人材マネジメントとは?その重要性や運用上のポイント
人材マネジメントは企業を経営する上で欠かせない施策であり、活用方法によって業績が大きく左右されることもある重要な仕組みです。そこで本記事では、人材マネジメントが注目されている社会的な背景や基本要素、そのねらいについて紹介していきます。さらに人材マネジメントの実践プロセスや評価制度構築のポイントなども詳しく解説していきます。
監修者 川地 忍 川地社労士事務所 代表・福井キャピタル&コンサルティング エグゼクティブアドバイザー 大手鉄道会社で総合職として勤務し、夫の転勤のため退職。子育てをしながら社会保険労務士の資格を取得後、パート、有期雇用、派遣等さまざまな雇用形態で働く。会計事務所では税務・労務に関する実務に約10年間携わり、中堅電気機器メーカーでは、勤務社労士として、人事制度改定や事業譲渡を経験。その後、社会人大学院にてMBAを取得し、独立開業。現在は、福井キャピタル&コンサルティングに参画し、中小企業の課題解決の伴走支援として、人事制度構築や各種研修講師、労務コラムの執筆等を行っている。
目次
人材マネジメントとは?
人材マネジメントとは、企業が掲げる理念や経営目標を達成するために人材を有効活用し、従業員と企業のパフォーマンスを最大化させる仕組みのことです。具体的には、採用・教育・評価・報酬などの制度などが対象です。
社会情勢やビジネス環境が大きく変化する中で、社内の限りある人的リソースを最大限に活用することがこれまで以上に重要になってきています。
企業業績の拡大に貢献するような適切な人材を採用して育成し、納得性のある評価によって従業員のモチベーションを高め、適材適所で人員を配置することで、組織力を強化することが人材マネジメントの要諦です。
人材マネジメントの重要性と社会的背景
ここでは、企業が直面しているビジネス課題を、その社会的背景から解説します。
慢性的な人材不足
少子高齢化の影響から労働人口が減少傾向にある日本では、慢性的な人材不足に陥っている企業も少なくありません。
限られた人的リソースを有効に活用するためには、従業員の生産性の向上が求められます。そのため、生産性が高く自律的に働くことができる人材の育成を目指した人材マネジメントの重要性が高まっているのです。
必要とされる人材像の変化
従来、企業は終身雇用の前提のもと、幅広い知識やスキルを備える「ゼネラリスト」の養成に力を入れてきました。
しかし、消費者のニーズが多様化し、テクノロジーが進化を続ける現代の企業においては、その前提が覆されつつあります。現在のビジネスシーンでは、より高度な専門スキルや知識を備える「スペシャリスト」が求められてきているのです。
時代とともに企業が必要とする人材像が変化してきたことから、「スペシャリスト」を採用・育成するという側面においても、人材マネジメントが注目されています。
多様化する働き方
「働き方改革」が推進されている近年においては、ワークライフバランスを重視して職場を選ぶ求職者も増加傾向にあります。また、在宅ワークや副業など、新しい働き方も浸透しつつあります。
企業が多様化する働き方・労働観を尊重することは、従業員のモチベーション維持や生産性の向上にもつながります。
社内体制や評価制度を整備することで柔軟な働き方を可能にすることは、多様な人材の確保と活躍を後押しします。そのためにも企業はこれまでの人材管理のあり方を見直し、新しい働き方に対応した取り組みを推進していく必要があるのです。
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人材マネジメントを構成する基本要素
人材マネジメントの具体的な内容とは、どのようなものなのでしょうか。ここでは、人材マネジメントに欠かせない6つの基本要素を紹介します。
採用
自社の経営戦略に、必要な人材像を明確に定めた上で、既存の人材ではまかなえない必要な人材を外部から雇い入れます。
継続的な新卒採用と並行してキャリア採用として適切な人材を採用できれば、企業としての競争力が向上し、市場における優位性も高まるでしょう。
評価
従業員の働きに見合った適切な評価を行います。評価制度の構築にあたっては、以下の点が重要です。
- 企業方針に合った適切な評価基準を示す
- 職種や役職ごとに、期待される役割を定義する
納得性のある適切な評価制度を整備することで、従業員のさらなるモチベーションアップも期待できます。
配置
従業員の適性に応じた部署異動や、職種転換・出向などを行います。従業員のスキルやモチベーションを向上させるためにも、評価結果のフィードバックや、本人のキャリアプラン等についての意向も踏まえ、個人の能力が最大限に発揮できる配属先を見つけることが大切です。
