基幹システムを刷新する目的とは?刷新するメリットや失敗しない進め方

最終更新日時:2023/06/20

ERP(基幹システム)

基幹システムの刷新

近年、注目を集めている基幹システムの刷新。しかし、なぜ今になって企業は既存システムを刷新しなければならないのでしょうか。本記事では、そんな基幹システムを刷新する目的について、刷新するメリットから失敗しないための進め方まで徹底解説していきます。

基幹システムとは?

基幹システムとは生産管理や販売管理・在庫管理など、企業運営の中核を担う業務の遂行に必要な機能を搭載したシステムです。基幹システムは、以下の種類に分けられます。

  • 生産管理システム
  • 販売管理システム
  • 受注管理システム
  • 在庫管理システム
  • 財務会計システム
  • 人事給与システム

各基幹システムをパッケージ化したシステムが、ERP (Enterprise Resource Planning)と呼ばれています。システムダウンによって基幹システムが機能不全に陥ると、広範囲に影響が及びます。

業務遂行をスムーズに進めるためにも、安定したパフォーマンスが日々求められるシステムです。簡単に代用が効かないため、メンテナンスを繰り返しながら、長年同じシステムを利用する企業が多い現状です。

しかし、老朽化したシステムを使い続けると、さまざまなリスクが生じます。リスクを回避するためにも、基幹システムを刷新する準備を進めておく必要があります。

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基幹システムを刷新する目的

基幹システムを刷新する目的は、以下の2つです。

  • DX化の推進
  • システムの老朽化への対応

DXを推進するには、自社の業務プロセスや扱うデータをデジタル化しなければなりません。基幹システムの刷新は、デジタル化の一つに含まれます。また、老朽化した基幹システムを使い続けると、さまざまな悪影響が生じます。

DX化の推進

DX(Digital Transformation)は、2004年にスウェーデンの大学教授エリック・ストルターマンが提唱した概念です。同氏は「IT(情報技術)の浸透が、人々の生活をあらゆる面で良い方向に変化させる」と唱えました。

2018年に経済産業省はDXについて以下のような定義を発表しました。「データとデジタル技術を活用し、業務プロセスや組織文化、ビジネスモデルなどに変革を促すこと」と唱えています。

【参照:経済産業省ホームページ

顧客ニーズを正確に把握するため、クラウドサービスやAI・IoT機器など、デジタル技術の活用が各企業に求められています。DX推進によってビジネスモデルを変革できると、収益拡大や市場での優位性獲得など、さまざまなメリットが見込まれるでしょう。

また、DX推進に向けては基幹システムの刷新も不可欠です。新たな基幹システムへの移行によって、部門間のスムーズなデータ連携を実現し、業務効率の改善や迅速な意思決定を実現します。

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システムの老朽化への対応

老朽化したシステムからの脱却を図るのも、基幹システムを刷新する目的の一つです。老朽化した基幹システムを長年使い続けると、さまざまなデメリットが生じます。まず考えられるのが、保守運用にかかるランニングコストが年々増大する点です。

機能追加や技術的な負債によって、メンテナンス回数が年々増大します。保守費用が高騰すると、新たなシステムやアプリの導入に充てるための費用を確保できません。また、改修する機会が多くなるほど、システムの肥大化や複雑化を招くでしょう。

システムに精通した人材が退職や人事異動で社内からいなくなった場合、ベンダー側へシステムの全体像を明確に伝えられません。最悪の場合は改修ができず、不具合のリスクを常に抱えながら利用する形になるかもしれません。

さまざまなリスクを回避するためにも、基幹システムを刷新します。

基幹システムを刷新するメリット

基幹システムの刷新によって得られるメリットは、以下の3つです。

  • ブラックボックス化の解消
  • システムの一元化・業務の効率化
  • 人材の教育コスト削減

老朽化によって生じるブラックボックス化を解消でき、特定の従業員への過度な依存や教育コスト増大を避けられます。ここからは、それぞれを解説します。

ブラックボックス化の解消

基幹システムを刷新するメリットは、システムのブラックボックス化を解消できる点です。ブラックボックス化とは、改修頻度の増大によって業務プロセスが見えない状態を指します。基幹システムの複雑化や肥大化を招くと、業務の属人化を招く可能性があります。

