インソーシングとは?アウトソーシングとの違いやメリット・主な業務内容
業務の効率化や費用削減を目的とする、アウトソーシング。多くの企業でアウトソーシングの普及が進んでいますが、近年は真逆の意味を持つ「インソーシング」にも注目が集まっています。本記事では、インソーシングとアウトソーシングの違いやメリット、企業事例についてもみていきましょう。
目次
インソーシングとは?
インソーシングとは業務の内製化のことです。社内で業務を行うことや、これまで外部に委託していた業務を再び自社に取り戻す行為をインソーシングと言います。
多くの企業では人手不足の影響により、業務の外部委託(アウトソーシング)の普及が進んでいるのが現状です。しかし、近年はアウトソーシングだけでなく、一度外部流出した業務を自社で行う「インソーシング」にも注目が集まっています。
今後の経営戦略を見極めるためには、インソーシングとアウトソーシングの違いを確認し、自社に合った方法で業務を進めることが重要です。
インソーシングとアウトソーシングの違い
前述したように、インソーシングは社内で業務を行うことをいいます。一方、アウトソーシングは社内業務の一部を社外の人材やサービスに委託するという意味を持ちます。
アウトソーシングをする主なメリットは、人材不足に対応できるようになることです。社内でさばききれない業務を外部に委託することで、従業員にかかる負担を軽減できます。また、専門的なスキルを持つ人材に業務を委託すれば、クオリティの向上や人件費の削減にも繋がるでしょう。
十分な人員が確保できる企業や、ノウハウの蓄積を図る場合はインソーシングが向いています。一方、人材不足に陥っている企業や、業務の効率化を図りたい場合はアウトソーシングが適しているといえるでしょう。
▷アウトソーシングとは?意味やメリット・デメリット・種類を解説
インソーシングのメリット
インソーシングをすることにより、企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか。得られる効果やメリットを具体的に紹介します。
業務に関する知識や技術を社内に蓄えられる
インソーシングとして社内で業務を行うことで、業務遂行のために必要な知識やスキルを社内で構築できるという利点があります。
通常、専門性の高い業務を行う際は、知識や経験を培うための研修や教育が必要となるものです。外部に委託せず自社の従業員が行うことで、業務を遂行できる人員の数が増加し、将来的に企業の財産となります。
知的ノウハウが蓄積されることで、従業員のスキルアップや企業価値の向上も見込めるでしょう。
費用対効果に優れている
自社で業務を遂行しながら従業員を育成することで、将来的に外部に業務を委託をする必要がなくなります。その結果として、自社のみで課題をクリアできるようになるでしょう。
外部委託のメリットのひとつに「コストの削減」が挙げられますが、総合的に見るとインソーシングの方がコストダウンできることもあります。この場合、従業員への教育費用はかかりますが、その分高度な技術や知識を得られるでしょう。長期的に事業を続ける見通しがあれば、インソーシングの方が費用対効果に優れている場合もあります。
手間・費用を削減できる
アウトソーシングをする場合、委託先の選定から依頼内容の連絡、成果物・サービスなどの検収といった作業が発生します。業務内容によっては複数の委託先が必要になり、コミュニケーションに時間を取られる点がデメリットといえるでしょう。
一方、インソーシングは社内の従業員が業務を行うため、このような業務にかかる負担を軽減できます。また、連絡ツールにかかる費用や、管理者の人件費の削減が可能です。
業務内容・進捗管理がしやすくなる
業務内容の確認や発注、進捗管理など、委託先の管理にかかる業務や時間を削減できるのもメリットのひとつです。アウトソーシングの場合、成果物が納品されるまで進捗状況を確認できないこともあります。
一方、社内の従業員であれば、外部の委託先よりもスムーズなコミュニケーションをとることが可能です。業務内容の確認や進捗管理がしやすくなることで、計画的に業務を遂行できるようになるでしょう。
顧客への対応スピード・対応の質向上が期待できる
取引先の顧客から「予定よりも早くプロジェクトを仕上げてほしい」「今すぐ進捗状況を確認したい」「内容を変更したい」というような要望が来ることもあるでしょう。
そのような場合、アウトソーシングよりもインソーシングの方がスピーディーに対応できます。
アウトソーシングでは、委託先に顧客の要望を伝え、承諾されない限りは顧客の要望を通すことができません。しかし、インソーシングであれば自社ですぐに対応できるため、より顧客ニーズに沿った商品やサービスを提供できるようになります。
社員の意欲向上が期待できる
自社でできる業務をインソーシングすることで、従業員のモチベーション向上に繋がる点も大きなメリットです。
業務をアウトソーシングすると、従業員が「長期的に携われる業務や専門性の高い業務がなくなってしまった」と感じる恐れがあります。仕事のやりがいを奪われることで、業務への意欲の低下だけでなく、企業の生産性にも影響するでしょう。
また、「ここで仕事をしていても意味がない」「キャリアアップにならないなら転職をするしかない」と考える従業員が増えれば、人員不足に陥る可能性もあります。
インソーシングとして従業員が責任をもって業務を遂行することで、仕事への意欲向上や帰属意識の定着を図ることも可能です。
