ナレッジマネジメントの失敗事例と成功に導くためのプロセス
さまざまな企業で導入が進んでいるナレッジマネジメント。しかし、中には効果的に進められずに失敗に終わってしまうという企業も少なくないのが現状です。そこで本記事では、そんなナレッジマネジメントの失敗事例について、原因や成功に必要なプロセスを詳しく解説していきます。
目次
ナレッジマネジメントの失敗事例
ナレッジマネジメントとは、社員個人が持つ知識・経験・ノウハウといったナレッジを全社員で共有し、企業全体で活用する経営手法のことです。イノベーションを促進し、社員のスキルアップや会社全体の生産性向上につなげることを目的としています。
しかし、ナレッジマネジメントを導入しようとしたものの、うまくいかずに失敗してしまうケースは少なくありません。ナレッジマネジメントの失敗事例から、成功に導くための秘訣を学びましょう。
ナレッジが集まらなかったケース
ナレッジが集まらない場合、ナレッジマネジメントは失敗します。
ナレッジマネジメントを成功させるには、社員が個々で得たノウハウやコツを共有しなければなりません。しかし、ナレッジがなかなか集まらず、ナレッジマネジメントを進められないケースが少なくないのです。
ナレッジが集まらない理由には以下のことが考えられます。
- ナレッジマネジメントに対する社員の理解が不十分
- ナレッジ共有に時間が割けない
- ナレッジを共有する習慣がない
- 自分だけが情報を持っていたい
- 自分には共有すべきナレッジがないと思っている
ナレッジマネジメントの目的を明確にし、全員に共有しない限り、ナレッジは集まりにくいといえるでしょう。
運用ルールを設けなかったケース
ナレッジの運用ルールがない場合も、ナレッジマネジメントはうまくいきません。
運用ルールを設けないと、ナレッジの蓄積が順調に進んでいるように見えていても、実際はバラバラの形式で入力されてしまうおそれがあります。そうなると、現場としては協力しているつもりでも、ナレッジを入力する作業が増えただけで、せっかく蓄積したナレッジを効率的に活用できないという事態になってしまうのです。
ナレッジが活用されなかったケース
ナレッジは集まったものの、活用されなかったケースがあります。
主な原因には以下のことが考えられます。
- ほしい情報がすぐに見つけられない
- 蓄積しているナレッジが古い
また、社員が「暗黙知」をわかりやすく説明できないことも、ナレッジが活用できない原因かもしれません。暗黙知とは個人の経験によって蓄積される知識やノウハウをいいます。それらの暗黙知を言語化し、言葉や図で表せる知識である「形式知」に変換していくことが、ナレッジマネジメントの第一歩といえます。
暗黙知を形式知に変えるためのポイントとなるのは共感です。暗黙知を共有するために、社員個人で持っているノウハウやコツを他の社員が共感できるような環境づくりも必要となるでしょう。
▷【解説】暗黙知と形式知とは?意味の違いや変換する方法をわかりやすく解説
ツールを活用してもらえなかったケース
ナレッジマネジメントのためにツールを導入しても、社員に活用してもらわなければ意味がありません。
導入したツールを活用してもらえないケースとしては以下のことがあります。
- ツールの存在、使い方を周知できていな
- ツール利用のメリットを共有できていない
ツール導入直後は使ってもらえても、使い勝手が悪くて利用されなくなっていくケースもあります。ナレッジマネジメントを成功させるには、社員にとって使いやすいツールを選ぶことも非常に重要です。
ナレッジマネジメントが失敗しやすい原因
ナレッジマネジメントはなぜ失敗しやすいのでしょうか。
失敗しやすい原因として考えられることを2つ紹介します。
ナレッジマネジメントの評価の難しさ
ナレッジマネジメントが失敗しやすい原因のひとつは評価が難しいことです。また、ナレッジマネジメントはプロジェクトの達成や売上に直接貢献するものではないため、コストをどこまでかけていいのかわかりにくいという側面もあります。
評価の難しさを解決するには、定量的な費用対効果を測ることはもちろんのこと、社員へのアンケート調査をおこない、ナレッジ共有による効果がどれぐらいあったかを確認することも重要です。
経営層のナレッジマネジメントへの理解不足
経営層のナレッジマネジメントに対する理解不足も失敗しやすい原因です。実際、ナレッジを社員同士で共有する文化が根付いておらず、ナレッジマネジメントの重要性が浸透していない企業は少なくありません。
原因として、社員教育についての考え方が古いままだったり、自分の立場を守るために知識を独占したいと考える社員がいたりといったことが考えられます。ノウハウや技術を社員が個々で保有し、ナレッジがいつまでも共有されないと、その社員がいなくなったときに大きな損失となります。
経営層はナレッジマネジメントへの理解を高めて、先頭に立って進めていくことが必要です。
ナレッジマネジメントの成功に必要なSECIモデルとは?
