ウェルビーイング(Well-being)とは?意味やメリット・注目される背景を解説
「ウェルビーイング」という概念が昨今の働き方の中で注目されています。本記事では、ウェルビーイングの意味やメリット、注目される背景を解説し、企業の取り組み事例も紹介します。会社にとってメリットの多いウェルビーイングの導入検討の参考になれば幸いです。
目次
ウェルビーイングとは?
ウェルビーイング(well-being)とは、心理的・身体的・社会的に良好な健康状態であることを示す概念です。
ウェルビーイングの特徴は主に2つあります。心身の健康だけでなく、やりがいや生きがいといった社会的な健康にも目を向ける点と、持続的な幸せを目指す点です。
「健康」と聞くと心身の健康をイメージしがちですが、ウェルビーイングでは「社会に必要とされている」「職場に自分の役割がある」といった社会的な側面も健康要素の一部とみなします。
また、瞬間的な幸福を意味する「Happiness」とは異なり、持続性ある幸福を追求する点がウェルビーイングの特徴です。
ウェルビーイングの意味と定義について
ウェルビーイングという言葉が公の場で言及されたのは、1948年に発効された世界保健機関(WHO)憲章においてです。
Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。
[引用:公益社団法人日本WHO協会「世界保健機関(WHO)憲章とは」より]
憲章では、無病であることを健康と呼ぶわけではなく、心身的・社会的に良好な状態(=ウェルビーイング)のことを健康と定義しています。この考えが現在におけるウェルビーイングの基本的な認識です。
類義語「ウェルフェア」との違い
ウェルビーイングとよく似た言葉に「ウェルフェア(welfare)」があります。ウェルフェアは福祉の意味を持つ英単語で、ウェルビーイングと混同しやすい言葉です。
両者の違いは、受動的か主体的かにあります。ウェルフェアという言葉は、貧困救済や社会的弱者へのサポートといった保護的な意味合いを持っています。個人は、国や非営利組織から支援を受ける「受動的」な存在である考えが根底にあるといえます。
一方、ウェルビーイングは、すべての個人が心身的・社会的な健康状態を目指すことを目的に提唱された言葉です。個人は自らの判断で福祉サービスや社会制度を利用し、健康かつ心理的に満たされた状態の維持に努めます。
このように、ウェルフェアには「弱者を貧困ラインから引き上げる」といった保護的なニュアンスが含まれているのに対し、ウェルビーイングには「すべての個人が自らの健康を高めていく」という主体的な意味合いがあります。
ウェルビーイングを構成する5つの要素
心理学者のマーティン・セリグマン氏によると、ウェルビーイングを構成する要素は次の5つです。
- Positive Emotion:多幸感や満足感などのプラス感情
- Engagement:何かに対する愛着や思い入れの感情
- Relationships:他者との友好関係から生まれる感情
- Meaning:人生の意義や目的を通じて得られる感情
- Accomplishment:目標達成や成功を通じて得られる感情
これらの要素は頭文字を取って「PERMA」と呼ばれます。5つの要素を高めることで、持続的な幸福の実現が可能になるといわれています。
ギャロップ社によるウェルビーイングの要素
また、米国の大手コンサルティング会社のギャロップ社は、ウェルビーイングに関する調査に以下の構成要素を用いています。
- Career Wellbeing:充実したキャリア
- Social Wellbeing:良好な人間関係
- Financial Wellbeing:経済的な安定
- Physical Wellbeing:身体的な健康状態
- Community Wellbeing:地域社会との関係性
マーティン・セリグマン氏とギャロップ社が定義するウェルビーイングの要素は、ウェルビーイングを測る指標として広く認知されているものです。企業がウェルビーイングの導入を図る際には、これらの要素を意識した取り組みが重要といわれています。
ウェルビーイングが注目される背景
