SAP ERPとは?違いやメリット・デメリットを解説
ERPシステムは、企業内での情報管理と分析、業務効率化に役立ちます。中でもSAP社のERPは、世界中の企業で使われている基幹システムです。「SAP ERP」は他社と何が違うのか、メリットやデメリットと併せて解説します。
目次
SAP社とERPの関係
SAP(エス・エー・ピー)社は、世界的に有名なERP(Enterprise Resource Planning)ソフトウェアの開発・販売を行っている企業です。ERPとは、企業が持つさまざまなリソース(人材、資金、設備、情報など)を統合的に管理するシステムのことで、業務プロセスの最適化や効率化が図れます。
SAP社とERPについて、歴史や製品概要を詳しくみていきましょう。
SAP社とは?
SAP社は、ドイツ中西部のヴァルドルフに本社を置く世界的なソフトウェア企業です。1972年に設立され、ERP統合業務パッケージソフトのベンダーとして開発を行ってきました。企業の業務プロセスを統合的に管理できるERPソフトウェアを提供しています。
SAPは世界150カ国以上で事業を展開し、24,000社以上の企業が同社のERPを利用してきました。SAP社は高度な技術力と豊富な経験で、優れたERP製品を生み出しています。ERPで企業のデジタルトランスフォーメーションを支援し、ビジネスの成長に貢献しているのです。
SAP社におけるERPの歴史
SAPは会社設立の翌年、メインフレーム用会計システムとして「SAP R/1」をリリースしました。世界で初めての統合型業務基幹ソフトとして、大いに注目を浴びたのです。
1979年には「SAP R/2」の提供を開始し、1992年には「SAP R/3」の発売と共に日本支社が設立されています。SAP R/3発売とSAPジャパンの設立は、日本市場シェアを急速に広める転機となりました。
SAP ERPは2027年に標準サポート終了
世界中で多くの企業が導入している「SAP ERP」ですが、2027年にメインストリームサポートの終了が決定しています。サポート終了後も継続利用できるものの、法規制による更新や新機能の追加、システムエラーへの対応は行われません。次世代のSAP S/4HANAに移行するか、他社のERP製品に切り替えるなどの検討を行いましょう。
エンハンストパッケージ(EHP)6以降が適用されているERP 6.0であれば、2030年末まで保守期限の延長が可能です。延長費用として、現在の保証料金の2%が必要となります。
SAP社は最新版の「SAP S/4HANA」という次世代ERPソフトウェアを提供しており、SAP ERPからの移行を推奨しています。SAP S/4HANAはインメモリデータベースによる高速処理が特徴で、クラウド型・オンプレミス型から選択可能です。分析性能も高く、柔軟性に優れたビジネスプロセスを提供してくれるでしょう。
SAP ERPについて
SAP ERPの存在は知っていても、詳しい特徴まではわからない方が多いのではないでしょうか。
SAP ERPのモジュールや、他社製品との違いについて解説していきます。
SAP ERPのモジュール一覧
「モジュール」とは、業務領域を分類するための単位のことです。モジュールの略称は、業務領域の英語名称から頭文字を取ったものになります。
SAP ERPのモジュール一覧は下記のとおりです。
- FI (Financial Accounting):財務会計
- CO (Controlling):管理会計
- SD (Sales and Distribution):販売管理
- MM (Materials Management):購買管理・在庫管理
- PP (Production Planning and Control):生産計画・管理
- PM (Plant Maintenance):設備保全
- QM (Quality Management):品質管理
- HR (Human Resources):人事管理
- WM (Warehouse Management):倉庫管理
- PS (Project System):プロジェクト管理
- CA(Cross Application):クロスアプリケーション
SAP ERPには多くのモジュールがあり、導入にはモジュールごとの専門知識が必須です。利用していくとある程度は慣れますが、どうしても難しい場合は専門家への相談をおすすめします。
SAP ERPと他のERPとの違い
SAP ERPと他社ERPの違いは、強大なブランド価値です。SAPはERP開発企業としてのネームバリューはもちろん、製品そのものも世界中で広く支持されています。それだけ信頼性が高く、安全に利用可能なERPだといえるでしょう。各国の商習慣や法規制へも対応するため、海外拠点のある企業も導入しやすいERPです。
