メンタルヘルスケアとは?4つのケア方法と重要性を簡単に解説
ストレスの増大などによって引き起こされる精神疾患を抱える人が増えていることを背景に、従業員のメンタルヘルスケアに取り組む企業も増えています。メンタルヘルスの不調は、企業経営にも大きな影響を及ぼすため早急な対策が必要です。本記事では、メンタルヘルスケアとは何か?メンタルヘルスの軸となる4つのケア方法と、ケアの重要性を簡単に解説します。
目次
メンタルヘルスケアとは?
メンタルヘルスケアの基本的な考え方について、厚生労働省では次のように定義しています。
ストレスの原因となる要因(以下「ストレス要因」という。)は、仕事、職業生活、家庭、地域等に存在している。心の健康づくりは、労働者自身が、ストレスに気づき、これに対処すること(セルフケア)の必要性を認識することが重要である
[引用:厚生労働省「労働者の心の健康の保持推進のための指針 平成18年3月31日 2 メンタルヘルスケアの基本的考え方」より]
メンタルヘルスというとパニック障害や適応障害、うつ病といった病名が思い浮かぶでしょう。しかし、厚生労働省の定義上では明確な精神疾患だけではなく、ストレスや悩み、それに付随する不安感といった精神上の問題全体を指しています。
被雇用者の精神的な問題全般をストレスチェック制度から把握し、企業や産業医のカウンセリングなどを通じてケアしていくことを、メンタルヘルスケアと呼びます。
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メンタルヘルスケアが注目される背景
近年、メンタルヘルスの不調による休職者、離職者の増加は企業社会の抱える大きな問題です。厚生労働省の2020年の発表によると、うつ病を始めとした精神疾患による労災請求件数は2,051件にのぼります。
メンタルヘルスケアは、健全かつ安定的な企業活動を行ううえで取り組むべき課題の一つであり、従業員の心の健康を保つとともに、休職者や離職者の増加を防ぐための手段として、大きな注目を集めているのです。
[引用:厚生労働省「令和2年度「過労死等の労災補償状況」を公表します」より]
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メンタルヘルスケアの目的とは?
メンタルヘルスケアの目的はさまざまです。本項では、企業においてメンタルヘルスを行う5つの目的について紹介していきます。
従業員のメンタルヘルスを維持・改善する
従業員のメンタルヘルスの維持や向上は、業務を行っていくために不可欠な要素です。
極端な例ではありますが、従業員の大半がメンタルヘルス不調を抱え、業務を遂行することが難しくなれば、企業は経営を続けていくことが難しくなります。
そのため、メンタルヘルス対策を行う大きな目的の一つとして、従業員のメンタルヘルスの維持・改善が挙げられます。日々の悩みや不安が大きなストレスとなり、深刻なメンタルヘルス不調を引き起こす前に、不調のサインを早期発見し、予防できる体制を整えておくことが大切です。
職場を活性化し生産性向上を図る
健全な職場環境や業務の生産性は、業務を担う従業員の心身の状態と相関関係にあるといえるでしょう。過酷な労働環境が改善されず、従業員のメンタルヘルスが低下すれば、質の高いパフォーマンスは発揮されません。
メンタルヘルスの不調は、人間関係、業務内容や業務量、仕事へのモチベーションなど、複合的なストレス要因によって起こります。
メンタルヘルスケアの実施によって、これらのストレス要因の改善を図ることで、職場の活性化や業務生産性の向上も期待できるのです。
経営上のリスクを回避する
メンタルヘルス不調による休職者・離職者の増加は、人手が少なくなることにより、在籍する従業員の業務量が増えるなど、さらなる労働環境の悪化を招きます。
また、休職や離職が相次ぐ状況は、残った従業員の会社に対するエンゲージメントにもネガティブな影響を与えてしまうため、生産性やモチベーションが落ち込むなど、見過ごすことのできない経営上のリスクに発展する可能性もあるでしょう。
従業員のメンタルヘルスケアを徹底することは、このような経営上のリスクを回避する意味でも重要な要素となるのです。
企業の価値・評価を向上させる
近年、企業を評価する基準は、「利益」だけではありません。
適切なガバナンス(企業統治)のもと、環境や社会に配慮した事業を行う企業に投資する「ESG投資」が注目されているように、現代社会では、利益だけでなく、企業の社会的責任にも関心が寄せられているのです。
企業統治には、もちろんヒト(従業員)を大切にするための取り組みとして、従業員が幸福かつ健康に働き続けるためのメンタルヘルスケアの実施も含まれるでしょう。
企業における社会的責任を果たし、企業価値を損なわないためにも、メンタルヘルスケアは必須の取り組みといえます。
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離職に伴う採用コストの削減
メンタルヘルスの不調を理由に、多くの離職者や休職者が出てしまった場合、新たな人材を採用することになるでしょう。採用活動には、求人広告費や人材紹介料などの外部コストのほか、採用担当者の人件費といった内部コストも発生します。
採用コストは、そもそも従業員の定職率が上がれば、ゼロにすることも可能なコストです。