もともと医療や看護、社会福祉の専門用語として扱われていたウェルビーイングですが、近年はビジネスシーンでも注目を集めています。ビジネスで注目を集めている理由は主に次の4点です。
懸念される人材不足
日本の生産年齢人口は1990年代にピークを迎え、以降は減少傾向です。減少傾向は今後も続くものと予測されており、国立社会保障・人口問題研究所によると、2040年までに日本の生産年齢人口は6千万人を割る可能性があります。
こうしたなか、企業は人手不足が深刻化する前に積極的な雇用対策が求められるようになりました。その対策の一環として注目されているのが「ウェルビーイング」の導入を含む労働環境の見直しです。
従業員とその家族の健康・幸福度を高めることで従業員エンゲージメントの向上を図り、会社への帰属意識を高めてもらおうとする企業が現れました。
働き方改革の推進
日本では労働生産性の低下を打開するため、長時間労働によるマンパワーに頼っていた時期がありました。仕事とプライベートのバランスが崩れた結果、従業員が心身に受けるストレスは増大し、昭和の後半には過労死が社会問題にまで発展していったのです。
2013年に国連より過労死対策の勧告を受けてからは、政府によって働き方改革が推進されるようになり、企業は長時間労働の是正に向けた取り組みが求められるようになりました。
「年次有給休暇の時季指定」や「時間外労働の上限制限」といった法改正が進んでいったこともあり、従業員の権利や健康を意識する企業も増えています。
SDGsで掲げられている目標との関係性
2015年の国連サミットで掲げられたSDGs(持続的な開発目標)は、より良い世界へと変えていくために設定された17個の目標を意味します。
貧困・飢餓・ジェンダーといったキーワードが目標に定められているなか、目標3に設定されているのが「GOOD HEALTH AND WELL-BEING(すべての人に健康と福祉を)」です。
このように、ウェルビーイングに対する取り組みは日本国内だけでなく、世界全体で推進されているものです。企業がウェルビーイングを導入することは、世界のトレンドからみても違和感のない動きといえるでしょう。
ダイバーシティの推進
多様性を意味する言葉である「ダイバーシティ」の考えが浸透してきていることも、ウェルビーイングへの注目が集まっている理由のひとつです。
現代では、個人の価値観や生き方の多様化が進んでいます。会社での昇進よりもプライベートの充実を重視する人がいれば、勤務時間にとらわれない自由な働き方を求める人も存在します。
画一的な価値観を押し付ける従来の経営スタイルでは人材が集まらない時代背景もあり、多様性の受け入れや推進を図る企業も増えてきました。
ダイバーシティの推進にともない、企業が労働環境づくりへ目を向け始めるなかで、ウェルビーイングの認知度も高まっていったのです。
ウェルビーイングの日本の現状について
国連が毎年発表している世界幸福度レポートによると、2022年における日本の幸福度は146か国中54位です。G7(先進国首脳会議)の中では最下位であり、経済レベルに反して日本の幸福度は低い状態といえます。
世界幸福度レポートでは、次の6項目を指標に順位付けが行われています。
- 一人当たり国内総生産(GDP)
- 社会保障制度などの社会的支援
- 健康寿命
- 人生の自由度
- 他者への寛容さ
- 国への信頼度
なかでも日本は、「人生の自由度」「他者への寛容さ」が他国に比べて低い傾向です。働き方改革やダイバーシティの推進が展開されている状況ではあるものの、ウェルビーイングへ向けた取り組みは、まだまだこれからというのが日本の現状といえるでしょう。
ウェルビーイングが企業にもたらすメリット
企業がウェルビーイングに取り組むことには、主に4つのメリットがあります。
- 生産性の向上
- ワークライフバランスの実現
- 優秀な人材の確保・離職率の低下
- 健康経営の推進
それぞれのメリットを詳しく見ていきましょう。
生産性の向上
ウェルビーイングは心身を良好な状態に保つことを目指すため、導入によって社員一人ひとりが生き生きと働けるようになり、結果として生産性の向上が期待できます。