ナレッジマネジメントを成功させるために必要なのが、「SECI(セキ)モデル」です。
SECIモデルとは「共同化(Socialization)」「表出化(Externalization)」「結合化(Combination)」「内面化(Internalization)」の4つのプロセスの頭文字を取った言葉で、暗黙知を形式知に変換することで、新しい暗黙知を生み出す理論のことをいいます。
- 共同化:個人が持つ暗黙知を共通の体験を通じて共感し合うプロセス
- 表出化:共感した暗黙知を言葉や図で表して形式知に変換するプロセス
- 結合化:形式知と既存の形式知を組み合わせて新たな形式値を創造するプロセス
- 内面化:個人が形式知を実践し新しい暗黙知を生み出すプロセス
これらの4つのプロセスを循環させることにより、ナレッジを継続的に蓄積しつつ、共有していくことができます。
各プロセスについて、それぞれ詳しく解説します。
共同化プロセス
共同化プロセスは経験を通して個人から個人へ暗黙知を伝えるプロセスです。例えば、優秀な営業マンと営業回りをしたり、上司に指導してもらいながら顧客対応をしたりするといったことが挙げられます。
同じ組織のメンバーと同じ場で同じ内容の仕事を経験することにより、言葉だけでは表しきれない知識や技術、経験を実務で覚えて体得するのが共同化プロセスです。
表出化プロセス
表出化プロセスは、共同化で得た「暗黙知」を、言葉や図などの「形式知」に変換するプロセスです。
表出化プロセスの例としては、自分が得た知識を文章化して会議で報告したり、細かく分析した手順や手法をフローチャートで表してマニュアル化したりするといったことが挙げられます。
暗黙知が主観的であるだったのに対し、表出化によって形式知に変換したものは、客観的で論理的な知識といえるでしょう。
結合化プロセス
結合化プロセスは、変換した形式知を組み合わせることにより新たな知識を創造するプロセスです。バラバラの知識を組み合わせることで、より体系的な内容にし、表出化の段階よりもさらに進めて価値を創出していきます。
例えば、社内で集計しているデータを組み合わせて整理し直したり、過去に成功した企画をもとにして新しい企画をつくったりといったことが挙げられます。
内面化プロセス
内面化プロセスは、表出化で得た形式知を何度も練習することで体得していくプロセスです。
形式知を繰り返し使うことで内面化し、暗黙知へと変わっていきます。内面化によって形式知が暗黙知に変わると、より質が高いものとなるのです。
例えば、新たに体系化した方法を業務に活かして作業効率をアップさせたり、マニュアル通りの作業を繰り返すことで内容を体得し、マニュアルなしでも作業できたりといったことが挙げられます。
▷SECIモデルとは?基本的な考え方やマネジメントへの活用方法を徹底解説
ナレッジマネジメントの成功に必要なポイント
ナレッジマネジメントの成功には何が必要なのでしょうか。ここからは成功に必要となるポイントを解説します。
フレームワークを活用する
ナレッジマネジメントを成功させるために欠かせないフレームワークが、前述の「SECIモデル」です。SECIモデルを活用することにより、ベテラン社員や優秀な社員などが個人で持っている暗黙知を他のメンバーにも理解できるかたちに落とし込むことができます。
暗黙知を共有することでメンバー全員のスキルアップにつながりますので、フレームワークを活用することは、ナレッジマネジメントを進める上で有効です。
スモールスタートで実践する
ナレッジマネジメントはまず、スモールスタートで実践していきましょう。
社内の文化としてナレッジマネジメントを根付かせていくには、長期的な観点で進めていくことが大切です。そのため、いきなり会社全体で取り組むのではなく、ナレッジマネジメントを特定の部署やチームに絞り、少しずつ効果を実感してもらうところからスタートしてください。
また、ナレッジマネジメントにツールを導入する場合、操作や機能が複雑だと説明に時間がかかったり、使いこなせずに結局元に戻ったりするおそれがあります。社内にナレッジマネジメントを浸透させていくためにも、ツールは操作がシンプルで社員が使いやすいものを選ぶようにしましょう。
▷【2023年最新】ナレッジマネジメントツールおすすめ20選を徹底比較!
