働き方改革で変わった残業時間の上限規制とは?変更点や注意点を徹底解説

最終更新日時:2022/06/03

働き方改革

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働き方改革において特に注目される残業の上限規制ですが、新たなルールの適用によって具体的にどのように変わったのか、きちんと理解している人は少ないかもしれません。本記事では、残業時間の上限規制を改正前と改正後で比較します。また、上限規制の適用によって企業に起こりうるリスクや問題点、その対応策についても解説します。

働き方改革の時間外労働の上限規制とは?

働き方改革の推進に伴い、労働基準法が改正され「時間外労働の上限規制」が規定されました(2019年4月施行、中小企業への適用は2020年4月から)。

この中で時間外労働の上限規制は、原則として「月45時間」「年360時間」と定められ、臨時的な特別の事情がなければ、これを超えることはできなくなりました。

特別な事情があっても、以下の労働時間内に抑えなければなりません。

  • 時間外労働:年720時間以内
  • 時間外労働+休日労勤:月100時間未満、2ヶ月から6ヶ月平均80時間以内

[出典:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署 「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」]

そもそも働き方改革の目的や時間外労働とは具体的に何を指すのか、以下の項目で詳しく解説していきます。

(1)働き方改革の時間外労働の上限規制の目的

時間外労働の上限規制を設ける目的として、長時間労働の是正やワークライフバランスの改善、生産性の向上があげられます。

長時間労働は、心身の健康に悪影響を与えるとともに家庭生活の両立を困難とするため「少子化の原因」となり、「女性キャリアの形成」「男性の家庭参加」などを阻む要因ともなります。

長時間労働を是正することは、労働環境の改善によるワークライフバランスの向上にもつながります。また、人手不足が深刻化する中、働きやすい職場環境をつくることは女性や高齢者など多様な人材の労働参加率を上げることにも寄与するでしょう。

さらに、単に時間外労働を短縮させる目的だけではなく、労働環境の改善による従業員のモチベーションアップによって、生産性を向上させる目的もあります。生産性を高めて競争力を強化することは、企業間競争で勝ち抜くための重要なポイントとなるでしょう。

(2)そもそも時間外労働とは何を指すのか?

時間外労働とは何を指すのかについて、「法定内残業」と「法定外残業」にわけて詳しく見ていきましょう。

#1: 法定内残業

法定内残業とは、「企業で決められた就業時間を過ぎているものの、労働基準法で定められた範囲内には収まっている時間外労働のこと」です。

労働者の法定労働時間は、労働基準法によって「1日8時間」かつ「1週間あたり40時間」と定められています。

1日の就業時間が8時間未満の場合、8時間に到達するまで働く差分が法定内残業となるわけです。

例えば、朝8時から休憩1時間を入れて16時まで勤務すると、勤務時間は7時間です。その後、17時まで残業した場合、法定内残業は1時間となります。

#2: 法定外残業

法定外残業とは、法定労働時間(「1日8時間」かつ「1週間あたり40時間」)を超えて働いた時間外労働のことです。

例えば、8時から20時まで休憩1時間で勤務した場合、労働時間は11時間となります。法定労働時間が8時間なので、法定外残業は3時間です。

この場合、法定労働時間を超えているため、企業は労働者に対して割増賃金の支払いが必要です。

[出典:e-Gov 労働基準法 第三十二条(労働時間)]

[出典:e-Gov 労働基準法 第三十七条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)]

改正前と改正後ではどう変更されたのか?

