勤務間インターバル制度とは?注目される背景や導入メリット・注意点を解説

最終更新日時:2023/07/26

働き方改革

勤務間インターバル制度とは

働き方改革やワークライフバランスの推進により、勤務間インターバル制度に注目が集まっています。現状、制度について把握していない方も多いのではないでしょうか。本記事では、勤務間インターバル制度とは何なのか、注目されている背景からメリットや注意点までを解説します。あわせて、関連する助成金制度や先進事例についても紹介していきます。

勤務間インターバル制度について

最初に、勤務間インターバル制度の概要や確保時間、導入状況についてそれぞれ確認していきましょう。

勤務間インターバル制度とは?

勤務間インターバル制度とは、勤務終了後から翌日の出社まで、一定時間以上の休息期間(インターバル)を確保する制度です。

1日の勤務終了後、翌日の出社までの間に、一定時間以上の休息時間(インターバル)を確保する仕組みです。

[引用:厚生労働省「働き方改革 ~ 一億総活躍社会の実現に向けて ~」より]

仮に前日21時まで残業をした場合、休息時間として11時間を確保するのであれば、次の出勤日は翌朝8時以降に始業することになります。また、前日23時まで残業をした場合は、8時ではなく10時に始業時刻をずらすなどの対応が求められます。

このように休息時間を確保することによって、十分な生活時間や睡眠時間の確保につなげ、ワークライフバランスを保つというのが勤務間インターバル制度の趣旨です。

働き方改革関連法においては、変形労働時間制やフレックスタイム制、裁量労働制など弾力的な労働時間を採用できることから、そのような場合でも十分な休息期間を確保し、魅力ある職場づくりを可能とする制度と位置づけられます。

1ヶ月単位では、法令による残業時間の上限規制が定められていますが、1ヶ月未満の期間においても十分な休息期間を確保することが重要です。

勤務間インターバル制度の確保時間

それでは、この制度を実施する場合、勤務間インターバルはどのくらいの時間を確保すべきなのでしょうか。

まず「勤務間インターバル制度普及促進のための有識者検討会」における報告書によれば、8~12時間が例示されています。

時間数の設定の方法には、8時間、9時間、10 時間、11 時間及び 12 時間など一律に時間数を設定する方法や、職種によってインターバル時間数を設定する方法、義務とする時間数と健康管理のための努力義務とする時間数を分けて設定する場合などがあります。

[引用:厚生労働省「勤務間インターバル制度普及促進のための有識者検討会 報告書」より]

加えて、厚生労働省のマニュアルには、「11時間は望ましい水準で、9時間は最低限確保してほしい水準」という例も示されています。なおEU諸国においては、すべての労働者に、最低でも連続11時間の休息期間を確保するために必要な措置を設けることとされています。

[出典:厚生労働省「勤務間インターバル制度導入・運用マニュアル― 職場の健康確保と生産性向上をめざして―」]

勤務間インターバル制度の導入状況

勤務間インターバル制度の導入状況は、厚生労働省が取りまとめる政府統計調査である「就労条件総合調査」の調査対象となっています。

同調査によると、勤務間インターバル制度の導入企業割合は令和3年調査で4.6%、「導入を予定または検討している」が13.8%、「導入予定はなく検討もしていない」が80.2%となっています。令和2年度調査における導入割合は4.2%だったので微増はしていますが、導入を検討している企業割合は15.9%から13.8%へ減っています。

令和7年(2025年)までには勤務間インターバル制度の導入企業割合を15%以上とする数値目標(令和3年7月30日に閣議決定した過労死等の防止のための対策に関する大綱より)が掲げられていますが、達成は容易ではないでしょう。

[出典:厚生労働省「令和3年就労条件総合調査の概況」]

勤務間インターバル制度が注目されている背景

勤務間インターバル制度が注目されている背景には、法令で努力義務が課されているだけでなく、長距離バスにおける事故や過労死問題などが社会問題化していたことも挙げられます。

