働き方改革で生産性向上が不可欠な理由とは?向上させる取り組みも解説

2022/10/25 2022/10/25

生産性

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働き方改革の大きな目的は、人手不足の解消や長時間労働の是正などによる労働環境の改善にあります。そのため、生産性向上は改革成功のカギを握る重要なキーワードの一つとなるでしょう。そこでここでは、生産性向上が求められる背景や改善方法の具体例を解説するほか、生産性向上に成功した企業の取り組みをご紹介します。

働き方改革と生産性

まずは「働き方改革」と「生産性」の概要から確認していきましょう。

働き方改革とは?

働き方改革は、生産年齢人口の減少、労働生産性の低下、育児や介護との両立など、働く人のニーズの多様化などの社会全体が抱える課題の解決に向けてはじまった取り組みです。

具体的には、以下の目的を達成するためのさまざまな施策が、働き方改革としての取り組みとされています。

  • 長時間労働の是正
  • 多様で柔軟な働き方の実現
  • 雇用形態による格差の解消

働き方改革の根幹となる上記のポイントは、ワークライフバランスの向上や雇用機会の拡大、生産性の向上を目指すものであり、多くの企業が抱える「人手不足解消」にもつながる重要な取り組みであると言えるでしょう。

生産性とは?

生産性とは、商品やサービスを作るのに必要な要素をどれだけ有効活用できているかどうかといったことを測るための一つの指標です。

生産性には、主に「投入(インプット)」と「産出)アウトプット)」の要素があり、「投入(材料・設備・労力・費用・時間)」など、商品・サービスを生産する際に必要な資源に対して、どれほどの産出量を得られたかを算出します。

つまり投入した資源に対する成果を表す数値のため、企業の事業成長には欠かせない指標の一つであり、この「生産性」を上げることは経営において最重要課題であるとも言えるのです。

生産性を把握するための3つの指標

ビジネスにおける生産性は、主に以下の3つの種類に分けることができます。

・労働生産性

・資本生産性

・全要素生産性

それぞれの意味について解説するとともに、労働生産性と人件費のバランスを考える上で重要となる「労働分配率」についてもご説明します。

労働生産性

労働生産性は、投入した労働に対してどれくらいの成果を上げられたのかを示す指標です。具体的には、従業員1人あたり、もしくは、労働1時間あたりの産出量などが、労働生産性の基準となり、「生産量÷労働者数(労働時間)」によって算出します。

例えば、Aという商品を1時間に100個作成できる従業員と、200個作成できる従業員がいたとします。当然、労働生産性が高いのは、同じ時間で倍の産出量を達成した後者の従業員であり、この生産性の高さは、1時間という同じ資源投資でも、組織により多くの利益をもたらすことになると言えます。

資本生産性

資本生産性は保有している機械や設備、土地などの有形の固定資産に対する成果を示す指標です。「付加価値(円)÷有形固定資産(円)」によって求めることができます。

投資によって入手した有形固定資産が生み出した付加価値を測る指標となるため、機械などの設備においては、稼働率や利用頻度の高さなどが、資本生産性の高さにつながります。

全要素生産性

全要素生産性は、技術革新なども含めた全ての生産要素で測定する指標です。全要素生産性の計算式は「生産性 ÷ 全要素投入量」です。全要素生産性の数値の増減に影響を与える技術革新は、経済成長率にも影響を与えています。

労働分配率

労働分配率は、企業が生み出した付加価値のうち、人件費に分配した付加価値の割合を指す指標です。計算式は「人件費 ÷ 付加価値 × 100」となります。

労働分配率の割合が高ければ、従業員の給与額が上がり、モチベーション向上が期待できる、優秀な人材が採用しやすくなるなどのメリットがありますが、人件費コストの増大は、新たな設備投資ができないなど、人件費以外の投資がしにくくなるデメリットもあります。

ちなみに、中小企業庁が公表した企業規模別の労働分配率によれば、それぞれの平均値は、大企業で51.3%、中規模企業で76%、小規模企業で78.5%となっています。

[出典:中小企業庁「中小企業白書」]

働き方改革による「生産性向上」がもたらすメリット

生産性は、企業が投入した資源に対して、適切に「利益」を生み出せているのかを判断する一つの基準となるため、必要不可欠な要素であることがわかります。

その一方で、働き方改革で生産性が重要視されるのは、一体なぜでしょうか?そこには、2

つの理由があります。

人材不足の解消

少子高齢化による生産年齢人口の減少は、今後も深刻化が予想される社会全体の問題です。今や、「代わりはいくらでもいる」ような時代ではありません。そのため、企業には1人あたりの生産性を上げ、かつ、優秀な人材が確保しやすい労働環境と待遇を整え、かつ離職を防ぐための施策が求められるのです。

