経営ビジョンとは?作り方や掲げるメリット・経営理念との違い
多くの有名大企業も掲げる「経営ビジョン」。変化が激しく将来の予測が困難な時代に安定経営を実現するためには、経営ビジョンの策定が必要です。本記事では、経営ビジョンとは何か、経営理念との違いや策定方法などを解説していきます。
目次
経営ビジョンとは?
経営ビジョンとは、企業のあるべき姿や将来像を明示したものです。
経営ビジョンが必要とされる背景には、先が読めず不確実性の高い時代であることが考えられます。そのため、ビジネスにおいてもこれまでのやり方で通用するとは限らず、状況によって計画を変更する柔軟性が求められているのです。
経営ビジョンで企業が目指す姿を設定しておくことで、先行きが不透明な場合にもさまざまな施策を行いながら目標に向かっていくことが可能になります。また、経営ビジョンによって企業の価値観を示すことは、社員や投資家などのステークホルダーからの信用を得ることにもつながるでしょう。
経営ビジョンと経営理念の違い
経営理念とは、企業の存在意義や使命を価値観として明示したものです。このことから、経営理念の内容には、企業活動の規範や姿勢として示されることが多い傾向にあります。
一方、経営ビジョンでは理念をもとに具体的な活動方針を示すのが一般的です。また、一度策定したら基本的に変わることのない経営理念に対し、経営ビジョンは環境の変化などに応じて柔軟に調整していくことが求められます。
経営ビジョンを掲げるメリット
経営ビジョンは、社内外の関係者に対して効力を発揮し、事業戦略や人事戦略にもよい影響を与えるのが特徴です。ここからは、経営ビジョンを掲げるメリットについて見ていきましょう。
組織力強化が期待できる
企業活動には定量的な目標が不可欠ですが、目標値は部門ごとに異なります。そのため、連携や協力を阻む要因にもなり得ます。
その点において、経営ビジョンがあれば、全部門のメンバーで共通の目標を持って同じ方向へ進むことができるでしょう。結果として、部門間でのコラボレーションが促進され、組織力の強化が期待できます。
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社員の意欲向上が期待できる
経営ビジョンは、社員にとって仕事の意義や価値を認識するきっかけになります。
自分が何のために働いているのかを理解することで、社員が仕事に対する自信や誇りをもてるようになります。これにより、社員のモチベーションや責任感を高められるのが、経営ビジョンを掲げるメリットです。
仕事に対するモチベーションや責任感が高まると、社員は創造性や主体性をもって仕事の改善に取り組むようになります。これは業績だけでなく、企業に対する社員の帰属意識にも好影響を与え、離職率を低下させることにもつながります。
顧客・取引先との信頼関係強化が期待できる
経営ビジョンは企業の将来像を明示するものであり、顧客・取引先などのステークホルダーへのアピール材料としても機能します。経営ビジョンが魅力的であるほど、顧客や取引先の興味を惹きやすくなるでしょう。
逆に経営ビジョンの抽象度が高い、あるいは実現可能性が低い状態だと、顧客や取引先は企業に不信感を抱き、距離を置きたがるかもしれません。
経営ビジョンを通じて企業が顧客や取引先に意思表明することは、信頼関係を強化するきっかけにもなるでしょう。
優秀人材の確保につながる
求職者は企業選定の際に、仕事観やキャリア観との親和性をチェックします。
そのため、経営ビジョンで明示された企業の将来像が自分自身のキャリア観とマッチしたとき、企業に対する入社意欲が高まるのです。
経営ビジョンに共感した求職者は、入社後も高いモチベーションやロイヤリティをもって働くことができます。また、給与や福利厚生だけで判断して入社するよりもミスマッチが起こりにくくなるでしょう。経営ビジョンを掲げることは、優秀な人材を確保するという人事戦略においても重要な役割を担っているといえます。
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有名企業の経営ビジョンの具体例
ここでは、各業界をけん引するリーディングカンパニーがどのような経営ビジョンを掲げているのかを紹介します。
