労務コンプライアンスとは?重要性と意識しておくべきポイント
多くの企業が意識しており、耳にする機会も増えてきた労務の「コンプライアンス」という言葉。しかしながら、具体的にどのようなことをいうのか不明な方もいらっしゃるかもしれません。本記事では、労務コンプライアンスの重要性、意識しておくべきポイントなどを詳しく解説します。
監修者 松田 茂樹 社会保険労務士法人しろくまパートナーズ 代表 大学卒業後、商社・証券会社に10年間勤務。2010年に松田社会保険労務士事務所を開業。企業の「本業促進」を第一に考え、人事労務面での戦略立案サポートに邁進。2019年に法人化し、社会保険労務士法人しろくまパートナーズを設立。企業が抱える多種多様な問題に誠実に寄り添い、本質からの解決を目指すコンサルティングを行う。開業以来、100社以上の企業をサポートし、助成金の申請件数は500件以上。セミナー講師実績多数。現在は、IPO支援やM&A労務監査に注力。
目次
労務コンプライアンスとは?
「コンプライアンス」とは「法令遵守」であると説明されることがあるものの、これは正確ではありません。そもそも、法令を守ろうとする・守るのは当たり前のことです。
「コンプライアンス」とは「法令等遵守」と捉えられるべき概念です。「等」には、倫理観、道徳といった社会的規範が含まれます。法令を守る、そこから更に一歩進めた概念なのです。
労務コンプライアンスが意識されるようになった背景に触れます。たとえば、「長時間労働ではあるが法令の範囲内であり違法とまではいえない」「ハラスメントであるとまでは断定できないが職場環境は良好ではない」といったことがあります。
つまり、「法令の範囲内だが良好ではない」といった状況です。こういった状況下で企業は、法令を遵守しているだけでは労働条件や職場環境を改善するには不足しているのではないか、労働条件や職場環境が改善されないと採用に悪影響を及ぼすのではないか、と懸念を抱くようになりました。
また、従業員側でも意識の変化が見られ、企業が法令を守るのは当然のことだと考えるようになりました。
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法令遵守と法令等遵守の違い
長時間労働とハラスメントを例に違いを見てみましょう。
長時間労働
労働基準法で定められた法定労働時間である「1日8時間、1週間40時間」を超えた労働は残業(時間外労働)とされます。労働基準法では残業は原則禁止されています。労使が協定(いわゆる36協定)を締結し、行政に届け出ることでその禁止が解除されます。
つまり、残業を命じることができるようになります。その残業時間にも、たとえば1ヶ月100時間未満までといった上限が設けられています。その上限時間を超えて残業させることを違法残業といいます。適法な時間で残業を命じることが法令遵守です。
しかし、適法とはいえ100時間近い長時間労働は、従業員の方に対して肉体的・精神的なダメージを与え、過労死等につながる可能性もあります。だからどうにか残業を減らせないかと企業が模索し取り組む、それが法令等遵守です。
時間外労働の上限は、月45時間、年360時間です。臨時的な特別の事情があり、労使が合意する場合は、それを超えることができます。その際の時間外労働の上限は、休日労働も含め月100時間、かつ2~6ヶ月平均80時間です。なお、年の時間外労働の上限は720時間です。(特定の業種・職務は別の定めです。)
ハラスメント
企業には国が指定するハラスメント(セクハラ、パワハラ、マタハラ・パタハラ等)に対し相談窓口等を設ける義務が課せられています。それに従って相談窓口を設けることが法令遵守です。
しかし、窓口を設けても従業員からの相談がなかったとします。「相談がないからハラスメントもないのだろう」、そう安易に考えるのではなく、「もしかして相談しづらいのではないか、それなら相談しやすくするためにはどうすればよいか」と企業が模索し取り組む、それが法令等遵守です。
社会的規範を軽視するリスク
労務に関する法令を守っていれば十分ではないかと思われるかもしれません。しかし、労務コンプライアンスを軽視した場合、次のようなリスクが考えられます。
採用の困難
企業の評判は今や口コミサイトやSNS等で広く共有・発信されています。採用が困難になる局面が訪れる可能性が考えられます。
離職の増加
疲弊からくる離職、見切りから来る転職を誘因するかもしれません。離職が増加する局面が訪れる可能性が考えられます。
想像してみてください。「雇いたい!」と思った方が必ず採用でき、「ずっと居てほしい!」と思った方が辞めない。この2つを実現できるならば、その会社は必ず発展します。
法令のチェック項目
まずは、法令を遵守できていなければ、コンプライアンスは覚束ないといえます。この機会に労務コンプライアンスに関する法令の主な項目をあらためて確認しておきましょう。
労働条件
- 就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出ているか(従業員数10人以上の場合)
- 就業規則や労使協定を従業員に周知できているか
- 雇用時に労働条件通知書を交付しているか
労働時間
- 時間外労働、休日労働において労使協定(36協定)を締結しているか
- 36協定の上限時間を超えた残業を命じていないか
- 特別条項付き36協定を締結したとしても上回ることができない上限を守っているか
賃金
- 最低賃金以上の給与を支払っているか
- 時間外労働、休日労働に対し、割増賃金を支払っているか
- 深夜時間帯の労働に対し、割増賃金を支払っているか(管理監督者の場合を含む)
労務コンプライアンスの重要性
労務コンプライアンスは、従業員と職場環境を強固に守ります。ひいてはそれが、企業の永続・発展に繋がります。法令を遵守した上で労働条件や職場環境を改善し、企業自身のためにも、従業員が働きやすい職場づくりを実現していきましょう。
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法令を遵守しなければ、罰則があります。損害賠償も求められます。社会的規範は遵守しなくとも、罰則はありませんし、損害賠償も求められません。しかし、罰や賠償請求のリスクがなくとも、労務分野における遵守の範囲をあえて広げて、その上で守ろうという意識が労務コンプライアンスなのです。