ストレスチェックで高ストレス者が出た場合の対応|放置するリスクや判定基準について

2023/06/22 2024/06/13

健康管理システム

ストレスチェックでの高ストレス

ストレスチェックは、労働安全衛生法により特定の事業場に対して年1回の実施が義務付けられています。検査によって高いストレス度合いにあると判定された高ストレス者に対しては、適切なサポートが必要です。本記事では、ストレスチェックで高ストレス者が出た場合の対応方法を解説します。

ストレスチェックの高ストレス者とは?

ストレスチェックは、定期的な検査によって従業員自身のストレスへの気づきを促し、メンタル不調を未然に防ぐために実施されています。

また、企業側が従業員個人のストレス度合い、さらには集団分析によって組織全体の高ストレス者の割合を把握することにより、 職場環境改善を推進する目的においても実施されます。

では、ストレス度合いはどのようにして判定されるのでしょうか。まずは、高ストレス者の選定基準と判定方法について詳しく解説します。

高ストレス者の選定基準

厚生労働省が発行する「ストレスチェック制度 簡単!導入マニュアル」では、高ストレス者を、以下の状態にある者としています。

自覚症状が高い者や、自覚症状が一定程度あり、ストレスの原因や周囲のサポートの状況が著しく悪い者を高ストレス者として選びます。

[引用:厚生労働省「ストレスチェック制度 簡単!導入マニュアル」より]

また、同じく厚生労働省が発行した「ストレスチェック指針」においては、高ストレス者の選定方法として、以下のように定義されています。

① 調査票のうち、「心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目」の評価点数の合計が高い者

② 調査票のうち、「心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目」の評価点 数の合計が一定以上の者であって、かつ、「職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目」及び「職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目」の評価点数の合計が著しく高い者

[引用:厚生労働省「ストレスチェック指針」より]

ただし、同指針には「選定基準は実施者の意見及び衛生委員会等での調査や審議を踏まえて事業者が決定する」との記載もあることから、実際の選定基準については、各企業において設定する必要があります。

高ストレス者の判定方法

企業におけるストレスチェックは、主に企業独自の質問票、もしくは厚生労働省の「職業性ストレスチェック簡易調査票」を使用する場合の2つのパターンがあります。

後者の場合、「心身のストレス反応」「仕事のストレス要因」「周囲のサポート」の3つの項目からなる質問項目の回答結果を基に、ストレス度合いが判定されます。

最終的な高ストレス者としての判定は、ストレスチェックによる結果をもとに、実施者(事業者)が行いますが、多くの場合はストレスチェックによる評価が一定以上であれば、即座に高ストレス者として判定されるわけではありません。

産業カウンセラーとの面談、医師や保健師のほか、公認心理士や臨床心理士などの診断や面談による結果を踏まえて判定されるケースが多いでしょう。

ストレスチェックとは?義務化された背景や目的・実施方法を簡単に解説

高ストレス者の割合

令和4年の「全衛連ストレスチェックサービス実施結果報告書」によると、男性は16.6%、女性は12.4%でした。男性の方が割合が4.2%高く、女性に比べて高ストレス者が多いことがわかります。

令和3年の調査と比べると男性は0.8%、女性は0.5%、​高ストレス者が増加しています。

なお、年代別に見ると10代や60代以上は高ストレス者の割合は低い傾向があり、特に30代、40代で高ストレス者が多いことが判明しました。

業種別では、製造業(18.2%)、鉱業・採石業・砂利採取業(15.9%)、宿泊業・飲食業(15.8%)、運輸業・郵便業(15.4%)などで高ストレス者が多いと明らかになっています。

ストレスの原因については周囲のサポート不足が影響していることがわかっており、ストレス抑制のためには​上司のサポート、同僚のサポートが重要な鍵となります。

[出典:全国労働衛生団体連合会「令和4年 全衛連ストレスチェックサービス実施結果報告書」]

ストレスチェックの対象者の範囲とは?役員やパート・派遣など状況別に解説

ストレスチェックで高ストレス者が出た場合の流れ

ストレスチェックで高ストレス者が出た場合の流れは以下の通りです。

  • ストレスチェックの結果を共有
  • 面接指導を実施
  • 報告書をまとめて労働基準監督署に提出
  • 就業制限・休業措置を実施

ここからは、それぞれの流れを詳しく解説します。

ストレスチェックの結果を通知

ストレスチェックにより高いストレス度合いにあるとの結果が出た場合、次のステップとして、その結果を本人に通知・共有する必要があります(労働安全衛生規則 第五十二条の十二より)。