ナレッジを共有しやすい環境を整える
ナレッジマネジメントを成功させるには、ナレッジを共有しやすい環境を整えることが重要です。そのためにはまず、ナレッジマネジメントの目的を明確にし、メンバー全員に理解してもらわなければなりません。
ナレッジマネジメントについての説明会を開いたり、チームリーダーを任命したりすると、社員に周知徹底しやすくなります。ツールによっては情報共有した社員に対してリアクションを表示できるものもありますので、そのような機能を活用することもモチベーションを高めるのに有効です。
新たな評価制度を導入する
新たな評価制度を導入するのもポイントのひとつです。
自分が持っているナレッジを共有するために言語化や図式化、ツールへ入力したりするのは、社員の負担となります。そこで自ら積極的にナレッジを共有する社員や、共有したナレッジから新たなナレッジを生み出す社員、ナレッジから新しいプロジェクトを立ち上げた社員などを評価する、新たな評価制度を導入すると効果的です。
ナレッジの活用が自分の評価に直接つながると理解されることで、社員のモチベーション向上にもつながるでしょう。
社員が使いやすいツールを導入する
社員が使いやすいツールを導入することも大切です。
ツールを選定する際に、管理のしやすさや情報の探しやすさ、社外からでもスマホなどでアクセスできるかなどを確認しておきましょう。使いやすいツールを導入することで、「わからないことがあるときはまずツールで探す」といったルールが定着しやすくなります。
▷【解説】ナレッジ共有とは?実践するメリットや成功のポイント
企業におけるナレッジマネジメントの成功事例
実際にナレッジマネジメントに成功した企業の事例を紹介します。
具体例から学び、自社に合うかたちに変換して、ナレッジマネジメント導入を進めていきましょう。
島村楽器株式会社
島村楽器株式会社では店舗業務や自社サービスの情報をチャットボットに集約しています。
チャットボット導入前は店舗スタッフが欲している情報をすぐに見つけられず、本社に電話が殺到していました。しかしチャットボット導入後は、質問をまずチャットボットに入力して確認するということを習慣としたため、店舗スタッフは本社に連絡しなくても情報にすばやくアクセスできています。
また、店舗スタッフがFAQを追加していくことでナレッジが蓄積され、チャットボットの精度がさらに高まるという好循環が生まれており、チャットボット導入が業務効率を高めているといえるでしょう。
カルビー株式会社
カルビー株式会社ではフリーアドレス制を導入しています。フリーアドレス制で期待できるのが、チームや部署を超えた、活発なコミュニケーションです。席が決まっていないことで、他のチームや部署と接する機会を増やして、新たな価値の創造を促しています。
また、オンライン会議用に1人用ブースを設置するなど、ひとつのオフィスでさまざまなかたちの利用ができるように工夫することで、SECIモデルの表出化プロセスにおいて重要となる「対話」の場を設けています。
サントリー食品インターナショナル株式会社
サントリー食品インターナショナル株式会社では、「社長のおごり自販機」という社員2人が社員証を同時にタッチすることで、2人分のドリンクが無料で出てくる機能付の自販機があります。
会社の休憩室では、普段は顔を合わせない人が同じ場にいても会話が発生することは少ないでしょう。しかし社長のおごり自販機のようにお互いにメリットがあれば、それをきっかけにして、あまり知らない社員とでも自然に会話が発生することが期待できます。
SECIモデルでは、共同化プロセスにおいて他者と知識の交換をおこなう場が重要であるとされています。フラットなコミュニケーションを促進するうえで、社長のおごり自販機は有効な取り組みといえるでしょう。
帝人株式会社
帝人株式会社ではチャットボットを活用して、社内規定や社内業務に関するナレッジを管理しています。
チャットボット導入前は各部門で情報を管理していたため、担当部署に問い合わせないとほしい情報が得られませんでした。そのため、同社ではまず、人事部門にチャットボットを導入して情報を蓄積していきました。その結果、社員は人事に関する情報をいつでもスムーズに得られるようになっています。
この成功事例をもとに、今では人事部門や経理部門だけでなく、グループ企業でもチャットボットを導入してナレッジマネジメントをおこなっています。スモールスタートによりナレッジマネジメントを効率的に進めた好事例といえるでしょう。
▷企業がナレッジを蓄積する重要性とは?効果的な方法やよくある失敗を解説
ナレッジマネジメントの近年のトレンド
ナレッジマネジメントの近年のトレンドは、生活様式や働き方改革による変化への対応です。オフィス以外からでも仕事ができるようにするには、あらゆるものをデジタル化し、いつでもどこからでもアクセスできるようにしなければなりません。また、社員がナレッジの共有に参加したくなるような仕掛けも重要です。
前述の成功事例からは、ナレッジ共有にポジティブなイメージを持ってもらい、自然に共有、蓄積が進められるように工夫されていることがわかります。企業には今の時代に合うかたちで、コミュニケーションをナレッジマネジメントの一環として仕掛けていく取り組みが求められているといえるでしょう。
ナレッジマネジメントの失敗事例から成功の秘訣を学ぼう
ナレッジマネジメントへの理解不足や評価の難しさにより、ナレッジの集約や活用、ツールの浸透などに課題を抱えている企業は少なくありません。ナレッジマネジメントに成功している企業も、最初からうまくいったわけではなく、失敗を重ねながら一つずつ課題を解決していったのです。
失敗事例や他社の事例を知ることで、ナレッジマネジメントへの理解が深まり、成功に導いていけます。初めてナレッジマネジメントをおこなう場合でも、スモールスタートであれば失敗によるダメージを最小限に抑えられます。
本記事を参考に、自社におけるナレッジマネジメントを推進し、成功体験を積み重ねていってください。
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