働き方改革の目的の1つには、働き手がテレワークなどの柔軟な働き方が選択できる環境を用意することにより、「誰もが働きやすい社会」を目指すことが含まれています。

つまり、働き方改革により、「人材採用の裾野を広げること」さらに、「社員のライフステージの変化による離職を防ぐこと」で、人手不足の解消が見込まれるのです。

多様化する価値観への対応

ITの発展、女性の社会進出、価値観の多様化などのさまざまな理由から、ライフスタイルが多様化し、人生観や仕事観も個々で大きく異なるようになりました。働き手のモチベーションは、生産性と密接な関係にあるため、このような「多様化」に対応できる組織づくりが、必然的に企業の最重要課題となることは明らかです。

実際に、大手転職サイト「doda」が行った調査によれば、転職希望者の5割以上が転職先の条件として、「リモートワーク・テレワークの実施」が応募の意向に影響すると回答しています。

このことからも、企業視点ではなく、「働き手視点」の労働環境の構築に向けた働き方改革が求められるようになっているのです。

[出典:doda「第3回自社のリモートワーク・テレワークに関する調査」]

急激な物価高騰への備え

近年、国際情勢の影響もあり、原油価格などの物価が、急速に高騰しています。物価高騰は、経営においても原材料や人件費、エネルギーなどのコスト増大につながるため、財務内容の悪化をも招く重大な問題です。

このリスクに備えるには、働き方や業務内容の見直しによって、既存事業の効率と生産性を上げるか、新規事業による新たな利益の創出を目指すことになるでしょう。こういった社会背景の変化も、働き方改革による生産性向上の重要度が上がった要因の一つです。

「生産性が上がらない」主な理由とは?

公益財団法人 日本生産性本部が公表した「労働生産性の国際比較2021」によると、日本の労働生産性は、OECD加盟38か国中23位と、世界的に見てかなり低い水準にあることがわかっています。

生産性が上がらない主な原因として考えられる、4つの理由について詳しく見ていきましょう。

長時間労働の習慣化

一部の国内企業には、残業を美徳とする風習が残ってしまっています。人事評価の際にも、成果を鑑みない「残業の多さ」が、「努力」を評価する際の定性的な基準としてしまっている企業も少なくないでしょう。

このような習慣は、長時間労働是正の障壁となるだけでなく、生産性を意識した働き方の促進を阻害する要因にもなってしまいます。

「チーム」至上主義による弊害

不合理なチーム至上主義の風習も生産性が上がらない理由の一つです。チームで働くことは、スキルの共有やミスの予防、業務の属人化を防ぐなどのメリットがあります。

ただし、「チーム」と「個人」、それぞれでやるべき業務の見極めが適切でなければ、作業のスピード感を失い、業務が停滞するデメリットが大きくなってしまうでしょう。

業務のDX化への後れ

日本国内の全企業数のうち、中小企業数が占める割合は、実に9割を超えています。その一方で、中小企業におけるDX化への取り組みは、大企業の6割超に対して、3割程度に止まっているなど、決して順調とはいえません。

これには、DX化に向けたコストや人手の確保が困難であるとの課題が背景にあるものの、旧態依然のペーパーワークやハンコ文化などが見直されないなど、生産性が改善されない理由となってしまっていることは否めません。

[出典:総務省「事業所・企業統計調査」]

[出典:一般社団法人日本能率協会「『日本企業の経営課題 2021』 調査結果速報 【第3弾】」]

生産性向上による働き方改革を実現する方法

では、働き方改革による生産性の改善には、どのような方法があるのでしょうか。

ここでは、「長時間労働の是正」や「柔軟な働き方の実現」につながる、代表的な5つの方法をご紹介します。

業務の可視化と見直し

業務の属人化は、リスク管理の課題を生じさせるだけでなく、無駄な業務が改善されない環境の蔓延にもつながります。

まずは、業務を可視化し、習慣化しただけの業務や非効率が発生している業務の見直しを行いましょう。その際は、業務を「フロー」として見える化することで、適任者や業務を行うタイミングなどの最適化も視野に入れるようにします。

ITツールの導入

業務には、必ずしも「人の手や目」を必要としない作業も含まれています。そのような作業には、積極的にITツールを導入し、生産性の向上を図ります。

また、ツール導入による業務の自動化やシステム化は、人的リソース確保の幅が広がるだけでなく、ヒューマンエラーを軽減することによる生産性の向上も見込めます。

コア業務に集中できる環境づくり

営業職であれば、取引先との商談や商談の際に使用する資料の作成、新規取引先の開拓などが、利益に直結するコア業務にあたるでしょう。しかしながら、営業活動には、見積書や社内報告書の作成、経費精算申請など、さまざまなノンコア業務も発生します。

