ストレスチェックを拒否する社員はどうすべき?企業側の対応方法について
ストレスチェックは、一定の従業員が所属している事業所で、年に一度の実施が義務付けられています。しかし、ストレスチェックの受診を拒否する社員も存在するのが実状です。当記事では、ストレスチェックを拒否する社員への対応方法について解説します。
目次
ストレスチェックを社員が拒否することはできる
ストレスチェックは、労働者の心の健康を守るための重要な手段であり、企業にとっても欠かせない義務の一つです。一方で、社員はストレスチェックを拒否できます。ストレスチェックは個人のプライバシーに関わる問題であるため、受診は基本的に自由意志によるものとされているためです。
社員がストレスチェックを拒否する場合、理由を明確に伝えなくてはなりません。また、企業側もそれを尊重する必要があります。企業側としては、ストレスチェックの重要性や目的を社員に十分に理解してもらうために、教育や啓発活動を行うことが重要でしょう。
ストレスチェックの実施状況
ストレスチェックの実施状況は、企業や組織により異なります。厚生労働省が公表する「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況によると、令和3年のメンタルヘルスに取り組んでいる事業所の割合は59.2%でした。このうち、取組内容については「ストレスチェックの実施」が65.2%と最多数です。従業員のメンタルヘルス管理において、ストレスチェックを重視している事業所が多いことがうかがえます。
定期的に全社員を対象に実施しているところもあれば、一部の部署や職種のみ、または特定の状況下でのみストレスチェックを行う企業もあるでしょう。実施方法も企業ごとにあり、専門機関の導入や自社開発したシステムを使うケースもみられます。
ストレスチェックの実施状況は、多くの要素から影響を受けます。企業の規模や業種、社員の職種や働き方のほか、人事施策や労働環境などが例です。自社におけるストレスチェックの実施状況を把握し、適切な頻度と受検率を目指すことが労働環境を改善するために重要となります。
出典:厚生労働省(2022年)「令和3年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況」
ストレスチェックと健康診断との違い
ストレスチェックと健康診断は、どちらも労働者の健康を保護するための手段ですが、目的や対象となる項目などが異なります。
健康診断は、法律で受診が決められている労働者の義務です。同時に企業側の義務でもあり、従業員が一人であっても実施しなくてはなりません。目的は身体的な健康状態を評価するためのもので、血液検査、尿検査、視力検査、聴力検査など、身体の各部位の機能をチェックする検査が含まれます。
ストレスチェックは、労働者の心の健康状態、特にストレスの状態を評価するためのものです。労働環境や仕事の内容、人間関係など、ストレスを引き起こす可能性のある要素への質問がメインとなります。実施は企業の裁量に任される部分が多く、労働者数が少なければ努力義務での実施にとどまるのが現状です。
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ストレスチェックを社員が拒否する主な理由
ストレスチェックは労働者の心の健康を保護するための重要な手段ですが、一部の社員が受検を拒否することがあります。その理由はさまざまですが、以下に主なものを挙げてみましょう。
業務が忙しくて受けられない
一部の社員は、業務が忙しくてストレスチェックを受ける時間がないと感じているかもしれません。特に、期限が迫ったプロジェクトに取り組んでいるときや、業務量が多い場合には、ストレスチェックを受ける時間の確保が難しくなります。
ストレスチェックは業務の合間に実施するのが一般的なため、多忙なタイミングで行うと受けられない社員が増えるでしょう。後回しにしていたら受検期間を過ぎた、というケースもあるかもしれません。企業側はストレスチェックを受けるための時間を確保するほか、受検を業務の一部として周知することが重要です。
ストレスチェックを軽視している
ストレスチェックの重要性を理解していない、または軽視している社員もいます。ストレスチェックは労働者の心の健康を保護し、労働環境を改善するために不可欠です。しかし、目的や効果を理解していない場合は必要性を感じず、受ける意義を見いだせないかもしれません。
企業側としては、ストレスチェックの目的や効果、実施結果をどのように活用するかを社員に伝えることが重要です。ストレスチェックの結果をもとに、労働環境の改善やサポート体制の強化などを提案するのも有効でしょう。具体的な改善策を実施することで、ストレスチェックの価値を社員に示すことができます。
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結果を上司や会社に公開されると思っている
ストレスチェックの結果が上司や会社に公開されることを恐れて、ストレスチェックを拒否する社員もいます。上司への不満がばれたくない、人間関係の悩みを知られたくないと思うためです。不満が伝わると評価に悪影響を及ぼすと考え、受検を拒否する社員がいても不思議ではありません。
しかし、ストレスチェックの結果を無断で公開することは法律で禁じられています。原則として個人が自己管理のために利用するものであり、社員の労働環境を改善するために活用されなくてはなりません。企業側はストレスチェックの結果を適切に管理し、個人のプライバシーを尊重することが求められます。