特定の従業員しか業務を遂行できないと、休暇や出張によって不在の場合に業務を進められません。また業務プロセスを理解した従業員が在籍している間にノウハウや知識を後継者に伝承しないと、業務を進められなくなる可能性もあるでしょう。部署間のデータ連携もスムーズにできず、業務効率が高まりません。

しかし、基幹システムの刷新によって業務プロセスを簡素化すれば、業務内容や流れを明確化できます。特定の従業員へ、過度に依存することもありません。業務の標準化によって、業務効率の改善と成果物の品質向上も望めます。

システムの一元化・業務の効率化

販売実績や在庫数・生産計画など、業務に関する情報を基幹システム上でまとめて管理できます。必要な情報をすぐに発見できる体制が整い、管理負担の軽減や業務効率の改善につなげられます。

業務の分野ごとに共通して使う情報は自動で反映されるため、同じ内容のデータを何度も入力する必要はありません。また、業務プロセスの可視化によって、不正行為やミスを発見しやすくなる点もメリットです。

正しい手順や方法でデータを扱っているか分析でき、データの破壊や紛失・機密情報漏洩のリスクを最小化できるでしょう。

人材の教育コスト削減

基幹システムの刷新によって、ボタン配置や画面表示などユーザーインターフェースを改良できます。情報が整理された画面設計によってITリテラシーを問わず直感的な操作を実現するため、操作性に悩まされる心配はありません。

同じシステムを数十年も使い続けていると、システムのブラックボックス化によって、操作方法が複雑化します。新入社員は、システムの使い方と業務内容を平行して覚えなければなりません。そのため、戦力になるまで時間がかかるだけでなく、既存従業員の負担も増します。

基幹システムの刷新によって操作方法を簡素化すれば、ストレスを抱えずに操作ができ、新入社員は業務の流れや進め方を早期に覚えられます。一方、既存従業員も教育にかける時間を大幅に削減でき、担当業務に取り組める時間を確保できます。

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基幹システムを刷新する際の失敗しない進め方・流れ

基幹システムを刷新するには、以下の手順に沿って移行作業を進めてください。

  • プロジェクトチームの配備・結成
  • 自社の現状分析・課題の洗い出し
  • 刷新の方針・方向性の決定
  • ベンダーの選定
  • 基幹システムの要件定義
  • システム刷新の実施・動作テスト
  • システムの運用・保守

それぞれ、詳しく作業内容を確認していきます。

プロジェクトチームの配備・結成

基幹システムの刷新を主導する、プロジェクトチームを結成します。情報システム部だけでなく、業務部や営業・生産管理など、各部署からメンバーを選出することが重要です。

特定の部署しかメンバーを選出しなかった場合、新しくシステムを導入しても全社としての課題解決に至らない可能性が高まります。プロジェクトメンバーは、課題抽出やシステムへの要望・導入時期など、さまざまな内容を経営層と話し合います。

自社の現状分析・課題の洗い出し

プロジェクトメンバーを話し合いの場にして、各部署で抱えている課題を共有し、課題が出揃った後は優先順位付けをおこないましょう。

すべての課題を解決しようとすると、開発費用の高騰や開発期間の長期化を招きます。業務への影響が大きい内容を可視化し、システム全体の設計に反映することが重要です。優先して解決すべき内容が固まれば、必要な機能と不要な機能の整理もスムーズに進められます。

刷新の方針・方向性の決定

自社の現状分析や課題の洗い出しが完了したら、刷新の方針や方向性の決定を行いましょう。システムの全体像や予算・導入予定時期など、導入目的やシステムの方向性を決めます。判断にブレや迷いが生じないよう、決定事項を文書にまとめておいてください。

