでしょう。
企業価値が低下する可能性がある
経営多角化は一貫性を欠如しやすく、結果的に企業価値を低下させるリスクが全くないとは限りません。これは企業が新たな市場に進出することで、企業の社会的意義やアイデンティティが揺らぎ、消費者の混乱を招くためです。
社会的意義やアイデンティティが明確で、企業価値が確立されている場合、企業は消費者に対して一貫したメッセージを届けられます。これが顧客ロイヤリティに対してプラスに働き、売上にもつながりやすくなるのです。
だからこそ、経営多角化では社内の技術・ノウハウだけでなく、消費者との関係性にも目を向けることが大切です。
特に既存事業で消費者との良好な関係が築けている場合、事業計画や市場調査を入念におこない、消費者の信頼を損なわないように注意しましょう。
多角化が失敗する可能性がある
経営多角化は新規事業を立ち上げる性質上、失敗する可能性はゼロではありません。
- 市場調査や事業計画の不備
- 資金調達や技術開発力の不足
- 既存事業との軋轢
これらの要素に加えて、新型コロナウイルス感染拡大など、外的要因による予期せぬ事態に見舞われることもあるでしょう。また、経営多角化はリソースの分散や管理の複雑化により、経営活動の非効率化につながる可能性もあります。
新規事業で成功するには、既存事業とは異なる専門的な知識や経験が必要です。この専門性が不足すると経営判断の遅れやミスが生じ、結果として損失の拡大を招くこともあるでしょう。
経営多角化の成功事例
ここでは経営多角化の成功事例として、コンビニエンス事業・エレクトロニクス事業・写真フィルム事業を起点に、経営多角化を実践した3社の事例をご紹介します。
【成功事例1.】株式会社セブン‐イレブン・ジャパン
大手コンビニチェーンのセブン‐イレブンを全国展開する株式会社セブン‐イレブン・ジャパンは、経営多角化でメーカー事業と金融事業に進出しています。
メーカー事業ではプライベートブランドを立ち上げ、独自の価値提供による差別化を図りました。価格競争では販管費率の限界でスーパーに太刀打ちできないため、プライベートブランドによる松竹梅戦略を駆使し、コンビニの価値を向上させたのです。
金融事業ではセブン銀行を設立し、コンビニ内に出張所とは異なる新たなアプローチを実施しました。これによりATMの営業時間の制約を取り払い、24時間のATM利用を一般化したのです。
このように複数の事業を展開することで、同社は本業であるコンビニの価値を高めることに成功しています。
【成功事例2.】ソニーグループ株式会社
コングロマリット経営の代表例といわれるソニーグループ株式会社は、エレクトロニクス事業を起点に多種多様な事業を展開しています。
家電製品をはじめ、ゲーム・音楽・映画などのエンタテインメント事業、銀行・生命保険などの金融事業といった幅広い市場に参入しているのが同社の特徴です。技術力を応用できる分野から事業を展開し続けることで、幅広い市場への進出を実現しています。
この経営多角化により、家電製品の売上が低迷した場合でも、エンターテイメント事業や金融事業などの他事業の売上に支えられ、経営の安定化につながっているのです。
【成功事例3.】富士フイルム株式会社
写真フィルム事業の衰退を見据え、経営多角化を早期に進めたのが富士フイルム株式会社です。
同社はコア技術であるナノテクノロジーを応用して、液晶フィルムや化粧品・医薬品などの市場に参入しています。化粧品ブランド「ASTALIFT」のサプリメントでは、写真の劣化を防ぐ抗酸化技術に着目し、肌の老朽化に対するアプローチを実現しました。
このようにコア技術を別の分野に活かしながら、生産・販売などの機能を効率化することで、同社は範囲の経済性を獲得しています。
経営の多角化はメリット・デメリットをよく理解してから行おう
経営多角化は4つの種類に分けられ、リスクの分散やブランド力の向上などのメリットを生み出します。一方で、短期的にみても初期投資が必要で、一貫性を失った多角化を実施すると企業価値が下がることにもなりかねません。
経営多角化を実践する際は、メリット・デメリットの両方を理解し、事業計画や市場調査などの準備を入念に行ってから取り組みましょう。
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