生産性とは何か?正しい定義や算出方法・有効な向上施策まで解説

最終更新日時:2023/02/07

生産性

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労働人口の減少や働き方改革などにより、企業においては生産性向上が急務の課題となっています。しかし、そもそも生産性とは一体何なのかについて、正確に理解している人は少ないかもしれません。そこで本記事では、生産性に関する正しい定義から有効な向上施策までを詳しく解説していきます。

生産性とは?

生産性とは、簡単にいうとインプットに対するアウトプットの割合を示す指標です。ヨーロッパ生産性本部では、生産性の定義を次のように示しています。

生産性とは、生産諸要素の有効利用の度合いである

[引用:公益財団法人日本生産性本部「生産性とは」より]

ここでいう生産諸要素(インプット)とは、生産に必要な次のような要素を指します。

  • 機械設備
  • 土地
  • 建物
  • エネルギー
  • 原材料
  • 労働力

なお、生産性の種類と算出方法については後述していますので、そちらを参照ください。

生産性向上が必要とされている理由

いつの時代であっても生産性の向上は企業における重要課題の一つですが、近年ますますその必要性が高まっています。ここでは、生産性の向上が必要とされている2つの理由を紹介します。

労働力人口の減少

まず挙げられるのは、少子高齢化に伴う労働力人口の減少です。労働力調査によれば、15~64歳の労働力人口は2011年には6,011万人であったところ、2021年には5,931万人に減少しています。

労働力人口の減少による人手不足に直面している多くの企業にとって、売上や利益を維持または拡大させていくためには、さまざまな解決策を講じて生産性の向上を図る必要があります。

特にこれからさらに人手の確保が難しくなると予測される中では、ITツールの導入や人材開発などを通して労働者一人ひとりの生産性を向上させることは、人手不足の課題を解決する有効な手段となり得るでしょう。

[出典:総務省統計局「労働力調査(基本集計)2021年(令和3年)平均結果の概要」]

問題視される日本の生産性の低さ

日本の生産性は、諸外国と比べると低いという調査結果が示されています。具体的には、OECD(経済協力開発機構)データに基づく2020年の日本の時間あたり労働生産性は49.5ドルでした。

これは38か国中23番目に位置し、OECD平均の59.4ドルを下回る水準です。また、就業者一人あたりの労働生産性も78,655ドルと、OECD38か国中28番目に位置しており、生産性向上が喫緊の課題となっています。

[出典:公益財団法人 日本生産性本部「労働生産性の国際比較 2021」]

労働生産性とは?正しい定義や種類・計算方法や業界による違いを解説

生産性の種類と算出方法

生産性にはいくつかの種類があり、それぞれ算出方法が異なります。主な生産性の種類は次の2つです。

  • 物的労働生産性(「生産量」をアウトプットの単位として算出する指標)
  • 付加価値労働生産性(「付加価値額」をアウトプットの単位として算出する指標)

それぞれについての概要と、算出方法について確認していきましょう。

物的労働生産性

物的労働生産性とは、労働者数または労働時間数に対する生産量の割合です。労働者数に対する生産量の割合を1人あたり労働生産性、労働時間数に対する生産量の割合を1時間あたり労働生産性と呼びます。

アウトプットを金額ではなく物量として測定することで、純粋な生産効率を測ることが可能です。

<算出方法>

物的労働生産性=生産量÷労働者数or労働時間数

付加価値労働生産性

付加価値労働生産性とは、労働者数または労働時間数に対する付加価値額の割合です。労働者数に対する付加価値額の割合を1人あたり労働生産性、労働時間数に対する付加価値額の割合を1時間あたり労働生産性と呼びます。

付加価値とは企業が新しく生み出した金額ベースの価値のことで、具体的には生産額(売上高)から原材料費や外注加工費、機械の修繕費、動力費など外部から購入した費用を除いた額です。

付加価値は労働者に分配されるほか、利益として出資者(株主)への分配原資となります。

<算出方法>

付加価値労働生産性=付加価値額÷労働者数or労働時間数

労働生産性の計算式は?正しい計算方法や指標・判定方法について解説

生産性が低下してしまう原因とは?