ベンダーの選定

新たなシステムの開発を依頼するベンダーを選定します。自社に合ったベンダーを選ぶポイントは以下の通りです。

  • 基幹システム刷新の実績は豊富か
  • 競合他社での実績はあるか
  • 予算に開発費用が収まっているか
  • 開発力に優れているか
  • 担当者とスムーズなコミュニケーションは望めるか

基幹システムの刷新実績が豊富な企業の選定を前提とした上で、自社と同じ業界での導入実績があるかを確認しましょう。競合他社の実績があれば、業務で必要な機能を具体的にイメージでき、認識のズレによるトラブルが発生しにくくなります。

また、担当者との相性も重要なポイントです。システムを刷新した後も、メンテナンスやアップデートを依頼します。専門用語を多用する担当者や費用の説明が曖昧な担当者には、依頼を避けるようにしましょう。

基幹システムの要件定義

要件定義とは、実装する機能や対応範囲など自社の要望をベンダー側に伝える工程で、基幹システムの刷新を進める上で最も重要です。自社と業者の間で認識のズレが生じると、修正工数の増大により追加費用や納期遅延が発生する可能性があります。

自社の要望を正確に伝えるためにも、RFP(Request for Proposal:提案書)を作成しましょう。RFPには現状の課題や基幹システムの刷新に至った背景まで、さまざまな要望を盛り込みます。RFPに記載する内容は下記を参考にしてみてください。

 概要提案依頼要件その他
記載事項
  • 基幹システムの刷新を決断した背景
  • 現状の課題
  • 予算
  • 納入予定時期
  • 自社の運用体制
  • 現行サーバーやソフトウェアなどに関する情報
  • 実装する機能
  • 不要な機能
  • メンテナンスの依頼有無
  • システム全体の設計像
  • 進捗管理や技術面のアドバイスなど、マネジメント面での要望
  • テストに関する要望
  • システムへ移行する際の要望
  • 操作方法に関する教育面での要望
  • 契約条件
  • 保守契約
  • 著作権の所在

RFPに記載する内容が具体的であるほど、ベンダーからの提案の質も高まります。RFPを作成する時間を十分確保しましょう。

システム刷新の実施・動作テスト

要件定義の内容に基づき、システムを実装する作業に移ります。設計とプログラミングが終わった後、動作テストをおこなう流れです。設計は、外部設計と内部設計にわけられます。

外部設計では、操作方法や操作画面・データ出力などインターフェース全般に関する内容を設計し、「スムーズに操作できるか」「ストレスが発生しないか」などユーザビリティを確認します。早期の安定運用が実現できるかどうかを左右する重要な工程です。

ユーザビリティを最大限高めるためにも、要件定義で自社の要望を正確に伝えておく姿勢が求められます。ハードウェアの実装方針やセキュリティ対策など、実行環境やシステムの全体像に関する内容も外部設計で決めていきます。

一方で内部設計は、機能の内容や動作・データ処理など、システム内部に関する設計です。内部設計で決めた内容を基に、プログラミングへ移ります。内部設計が終わった段階で、ベンダーから以下の成果物が提出されます。

外部設計と内部設計で作成する書類を、下記の表にまとめました。

表:外部設計と内部設計で作成する書類

 外部設計書内部設計書
主な成果物
  • 業務フロー
  • 機能一覧表
  • 画面一覧
  • 画面遷移図
  • 帳票一覧
  • 外部インターフェース定義書
  • 機能仕様書
  • データフロー図
  • データベース物理設計書
  • モジュール構造図
  • クラス図
  • シーケンス図

プログラミングでは、内部設計書に記載されたコードを書いていきます。プログラミングが終わり次第、仕様書通りに機能が稼働するかテストを行います。

テストは段階を踏んで進めるのがポイントです。最初は単体テストや結合テストを行い、機能やユニット単位で正確に稼働するかを確認します。問題がなければ、システム全体が仕様書通りに稼働するかを確認し、最後は実環境での動作確認をおこなってください。