生産性アップには、社員が良好なコンディションであることが欠かせません。過剰労働で自社の社員にストレスや疲労が蓄積している場合、労働効率が下がるだけでなく、作業ミスによって事業にマイナスの影響を及ぼす可能性も出てくるでしょう。
ウェルビーイングの導入によって企業が社員の健康や幸福に配慮することで、社員は心身の健康を維持しながら業務に取り組めるようになります。
ワークライフバランスの実現
ウェルビーイング導入にともない労働環境の改善が進行すれば、ワークライフバランスの実現にも繋がります。
ノンコア業務の自動化やテレワークによる通勤時間の削減など、従業員がより本質的な業務に集中できる環境が整備できれば、仕事とプライベートの両立が実現可能です。
育児や介護、趣味や地域活動といったプライベート面の時間が十分に確保されることで、社員は心にゆとりが持てるようになり、仕事にも好循環をもたらします。
仕事とプライベートそれぞれの充実を推進するウェルビーイングによって、同時にワークライフバランスの改善が図れることを覚えておきましょう。
優秀な人材の確保・離職率の低下
労働環境を改善し、ワークライフバランスが実現すれば、社員の会社に対する評価も好意的になるため、離職率低下が期待できます。
「この会社は、自分の健康や幸福を考えてくれている」と感じる社員が増えていけば、会社全体の雰囲気も良くなり、明るい企業風土を社外に対してもアピールできるでしょう。
対外的なイメージが向上すれば、優秀な人材も集まりやすくなり、人材雇用の面でもプラスの影響をもたらします。
健康経営の推進
健康経営とは、一言でいうと社員への健康投資を図る経営スタイルです。「社員の健康に配慮することは、企業経営にとって大きなメリットがある」という考え方にもとづき、戦略的に社員の健康管理や増進を試みます。
労働人口の減少や少子高齢化の深刻化にともない、健康経営に注目する企業も少なくありません。経済産業省が2016年度から実施している「健康経営優良法人認定制度」では、2021年度の時点で1万社を超える申請があります。社会的な評価を得られる本制度の存在も関係し、多くの企業が健康経営を推進しているのが現状です。
ウェルビーイングへ向けた企業の取り組みは、健康経営にも直結します。社員の身体的・心理的・社会的な健康維持を推進していくことで、企業の健康経営も連鎖的に発展していきます。
ウェルビーイングへの企業の取り組み
ここでは、企業がウェルビーイングに取り組む際の具体的なアクションを3つ紹介します。
コミュニケーションの活性化
ウェルビーイング経営に欠かせないポイントが、社内コミュニケーションです。「上司と部下の間に壁がある」「同僚に相談しづらい」といったように、コミュニケーションに問題がある環境では、社員一人ひとりが気持ちよく働けません。
1on1ミーティングの実施、コミュニケーションツールの導入、オープンスペースの設置などを通じて、社員が気軽にコミュニケーションを交わせる環境づくりを心がけましょう。
労働環境や社内ルールの見直し
コミュニケーションは、労働環境を構成する一要素に過ぎません。長時間労働の是正や、多様な働き方を推進するためには、既存の業務プロセスや社内ルールに対する抜本的な見直しが必要です。
労働環境の改善例としては、テレワークの導入が挙げられます。遠隔でも業務を遂行できるようにクラウドサービスを社内に導入し、テレワークに適した人事評価制度を設けることで、柔軟な働き方を社員に提供することが可能です。
MVVの共有
MVVとは、Mission(使命)、Vision(構想)、Value(理念)の頭文字を取った用語です。組織の存在意義や行動指針を明確にすることで、社員が共通の認識を持って業務に取り組めるようになります。
健康というと、心や身体に目が向いてしまいがちですが、ウェルビーイングでは「社会的」な健康も欠かせない要素です。
自分が何のために働いているのか、今の仕事が社会にとってどのような価値があるのか、といった「やりがい」や「生きがい」に繋がる点を社員に認識してもらうのも、重要な取り組みといえます。