生産性の低下原因を把握し適切な改善策を打つことで、生産性の維持や向上につなげることができます。ここでは、生産性が低下してしまう3つの原因について、1つずつチェックしていきましょう。

  • 長時間労働による弊害
  • 常態化しているマルチタスク
  • アンバランスなチーム作業

長時間労働による弊害

長時間労働が習慣化している職場では、その弊害として生産性が低下します。厚生労働省が取りまとめた「健康づくりのための睡眠指針2014」によると、睡眠時間を1日あたり約5.8時間に制限すると、約8.6時間眠らせた場合に比べて眠気が増して注意力が低下するという調査結果が紹介されています。

注意力が低下すると、作業ミスが増えたり、思考力や判断力の低下につながることが考えられます。生産現場や物流現場などでは事故の発生原因にもなるでしょう。

また労働時間が増えることは、残業代などの人件費やオフィス内の水道光熱費のコスト増といった弊害が出ることにも注意が必要です。

[出典:厚生労働省健康局「健康づくりのための睡眠指針 2014 」]

常態化しているマルチタスク

一度に複数のタスクを進めるマルチタスクが常態化していると、生産性が低下すると言われています。例えば、作業をしながらメールやチャットの返信をしたり、会議中に提案資料を作成したりすることなどが挙げられます。

マルチタスクは複数の業務を同時並行で進めていくため効率的にも見えますが、人間の脳はマルチタスクが苦手です。そのため、マルチタスクが負担となり、かえって生産性を低下させてしまうことがあります。

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アンバランスなチーム作業

ある仕事を進めるために、チームを組んで作業を進めることも少なくありません。しかし、チームメンバーの能力が均一化しているケースはまれでしょう。

そのため、例えば能力の高いメンバーが能力の低いメンバーの仕事を助けなければならない場面も出てきます。すると、能力の高いメンバーが多くの仕事を処理することになり、負担が増加してしまうのです。

特定のメンバーに仕事が偏ると、長時間労働の常態化につながり、パフォーマンスが落ちる原因になります。

メンバー間の能力差を埋めることは簡単ではありませんが、スキルアップ研修を実施したり、ITツールの活用による業務効率化などを図るなどして、各人の能力の底上げに注力することが重要です。

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生産性向上に有効な施策8選

ここでは、生産性向上に有効な8つの施策を紹介します。

  • 業務の可視化
  • 作業指示の明確化
  • タレントマネジメントの導入
  • ICTツールの導入
  • 従業員のスキルアップ
  • 業務マニュアルの作成・浸透
  • 労働環境の整備
  • アウトソーシングの活用

1.業務の可視化

生産性向上のためにまず行うべきことは、業務の可視化(見える化)です。具体的には、物的労働生産性や付加価値労働生産性を算出できるよう、費やした工数を把握することが重要です。

業務内容を洗い出し、関わった人数と時間を定量化して、課題や改善点を抽出します。時間がかかりすぎている業務や効率が悪い業務プロセスを見直すことで、生産性の向上につなげます。

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2.作業指示の明確化

現状の業務フローやボトルネックとなっている部分を把握できたら、生産性向上に向けた具体的な目標や施策を決め、各部門・チームがどのような行動を実行するかを明確化します。

目標や行動、達成期限などを定め、的確な指示を出すことで、関係するメンバーが具体的なアクションにつなげられます。先述した、「長時間労働による弊害」「常態化しているマルチタスク」「アンバランスなチーム作業」といった生産性を下げる原因を意識した適切な指示内容を心がけましょう。

3.タレントマネジメントの導入

生産性向上のためには、タレントマネジメントも欠かせません。タレントマネジメントとは、従業員個人が持つ能力などを管理し、戦略的に人材配置や人材開発を行うことを指します。

タレントマネジメントによって従業員を適材適所に配置できれば、個人の能力を無駄にすることなく人材を最大限に活用可能です。しかし、適正な配置をするためには従業員一人ひとりの能力を把握する必要性があります。