株式会社ファーストリテイリング
ユニクロやジーユーを傘下に持つ株式会社ファーストリテイリングの経営ビジョンは、「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」です。
服は人種・性別・宗教などに縛られず、世界中の人々が等しく喜び・幸せ・満足を感じる可能性を秘めています。
服による社会との調和を目指すうえで、同社は高品質かつ低価格を実現するファストファッションとしての強みを活かし、グローバルな事業展開を行っています。
[出典:株式会社ファーストリテイリング「FAST RETAILING WAY (FRグループ企業理念)」]
ニデック株式会社(旧日本電産株式会社)
ニデック株式会社(旧日本電産株式会社)は、「100年を超えて成長し続けるグローバル企業」と「人類が抱える多くの課題を解決する世界No.1のソリューション企業集団」を経営ビジョンに掲げています。
小型・精密モータの開発・製造におけるリーディングカンパニーとして、高性能なモータによって人々の生活を支えることが同社の使命です。
科学・技術・技能を結集させることで社会に貢献しつつ、会社や従業員の繁栄を推進していくことを目指しています。
[出典:ニデック株式会社「企業理念」]
ソフトバンクグループ株式会社
「世界の人々から最も必要とされる企業グループ」をあるべき姿として明示するソフトバンクグループ株式会社は、情報革命による人々の幸せの実現を目指しています。
同社は情報革命の資本家として、AIなどのテーマに基づいた戦略的な投資を行っており、画期的なテクノロジーの進歩を加速させているのが特徴です。
さらに投資を通じて起業家とのエコシステムを構築し、新たなテクノロジーやビジネスモデルを生み出し続けています。
[出典:ソフトバンクグループ株式会社「ビジョン」]
ANAホールディングス株式会社
航空事業を主軸としたエアライングループであるANAホールディングス株式会社は、「ワクワクで満たされる世界を」という経営ビジョンを掲げています。
同社の航空ビジネスの舞台となる空に焦点を当て、ヒト・モノ・コトのつながりを通じて社員や顧客、社会の可能性の拡大を目指しています。
[出典:ANAホールディングス株式会社「経営理念・ビジョン・行動指針」]
トヨタ自動車株式会社
自動車メーカーとして世界市場をけん引するトヨタ自動車株式会社は、「可動性(モビリティ)を社会の可能性に変える。」という経営ビジョンを掲げています。
人やモノにおける移動の量や質を上げることが、人々の可能性を広げ、結果的に人類と地球の持続可能な共生につながると考えています。
[出典:トヨタ自動車株式会社「トヨタフィロソフィー」]
株式会社ローソン
コンビニエンスストアチェーンを展開する株式会社ローソンは、「目指すは、マチの”ほっと”ステーション。」という経営ビジョンを掲げています。
同社はフランチャイズによる店舗運営を行う性質上、全国各地に店舗を構えるフランチャイズオーナーと店舗のあるべき姿を共有することが欠かせません。
同社の経営ビジョンは運営指針を示すローソンWAYとともに、チェーン店舗のあり方に大きな影響を与えているでしょう。
[出典:ローソン「グループ理念・ビジョン・ローソンWAY」]
ライオン株式会社
ライオン株式会社は「より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する」というパーパスのもと、2030年に向けた経営ビジョンとして「次世代ヘルスケアのリーディングカンパニー」を掲げています。
ヘルスケアは習慣化が大切な領域です。同社はより良い習慣づくりを発展させることでサステナブルな社会に貢献し、心と身体のヘルスケアを実現しようとしています。
[出典:ライオン株式会社「中期経営計画」]
サッポロホールディングス株式会社
飲料における多彩なブランドを展開するサッポロホールディングス株式会社は、「全ての事業が提供する時間と空間で、人々と地域社会のWell-beingに貢献」を掲げています。
製造業・外食業・不動産業などのグループシナジーを活用して、自然・社会・心の豊かさを追求しています。
[出典:サッポロホールディングス株式会社「経営ビジョン・経営計画」]
