社会保険料の給与計算方法とは?会社と従業員の負担割合や注意点を解説
社会保険料は従業員に支給する給与により、会社の負担額と従業員の負担額を計算します。社会保険は、その保険毎に料率と計算方法が法律により規定されています。ここでは社会保険を5つに分け、それぞれの計算方法や従業員と会社の負担額などをお伝えします。
目次
そもそも社会保険とは
社会保険とは、病気やけがなどの疾病や老後や介護などの資金補助、失業による生活資金の不足の解消、そして雇用の促進などを行う公的な保険制度です。
国民は原則として全員社会保険に加入しなければなりません。社会保険に加入した国民の相互補助により、国民の生活を守る保険制度は成り立っています。
社会保険には、これからお伝えする5種類があり、それぞれの保険は日本の法律により規定されているのが特徴です。
社会保険料の対象者
社会保険には、加入義務となる事業所があります。
- 従業員が1人以上いる会社などの事業所
- 従業員が5人以上常時在籍する法定16業種の個人事業所
ただし、個人事業所のうち農林水産業や各宗教、その他自由業や一部のサービス業などを除きます。
社会保険に加入しなければならない従業員は次のとおりです。
- 社会保険加入義務のある事業所で働くこと。
- 短時間労働者の場合、週あたりおよび月あたりの労働時間が正社員の4分の3以上であること。
- 週あたりの所定労働時間が20時間以上であること。
- 1年以上の雇用が見込まれること。
- 月給が8万8千円かつ年収が106万円以上あること。
- 学生でないこと。
以上のように、社会保険の対象には定めがあり、原則として事業所や従業員などの意志や希望などにより加入を決定できません。
▷社会保険とは?基本の仕組みや加入条件・制度の種類について解説
給与計算における社会保険の種類
社会保険には、厚生年金、健康保険、介護保険、雇用保険、労災保険の5つの種類があります。
なお、厚生年金・健康保険・介護保険の3つを合わせて狭義の社会保険といい、雇用保険と労災保険を合わせて広義の労働保険といいます。5つの社会保険は狭義の社会保険と比べ、広義の社会保険といいます。
それぞれの保険額は給与計算を基本とし、給与の額から従業員と事業所などの負担額を計算します。ここでは、5つの社会保険について、それぞれの特徴をお伝えします。
厚生年金保険
老後の資金不足の補助として公的な年金制度があります。公的な年金制度には、自営業者の加入する国民年金保険と、会社員の加入する厚生年金保険の2種類があります。国民年金は20歳となった時点で強制加入です。
厚生年金保険は国民年金保険の上乗せ保険ともいわれ、国民年金と厚生年金の両方の年金を受け取れるため、2階建ての年金ともよばれます。厚生年金保険料は、会社と従業員で折半とし、その計算方法は法律に定めがあります。
健康保険
国民の病気による疾病やけがなどの保障として、会社員の加入する健康保険や自営業者の加入する国民健康保険、公務員の加入する共済保険などがあります。
各保険を利用することで、各保険の加入者の医療費は1〜3割の負担で済みます。各保険の加入者の年齢により、負担の割合が変わるのが特徴です。
会社員の加入する健康保険には、医療費が高額となった場合に負担の上限額を決めた高額医療費制度や、会社員が病気やけがなどで会社を休んだ際の所得減を一定の割合で保証する傷病手当制度などがあります。
介護保険
介護保険とは高齢者の介護を国民全体で保証する仕組みです。介護保険では65歳以上の加入者を第1号被保険者、40歳〜64歳までの加入者を第2号被保険者とよびます。
この保険には40歳以上が強制加入し、保険料は健康保険と同時に徴収されます。介護保険の支給を受けるには要介護の認定を受ける必要があり、要介護度により受けることのできる介護サービスは決まっています。
介護サービスには通所や訪問、施設などがあり、介護保険料の被保険者の負担率は原則として1割です。
雇用保険
従業員を一人でも雇う事業所は、雇用保険に必ず加入しなければなりません。雇用保険は、労働者の失業や事業者による解雇などにより収入が減少した場合に一定の割合で国が保障する制度です。