そのため、従業員と人事が綿密なコミュニケーションを図ることも重要です。また従業員のスキルや経験に関する情報は多岐にわたるため、担当者の業務効率化のためにも、タレントマネジメントシステムの導入を検討してみましょう。

4.ICTツールの導入

ICTツールの導入によって、通信環境を改善したり、コミュニケーションを活発化させることも生産性向上につながります。

例えば、ビジネスチャットを導入・運用すれば組織内のコミュニケーションが活性化し、スピーディーな情報共有が可能です。コミュニケーションが加速しノウハウの共有が進めば、生産性向上が期待できます。

また、テレワークの導入によって生産性向上を図る場合には、どのような場所からでも効率的に業務を進められる通信環境の整備やクラウドサービスの活用、モバイル端末の配布などを進めることも効果的でしょう。

5.従業員のスキルアップ

従業員が新しいスキルや知識を身につけ、業務に生かすことができれば生産性の向上が見込めるでしょう。スキルアップは従業員に任せるのではなく、組織として仕組み化することが重要です。

能力の高い従業員がチームメンバーにスキルを共有する仕組みを構築したり、社内研修の実施も有効です。場合によっては、外部機関が実施する研修への参加も検討してみましょう。

6.業務マニュアルの作成・浸透

スキルアップと併せて進めたい生産性向上の施策が、業務マニュアルの作成と浸透です。業務マニュアルを作成するためには現状を正確に把握する必要があり、その際に生産性向上の阻害要因が見つかるかもしれません。

業務マニュアルを作成して活用できれば、従業員によって業務品質が異なるという問題を改善させることが可能です。品質の高い業務マニュアルが浸透すれば、経験が浅い人材でも高いアウトプットが期待できるようになるので、組織全体の生産性が高まっていくでしょう。

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7.労働環境の整備

生産性向上のためには、従業員が働きやすいと感じられる環境作りが求められます。

ワーク・ライフ・バランスの実現はもちろん、「頑張った分だけ評価される」という経験も従業員のモチベーションアップにつながります。そのため、公正・公平で納得感のある評価システムの導入も重要です。

他にも、オフィス内の設備や備品、待遇、福利厚生、休暇制度、スキルアップ制度など、従業員のモチベーションを高める要素は多岐にわたるため、会社側と働き手がコミュニケーションを図りながら働きやすい職場作りを進めていきましょう。

8.アウトソーシングの活用

自社リソースに限界がある場合には、アウトソーシングを活用するのも一つの手です。具体的には、自社の業務を洗い出してコア業務とノンコア業務に分けることから始めましょう。

コア業務とは重要性が高い業務のことで、ノンコア業務は比較的重要性の低い業務のことです。重要性だけでなく、緊急性も加味して判断したほうが良い場合もあります。

ノンコア業務についてはアウトソーシングをし、コア業務に社内リソースを集中させると生産性向上が期待できます。

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生産性向上に活用したい4つの助成金・補助金

最後に、生産性向上に活用したい4つの助成金・補助金を紹介します。積極的に利用し、生産性向上を実現させましょう。

  • 労働関係助成金
  • 業務改善助成金
  • 人材開発支援助成金
  • IT導入補助金

なお本記事で紹介する助成金や補助金に関する情報は、2022年7月31日に確認できた情報をもとにしています。制度などが変わっている場合もあるため、実際に利用される際は最新の情報を確認するようにしてください。

1.労働関係助成金

労働生産性を向上させると、労働関係の助成金(一部)を利用する場合に、助成額または助成率が割増される措置があります。

生産性の向上について、具体的には次のいずれかの「生産性要件」を満たさなければなりません。

<生産性要件>

  • 助成金の支給申請を行う直近の会計年度における生産性(従業員1人あたり付加価値労働生産性)が3年度前と比べて6%以上伸びていること
  • 助成金の支給申請を行う直近の会計年度における生産性(従業員1人あたり付加価値労働生産性)が3年度前と比べて1%以上伸びていること(金融機関から一定の事業性評価を得ていること)