本人に対してストレスチェックの結果を伝え、そのうえで必要に応じて産業カウンセラーや医師、保健師による個別面談の実施を検討します。

また、企業側は、調査の内容からストレスの原因や傾向などについて把握し、これらの情報を基に改善策を講じなければなりません。

ストレスチェックの結果は上司に見られる?開示範囲やルールを解説

面接指導を実施

面接指導(産業医面談)は、高ストレス状態にある従業員本人と、主に産業カウンセラーや医師との一対一で行われます。労働状況・体調などの普段の様子のほか、仕事やプライベートでのストレス要因の有無、本人の希望などをヒアリングします。

面接指導で話した内容は、本人の了承なく事業者側に開示されることはありません。

また、面接指導は本人からの希望がある場合にのみ実施され、事業者側が強制することはできません。ただし、希望があった場合には、面接指導申出書などが提出されてから30日以内に面接を設定しなければならないとされています。

この面接により、ストレス度合いや体調面の不調が深刻であると判断された場合には、医療機関の受診を勧めることもあります。

報告書をまとめて労働基準監督署に提出

ストレスチェックは、労働安全衛生法に基づき、労働者が常時50人以上いる企業においては、実施することが義務付けられています(労働安全衛生法 第六十六条の十より)。また、ストレスチェックを実施した企業は、高ストレス者の情報を含む報告書をまとめて労働基準監督署に提出しなければなりません。

報告の際は、「心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書(様式第6号の2)」の様式が用いられ、主にストレスチェックの実施状況と結果、面接指導の実施状況などを記載します。

ストレスチェックの実施が義務付けられている事業者においては、報告書の提出も義務となっている点に注意しましょう。

[参考:厚生労働省「心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書」]

ストレスチェック報告書の書き方|提出方法やフォーマット・記入例を紹介

就業制限・休業措置を実施

面接指導の結果、医師の判断によって就業制限・休業措置を実施します。就業制限では、残業による時間外労働や休日出勤、出張などを制限します。必要に応じて、休暇や休業の取得を行う休業措置も行わなければなりません。

これらの措置の実施により、従業員のストレス状態に改善が見られた場合は、従業員本人や医師と相談して措置を緩和していきます。様子を見ながら、少しずつ通常の業務に戻れるようにサポートしましょう。

高ストレス者が面接を申し出しやすくするポイント

面接指導は、従業員本人からの希望がある場合にのみ実施されるもので、強制することはできません。そのため、高ストレス者が面接を申し出やすくなるように、事業者側も工夫が必要です。ここからは、高ストレス者が面接を申し出しやすくするポイントを3つ紹介します。

オンラインで受け付ける

「対面では面接指導を申し出づらい」「人目が気になる」という理由で、面接を申し出にくい方も多くいます。そのため、オンラインでも申請を受け付けるなどして申し出やすい環境を整えましょう。

また、対面ではなくオンライン面接を実施することも有効です。オンラインであれば人目が気にならないほか、医師に来社してもらう必要もなくなり、面接時間を調整しやすくなります。高ストレス者も、対面面接と比べて心理的な負担を減らして面接を受けられるでしょう。

社外に健康相談窓口を設ける

社内に相談窓口がある場合、社内で相談することに抵抗を感じて利用できない場合があります。相談できないことが結果的にさらなる不調につながる恐れもあるため、社外に健康相談窓口を設けることも検討しましょう。

自社で社外に健康相談窓口を設けるほかに、業務災害保険などの付帯サービスとして利用できる場合もあります。また、厚生労働省が提供する「こころの健康相談統一ダイヤル」を利用するのもおすすめです。

面接指導のメリットを伝える

そもそも、面接指導にネガティブなイメージを持っている人も少なくありません。聞かれたくないことを聞かれたり、厳しい指導を受けたりするイメージを持つ方もいるでしょう。

面接指導について正しい認識を持ってもらうためにも、面接指導のメリットを積極的に周知しましょう。例えば、面接指導には以下のようなメリットがあります。

  • ストレスへの対処方法が学べる
  • メンタルの不調を未然に防げる
  • 不調の改善が期待できる など

基本的に、面接指導は従業員のメンタル不調を改善・防止するために行われるものです。そのため、従業員にとって不利益になることはない点を伝えましょう。

ストレスチェックの結果の保管方法とは?保存期間や保存場所を紹介

高ストレス者を企業が放置した場合のリスク

高ストレス者を企業が放置した場合のリスクは、主に2つ挙げられます。各リスクについて、詳しく見ていきましょう。

うつ病などの精神疾患の発症

メンタルヘルス不調などの兆候が確認されている高ストレス者が放置されてしまうと、うつ病などの深刻な精神疾患を発症するリスクが高まります。

メンタルヘルスに不調を抱える状態での勤務は、本人が体調面で辛さを抱えてしまうのはもちろんのこと、思考力や判断力も低下してしまうため、生産性にも影響が出てしまうでしょう。また、企業に安全配慮義務に違反する事情が認められた場合には、補償金の支払いなどの責任が生じることもあります。