ある研究によれば、1日の睡眠時間が6時間未満の人は、7時間の人と比べて居眠り運転の頻度が高いことが示されています(厚生労働省の報告書より)。また、交通事故を起こした運転者で、睡眠時間6時間未満の場合には追突事故や自損事故の頻度も高いことを示す研究もあるようです。

[出典:厚生労働省「勤務間インターバル制度普及促進のための有識者検討会 報告書」]

働き方改革による勤務間インターバル制度の努力義務化

「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(働き方改革関連法)」が2018年6月29日に可決され成立し、同年7月6日に交付されました。

これによって事業主は、勤務間インターバル制度の導入に努めなければならないこととされています(努力義務)。導入しない場合にも罰則はありませんが、従業員の安全・安心を確保するためには積極的に導入を検討すべき制度でしょう。

勤務間インターバル制度のメリット

ここでは、勤務間インターバル制度のメリットを4つ紹介します。

  • 健康維持を図れる
  • 優秀な人材を確保できる
  • 生産性の向上が見込める
  • 想像力を活性化させる

健康維持を図れる

第一のメリットは、従業員の健康維持を図れることです。適切な勤務間インターバルを設けることで、従業員は十分な休息や睡眠時間が確保できます。必然的に、長時間労働の是正にもつながるでしょう。

また前述した有識者検討会の報告書で紹介されている研究結果によると、睡眠時間の確保によって次のようなメリットがあると示されています。

  • 睡眠時間が6時間以上であれば、6時間未満と比べて居眠り運転の頻度を抑えられる
  • 睡眠時間が6時間以上であれば、6時間未満と比べて追突事故や自損事故を抑えられる
  • 睡眠時間が8.6時間あれば、約5.8時間に制限された場合と比べて眠気による注意力低下を抑えられる

一定程度の睡眠時間を確保することで、心身ともにリラックスした状態で仕事にのぞめるようになるでしょう。

優秀な人材を確保できる

2つ目のメリットは、優秀な人材を確保できるという点です。インターバルを確保することで、従業員のワークライフバランス向上が期待できます。魅力的な職場の整備は、求職者に対してのアピールポイントとなり、優秀な人材の確保にもつながるものと考えられます。

少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少など大きな課題に直面する中、人材確保は企業の喫緊の課題となっているので、働きやすい職場づくりにつなげるためにも勤務間インターバル制度の導入は効果的といえるでしょう。

生産性の向上が見込める

前述のとおり、睡眠時間が6時間未満など短い場合、眠気による注意力の低下が起こる可能性があります。この点、インターバルをしっかり取っていれば、このような注意力低下も抑えられるでしょう。結果としてインターバルの確保で生産性の向上が見込めます。

また長時間労働によって休息時間が短くなることで、心身の疲れがたまると仕事へのモチベーションにも影響が出てくるかもしれません。よって、従業員が適切な労働時間の中で集中して業務にのぞめる環境をつくるためにも、勤務間インターバル制度の導入が重要になります。

想像力を活性化させる

ワークライフバランスを充実させたり、眠気による注意力低下を抑えたりすることで、従業員の想像力を活性化させることも期待できます。長時間労働の是正によるプライベート時間の充実によって、以前よりも多くの余暇時間が確保できるようになります。

これにより、私生活でさまざまな刺激を受けることで、新たなアイデアやビジネスプランなどが思いつく契機になるかもしれません。また学習時間や情報収集の時間も確保できるようになり、インプットを増やすことで業務でのアウトプットの質や量を向上させることもできるでしょう。

勤務間インターバル制度のデメリットや注意点

さまざまなメリットがある反面、勤務間インターバル制度の導入によるデメリットや注意点もあります。それぞれ事前によく確認しておきましょう。

  • 制度の導入にコストがかかる
  • 制度に馴染めない
  • 制度への理解を得られない

制度の導入にコストがかかる

勤務間インターバル制度の導入にあたっては、次のような導入コストが発生することがあります。

  • 社会保険労務士への相談コスト
  • 社会保険労務士への就業規則等の整備依頼コスト
  • クラウド型勤怠管理システムの導入コスト
  • 従業員の採用コスト(代替要員の確保コスト)