つまり従業員1人あたりの付加価値労働生産性が6%以上伸びていることが基本的な要件で、金融機関から一定の事業性評価を得ている場合は1%以上で足ります。

上記の「生産性要件」が設定されて、割増が行われる助成金は次のとおりです。

<「生産性要件」が設定されている助成金一覧>

助成金コース名
労働移動支援助成金早期雇入れ支援コース
中途採用等支援助成金中途採用拡大コース
地域雇用開発助成金地域雇用開発コース
人材確保等支援助成金雇用管理制度助成コース

介護福祉機器助成コース

人事評価改善等助成コース

若年者及び女性に魅力ある職場づくり事業コース[建設分野]

作業員宿舎等設置助成コース[建設分野]

外国人労働者就労環境整備助成コース

テレワークコース

65歳超雇用推進助成金高年齢者評価制度等雇用管理改善コース

高年齢者無期雇用転換コース

両立支援等助成金出生時両立支援コース

介護離職防止支援コース

育児休業等支援コース

不妊治療両立支援コース

キャリアアップ助成金正社員化コース

賃金規定等改定コース

賃金規定等共通化コース

賞与・退職金制度導入コース

選択的適用拡大導入時処遇改善コース

短時間労働者労働時間延長コース

人材開発支援助成金特定訓練コース

一般訓練コース

教育訓練休暇等付与コース

特別育成訓練コース

建設労働者認定訓練コース

建設労働者技能実習コース

人への投資促進コース

業務改善助成金

[出典:厚生労働省「労働関係助成金」]

2.業務改善助成金

労働関係助成金の対象となる助成金として紹介した業務改善助成金は、事業場内最低賃金の引上げを図るための制度です。生産性向上のために次のような取り組みを行い事業場内最低賃金の引上げをした場合、費用の一部が助成されます。

  • 機械設備投資
  • コンサルティング導入
  • 人材育成
  • 教育訓練

[出典:厚生労働省「[2]業務改善助成金:中小企業・小規模事業者の生産性向上のための取組を支援」]

3.人材開発支援助成金

人材開発支援助成金は、労働者のキャリア形成を効果的に促進するため、職務に関連した専門知識・技能を習得させるための職業訓練などを計画にそって実施するなどした場合に助成される制度です。

例えば、IT未経験者を即戦力化するための訓練(プログラミング言語の習得など)を実施したとき、その費用の60%が助成されます。

人材開発支援助成金は、用途に合わせた下記8つのコースが準備されています。自社の人材育成方針にあった助成金の活用を検討しましょう。

  • 特定訓練コース
  • 一般訓練コース
  • 教育訓練休暇等付与コース
  • 特別育成訓練コース
  • 建設労働者認定訓練コース
  • 建設労働者技能実習コース
  • 障害者職業能力開発コース
  • 人への投資促進コース

[出典:厚生労働省「人材開発支援助成金」]

4.IT導入補助金

IT導入補助金は、自社の課題やニーズに合ったITツールを導入し、業務効率化や売上げアップをサポートするために助成される制度です。通常枠における補助対象経費は次のとおりです。

  • ソフトウェア購入費
  • クラウド利用料(1年分)
  • 導入関連費

補助率は通常枠において50%以内です。

[出典:一般社団法人サービスデザイン推進協議会「IT導入補助金2022」]

生産性向上に有効な施策を実施していこう

生産性とは、インプットに対するアウトプットの割合を示す指標で、機械設備や労働者数、労働時間など生産諸要素の有効利用の度合いを指します。物的労働生産性は生産量を、付加価値生産性は付加価値額をアウトプットの単位として算出する生産性指標です。

日本の生産性はOECD各国と比べてもやや低い水準であり、労働人口の減少が進むなか、生産性の向上は喫緊の課題となっています。

本記事で紹介した具体的な施策や助成金・補助金を活用しながら、生産性向上の取り組みを推進していきましょう。

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