労務コンプライアンスとは?考えられるリスクと理解すべきポイント

最終更新日時:2023/06/07

労務管理システム

労務コンプライアンスとは

多くの企業が整備に取り組み、耳にする機会が増えた労務コンプライアンスという言葉。しかし、具体的にどのようなことなのか、よく分からないという方も多いのではないでしょうか。そこで本記事では、労務コンプライアンスの重要性、違反事例やリスクについて解説します。

労務コンプライアンスとは?

「コンプライアンス」は「法令遵守」を意味しますが、それだけではなく、「倫理や道徳などの社会的な規範を守る」という意味合いも含めて使われる言葉です。

つまり労務コンプライアンスとは、労働基準法をはじめとした労働関連の法令、社会的な規範に基づき、適切な労務管理を行うことをいいます。

労務コンプライアンスが取り上げられるようになった背景には、残業代の未払い、長時間労働、ハラスメントなど、次々に明るみに出た企業の不祥事があります。それにより、企業は労働関連の法律や社会規範に則り、従業員の健康や安全を守らねばならないという社会的な気運が高まったのです。

労務コンプライアンスの遵守は、直接的な利益を生むわけではありません。しかし、労務コンプライアンスの違反には、従業員の離職や訴訟、行政処分などのリスクがつきまといます。

労務コンプライアンスへの取り組みは、結果的に企業の信用や競争力を高め、利益にもつながるといって良いでしょう。

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労務コンプライアンスのよくある違反事例

前述したように、労務コンプライアンス違反は企業の不祥事としてとらえられ、社会的信用の失墜にもつながりかねません。

そのような事態を回避するためにも、どのようなことが問題になるのか、よくある違反事例を見ていきましょう。

ハラスメント

ハラスメントとは、職場で不当な差別や嫌がらせを受けることで、精神的苦痛や健康被害を与える行為です。ハラスメントは職場の人間関係の悪化や離職率の上昇、業績の低下などの悪影響をもたらします。

職場で起きやすいハラスメントの例としては、以下のようなものが挙げられます。

  • パワーハラスメント(パワハラ)
  • セクシャルハラスメント(セクハラ)
  • モラルハラスメント(モラハラ)
  • マタニティハラスメント(マタハラ)
  • パタニティハラスメント(パタハラ)
  • 時短ハラスメント(ジタハラ)
  • テクノロジーハラスメント(テクハラ)
  • リモートハラスメント(リモハラ)
  • エイジハラスメント(エイハラ)
  • ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)

ハラスメントを防ぐためには、企業として明確な方針や規定を策定し、従業員に周知徹底することが必要です。また、ハラスメントが発生した場合は迅速かつ適切に対応し、再発防止に努めることが求められます。

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長時間労働

労働基準法では1日8時間、週40時間以内という法定労働時間が設定されており、この時間を超えて働くことを長時間労働と呼びます。

長時間労働は従業員に対して肉体的・精神的なダメージを与え、健康被害の原因になります。うつ病や過労死につながる可能性もある深刻な問題です。

長時間労働が起きる原因としては、業務量の過多や人員不足、管理体制の不備などが挙げられます。対策としては、業務の見直しや効率化、人材の確保や育成、残業時間の把握などが必要です。

[出典:e-Gov 労働基準法 第三十二条一項・二項]

賃金の未払い

従業員に対して約束した賃金を支払わないことは、労務コンプライアンス違反となります。基本給や残業手当のほか、休日出勤や深夜勤務の割増賃金も含まれます。

厚生労働省が発表した令和3年度の統計によると、労働基準監督署の監督指導により、1069社が賃金支払いの是正に応じています。対象労働者数は約6万5,000人で、支払われた割増賃金の合計は65億円を超えました。多くの企業が、コンプライアンス違反をしていたということです。

賃金の未払いを防ぐためには、労働契約書や就業規則などで賃金の支払い方法や期日を明確にすること、労働時間や残業時間を正確に管理することが重要です。

[出典:厚生労働省「監督指導による賃金不払残業の是正結果(令和3年度)」]

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労務コンプライアンスを軽視するリスク

労務コンプライアンスに関して、「気にしていてはライバル会社に遅れをとる」「あまり神経質に考えなくてもよいのでは?」と考える経営者もいるかもしれません。

しかし、労務コンプライアンスの軽視は、次のようなリスクを伴います。

債務の増加

前述したとおり、労務コンプライアンスを軽視して残業代や割増賃金の未払いが発覚した場合、企業は是正勧告に応じて未払い金を支払わなければなりません。ハラスメントなどの問題が発生すれば、再発防止策を立案、実行するための費用がかかるケースもあり、訴訟に発展すればさらに費用が必要です。

このような債務の増加は経営を圧迫し、事業の継続にも影響しかねません。企業にとっては、大きなリスクといえます。

優秀な従業員の離職

賃金や労働時間などの待遇面で労務コンプライアンスを軽視する企業は、そうでない企業に比べると、退職者が多いという傾向が見られます。特に優秀な従業員は引く手あまたです。早々に見切りをつける可能性は高くなるでしょう。企業の生産性や売上を支える優秀な従業員の離職は、企業にとって大きな痛手です。

SNSへのネガティブな口コミの投稿

近年は、SNSによる気軽なコミュニケーションが一般化しており、労務コンプライアンスを軽視した企業体質が投稿されるケースも見られます。

SNSは拡散力も高く、ネガティブな投稿が、一瞬にして広がることも稀ではありません。不特定多数の人が投稿を目にすることで、企業の信用やブランドイメージが低下することもあるでしょう。その結果、消費者や取引先が離れれば、多大な損失を被ります。