上記のようなコストを事前に見積もっておかなければ、想定外の負担となり思うように制度導入が進まないといったケースも考えられます。導入にあたっては、コストがかかることを事前に把握しておきましょう。

制度に馴染めない

従業員の中には、勤務間インターバル制度自体を知らない人もいるでしょう。そのため、勤務間インターバル制度を導入しようとしても認知度の低さから普及が難しい場合もあります。

制度に馴染めずに、家に仕事を持ち帰ったり、勤怠記録を記録せずにサービス残業を行う従業員も出てくるかもしれません。

制度への理解を得られない

仮に制度自体が認知されたとしても、一部では「これまで通り規制のないほうが仕事がしやすかった」という意見が出る場合もあります。このような場合にも勤務間インターバル制度の導入や普及が難しくなるため、導入時には丁寧な説明が必要です。

勤務間インターバル制度の導入方法

それでは、実際に勤務間インターバル制度を導入する方法についてステップごとに紹介していきます。

  1. 現状を把握する
  2. 適用時間を定める
  3. 実際に運用する

1.現状を把握する

勤務間インターバル制度の導入前には、労働時間がどのくらいなのか現状を把握する必要があります。また、あわせて就業規則でどのように労働時間を定めているのかも確認しておきましょう。

具体的には、次のような項目について現状を把握します。

  • 休息時間
  • 時間外労働時間
  • 交代制勤務時の勤務形態
  • 労働者の通勤時間
  • 労働者のニーズ
  • 取引先等との制約

必要に応じて労働者からヒアリングするなど、実態の把握に努めましょう。

2.適用時間を定める

続いて、勤務間インターバルの適用時間を定めます。前述のとおり、インターバルは11時間程度確保するのが理想です。なお、通勤時間もインターバル時間に含まれるため、従業員の通勤時間を考慮した時間を定めましょう。

3.実際に運用する

現状を把握し適用時間を決めたら、実際に勤務間インターバル制度の運用を始めます。なお、実施にあたっては試行期間を設けるのも効果的です。その後は、勤務間インターバル制度について社内規定で明文化することが望まれます。

試行段階で、勤務間インターバル制度に関する社内の制度化を行っていなかった場合には、本格導入に当たって適切に運用するために、労働者が就業上遵守すべき規律及び労働条件に関する具体的細目について定めた就業規則や、労働協約(※)などの締結により根拠規定を整備するようにしましょう。

[引用:厚生労働省「勤務間インターバル制度普及促進のための有識者検討会 報告書」より]

就業規則や労働協約の規定例は、厚生労働省のホームページに掲載されています。参考にしながら、制度の明文化など規定づくりに着手しましょう。

勤務間インターバル制度に活用できる助成金

勤務間インターバル制度の導入にあたり、「働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)」を活用できます。対象となるのは、次のすべてを満たす事業主です。

  • 労働者災害補償保険(労災保険)の適用を受ける中小企業事業主
  • 36協定を締結しており、原則として過去2年間において月45時間超えの時間外労働の実態があること
  • 年5日の年次有給休暇の取得に向けて就業規則等を整備していること
  • 勤務間インターバル制度を導入していないこと等

また、助成対象となる取組は次のとおりとされています。

  • 労務管理担当者に対する研修
  • 労働者に対する研修(業務研修含む)、周知・啓発
  • 外部専門家によるコンサルティング
  • 就業規則・労使協定等の作成・変更
  • 人材確保に向けた取組
  • 労務管理用ソフトウェア、労務管理用機器、デジタル式運行記録計の導入・更新(※原則として、パソコン、タブレット、スマートフォンは対象外)
  • 労働能率の増進に資する設備・機器等の導入・更新