適切なメンタルヘルスケアによって、離職を防ぐ=定職率を上げることは、余分な採用コストの削減にもつながるのです。
重要性が高まるメンタルヘルスケアを円滑に進める方法
メンタルヘルスケアの重要性や実践する目的やメリットについて紹介しました。
ここからは、実際の取り組み方について、組織内でメンタルヘルスケアを円滑に進めるための3つの方法を詳しくご説明します。
経営陣が率先してメンタルヘルス対策に取り組む
まずはトップである経営陣が、率先してメンタルヘルス対策に取り組むことが重要です。
経営層から現場に直接意思を伝えるトップダウン型でのメンタルヘルス対策の実行は、それだけ組織にとって重要な取り組みであることが伝わるとともに、意思決定のスピードも早まるでしょう。迅速に物事が進むだけでなく、組織全体が一体となった活動もしやすくなります。
衛生委員会・産業医・保健師が連携し推進する
企業の衛生を統括する衛生委員会のほか、提携する産業医や保健師など、メンタルヘルスケアを担うポジションが互いに連携し、ケアを推進していくことも重要です。
経営陣や現場社員の意識も重要ですが、メンタルヘルスケアを円滑に進めるにはスペシャリストたちの協力や連携が欠かせません。
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「メンタルヘルス4つのケア」を軸に進める
メンタルヘルス対策には、厚生労働省がメンタルヘルス対策において推奨する、以下の「4つのケア」があります。
- セルフケア
- ラインによるケア
- 事業場内産業保健スタッフ等によるケア
- 事業場外資源によるケア
もちろん事業や業務内容によって、独自ケアが必要になることもありますが、まずは、「4つのケア」を参考に、自社のメンタルヘルス対策を検討してみましょう。4つのケアの詳細については、次項で詳しくご説明します。
メンタルヘルス4つのケアとは?
メンタルヘルス対策における基本ともいえるのが「4つのケア」です。
ここからは、それぞれに特徴や強みが異なる「4つのケア」の概要について詳しくみていきましょう。
セルフケア
セルフケアは最も手軽に、かつ素早く行えるメンタルヘルスケアです。
従業員が自身のストレス度合いやストレス要因に気づくことができるよう、定期的なストレスチェックを実施するほか、研修や勉強会などを開催し、ストレスが高まっている時のセルフケアの仕方などを伝えるのも良いでしょう。
ケア方法 | ストレスチェック実施、セルフケア方法に関する各種セミナー開催、必要に応じた産業医・保健師との面談実施 |
ケアする人 | 人事総務部門の担当者、産業医など |
特徴 | 自らストレスや要因に気付き、迅速に予防策が取れる |
ラインによるケア
管理監督者である上司が、直属の部下をケアするのが「(上司部下)ライン」によるケアです。日頃から様子をみている上司がケアにあたるため、不調サインを早期に発見しやすいこと、また、現場の中心となった的確な対策が講じやすいことなどが特徴です。
ただし、上司部下間の信頼関係が構築されていなければ機能しない点に注意が必要です。
ケア方法 | 管理監督者による面談、面談をもとにしたストレス対策 |
ケアする人 | 管理監督者 |
特徴 | 不調サインの早期発見、現場主体による的確な職場環境の改善 |
事業場内産業保健スタッフ等によるケア
50人以上の従業員がいる事業場には産業医の選任義務があるうえ、さらに組織規模の大きな企業では、産業医や保健師、看護師、心理士などが社内に駐在していることもあるでしょう。このような医療専門職スタッフを中心としたケア体制の構築も4つのケアの一つです。
具体的には、ストレスチェックなどから高いストレス状態が懸念される従業員のケアのほか、悩みや不安を抱える従業員とも必要に応じて面談を行うなど、専門スタッフによる的確な対応、ストレスを予防する体制づくりが促進されます。
ケア方法 | 産業医や保健スタッフによる面談、メンタルヘルスケア関連の研修実施 |
ケアする人 | 産業医や保健師 |
特徴 | 専門職スタッフによるメンタルヘルスケアの実施 |
事業場外資源によるケア
4つ目が、外部機関やサービスを活用したケア方法です。
事業場外資源としては、産業保健サービスを提供する民間の企業や産業保健総合支援センター、労災病院・診療所などが挙げられ、専門的な機関の支援を受けながら取り組みや対策を進められるのが特徴です。
必要に応じて、専門的な知識を持つ外部機関の協力を得ることで、効果的かつ適切な対策を取ることができます。
ケア方法 | 機関やサービスの内容に則ったケア方法を実施 |
ケアする人 | 外部機関、外部サービス |
特徴 | 専門的知識や実績を持つ機関との連携による組織全体のメンタルヘルスケア推進 |
4つのケア方法を活用しメンタルヘルス対策に取り組もう
メンタルヘルスケアの重要性や注目されている背景、重要となる「4つのケア」について解説しました。
企業の健全経営を維持し、従業員一人一人が健やかで幸せな生活を営んでいくためにも、メンタルヘルスケアは必要不可欠な取り組みの一つとされています。
組織において従業員のメンタルヘルスが軽視されていないか、適切な予防策を講じておくほか、不調のサインが現れた時に対応できる体制が整っているのか、など、自社の状況を改めて振り返ったうえで、充分な体制づくりを心がけましょう。
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