SAP ERPの信頼性は、毎年の市場シェアにも反映されています。長年にわたり大きなシェアを維持しているのは、安定して信用を得ているからでしょう。歴史の中で培われた豊富な知識や技術を持ち、多くの企業に適した基幹システムを提供してきました。ERP市場で数々の実績を誇るSAP ERPは、ほかの製品と一線を画す存在と表現できるでしょう。
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SAP ERPを導入するメリット
SAP ERPを導入するメリットは、下記の3つです。
- 世界シェアによる高い信頼性
- 大幅なコスト削減
- 迅速な情報の連携
世界シェアによる高い信頼性
SAP ERPを導入するメリットに、世界的シェアによる高い信頼性が挙げられます。
SAPはERP市場世界シェアトップクラスの企業であり、世界の24,000社が導入しているERPパッケージです。SAPは40年以上にわたってERPソフトウェアの開発に取り組み、豊富な経験やノウハウを活かした高品質な製品を提供しています。
世界150 カ国にオフィスやサポート拠点を設けており、エリアに密着したサポートがあるのもSAPの魅力でしょう。多言語対応や地域に応じたカスタマイズ、現地法令への対応なども行っています。SAP ERPは多くの企業で導入実績があるため、その信頼性や安定性は高く評価されているといえるでしょう。
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大幅なコスト削減
SAP ERPの導入によって、業務の効率化や人件費削減効果が期待できます。業務プロセスの最適化や自動化が可能になり、人的ミスの削減や作業時間の短縮につながるためです。
SAP ERPは、業務プロセス全体を一元管理できます。異なる部署の情報を集約的に管理すれば、ビジネスの統合性を維持できるのです。重複業務の削減や在庫管理の適正化が行え、プロセスの見直し・改善に役立つでしょう。
SAP ERPによるコスト削減効果を得るには、会社規模やビジネス内容に合っているかの検討が必要です。導入や運用のコストも含めて吟味しましょう。
迅速な情報の連携
SAP ERPは、各部署や拠点で発生するデータを一元化可能です。異なる部署や拠点同士のやり取りが迅速に行え、意思決定や問題解決のスピードが向上するでしょう。
例えば、営業部門が受注した情報を製造・物流部門でリアルタイムに共有できます。同じ情報を共有することで、生産・出荷スケジュールの調整や在庫管理の最適化が可能です。ERPによっては各業務モジュールが統合されておらず、データの反映にタイムラグが生じます。SAP ERPであればリアルタイムに連携されるため、業務が滞るリスクが低くなるでしょう。
モジュール構成を採用するSAP ERPは、必要なモジュールを追加することで機能拡張や連携強化が見込めます。素早くデータをつなげるだけでなく、欲しい機能に絞ってカスタマイズができるのもSAP ERPの強みでしょう。
SAP ERPの導入によるデメリット
SAP ERP導入によるデメリットは、下記の3つです。
- 導入コストが高い
- 専門知識を持った人材が必要
- 不足しているコンサルタント
導入コストが高い
SAP製品の費用は、ERPの中ではかなり高額に設定されています。ERPの導入にはサーバーやシステム構築、サポートやライセンスなど多くの費用が必要です。搭載機能やユーザーの数に応じて費用は変動し、多いほど高額になってしまいます。
SAP ERPは高度な統合型システムであり、導入には専門的な知識や技術を持った人材が欠かせません。システム導入に伴う人件費や開発費、設備投資がいる点もコストがかさむ要因です。
必要なモジュールやカスタマイズ範囲によっては、導入期間が長期化することもあります。導入の遅れによるコスト増加も、問題の1つとして考慮しておきましょう。SAP ERPの導入にあたっては、しっかりと計画を立てて投資効果を見極めなければなりません。導入コストはもちろん、保守・運用にかかるコストも踏まえて検討しましょう。
専門知識を持った人材が必要
SAP ERPを導入する際は、同製品の専門知識を持つ人材が不可欠です。機能や設定が複雑なため、使いこなすまで時間がかかる可能性があります。知識がある人がいなければ、必要な機能を利用できず業務効率を下げる恐れもあるでしょう。
SAP ERPを構築する独自言語「ABAP」への理解や、ABAPを用いたシステム構築技術も求められます。ABAPを扱う人材の確保と、システム利用者への教育ができる人材の用意も必要でしょう。SAP ERP本来の機能を活用するには、知識を持った技術者と使用方法の指導者が必須です。
SAP ERPの導入を成功させるためにも、SAP ERPに関する知識や技術を持った専門家の協力を得てください。
コンサルタントの不足
SAPコンサルタントが不足しているのもデメリットの一つです。