新規導入については、所属労働者の半数を超える労働者を対象に勤務間インターバル制度を導入することを成果目標としなければなりません。補助率は4分の3で、休息時間数が9時間以上11時間未満なら上限80万円、11時間以上なら上限100万円となります。

勤務間インターバル制度の導入事例

それでは、実際に勤務間インターバル制度を導入した企業の事例を見ていきましょう。

  • KDDI株式会社
  • TBCグループ株式会社
  • 株式会社ニトリホールディングス
  • 森永乳業株式会社
  • AGS株式会社

KDDI株式会社

KDDI株式会社は、2015年7月に8時間のインターバルを設ける勤務間インターバル制度を全社に適用しました。さらに、健康管理指標として月間11日以上は11時間というラインも設定しました。

ただし継続性のある業務や緊急性の高い業務、繁忙期の対応などについては上長の判断による適用除外が可能となる制度としています。もっとも、2日連続の適用除外はできないようにし、適用除外の対応をした翌日は必ず健康配慮の措置を講じるようにしました。

結果として過重労働をピンポイントに把握できるようになり、従来では見い出せなかった健康リスクの回避が可能となりました。

TBCグループ株式会社

エステの施術店舗を全国に展開しているTBCグループ会社では、2017年1月に勤務間インターバル制度を導入しました。KDDI株式会社と同様に、9時間を義務規定とし、月間11日以上は11時間とする健康管理指標を定めています。

また、TBCグループ株式会社はインターバル時間をタイムカードと出勤簿で管理するというアナログなやり方から、全店ICカードで管理できるように電子化も進めています。

株式会社ニトリホールディングス

株式会社ニトリホールディングスでは、店舗において遅番と翌日の早番が連続したとき、インターバル時間が不足するという課題がありました。そこで2017年8月21日に10時間の勤務間インターバル制度を導入したことで、導入前と比べてインターバル時間の不足が3分の1にまで減少しました。

また、上長が管理する勤務シフトについて、登録時にインターバル時間が10時間未満だと警告を出し、インターバル時間が短いシフトは登録できない仕組みとしました。

森永乳業株式会社

森永乳業株式会社では、従来、トラブルなどが発生した場合に時間外労働が増えてしまうこと、そしてその時間外労働が発生する社員に偏りがあるという課題を持っていました。

そこで2014年10月から、8時間を最低ラインとして勤務間インターバル制度を導入しました。事業所によって9時間〜10時間と差を設け、本社では10時間以上としているのが特徴です。

勤務間インターバル制度の導入後はワークライフバランスに対する意識が大きく改善し、年次有給休暇取得率が1人あたり約2日分増えているなどの成果が表れています。

AGS株式会社

情報処理サービスなどを手掛けるAGS株式会社は、EU諸国の例を参考に11時間の勤務間インターバル制度を導入しました。なおAGS株式会社は客先でのシステム障害の場合はどうしてもインターバルを確保できないという理由から、労使協定で月3回まで、年間6回までであれば月5回の適用除外も認めています。

制度運用については、100%守られている状況ではないことから社員への告知はもう少し留意すべきだったと振り返っています。ただし、取引先に勤務間インターバル制度の説明資料を作成し説明したところ、むしろ褒められることが多かったようです。

今後、勤務間インターバル制度の運用により、時間外勤務の抑制や長時間労働の削減という形で働き方改革を推進していきたいとしています。

勤務間インターバル制度を正しく理解して導入へ

勤務間インターバル制度とは、勤務終了後から翌日の出社まで、一定時間以上の休息期間(インターバル)を確保する制度です。従業員の睡眠時間など健康を確保するとともに、ワークライフバランスの向上を図れるメリットがあります。

インターバル時間は11時間が理想ですが、労使でじっくりと話し合いながら、場合によっては取引先との状況を踏まえて検討すべきでしょう。勤務間インターバル制度の導入に際しては「働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)」を活用できるので、ぜひ助成金を活用しつつ導入を進めてみてください。

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ビズクロ編集部
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