ミッション・ビジョン・バリューを定め、社員へ共有を図ることは、単に組織の統一感を高めるだけでなく、社員一人ひとりの社会的な健康づくりに役立つのです。
ウェルビーイングへの会社の取り組み事例
ここでは、ウェルビーイングに取り組んだ先進的な事例を紹介します。
味の素株式会社
食品メーカーである味の素株式会社は、従業員の健康を経営の重要項目として捉え、2018年に健康宣言を制定しています。
具体的には「My Health」という従業員専用Webサイトを通じて、従業員の健康状態・就労状況を可視化するだけでなく、健康維持に役立つ情報配信を実施しながら、セルフ・ケアを支援しています。
ほかにも、AI管理栄養士による健康管理アプリ「カロママプラス」、適正糖質セミナー、栄養教育や社員食堂での栄養改善といった多角的な施策を展開し、従業員が健康を主体的に考える機会を提供しています。
オーストラリアのABW
オーストラリアでは、ABWという新たなワークスタイルが浸透し、注目を集めています。
ABWとは、Activity Based Working(アクティビティ・ベースド・ワーキング)の略称で、業務における時間や場所の制約を取り払い、従業員の自由意志で働き方を変えられる勤務形態です。日本では似たような働き方としてテレワークが推進されていますが、ABWとの違いは自由度の差にあります。
日本のテレワークでは、基本的に労働時間は就業規定に沿って定められています。一方、ABWでは一定期間内での総労働時間を満たせば、どの時間帯で働くかは自由です。こうした柔軟な働き方が社員の自主性や労働パフォーマンスの向上を引き出し、オーストラリアやオランダを中心に広がりをみせています。
キヤノン株式会社
精密機器メーカーであるキヤノン株式会社は、グループの行動指針として「健康第一主義」を掲げています。経済産業省認定の健康経営銘柄や健康経営優良法人(ホワイト500)への選定実績が多数あり、日本の健康経営をリードする企業のひとつです。
同社は、がん、生活習慣病、メンタルヘルス、感染症の対策を重点課題として、全国9か所に健康支援室を設立しています。従業員750名あたりに1名の保健師を配置することで、健康課題(食事、運動、睡眠、禁酒・節酒、デンタルケア、感染予防対策)へのサポートを提供しています。
また、2016年からは健康保険組合と連携し、健康増進を目的とした情報配信ツールを導入しました。2020年秋時点で登録率が84.1%に達していることから、健康風土が着実に社内に醸成され、従業員の健康意識が高まっている様子がうかがえます。
Google LLC
世界的プラットフォーマーであるGoogle LLCは、ウェルビーイングとも関連性が高い「心理的安全性」というワードを広めるきっかけとなった存在です。
心理的安全性とは、psychological safety(サイコロジカル・セーフティ)の和訳として用いられる心理学用語です。他者の反応を気にすることなく、自然体の自分をさらけ出せる環境を指します。
心理的安全性を日本に浸透させるきっかけとなったのが、Google社が実施した「プロジェクト・アリストテレス」です。生産性の向上を目的とした本プロジェクトでは、チームにおける成功の法則として、心理的安全性をはじめとするメンタル要素の重要性を明らかにしました。
同社はこの結果をもとに、インフォーマルなコミュニケーションの実施、ピアボーナス制度の導入、OKRによる目標設定の明確化といった施策を講じ、社員のウェルビーイングを高めることに成功しています。
ウェルビーイングで次なる世代の働き方の実現へ
本記事では、健康経営の普及により注目を集めているウェルビーイングに関して、国内の推進状況や企業の取り組み事例などを踏まえて紹介しました。
多様な価値観を許容する時代にシフトしていくなかで、企業がウェルビーイングへ向けた取り組みを展開することは、労働生産性の改善だけでなく、社員やその家族の健康・幸福を高めることに繋がります。
ウェルビーイングへの理解を深め、自社に適した労働環境づくりや健康施策を実施していきましょう。
働き方改革の記事をもっと読む
-
ご相談・ご質問は下記ボタンのフォームからお問い合わせください。
お問い合わせはこちら