適材適所に人材を配置することで、組織全体の生産性の向上にもつながります。
育成
長期雇用が前提ではなくなっている昨今においては、企業主体の指導・育成のみならず、学習意欲が高い従業員の自律的な学びをサポートする体制を構築する必要があります。
具体的な例としては、次のようなものが考えられるでしょう。
- 資格取得のための費用援助
- 関連書籍購入の補助
- 社内勉強会の活性化
- 外部セミナー・研修会への参加推進
従業員が、このような機会を通じてスキルアップし、成長実感を得られることは、組織に対してのエンゲージメントへの向上にもつながります。
報酬
報酬制度を構築する際には、企業として何に対して報酬を支払うか(姿勢・行動・能力・業績など)を明確にする必要があります。例えば、職務遂行能力であれば職能給、職務内容や職責であれば役割給などを選択し、また、業績の達成度合に応じたインセンティブ等も含めて検討する必要があるでしょう。
評価と報酬の接合なども考慮しながら、会社が目指すものとしての成果が正しく反映されるような報酬制度とすることが重要です。適切な報酬の仕組みは、従業員一人ひとりの労働意欲の向上やパフォーマンスの最大化につながります。
福利厚生
従業員にとって関心が高い福利厚生制度を整えることも重要です。仕組みを構築する際は、以下の点を参考とすると良いでしょう。
- 従業員からのヒアリング
- 他社制度との比較
福利厚生の充実は、従業員のワークライフバランスの向上にもつながります。それによって優秀な人材の採用や既存従業員の定着率向上も期待できます。
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人材マネジメントの3つのねらい
上記6つの基本要素を内容とした施策を通じて、企業が人材マネジメントを推進するねらいは、大きく3つあります。
1.企業全体の成長
まずひとつ目は、企業全体の成長を促すことです。人材マネジメントを推進することにより、以下のような効果が期待できます。
- 企業理念や経営目標達成に向けた道筋を描くことができる
- 企業が目指すべき方向に進んでいくために必要となるキーパーソンを確保できる
- 組織の底上げにつながる
- 企業の将来を見通す力が備わる
そのためにも、従業員と企業が理念を共有することが非常に重要であり、同じ方向を向いて成長しながら進んでいくことは、企業全体の持続的な発展につながっていくのです。
2.従業員のエンゲージメント向上
ふたつ目は、従業員のエンゲージメント向上です。人材マネジメントを通して従業員は、企業経営を担う上層部の考えや、現在の経営目標を正確に把握できます。
人材マネジメントによって経営トップ層と従業員の相互理解が深まることは、従業員にとって、組織の課題を自分事として考えることにつながります。例えば、自らの労働環境をより良いものに改善するための提案を行い、現状に対して抱えている不満や悩みが解消されたような場合には、組織に対するエンゲージメントも上昇するでしょう。
このような従業員のエンゲージメントの向上は、経営目標の達成や、企業利益の拡大に対して、大きな力となるのです。
3.自律型人材の育成
自律型人材を育成できる点も人材マネジメントのねらいのひとつです。上司などからの指示を待つことなく、自ら判断して正しい行動ができる従業員のことを「自律型人材」と呼びます。
人材マネジメントによって企業理念や経営目標を正しく理解し、適材適所に配置された従業員は、能力を存分に発揮できます。そして成功体験を重ねることで、従業員はあらゆる課題に対する最適解を導き出すために、自らの知識や経験に基づいて行動をとることが可能となるのです。
つまり、自律型人材は、新たな課題やリスクに自ら気づくことができ、迅速かつ適切に対処することができるようになります。常に現状の改善を意識しながら業務を行うため、ほかの従業員に対しても良い刺激を与えることになるのです。
このような好循環は、職場全体のさらなる活性化にもつながるでしょう。
企業理念や経営目標は、人材マネジメントの具体的な施策として評価制度や報酬制度に反映されます。従業員が目標達成に向けて、自ら積極的に関わるために欠かせないのは、企業方針の理解であり、お互いの信頼関係です。そのため企業は、従業員に対して丁寧な説明を行うとともに、期待する行動や役割を伝え、従業員の意見にも真摯に耳を傾けるなどの、積極的なコミュニケーションをはかる必要があるのです。
人材マネジメントの7つのプロセス
ここでは、人材マネジメントの実践プロセスを7つのステップに分けて解説します。
- STEP1:企業理念・経営目標・行動指針を定め、従業員に対して発信する
- STEP2:企業の課題を明確にする
- STEP3:課題解決に必要な人材や行動を設定をする