テストでは、機能追加の必要性やユーザーインターフェースに問題がないか、さまざまな点の確認が重要です。導入後に改善点が発覚すると、業務への影響が大きくなるだけでなく追加費用が発生する可能性があります。

システムの運用・保守

テストで問題点がなければ、システムを実際に運用していきます。運用後はシステムの刷新によってどの程度効果があったか、定期的に評価する場を設けましょう。想定よりも改善効果が見られなかった場合、メンテナンスの必要性を検討する必要があります。

ただし、導入直後はシステムの操作に慣れていないケースが多いため、長期的な視点で評価することが重要です。また、運用する中で改善点が見つかった場合はすぐにベンダーと共有し、解決策を共に考えていきます。

不具合やトラブルが発生した場合もすぐに情報共有ができるよう、コミュニケーションの取りやすい企業を選ぶことが重要です。

基幹システムの刷新を進める際のポイント

ここまで、基幹システムの刷新を進める手順に関して紹介しました。しかし、はじめて基幹システムを新しくするプロジェクトに携わった場合、どのような点に注意すべきかわからない方もいるでしょう。

基幹システムの刷新を進めるポイントは、以下の3つが重要です。

  • 自社の課題を徹底的に洗い出す
  • 品質や費用などのバランスも考える
  • 自社に適した刷新方法を選択する

ポイントを一つひとつ解説します。

自社の課題を徹底的に洗い出す

部署ごとに抱える課題抽出の徹底が重要です。課題抽出にかける時間が不十分だった場合、システムを刷新しても課題解決に至らない可能性が高くなります。結果として、多くの時間や多額の費用を投じた結果が得られません。

プロジェクトメンバー同士が課題について何度も話し合い、現状把握に努める姿勢が重要です。

品質や費用などのバランスも考える

システムの刷新を共に進めるベンダーを選ぶ場合、費用や納期・開発力のバランスが整っている企業の選定が重要です。機能性に優れたシステムの完成が見込めても、予算オーバーや数年後の納品を提示されるとプロジェクトが完結しません。

新しいシステムが納品されるまで、老朽化したシステムを使い続ける必要があります。ランニングコストやセキュリティリスクの増大など、さまざまなデメリットが発生するでしょう。ベンダーを選定する際は、複数の企業を候補に挙げてから絞り込みをしてください。

費用と納期・開発力の3項目で採点し、高得点が付いた企業にシステムの刷新を依頼します。また、競合他社での実績が豊富な企業の選定も重要です。担当者が自社の要望をイメージしやすくなり、認識のすり合わせが進めやすくなります。

自社に適した刷新方法を選択する

基幹システムの刷新方法は、リビルドとマイグレーションの2種類に分けられます。

リビルドはシステム全体の刷新を求めており、資金力が豊富な企業に適した手法で、マイグレーションは新たなハードウェアやソフトウェアを活用し、既存システムを活用する形です。

リビルドとマイグレーションのどちらが自社に合っているか、検討を重ねた上で決断しましょう。

基幹システムを刷新して自社のDX化を加速させよう

基幹システムを刷新する目的は、老朽化したシステムからの脱却です。老朽化したシステムを長年使い続けると、改修箇所の増大によってメンテナンス頻度が多くなります。ランニングコストが増大し、新しいシステムの導入やIT人材の採用に割く費用を確保できません。

また、最新のOSやソフトウェアに対応できないため、サイバー攻撃やマルウェア感染の被害にあう確率が高まります。基幹システムの刷新によって、ランニングコストやセキュリティリスク削減を図れます。

ただし、はじめて基幹システムの刷新を進めるメンバーに選ばれた場合、どのように作業を進めたらいいか、わからない方もいるでしょう。本記事で紹介した刷新の手順やポイントを参考に、新たな基幹システムへの移行作業を進めてください。

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ビズクロ編集部
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