需要の増加に対して人材が不足していることに加え、2027年を目処にバージョンが切り替わることもあり、コンサルタント不足がさらに深刻化します。
依頼する際の費用も高額になるため、あらかじめ注意しておきましょう。
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SAP ERPの主要製品を紹介
ここからはSAP ERPの主要となる5製品について紹介していきます。
- SAP S/4HANA
- SAP S/4HANA Cloud
- SAP Business One
- SAP Business ByDesign
- RISE with SAP
SAP S/4HANA
SAP S/4HANAは「次世代ERP」として2015年にリリースされた製品です。
SAP S/4HANAは、データベース技術としてインメモリデータベースを採用し、高速処理を可能としました。ゼロレスポンスタイムの実現により、従来と比べてリアルタイムなデータ処理が行えます。従来のディスクベース仕様よりも、各データを迅速に連携可能です。
コア部分のデータモデルが再設計されたSAP S/4HANAは、よりシンプルな構造になっています。最適なUI・UXへと変革を遂げており、業務処理の向上に貢献するでしょう。ビジネスプロセスを自動化するための機能が強化され、人手による作業の削減にも有効です。SAP S/4HANAを導入すれば、これまで以上にスマートなビジネス運営が可能となるでしょう。
SAP S/4HANA Cloud
SAP S/4HANA Cloudは、SAPのクラウドERPソリューションです。SAP S/4HANAのクラウド版として、2016年に提供を開始しました。
クラウドベースであるため短期間で導入でき、柔軟な料金プランが用意されています。拡張性やセキュリティ性にも優れ、常に最新の機能やアップデートを提供するERPです。
SAP S/4HANA Cloudは、ビジネスの効率化と成長戦略に貢献する、先進的なクラウドERPいえるでしょう。
SAP Business One
中小企業向けのERPソリューションとして、短期間で導入できるSAP Business Oneが提供されています。クラウドベースのSAP Business One Cloudもあり、ビジネスに合わせて選択可能です。クラウド版を選べば、離れた拠点同士でもデータ連携が容易になります
中小企業向けに開発されたSAP Business Oneは、ほかのSAP ERPと比べて低コストで導入できます。システムの開発・構築リソースに余裕がない企業でも、検討の価値があるでしょう。
SAP Business ByDesign
SAP Business ByDesignは、2015年に提供を開始した中規模企業向けERPです。クラウドベースのため初期費用を抑えられ、経営管理・財務会計・CRM・サプライチェーン管理・プロジェクト管理など幅広いビジネスプロセスを統合できます。
モバイルアプリも提供されているため、場所を問わずに業務管理が可能です。導入コストと機能のバランスが取れたSAP Business ByDesignは、中規模企業にとって使いやいERPソリューションといえるでしょう。
RISE with SAP
RISE with SAPは、「SAP S/4HANA Cloud」をコアとした包括的なクラウドサービスです。基本となるアプリやデータベースのほか、運用に関するサービスまで含まれています。サブスクリプション契約を前提とし、期間中や更新タイミングに契約内容の再考が可能です。
母体となるSAP S/4HANA Cloudには2種類のエディションがあり、それに伴う形でRISE with SAPも2分されます。種類によってバージョンアップ頻度や拡張性が違うことを理解しておきましょう。
RISE with SAPには、SAP S/4HANAへの移行ツールも備わっています。従来のSAP ERPは2027年に標準サービスを終了するため、その救済措置ともなるでしょう。新たにSAPのERPを導入する企業だけでなく、すでに利用中の企業も選択候補に入るサービスなのです。RISE with SAPはビジネスニーズに合わせて柔軟・迅速に導入でき、企業のデジタル変革実現に向けての総合的なパートナーとなるでしょう。
SAP ERPの特徴を理解して業務の効率化を図ろう
ERP市場の中核を担うSAP社は、世界で信頼される高品質なERPを開発しています。
SAP社のERPを導入すればコスト削減やリアルタイムでのデータ連携が可能になり、業務の効率化を目指せます。
ただし、SAP ERPは2027年に標準サポートが終了するため、SAP S/4HANAを導入するか、必要に応じてほかのERPを検討しましょう。SAP製REPのメリット・デメリットを理解し、自社に最適なERPの導入を実現させてください。
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