- STEP4:社内の人材状況と不足要件を比較する
- STEP5:不足要件への対処法を計画する
- STEP6:社内で情報共有する
- STEP7:計画を実行してフィードバックを行う
STEP1:企業理念・経営目標・行動指針を定め、従業員に対して発信する
まずは、企業が掲げる企業理念・経営目標・行動指針等について、明確に定め従業員に発信することが大切です。
企業として大事にしている価値観、経営目標についての共通の認識は、組織内のさまざまな課題に対しての共通の判断基準となります。マネージャーや上司が正しく理解し、日ごろの業務の中で部下に対して繰り返し発信していくことが大切です。
STEP2:企業の課題を明確にする
次に企業が抱える課題を洗い出して明確化します。具体的な課題の例としては、以下のようなものが挙げられます。
- 売上目標を達成するための営業力が不足している
- 商圏を拡大したいが、事業を任せられるリーダーがいない
- 多くの人材が退職してしまい、満足な人材育成ができていない
- 労働環境に対する不満から、従業員のモチベーションが低下している
STEP3:課題解決に必要な人材や行動を設定する
課題を洗い出したら、それを解決するために必要となる人材や行動を設定します。「どのような人材が、どのような行動をとれば課題解決できるか」と、具体的に想像できる文章に落とし込みましょう。
文章にする際は、具体的な数字やスキル・知識・マインドを取り込み、行動レベルで課題解決までがイメージできるような状態にしておくことがポイントです。
STEP4:社内の人材状況と不足要件を比較する
自社にとって必要な人材像を定めた後は、現実の人材状況との比較を行いましょう。場合によっては、自社に該当する人材がいないというケースもあり得ます。また、多くの要件が一致するものの、一部のみ不足している、という従業員が候補にあがる可能性もあります。
その場合は、当該従業員に対して教育や育成によって要件を満たすことを期待できるのか、個人のポテンシャルや、教育や育成にかかる期間等も考慮して、見極めることが大切です。
STEP5:不足要件への対処法を計画する
次に、明確化した不足要件への対処方法を検討します。具体的には、以下のような点が挙げられます。
- 想定される候補者に対する教育・育成計画の実施
- キャリア採用の実施
- 既存の従業員の中からの新たな候補者の抜擢
適切な手法を定めたら、予算や日程を細かく考えていきます。
STEP6:社内で情報共有する
立てた計画を社内で共有することも、忘れてはならない重要なポイントです。
一部の経営層や人事だけが詳細を把握しているだけでは意味がなく、現場の協力がなければ効果的な人材マネジメントの実施につながりません。
詳細な計画を決定した後は、各部署とコミュニケーションを図り、情報を周知・共有しておくことが大切です。
STEP7:計画を実行してフィードバックを行う
計画を実行した後は定期的に効果を検証し、反省点や改善点を洗い出しましょう。
- 適切な手法だったか
- 計画に無理な点はなかったか
- 進捗状況は適切に管理されていたか
- 必要な人材像に変化はないか
以上の点について評価と分析を行い、PDCAをまわしていくことが人材マネジメントを行う上で大切です。
人材マネジメントにおける評価制度構築のポイント
ここからは人材マネジメントのうち、重要な制度のひとつである評価制度を構築する上で押さえておくべきポイントを紹介していきます。
企業理念と整合性を持たせる
人材マネジメントの方向性を示す評価基準は、企業理念と整合性のあるものにしなければなりません。両者の間にギャップが生じている場合、従業員は会社に対して疑問を抱き、その行動やパフォーマンスも期待するようなものにならないおそれがあります。
例えば、企業理念として、新しいことに積極的にチャレンジする姿勢を奨励しているにもかかわらず、失敗した場合に大きく減点されるような評価制度であった場合、従業員はどのように感じるでしょうか。
企業理念と評価基準が整合性をもって、従業員の望ましい行動を加速させていくことが、人材マネジメントを成功に導くポイントです。
目標設定のすり合わせと定期的な面談を実施する
従業員自らが目標を設定する際には、上司やマネージャーと方向性をすり合わせ、お互いが合意することが重要です。はじめにしっかりと認識をあわせておかないと、従業員にとって最終的な評価結果が納得のできないものとなってしまいます。
また、定期的な面談を行うことは、進捗確認や設定した目標との「ズレ」を修正する機会にもなり、目標達成へのモチベーションも高まります。
変化に応じてマイナーチェンジを検討する