企業課題を早期発見できる
自社の業務を従業員が行うことで、「無駄な業務が多い」「属人化を避けるべき業務がある」といった企業課題も発見しやすくなります。
アウトソーシングでは、企業課題を指摘する委託先は少ないでしょう。課題を指摘することで、委託が打ち切りになったり仕事が進めづらくなるリスクがあるためです。
一方、自社の従業員であれば、企業課題の解決が自身の業務効率化や労働環境の改善に直結するため、業務の問題点や新しい意見なども比較的発言しやすいでしょう。従業員と面談の機会を設けたり、サーベイを実施したりすることで、気軽に情報を収集できます。
セキュリティリスクが軽減する
インソーシングでは内部の人間が業務を遂行するため、情報が外部に漏れるリスクを軽減することが可能です。アウトソーシングでは、企業の機密情報やノウハウが流出する恐れがあります。また、セキュリティ体制を強化するためには、その分書類の作成や契約に時間・コストがかかるという点もデメリットです。
一方インソーシングは、万が一トラブルが発生した場合でも、問題の発生源を特定しやすいです。そのため、業務方法の改善や再構築といった対応もスムーズに執り行えます。
セキュリティリスクが軽減することは、取引先企業にとっても大きなメリットとなるでしょう。企業価値の向上や社会的信用度の向上も期待できます。
▷アウトソーシングをするメリット・デメリット|導入を判断する方法
インソーシングするべき業務内容
具体的にどのような業務をインソーシングしたらよいのか悩む場合もあると思います。ここでは、インソーシングに適した業務を2つ紹介していきます。
アウトソーシングの効果を得られなかった業務
アウトソーシングで効果を得られなかった業務は、インソーシングに適しているといえるでしょう。アウトソーシングの場合、人材によってスキルにばらつきがあり、業務品質が低下することも考えられます。
また、コミュニケーション不足により業務に対する認識に相違が生じたり、業務に対する考え方や方針が自社と合わなくなる可能性も。委託先と連絡を取り、話し合いを進めても上手くいかないときは、早めにインソーシングに切り替えることが大切です。インソーシングであれば、業務内容の伝達や従業員同士のコミュニケーションが行いやすくなり、顧客ニーズにも適切に対応できます。
高度かつ専門的な知識を必要とする業務
専門性が高い業務もインソーシングに最適です。高度な知識やスキルが必要になる業務を自社で行うことで、社内に知識や技術を蓄積させることができます。
自社で業務を遂行する場合、従業員に対して教育や研修の機会を設ける必要があります。そのため、最初はアウトソーシングの方がメリットが高く感じるかもしれません。
しかし、アウトソーシングではノウハウやスキルを自社内に蓄積できないため、外部に業務を委託し続けることになります。長い目で見ると、インソーシングで従業員を育成しておく方が費用対効果が高くなることもあるでしょう。
▷アウトソーシング業界の将来性は?市場規模の推移や依頼する際の注意点
インソーシングが向いている企業
ここからは、インソーシングに向いている企業の特徴を紹介します。自社でインソーシングを実施するか迷っている場合は、ぜひ参考にしてみてください。
主力業務が問題なく運営されている企業
自社の主力業務を滞りなく運営できている企業は、インソーシングに適してるといえるでしょう。本来やるべき業務がしっかりとこなせている状態であれば、インソーシングで業務が増えても従業員の負担は小さく抑えられます。
一方、すでに人手不足に陥っている企業は、インソーシングに不向きです。やるべき業務が増えることで従業員の負担が増大する恐れがあり、離職率や休業率がさらに上がることが予測されます。
インソーシングをする際は、「主力業務が問題なく運営されているか」「その他の業務に十分な人員や時間をかけられるか」という点をしっかりとチェックしましょう。
長期的な経営ビジョンが描けている企業
長期的な経営計画を立て、企業を成長させるための明確なビジョンが描けている場合も、インソーシングに適しています。
事業を長く続けるためには、企業の価値を高めていく作業が必要不可欠です。従業員のモチベーションや就業態度も企業価値を向上する要因のひとつとなるでしょう。
インソーシングにより企業にノウハウなどが蓄積されるだけでなく、「従業員のスキルアップ」や「帰属意識の向上」という効果も期待できます。長期的に安定した運営を目指す企業は、インソーシングがおすすめです。
業務に必要な人材を確保し教育できる企業
業務に必要な人材の確保や、スキルアップのための教育が行える企業はインソーシングに適しています。インソーシングで業務を遂行するには、通常の人員数では不十分なこともあるでしょう。そのため、まずは余裕を持って業務を進められるよう人材を確保することが必要です。
また、新しい人材に正しい知識を教えることも大切になります。業務の遂行に時間がかかったりクオリティーが低いと、業務の質の低下に繋がりかねません。
業務を滞りなく進めて品質を維持するためにも、適切な業務方法を教育する機会を設けましょう。
社員の健康状態が社会的に見て良好な企業
社員の健康状態が良好で、スムーズに業務遂行できている企業はインソーシングに適しているといえるでしょう。休職していたり、健康状態が望ましくない従業員が多い企業では、一人ひとりの業務量が多く過労状態に陥っている可能性があります。
