ワークライフバランスの問題点とは?現状の日本の課題と改善策について
近年注目が集まるワークライフバランスですが、実現に向けた企業の施策が進むにつれ、運用する上でのさまざまな課題や問題点も徐々に明らかになっています。そこで本記事では、そんなワークライフバランスの問題点について、現状や改善策などを詳しく解説していきます。
目次
ワークライフバランスとは?
ワークライフバランスとは、一人ひとりが「仕事」と「それ以外の時間」、つまり仕事とプライベートのバランスをどのように保つかを示す言葉として使われています。
このワークライフバランスは、働き方改革の推進とともによく耳にするようになった言葉であり、そこには、仕事と生活のバランスに対する個人の価値観を尊重し、多種多様な人材が働きやすい環境を構築する取り組みとしての意味合いが含まれています。
実際、内閣府の「仕事と生活の調和」推進サイトでは、ワークライフバランスを以下のように定義しています。
国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会
時として、ワークライフバランスは、一般的にライフステージの変化の影響を受けやすい女性のための概念として捉えられがちですが、実は、年齢や性別にかかわらず、国民一人ひとりがより生き生きとした暮らしを目指すためのものなのです。
[出典:「仕事と生活の調和」推進サイト「仕事と生活の調和とは(定義)」]
ワークライフバランスの日本における現状
次に、日本におけるワークライフバランスの現状をみていきましょう。
世界各国の中でも導入が遅れている日本
経済協力開発機構(OECD)が2019年に発表した国別のワークライフバランスに関する調査結果によると、日本は38ヵ国中最下位から5番目となっており、とりわけ「非常に長時間(週50時間以上)働く従業員」が17.9%として、対象国全体の平均11%を大きく上回ったことが、ランキングを下げた大きな要因となっています。
この結果からもわかるように、日本におけるワークライフバランス向上への取り組みは世界から見ると大きく後れをとっているといえるでしょう。
[出典:OECD Better Life Index「Work-Life Blance」]
ワークライフバランスが重要視される背景
ワークライフバランスに関心が寄せられるようになった背景には、以下のような社会環境の変化やビジネス環境における課題が、主な引き金になったと考えられています。
- 少子高齢化による生産年齢人口の減少
- 多様な人材が活躍できる柔軟な働き方の必要性
- 長時間労働といった労働環境の悪化
労働力の要となる15歳から64歳までの生産年齢人口は、2015年の7728万人から、2065年には4950万人にまで低迷するという予測データもある通り、今後も劇的に改善するとは考えにくい状況にあります。
そのため、企業においては、事業活動を続けていくうえで重要なリソースである「ヒト」に関して、「一人当たりの生産性の向上」や「人材の流出防止」、「継続的な人材確保」が最重要課題として捉えられるようになりました。
そして、これらの課題解決に向けた、一つの施策として、従業員の仕事に対する満足度やモチベーションの改善、働きやすい環境づくりへの効果が期待できる、ワークライフバランスが注目されるようになったと考えられます。
ワークライフバランス向上による企業のメリット・デメリット
組織におけるワークライフバランスの向上は、企業にどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。ここでは、それぞれについて詳しく解説していきます。
企業のメリット
ワークライフバランス向上が、組織にとっては「生産性の低下」を招くのでは?と懸念する企業は少なくありませせん。
しかしながら実情は、厚生労働省の調査により労働時間が短いほど労働生産性が高いこと、また、ワークライフバランスの実現に積極的な企業ほど、売上高の増加や離職率の低下、雇用の増加といったメリットが得られていることがわかっています。
ワークライフバランスは、「社員のメリット」ばかりが注目されがちですが、このことからも企業にも大きなメリットのある取り組みであることがわかります。
[出典:厚生労働省「平成29年版 労働経済の分析 -イノベーションの促進とワーク・ライフ・バランスの実現に向けた課題-」]
企業のデメリット
一方でワークライフバランスの一環として、テレワークやフレックスタイム制などを導入すると、これまでの「定時勤務」の働き方とは、状況が一変してしまうこともあるでしょう。
そのため、導入後、そのような形態が標準化されるまで、一時的に効率が下がってしまったり、共有や連携がうまくいかず、コミュニケーション不足に陥ってしまうこともあります。
また、ワークライフバランスの真の目的として、「人生」の充実感を高め、仕事を適切なバランスに保つことにより、仕事へのモチベーションややりがいを維持し続けるための取り組みである点を理解していなければ、サボりの温床となってしまうことも起こりえます。
ワークライフバランスの組織への導入は、計画的かつその目的を徹底して共有し、認識を擦り合わせたうえで実行する必要があるといえるでしょう。
ワークライフバランスの問題点|導入が進まない理由は?