離職リスクの増加

高ストレス者に対する適切な支援を怠った場合、本人が会社を辞めてしまうリスクも高まることになるでしょう。

高ストレス状態にある従業員は、ストレスや過剰な労働による精神的・身体的な負荷が常に高い状況下にあります。そのような中で、ストレスを軽減するための一つの手段として休職や退職といった選択をするのは、認められた権利、あるいは必要な措置であり当然とも言えるのです。大切な人材を失うことになってしまうのは、企業にとって大きなリスクに他なりません。

メンタルヘルス不調とは?不調になる原因・サインやケア方法を紹介

高ストレス者を増やさないための対策方法

それでは、企業において「高ストレス者」を増やさないための対策方法はあるのでしょうか。ここからは、効果が期待できる3つの対策についてご説明します。

労働環境の見直し・改善

労働環境の見直し・改善は、高ストレス者を自社で増やさないための重要な対策方法です。まずは労働環境に関するアンケート調査を実施し、従業員の声を集めましょう。そのうえで、労働環境における課題やストレス要因を洗い出し、改善策を検討します。

例えば、慢性的な長時間労働(残業)、業務内容の重圧やミスマッチ、人間関係、働き方への不満などは、ストレスの原因となることの多い問題です。これらの問題に対しては、本人へのヒアリングなどでより詳細な課題を把握し、働き方や担当業務の見直し、コミュニケーション不全の解消や福利厚生といった制度の構築などをスピーディに実行しましょう。

企業は、従業員の健康と働きやすい環境づくりを推進することで、持続的な成長を実現できる可能性が高まります。

相談窓口の設置

相談窓口は、不正の通報や不満への是正を求める場としてだけでなく、悩みやつらさを抱えている従業員の逃げ場にもなり得ます。いざという時に話を聞いてもらえる、頼れる場があることが、ストレスの軽減につながることもあるでしょう。

相談窓口は主に企業が組織内に設置する場合と、外部の専門機関を利用する場合の2つのパターンがあります。

ただし、相談窓口を設置する際は、従業員が利用しやすい手段かつ、匿名で利用できる運用にすることが重要です。また設置だけではなく、相談内容に対して適切なアドバイスや支援策を提供するために、専門のカウンセラーや心理士を常駐させるなどの体制整備も必要でしょう。

さらには、相談者の意向に関係なく、個人情報や相談内容が外部に漏れることのないよう、情報の取り扱いにも十分注意しなければなりません。

メンタルヘルス研修の実施

メンタルヘルス研修の実施は、従業員のストレスへの気づきを促し、高ストレス者となってしまうことを未然に防ぐ効果的な手段のひとつです。研修内容は「ストレスの原因やストレスを軽減する方法」「メンタルヘルス不調への理解や予防」「適切な休養方法」などが挙げられます。

自分自身のストレス状態について、何らかのメンタルヘルス不調が出てから初めて気づくケースも多く、予防対策を講じるのは意外にも難しいものです。メンタルヘルス研修は、まず自分のストレスに気づくことができる知識の習得、また早期に講じられる対処方法を学ぶ機会となるでしょう。

ただし、メンタルヘルス研修は一度実施しただけで大きな効果が得られるわけではありません。継続的な取り組みの一つとして、メンタルヘルスを意識する環境づくりを行うことが重要です。

メンタルヘルスケアとは?4つのケア方法と重要性を簡単に解説

高ストレス者は放置せず適切なアプローチ方法でサポートを

高ストレス者を放置することは、本人だけでなく、企業にとっても大きなリスクとなってしまいます。

現在、ストレスチェックは「労働者が常時50人以上いる事業場」においてのみ実施が義務付けられていますが、その目的を考慮した場合には、義務とされていない企業においても、実施するのが望ましいといえます。

また、ストレスチェックは実施するだけでなく、高ストレス者と判定された従業員への適切なサポートと、必要に応じた労働環境の改善が本来の目的であることを忘れてはなりません。従業員が安全かつ健全に働き続けることができるよう、適切な運用を心がけましょう。

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