そのようなケースでインソーシングを実施し従業員の負担が増大すれば、さらなる健康状態の悪化にもつながりかねません。インソーシングで業務を行うためには、従業員の健康管理に気を配ることも重要です。
従業員が健康的で、労働環境が適切な状態に保たれていれば、インソーシングしても大きな問題はないでしょう。
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インソーシングに取り組む企業の事例
ここからは、実際にインソーシングに取り組んでいる企業の事例を紹介します。
株式会社プログリット
株式会社プログリットは、英語コーチングサービスを運営する企業です。「世界で自由に活躍できる人を増やす」をモットーに事業を展開しています。
2016年の設立当時の同社は、テクノロジーに知見を持つ従業員が一人もいない状態でした。その後、制作会社に委託する形でアプリの開発を進めたものの、トラブルが続き白紙状態に陥ります。
しかし、正社員のエンジニアと業務委託を3名ずつ確保することで、相乗効果が生まれ、開発効率を高めることに成功しています。
株式会社ベイクルーズ
株式会社ベイクルーズは、東京都渋谷区を中心に活動しているアパレル企業です。ファッションの企画・開発や飲食店の運営、フィットネス事業などを手広く展開しています。
2007年からはECサイトの運営を開始し、業務の核となる部分で自社による内製化を実施しました。それにより、自分たちの力でECサイトを運営することに成功。また、ECモールではなく自社サイトを成長させる方向を選択したため、店舗との相乗効果を作り出すことができたようです。EC売上高は2012年に58億円、2017年には280億円までに増加しています。
株式会社日本経済新聞社
株式会社日本経済新聞社は、新聞紙や雑誌の発行、電子メディアでの発信を行う企業です。国内支局は51ヵ所、ニューヨークやロンドンなど世界の37ヵ所に拠点を持っています。
2010年に電子版を創刊しましたが、当時はソフトウェア開発を外部委託していました。その後、開発速度を上げるために内製化を開始。
2015年のiPhoneアプリの刷新を行った際は、100万人以上のユーザーからダウンロードを獲得しました。また、現在では100名を超えるチーム規模に発展していて、電子版の登録会員数は590万人を突破しています。
株式会社エディオン
株式会社エディオンは家電販売事業やリフォーム・住宅関連事業、通信事業などを営む企業です。とくに家電販売事業は全国規模となっていて、高い知名度があります。
同社はシステム開発の大部分を外部委託していましたが、2018年に内製化を推進。2020年には基幹システムをパブリッククラウド環境へと移行しています。また、企業の成長をさらに加速させるため、ビジネス環境の変化に対応できるITシステムを構築しました。
株式会社ファーストリテイリング
株式会社ファーストリテイリングは、ユニクロやジーユーといったブランドの衣料品の開発・製造・販売を行う企業です。世界のアパレル製造小売業では、第3位にランクインしています。
同社は顧客中心の製造業を展開するため、2016年に「有明プロジェクト」と呼ばれる企業改革を実施。数十名のエンジニアでECサイトを作り上げると共に、内製化を加速しました。
現在では100名を超えるエンジニアが、プラットフォームの開発や運営に邁進しています。最新のプログラミングやクラウド技術を取り入れることで、顧客への提供価値を高めることにもつながりました。
株式会社カインズ
株式会社カインズは、ホームセンターで馴染みのある大手小売業です。同社ではデジタル戦略を進めるため、2021年よりインドの大手IT企業とアジャイル開発を開始しました。
優秀なIT人材を確保するための施策として、東京の表参道に「CAINZ INNOVATION HUB」を開設。また、エンジニアに特化した勤務体系を構築する子会社も設立しています。
現在は、約180名のエンジニアにより内製化が進み、プロダクト開発やアーキテクチャー開発といった効果が出ています。今後は世界進出を目指し、2025年までにデジタル戦略本部を430名体制にすることを目標にしています。
株式会社星野リゾート
株式会社星野リゾートは、旅館やリゾート施設を運営する企業です。長野県の軽井沢で最初の旅館を開業して以来、109年の長い歴史があります。
競合他社との差別化を図るため、スタッフ全員がIT人材化できるよう内製化を推進。従業員のITスキルを高めることで、現場のスタッフがニーズに合わせたシステム開発を自由に行えるようになりました。
これまでに約800件ものアプリを作成し、ID数は2,400件に達しています。大浴場の混雑状況をすぐにアプリで確認できる仕組みや、GoToトラベルキャンペーン向けのシステムなどを開発し、顧客が利用しやすい環境作りに取り組んでいます。
▷アウトソーシングの導入事例|成功・失敗からわかる導入のコツ
アウトソーシング・インソーシングは企業の状態にあわせて選定しよう
アウトソーシングは、自社での業務を軽減できますが、知識やノウハウ・スキルを自社に蓄積できないというデメリットがあります。
一方、インソーシングは自社で業務を行うため、従業員のスキルやモチベーションの向上、企業の生産性を高められる点がメリットです。どちらを選択するかは、企業課題や従業員数、業務内容などに合わせて適切な方法を選択しましょう。
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