ワークライフバランスの導入にあたっては、多くの企業がすぐさまスムーズな運用をスタートできるとは限らず、実現を阻む障壁に直面することも珍しくはありません。
ここでは、具体的にどんな問題点があるのかを確認していきましょう。
導入の方法がわからない
まずワークライフバランスの実現方法自体がわからないというケースは、実のところ多いといえます。
そもそも日本のビジネス環境には、労働時間の柔軟性の低さや個人の希望や事情を優先した働き方が認められにくいことが、文化として根付いてしまっている傾向にあります。これらの文化は、ある意味ワークライフバランスとは逆行した労働環境です。
そのため、ワークライフバランスに対して否定的なイメージを持つビジネスパーソンも多く、また、ワークライフバランスの取り組みは、このような企業風土だけでなく、企業規模や業種によっても異なることから、導入方法すら明確にできない現状にあるのです。
経営陣の理解を得られない
ワークライフバランスの実現が進まない理由として、経営陣の理解を得られないことも大きな要因です。ここにも前述した日本特有の労働環境や文化などが影響していると考えることができます。
また、経営層においては、生産性や売上高に対し、立場上、より慎重な判断が求められます。そのため、労働時間と生産性の関係について、他社での成功実績があるとはいえ、自社において同様の成果が上げられるのかどうか、懐疑的になってしまうのは仕方がないともいえるでしょう。
まずは、先ほどもお伝えしたようにワークライフバランスの真の目的を共有し、そのメリットと重要性を理解すること、そして、小規模でその成果を検証することから始めなければなりません。
導入コストの問題
ワークライフバランス実現に向け、テレワークを導入するとなれば、必要に応じて社員一人ひとりのノートパソコンや携帯電話の用意、業務で使用するオンラインシステムの導入のほか、労務関連業務のデジタル化、セキュリティ管理の強化など、さまざまな準備が必要となります。
これらの環境整備を一気に進めるとなれば、相応のコストが発生するため、企業によっては、その負担が大きく、ワークライフバランスを推進したくてもできないといったケースもあります。
勤怠管理や人事評価が難しくなる
また、ワークライフバランスの実現に向けてテレワークが実施された場合、勤怠管理や人事評価が困難となることも障壁となっています。テレワークでは、社員の働きぶりを上司が直接確認することはできません。
勤怠管理に関しては、勤怠システムの活用により、多くの場合、課題を解消することができますが、人事評価については、双方が納得できる合理的な方法と基準を模索する試行錯誤の期間が必要となります。
そのベースとして、オフィス勤務時よりもコミュニケーションや情報共有に対する高い意識が求められることになり、テレワークならではのルールや評価体制の構築が必須であるといえます。
生産性が低下する可能性がある
ワークライフバランスの本質を理解していない場合においては、生産性の低下を招くことがあります。
企業におけるワークライフバランスの実現は、あくまで生活と仕事のバランスが取りやすくなることで得られる人生全体の充実感や満足感を、仕事のモチベーションややりがいへとつなげることが目的に含まれている点を、マネジメント層だけでなく、社員全員が理解しておく必要があります。
社員から不公平感が出やすくなってしまう
ワークライフバランスを導入するうえで、例えば、職種や担当業務に限定したテレワークの実施を導入した場合、出社を余儀なくされる社員が不満を抱きやすくなります。
テレワークの社員が大半を占めるようなケースにおいては、出社する社員に「出社手当」を支給するなど、不公平さを是正する工夫をしなければならないでしょう。
また、テレワークにおいては、評価基準の不透明さに不満を感じるケースも少なくありません。合理的な評価基準や体制を整えるだけでなく、「何が」「どのように」評価され、そして処遇へと反映されるのかを明確にし、社員へも必ず開示するようにしましょう。
ワークライフバランスの問題点を解決する改善策7選
ワークライフバランスを導入する際のよくある壁についてご説明しましたが、それらを乗り越える策がないというわけではありません。
ここでは、ワークライフバランスの問題点を解決する7つの改善策をご紹介していきます。