これらのノンコア業務を、システム化したり、簡素化したりすることで負担を軽減し、コア業務に集中できる環境を作ることも大切です。コア業務に注力できる環境は、従業員のモチベーションアップによる生産性向上も期待できます。

テレワークやフレックスタイム制の導入

従来の「オフィス出社」と「定時勤務」を前提とした雇用は、子育てや介護などの事情を抱えた従業員にとって、家庭との両立を阻む一つの要因となっていました。そのため、ライフステージの変化を理由に、従業員自身が、本来望んでいなかった退職を決断するケースも少なくありません。

その一方で、テレワークやフレックスタイム制の導入による働き方改革を実行することで、個々のライフスタイルに合わせた働き方がしやすくなるため、そのような離職を防ぐことができるようになります。

既存の従業員の雇用継続は、生産性の維持に直結するだけでなく、企業イメージの向上や新たな人材確保の可能性拡大にもつながるでしょう。

社員満足度の向上

モチベーションやエンゲージメントと密接な関係にある社員満足度向上に向けた働き方改革も、生産性向上につながります。

社員満足度の向上に向けては、長時間労働の是正やテレワークによるプライベートの充実や家庭との両立など、働き手が望む働き方の実現に向けた施策の実行や制度の構築はもちろんのこと、「人事評価」が適切であることも重要です。

働き方改革により雇用形態や休暇などの環境や制度を見直すだけでなく、評価の透明性や公平性を保つための取り組みも必ず行いましょう。

生産性向上の成功事例

最後に、働き方改革に関連した取り組みによって、生産性向上に成功した企業の事例を6つご紹介します。

株式会社西友

食料品や衣料品、日用品などを販売する小売チェーンを経営する株式会社西友は、アメリカのウォルマートと連携していることもあり、新しいテクノロジーの導入に積極的という特徴があります。

2018年、西友本社と物流センターにRPAを導入し、人がコンピューターで行うルーティン業務をロボットで自動化しました。その結果、1年で20,000時間の削減に成功し、働く環境の改善に成功しただけでなく、ミスや属人化の軽減も実現しています。

株式会社サイバーエージェント

株式会社サイバーエージェントは、インターネット広告やメディア運営などさまざまなインターネット事業に取り組んでいます。同社は、これまでのメールコミュニケーションに、ニュアンス説明の難しさや手軽さに欠けるなどの煩わしさを感じていました。

そこでチャットツールを導入。大幅な業務時間の削減に成功するだけでなく、やるべき仕事に集中できる環境を整えることによる働き方改革に成功しました。

株式会社あしたのチーム

株式会社あしたのチームは、BtoB向けの人事評価システムを提供しています。同社は、採用や研修時にWeb会議を活用することで、交通費や移動時間などのコスト削減に成功しました。

さらに、採用面接は1日に12名できるようになり、人的リソースの最適化とともに、人材採用プロセスの生産性向上を実現しています。

ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社

ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社がおこなう、ワーケーションのの導入も生産性向上が期待できる働き方改革の取り組みと言えるでしょう。

同社では、2019年から「地域deWAA(Work from Anywhere and Anytime)」という独自のワーケーションを実施。この取り組みは、同社が連携している自治体において、滞在期間中、地域の施設をコワーキングスペースとして無料で使えるというものです。

実際に制度を利用した従業員からは、「集中してリゾート地で仕事ができた」といった声が上がっており、生産性向上に一定の効果が認められるとしています。

日本航空株式会社

航空運送業の国内大手企業である日本航空株式会社は、長時間労働を是正するためのさまざまな働き方改革をおこなっています。

具体的には、フリーアドレスの導入や20時完全退社といったルール策定により、1人あたりの1日の労働時間を2時間短縮することに成功しています。さらに、残業時間の短縮と社員が求める働き方に対応することで、従業員満足度向上にも寄与しています。

生産性向上による働き方改革は事業成長にもつながる

働き方改革と生産性向上は、いわば「相互扶助」の関係にあり、どちらか一方の取り組みが欠けてしまうと、実現が難しくなってしまいます。生産性は、いわば「企業の稼ぐ能力」を測るための指標の一つであることから、生産性向上が事業成長に欠かせない要素であることは明らかでしょう。

人材不足が続くビジネス環境においては、生産性の低さを「人の力」だけで挽回しようとすれば、早々に限界点を迎えることになります。ここでご紹介した働き方改革による生産性向上のポイントを参考に、自社に合った方法にて生産性向上の実現を目指してみてはいかがでしょうか。

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ビズクロ編集部
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