企業が解決すべき課題は、常に変化していくものです。人材マネジメントを適切に推進するためには、社会環境や社内リソースに合わせて適宜制度を変化させていく必要があります。
企業理念等の変わらないものをしっかりと見据えた上で、制度はあくまでツールであるという認識のもとに、制度内容の確認と見直し、必要に応じて変更もセットで進めていくことが大切です。
評価基準に基づいた評価をする
評価基準に基づいた評価をすることも重要なポイントです。例えば、年齢や性別・国籍などによって評価が左右されるようなことがあれば、従業員は不満を抱くでしょう。
重要なのは、どのような評価基準が設けられているかが明確に開示されており、その基準に基づいた評価が行われること、そしてそれがきちんと説明できることです。
評価者の認識を揃え、協力しながら制度運営を行う
評価制度を実際に運用する際に、評価者の認識合わせと協力は欠かせません。評価者である現場のマネジメント層に評価制度の目的を深く理解してもらい、「望ましい人材像」を共有することや、人によって評価の甘辛がでないように研修を受けて貰うことなど、協力しながら制度を運用していくことが必要です。
また、こうした現場のマネジメント層をとおして、評価基準を具体的な行動レベルに落とし込んで伝えることは、従業員の自発的な行動を促すことにもつながるでしょう。
評価制度で重要なのは、人材マネジメントの方向性と合致した「評価基準」が従業員に認識されていることです。しかし、評価者によって解釈にブレが生じ、その結果に納得できないといった、運用上の問題が多く見受けられます。人材マネジメントの要諦はコミュニケーションにあります。定期的な面談を、お互いの認識合わせや行動や成果の進捗確認の機会とし、本人への適切なサポートによって、自律的な成長を促すことが大切です。
自律型人材の育成のためのツール
人材マネジメントの大きなねらいのひとつは、自律型人材の育成です。学習意欲が高い従業員の自律的な学びをサポートする体制の構築が重要であることは、先に述べたとおりですが、ここからは自立型人材を育成するための支援ツールについて紹介していきます。
1.オンライン研修
インターネット上で開催するオンライン研修は、コスト面や効率面で多くのメリットがあります。オンライン研修には、次の2種類があります。
- 録画型:事前に録画したものを配信する方法
- ライブ配信型:講師が話している様子をリアルタイムに配信する方法
これまで一般的であったリアルでの集合研修に比べ、企業は会議室を準備する必要がなく、参加者も会場へ移動する手間や時間を省けます。さまざまな拠点から、また自宅からの参加が可能であり、場所や時間的な制約が少なく、優れた研修スタイルのひとつです。
2.e-ラーニング
タブレットやPC上で学習できるシステムがe-ラーニングです。基本的なビジネスマナーから資格取得に必要な専門知識まで、幅広い内容をオンライン上で学ぶことができます。
一度システムを導入してeラーニングを提供できる環境を整えれば、従業員は自らの興味や関心に合わせたメニューを、場所や時間に捉われることなく繰り返し学べるため、効率的にスキルアップを図ることが可能です。
3.マネジメントの基本に関する書籍
マネジメントの基本を解説した書籍は数多く出版されています。人材マネジメントの理解を深めるために、書籍から知識を取り入れてみるのもおすすめです。
特にはじめて管理職になった場合の基礎知識や、部下の労務管理、人材育成を行う際に、書籍から知識やノウハウを学ぶことは有効です。人や組織の動かし方から、コーチングの方法、テレワーク時代に即したマネジメントスキルなど、基本から実践までさまざまレベルに応じた学習が可能です。
人材マネジメントで成果を出せる組織を構築しよう
これまで述べてきたように、人手不足や働き方改革の推進など、企業を取り巻く環境は、めまぐるしく変化しています。そのような中で、人材の能力を最大限に活用して業績の最大化を図る「人材マネジメント」は、企業にとってこれまで以上に重要性が増しているといえるでしょう。
本記事で取り上げたポイントを参考に人材マネジメントにかかる施策を推進し、成果の出せる組織の構築を目指してみてはいかがでしょうか。
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人材マネジメントとは、企業理念や経営目標の達成のための人材戦略です。企業をとりまく社会状況の変化を踏まえ、それぞれの企業に適した施策を講じる必要があります。終身雇用・年功序列といった、いわゆる『日本型雇用慣行』は大きく揺らいでいます。知識や技術の陳腐化が加速している現在では、専門性の高い人材の獲得や、多様な価値観を持つ人材の協働といった視点を持ち、自社の人材マネジメントの方向性を検討することが重要です。