- 自社の課題を洗い出す
- 経営陣にプレゼンを行う
- PDCAサイクルを回して推進していく
- 目的やメリットを明確にし全社で共有する
- 個人単位で意識を改革していく
- 企業のトップが率先してメッセージを発信する
- 定着させるために時間と労力をかける
1.自社の課題を洗い出す
ワークライフバランスを導入する前に、まずは全社的に自社の課題を洗い出しましょう。
課題が把握できていなければ、ワークライフバランスの向上に向けた施策であっても、「空振り」となり、無駄な徒労に終わってしまうこともあります。
まずは「働き方」の面で、社員がどのような不満や不安を抱えているのか、そして、どのような働き方を希望してるのかをヒアリングし、理想と現実の乖離を引き起こす原因や課題を把握していきます。
また、ワークライフバランスの実現に対して、「給料が減るのでは?」など、不安や否定的な考えを持つ社員がいることも認識しておき、満遍なく意見を吸い上げるようにしなければなりません。
2.経営陣にプレゼンを行う
ワークライフバランスの実現は、時に相応のコストと労力が必要であることから、経営陣のコミットメントが必要不可欠となります。
経営陣の賛同を得ずして進めることは不可能なため、大前提としてワークライフバランス実現の意義と実施することで得られるメリットを共有し、取り組みへの賛同を得るようにしてください。
3.PDCAサイクルを回して推進していく
ワークライフバランスの実現に向け導入した施策や制度は、費用対効果の算出などを含む分析をおこなう必要もあるでしょう。
計画と実行だけでなく、評価と改善を繰り返しおこなうこと、つまりPDCAサイクルを回し続け、最適な施策・制度へとブラッシュアップできる体制を整えておかなければなりません。
4.目的やメリットを明確にし全社で共有する
ワークライフバランスの推進にあたっては、業務の見直しや効率化へのテコ入れが必要になることがほとんどです。
業務の見直しには全社的な協力体制が必要であり、そのためには、ワークライフバランス実現への取り組みを「自分ごと」として認識してもらえるよう、目的やメリットを明確にした上で、社員全員への共有を徹底しなければなりません。
5.個人単位で意識を改革していく
ワークライフバランスを組織に浸透させていくには、「仕事観」の違いを受け入れることのできる企業文化が必要です。プライベートが重視できるワークスタイルを望む人もいれば、仕事に重きをおいた生活スタイルを望む人もいるでしょう。
これらは、どちらかが善であり悪であるということではなく、ライフスタイルや仕事観の多様化によって生じる価値観の違いであることを理解しなければならないのです。
6.企業のトップが率先してメッセージを発信する
固定概念を払拭することが難しいように、個人の「働き方」における意識改革は、一朝一夕に完了するものではありません。
そのため、ワークライフバランスを向上させるための取り組みは、企業のトップやマネジメント層が率先して実行し、その効果やメリットについてのメッセージを発信し続けることが重要です。
7.定着させるために時間と労力をかける
ワークライフバランス実現のための制度が、すぐに組織に浸透し定着するとは限りません。また、定着だけでなく効果の検証にも、一定の時間と労力が必要であることも認識しておくことが大切です。
マネジメント層による情報発信の重要性然り、ワークライフバランスの実現は、長期間にわたるプロジェクトであることを理解し、計画的に進める準備が必要です。
ワークライフバランスの現状を把握して改善することが重要
ワークライフバランスの実現は、まず自社社員のワークライフバランスの現状と希望、そして課題を把握することから始まります。
また、成功のカギとなるのは、ワークライフバランス実現の取り組みを全社員が、その目的を正しく理解し「自分ごと」として捉えること、さらには「経営者層による率先した旗振り」にあるといえます。
ここでご紹介した、導入の際のポイントや改善策を参考に、ワークライフバランス改善の取り組みを実行し、そのメリットである「離職率の低下」や「雇用の増加」、「企業の売上増加」といったメリットの実現を目指してみてはいかがでしょうか。
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