働き方改革により施行された時間外労働の上限規制は、改正前と改正後でどの部分に変更があったのか解説していきます。

(1)時間外労働の上限規制を改正前と改正後で比較

時間外労働の上限規制は、以下のように変更となりました。

改正後改正前
残業時間(原則)法律による上限

月45時間

年360時間

行政指導

月45時間

年360時間

残業時間

(例外)

法律による上限

(特例事項/年6ヶ月まで)

上限なし

(年6ヶ月まで)

[出典:厚生労働省「時間外労働の上限規制」]

改正前は36協定を結んでいても、限度時間を超えた時間外労働が可能でした。

改正後は36協定を結んでいたとしても、月45時間を超える残業はできません。特別な事情で行う場合でも以下の項目を守る必要があります。

  • 時間外労働が年720時間以内
  • 時間外労働と休⽇労働の合計が⽉100時間未満
  • 時間外労働と休⽇労働の合計について「2ヶ⽉平均」「3ヶ⽉平均」「4ヶ⽉平均」「5ヶ月平均」「6ヶ月平均」が全て1⽉当たり80時間以内
  • 時間外労働が⽉45時間を超えることができるのは、年6ヶ⽉が限度

上限規制に違反した場合、後述するように罰則が科されるおそれがあります。休日出勤する場合の労働も、時間外労働にカウントするので管理側は注意する必要があります。

(2)規制に違反した場合の罰則

改正前においては、法的な罰則はありませんでした。改正前と比べて改正後は残業に対するルールが厳しくなり、罰則が設けられました。

改正後、法律に違反して労働者に過度な残業を課すと「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰⾦」が科されるおそれがあります。企業側は従業員に過度な残業をさせないよう職場環境の改善を行う必要があります。

残業時間の上限規制に猶予のある事業や職種

改正後すべての業種に上限規制が適用されるわけではなく、5年の猶予期間が設けられている事業や職種があります。

以下に猶予のある事業や職種を4つ紹介しています。

  1. 建設業
  2. 自動車運転の業務
  3. 医師
  4. 鹿児島県及び沖縄県の砂糖製造業

(1)建設業

建設業においては、2024年3月31日まで猶予期間が設けられており上限規制は適用されません。

2024年4月1日以降になると以下の内容となります。

  • 災害の復旧・復興の事業を除き、上限規制がすべて適用されます。
  • 災害の復旧・復興の事業に関しては、時間外労働と休日労働の合計について「月100時間未満」「2ヶ月から6ヶ月平均80時間以内」とする規制は適用されません。

(2)自動車運転の業務

タクシーや夜行バスなどの自動車運転の業務においては、2024年3月31日まで猶予期間が設けられており上限規制は適用されません。

2024年4月1日以降になると以下の内容となります。

  • 特別条項付き36協定を締結する場合の年間の時間外労働の上限が年960時間となります。
  • 月100時間未満、2ヶ月から6ヶ月平均80時間以内とする規制は適用されません。
  • 時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6ヶ月までとする規制は適用されません。

(3)医師

医師においては、2024年3月31日まで猶予期間が設けられており上限規制は適用されません。

2024年4月1日以降の取扱いについては原則「年960時間/月100時間未満(例外あり)※いずれも休日労働含む」が適用される予定となっています。

ただし、救急指定病院やがん拠点病院などは暫定特例水準(「年1,860時間/月100時間未満(例外あり)※いずれも休日労働含む」)が設定されており、2036年以降は上限時間が引き下げられる方針です。

[出典:厚生労働省「医師の時間外労働規制について」]

(4)鹿児島県及び沖縄県の砂糖製造業

鹿児島県及び沖縄県の砂糖製造業は「季節的要因等により事業活動若しくは業務量の変動が著しい事業、若しくは業務又は公益上の必要により集中的な作業が必要とされる業務」に該当すると判断され、2024年3月1日まで猶予期間が適用されています。