楽天グループ株式会社
「グローバルイノベーションカンパニー」を目指す楽天グループ株式会社は、常識を覆すイノベーションを生み出し続けることで、人々や社会に大きな影響を与えようとしています。
この壮大なビジョンを成し遂げるために、楽天主義と呼ばれる価値観・行動指針を示し、地域との共生を図りながら企業価値を高め、社会の発展に貢献していくことを目指しています。
[出典:楽天グループ株式会社「企業理念」]
株式会社日立製作所
株式会社日立製作所はグローバル市場での豊富な経験を活かして、社会課題をイノベーションで解決し、活気ある世界の実現を目指しています。
昨今では、資源・エネルギー・環境などの社会課題が世界的に叫ばれている状態です。これらの社会課題と真摯に向き合い「Inspire the Next」のスローガンのもと、持続可能な社会の実現に向けた強い意思を示しています。
[出典:株式会社日立製作所「日立グループ・アイデンティティ」]
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経営ビジョンの作り方
経営ビジョンを策定する際には、押さえておきたいポイントがいくつかあります。ここからは、経営ビジョンの作り方について具体的に解説します。
1.組織の現状を分析・把握する
ステークホルダーから信用を得るためにも、環境分析における現状の把握が不可欠です。組織の置かれている環境を知らなければ、あるべき姿や将来像が抽象化してしまうでしょう。
環境分析には、市場全体に影響を与えるマクロ環境と、自社のビジネスに直接的に影響を与えるミクロ環境があり、それぞれ分析方法が異なります。
代表的なフレームワークは、マクロ環境だとPEST分析、ミクロ環境だとフォース分析が挙げられます。
2.組織が果たすべき社会的な任務を考える
自社の事業領域の対象となる顧客層にとって、重要な課題や求めていることは何かを考えることも大切です。昨今はESG投資やエシカル消費など、社会課題への貢献度がステークホルダーの判断材料に加わっています。このような状況下で自社の売上・利益ばかりを追求すると、投資家や消費者の共感を得ることができません。
また、経営ビジョンと経営理念がずれていないかの確認も必要となります。経営理念をベースにビジョンを策定し、一貫性のある主張を心がけるようにしましょう。
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3.経営ビジョンを具体化する
経営ビジョンが社内外のステークホルダーから共感されるためには、ユニークでキャッチーという要点を押さえつつ、イメージしやすい表現を使うことが重要です。
また、経営ビジョンがあまりにも現実離れした理想論になると、具体的な戦略や行動指針が描けません。他社との差別化や競争優位を明確に示し、組織のアイデンティティやブランドイメージを絡めることも念頭に置きましょう。
感情面に訴えかけるメッセージやストーリーテリングを用いることで、ステークホルダーの関心を高めることが期待できます。
4.経営ビジョンを社内へ浸透させる
経営ビジョンは策定して終わりではありません。社員の共感を得られなければ、せっかく掲げた経営ビジョンも単なる妄想となってしまいます。
経営ビジョンが真に意味をもちはじめるのは、社内に浸透し、社員が共通の目標に向かって進んでいる実感を得ることができた瞬間です。
そのためにも中経経営計画や全社会議、研修や社内メディアなどを通じて、経営ビジョンに沿った取り組みや成果を紹介し、経営ビジョンを社内に定着させていきましょう。
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SDGsやカーボンニュートラルなど、世界規模での取り組みが加速する現代において、経営ビジョンは重要な役割を担っています。
社内外のステークホルダーから信用を得るためにも、組織の売上や利益に固執せず、社会に対してどのようなポジションで貢献できるのかを示すことが重要です。本記事で紹介した具体例や作り方を参考に、経営ビジョンについて考えてみてはいかがでしょうか。
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