ストレスチェックの結果は無断公開されないこと、適切に管理されてプライバシーが保護されることについて、社員への明確な説明が必要です。わかりやすい説明により、社員がストレスチェックの受検をためらう理由を取り除けます。
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ストレスチェックを拒否するリスク
ストレスチェックを拒否することは、従業員自身だけでなく、企業全体にもリスクをもたらします。それぞれのリスクについて詳しく見ていきましょう。
【従業員側】メンタルヘルスに影響を及ぼす
ストレスチェックを拒否すると、自身のストレス状態を把握する機会を失ってしまい、ストレス過多に気付けずにメンタルヘルスに影響を及ぼす可能性が高まるのです。
また、ストレスが原因で身体的な症状を引き起こすこともあります。ストレスチェックを受けると自身のストレス状態を早期に把握でき、適切な対策を講じることが可能です。
【企業側】退職・休職者が増える
企業側にとっても、社員がストレスチェックを拒否することはリスクとなります。精神の不調が原因で退職や休職を選択する社員が増えると、企業の業績や生産性に支障をきたす恐れがあるためです。ストレスチェックを実施していれば早期発見できた症状も、拒否されると悪化する危険性が高まるでしょう。
社員の健康状態が悪化して労災になれば、安全配慮義務違反となる可能性があります。義務を怠ったとして、企業のブランドイメージや社会的信頼性にも影響を及ぼすかもしれません。ストレスチェックは社員の健康を守るのと同時に、企業の価値を担保するためにも欠かせない施策といえるのです。
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ストレスチェックを拒否する社員への対応方法
ストレスチェックを拒否する社員に対しては、以下のような対応方法が考えられます。受検を強制せず、適切なアプローチで対処しましょう。
ストレスチェックを実施する意味を伝える
ストレスチェックを実施する意味を社員に伝えることが重要です。受検を拒否する社員は、実施の意義や有用性を正しく理解していないかもしれません。
ストレスチェックは社員の心の健康を守り、労働環境を改善するためのものであることを理解してもらう必要があります。理解を得ることで、ストレスチェックを受ける意義を感じてもらえるのです。
受けない理由を本人に聞く
ストレスチェックを受けない理由を本人に直接聞くことも有効です。メールや電話で個別にヒアリングを行いましょう。社員それぞれの理由に応じて、適切な対応を検討します。
受検に不安を抱いている社員もいるため、理由を聞く際は他言しないといった基本の配慮を欠かさないでください。
結果で不利益をもたらさないことを知ってもらう
ストレスチェックの結果によって不利益を被ることはないと、社員に知ってもらうことも大切です。結果を無断で公開したり、内容によって解雇されたりすることはありません。ストレスチェックを拒否する理由を取り除くことで、社員に安心して受検してもらえます。
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ストレスチェックを多くの社員に受けてもらうためのコツ
ストレスチェックを多くの社員に受けてもらうためには、以下のような工夫が有効です。社員側の立場に立って、受検を促す対策を取り入れてください。
業務が忙しくなる時期を避ける
ストレスチェックを実施するタイミングを工夫することが重要です。業務が忙しくなる時期を避け、社員がストレスチェックを受ける時間を確保しやすいときに実施しましょう。
異動が多くなる年度末も業務が煩雑になりやすいため、できるだけ避けます。業務に余裕のあるタイミングで行うのが、ストレスチェックの受検率を上げるポイントです。
▷ストレスチェックは派遣社員も対象?派遣元・派遣先で実施すべき対応
所要時間を事前に知らせる
ストレスチェックの所要時間を事前に知らせることも有効です。ストレスチェックにかかる時間が明確であれば、社員は自身のスケジュールを調整しやすくなります。
実施時間はストレスチェックの内容によって異なりますが、簡単な質問に回答するだけであれば長くても10分程度でしょう。短時間で終わることがわかっていれば受検ハードルが下がり、社員の積極的な参加を促す手助けになります。
結果が開示されないことを周知する
ストレスチェックの結果が、上司や会社に公開されないことを周知してください。ストレスチェックの公開でプライバシーの侵害を懸念する社員がいる場合、その不安を取り除くことができます。
ストレスチェックの結果は医師などの実施者にだけ配布され、人事権を保有する経営者などには開示されません。社員の処遇を左右する要素にはならないため、不安なくストレスチェックを受けてもらえます。
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社員がストレスチェックを受けやすい環境をつくろう
ストレスチェックは、社員の心の健康を保護する重要な手段です。業務が忙しくない時期に実施したり、所要時間を事前に知らせたりすることで、社員がストレスチェックを受けやすい環境を作る必要があります。
また、ストレスチェックの結果が公開されないことを明確に伝えることで、社員の不安を取り除きましょう。これらの工夫により、ストレスチェックの受診率を向上させ、社員全体のメンタルヘルスを守ることができます。
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