猶予期間中は、時間外労働と休⽇労働の合計については「月100時間未満」「2ヶ月から6ヶ月平均80時間以内」とする規制は適用されません。

2024年4月1日以降は、上限規制がすべて適用されるため今後、適用後の対応のために課題解決が急がれています。

上限規制で考えられるリスク

時間外労働の上限規制で、さまざまな問題が起きると予想されています。どのような問題が起きるのか以下の3つを紹介していきます。

  1. 残業したいという従業員のモチベーションが低下する
  2. サービス残業が増加する
  3. 業務量の偏りが生じてしまう

(1)残業したいという従業員のモチベーションが低下する

残業を当たり前のものとしていた従業員の労働時間が減り、残業代が削減されてしまうと、従業員のモチベーション低下につながります。

残業代があることを前提に生活をしていた従業員であれば、給料が少なくなることにより生活が厳しくなる場合や、中長期的にみて生活設計に影響がでるなどの問題が考えられるでしょう。

(2)サービス残業が増加する

上限規制により、企業は基準時間内で業務を終了させなくてはいけません。しかし、業務によってはどうしても終わらない場合があります。

業務が終わらず社内で仕事ができない場合、自宅に仕事を持ち帰るサービス残業や隠れ残業が増加してしまいます。

サービス残業や隠れ残業が増えた場合、働き方改革の目的の一つである「ワークライフバランスの改善」が達成できなくなります。

(3)業務量の偏りが生じてしまう

残業時間が規制されることにより、一部の従業員に業務量が偏る可能性もあります。従業員のスキルや習熟度によっては、所定の時間内に業務を終えられる人と終えられない人が出てくるでしょう。

業務に習熟している人や効率的に作業を進められた人に、完了できない人の業務が回ってくると、こなす業務の量に差がでてしまうため、従業員から不満が出るおそれもあります。

不満が募ることで、人間関係の不和やコミュニケーションの低下につながることも考えられます。

リスク・問題に対して企業が取り組むべき対応策と注意点

時間外労働の上限規制に違反すると罰則が科される場合があります。また前述の通り、業務の偏りなどが発生するリスクもあります。ここでは、企業側はどのような対策に取り組むべきなのか、対応策と注意点を3つ紹介していきます。

(1)従業員の労働時間を把握する

残業体質を是正するためにも、職場でどの程度残業が発生しているのか、従業員一人ひとりの残業時間に大きな差がないか、同じ業務内容なのに完了するまで時間に差がないか現状を把握しましょう。

また、若手社員が上司より先に帰りにくいと思い、意味のない残業をしている場合もあります。上司や管理者が積極的に定時に帰るなど、無駄な残業をしない・させない雰囲気作りも大切です。

(2)業務量の調整をする

従業員の業務にかかる時間に差があるとわかった場合、業務量を調整しましょう。

  • 従業員ごとの仕事量は適切なのか
  • 一部の人間に業務が集中していないか

上記の項目を確認し、残業が多い従業員に関しては「業務への取り組み方法に問題がないか」など原因の分析も大切です。

業務への取り組み方が悪い場合は、業務フローを「見える化」して効率化できる部分がないか探し、改善策を実行しましょう。

(3)業務のムダを減らして残業時間を削減する

業務効率化によってムダを減らすことも大切です。業務量を調整して、従業員のタスクのバランスを取ったら、処理する優先順位を決めていきましょう。

優先順位を決める場合、緊急性・重要度の高い業務を先に処理し、急ぐ必要のない仕事はできるだけ後に回します。

また、業務効率化を図るためにタスク管理用のITツールを導入するのも効果的です。ツールは機能や費用ごとにさまざまなものがあります。自社の目的や用途にあったツールを選定しましょう。

残業時間の上限規制は重要なポイントとなる

企業は、残業時間の上限規制を守らないと重い罰則を受けてしまうおそれがあるので、必ず法令を遵守する必要があります。

一方で、残業時間の上限を設けることで、従業員のモチベーション低下やサービス残業・隠れ残業の増加など、さまざまな問題が発生する可能性があるため、管理者は事前に対応策を検討しましょう。

職場の現状を把握して、業務フローの改善やツールを導入した業務効率化などを進め、無駄な残業が発生しないような快適な職場環境の構築に努めましょう。

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