労務コンプライアンスの軽視には、このようなリスクもあるのです。

従業員による労働基準監督署への通報

労働関係の法令に違反する行為が雇用側にあった場合、従業員は、労働法違反を取り締まる労働基準監督署に通報することができます。

通報を受けた労働基準監督署は企業への立ち入り調査を実施、法令違反が認められた企業は是正勧告を受け、期限までに改善措置を講じなければなりません。勧告に従わないと、罰則の対象となるほか、書類送検される可能性もあります。

是正勧告の対象ではないものの、改善が望ましいと判断された場合は、指導票が交付されます。こちらも、期限までに改善状況を報告しなければなりません。報告や改善を怠ると、再調査や是正勧告の対象になることもあります。

いずれの場合も、企業がダメージを受けることは間違いないでしょう。

労務コンプライアンスの主なチェック項目

労務コンプライアンスに違反していないかどうかは、何をもって判断すればよいのでしょうか。

労務コンプライアンスの遵守に関する主なチェック項目を確認しておきましょう。

労働条件

労働条件は労働基準法や最低賃金法などの法令により、守るべき基準が定められています。主な項目として以下をチェックし、問題がある場合は改善を図りましょう。

  • 就業規則を作成し、労働基準監督署に届けを出してているか
  • 就業規則や労使協定の内容を従業員が確認しやすい場所に掲示するなどして、周知できているか
  • 採用時や労働条件変更時に、条件を明示した「労働条件通知書」などの書面を交付しているか
  • 雇用時および、それ以降の定期的な健康診断を実施しているか
  • 条件(1週間の所定労働時間が週20時間以上、31日以上の雇用実績、もしくは見込み)を満たす従業員に、雇用保険加入の手続きをしているか
  • 従業員数が101人以上の場合、条件(1週間の所定労働時間が20時間以上、月額賃金8.8万円以上、2ヶ月以上の雇用見込み、学生ではない)を満たすパートやアルバイトに社会保険(厚生年金・健康保険)加入の手続きをしているか

労働時間と休日

労働時間の管理は、従業員の健康管理などに関わる重要な課題です。労働時間については次の点をチェックしてみましょう。

  • 1日8時間、週40時間以内の法定労働時間を守っているか
  • 労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を与えているか
  • 少なくとも週に1日、あるいは4週間で4日以上の休日を与えているか
  • 条件を満たしたパートタイマーも含め、法令に定められた年次有給休暇を与えているか
  • 時間外労働、休日労働において労使協定(36協定)を締結しているか
  • 残業時間が、36協定の月45時間を超えていないか
  • 労働時間の把握や管理が適切に行われているか

賃金

賃金でチェックしたいのは、時間外労働や休日労働、深夜労働での割増賃金です。また、法令では、都道府県ごとに定めた最低賃金以上の支払いをすることも定められています。都道府県をまたいで拠点をもつ企業は、管理に注意が必要です。

  • 最低賃金以上の給与を支払ってているか
  • 給与の支払いは、毎月1回以上、期日を決めて行っているか
  • 時間外労働、深夜労働、休日労働に対しては、規定の割増賃金を支払っているか
  • 減給を行った場合、法定内の実施になっているか

育児・介護

従業員から育児や介護に関する申し出があった場合、企業は育児・介護休業法などに基づいた対処が求められます。主に確認したいのは、以下の項目です。

  • 育児・介護休業法について従業員に周知しているか
  • 育児・介護休業の申告や取得を拒否していないか
  • 育児・介護休業制度を利用しやすい職場環境になっているか
  • 休業取得者に不当かつ不利益な扱いがされていないか

高年齢者の雇用

雇用対策法により、年齢制限を設けた募集や採用は禁止されています。また、高年齢者の雇用についても法による定めがあるので、次の項目をチェックしてみてください。

  • 定年を設定している場合は、60歳以上か
  • 65歳までの高年齢者雇用確保措置を講じているか

また、令和3年に高年齢者雇用安定法が改正され、2025年4月からは、以下のいずれかの実施が義務付けられているので、あわせて確認しておいてください。

  • 定年年齢の引き上げ(70歳まで)
  • 70歳までの継続雇用制度の導入
  • 定年制の廃止

解雇

解雇に関しては、従業員に対して不当な行為とならないよう、厳密な法の定めがあります。

不当な解雇は訴訟の対象にもなりかねません。労務コンプライアンス違反にならないよう、次の項目に注意しながら慎重に対処しましょう。

  • 解雇事由は就業規則で定められているか、なおかつ社会通念に照らし合わせて合理的か
  • 解雇予告は30日前に実施しているか(予告の日数が30日未満の場合は、不足日数分の平均賃金を解雇予告手当として支給しているか)
  • 即日解雇の場合は解雇通知書を交付し、解雇予告手当を支給しているか
  • 解雇に至る前に、改善に向けた措置を講じたか

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労務コンプライアンスの重要性を認識して対処しよう

労務コンプライアンスの遵守は、従業員を守ることはもちろん、企業存続のうえでも重要です。違反行為には、信用失墜、訴訟など、企業生命に関わるリスクも伴います。

この機会に自社の労務コンプライアンスについて見直してみてください。万が一、不備や不都合があった場合は早急に対応策を講じ、労務コンプライアンスを遵守した職場作りを実現していきましょう。

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