雇用保険には、所得補償のほかに、ハローワークによる再就職活動の支援や職業訓練などの活動があります。また、介護保険では育児や介護などによる休業の保障も行います。
労災保険
労災保険では従業員のけがの保障や遺族の生活保障などに必要な保険給付を行います。この保険の対象者は正社員やパート社員、派遣、アルバイト、契約社員などの雇用形態に関係ないのが特徴で、保障の給付額も雇用形態に関係なく支給されます。
また、労災保険は事業所でのけがの保障をするほか、通勤途中での災害も保障します。
社会保険料の負担割合
社会保険料は会社と従業員により一定額を負担し、原則として会社がまとめて国に納付します。
社会保険料は従業員の給料をベースに計算し、おおむねの金額は試算可能です。ここでは会社と従業員の社会保険料の負担割合についてお伝えします。
会社の負担する社会保険料はおおむね15%
会社の負担する社会保険料について、各保険のおおむねの割合は以下のとおりです。
- 健康保険料は、給料の4.985%
- 厚生年金保険料は、給料の8.56%
- 雇用保険料は、0.850%
- 労災保険料は、0.300%
これらの保険料を加算すると、会社の負担する割合は、給料のおおむね15%となります。例えば、月あたり約300万円従業員に給与を支給している場合は、300万円に15%を乗じて、月当たりおおむね45万円の社会保険料を会社は負担します。
なお、介護保険料は、40歳〜65歳未満の第2号被保険者に従業員が該当する場合、会社は健康保険料に0.865%加算した額を負担します。
40歳〜65歳の従業員の割合が多ければ、15%に0.865%を加算した率でおおむね16%強となります。介護保険料は厚生年金保険料には加算されません。
従業員の負担する社会保険料はおおむね14%
従業員の負担する社会保険料について、各保険のおおむねの割合は以下のとおりです。
- 健康保険料は給料の4.985%となり、会社と同率です。
- 厚生年金保険料は給料の8.56%となり、会社と同率です。
- 雇用保険料は0.500%となり、会社負担額より少ないです。
- 労災保険料の従業員負担はなし、全額会社負担です。
これらの保険料を加算すると、従業員の負担する割合は給料のおおむね14%となります。例えば、月あたり約30万円の給与を受け取る場合は、30万円に14%を乗じて月あたりおおむね4万2千円の社会保険料を従業員は負担します。
なお介護保険料は、40歳〜65歳未満の第2号被保険者に従業員が該当する場合、従業員は健康保険料に0.865%加算した額を負担します。介護保険料は会社と同様に従業員の厚生年金保険料には加算されません。
給与計算における社会保険料の決まるタイミング
先に社会保険を5つに分類して、それらの特徴などをご紹介しました。社会保険料は都道府県ごとの標準報酬月額表に基づき計算されます。
ここでは、給与計算において健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料などの狭義の社会保険について、それらの保険料の決まるタイミングをお伝えします。
入社時
新入社員を採用した場合、給与の支給額が決定したタイミングで社会保険料は決定します。給与の支給額に一定の社会保険料率を乗じて社会保険料は決定するからです。
給与の支給額が決定した後、年金事務所に社会保険資格取得届を提出し、決定額の通知が届くのを待ちます。
社会保険料決定の通知には、被保険者となる従業員の氏名と、適用月、そして標準報酬月額が記載されており、健康保険証が同時に届くのが一般的です。
定時改訂
社会保険料は1年に1度見直しを行います。その金額は、4月〜6月の3ヵ月の給与の平均額に基づき算出します。
これを定時改訂といい、算定基礎届を提出することにより社会保険料が決定し、その年の9月分給与〜翌年の8月分給与までの社会保険料を従業員と会社は負担します。算定基礎は、給与計算において毎年行う社会保険業務の1つです。
随時改訂
年の途中で昇給や降格などがあり一定の条件を満たした場合、社会保険料は改訂されます。
これを随時改訂といい、変動のあった給与を3ヵ月間平均した際、標準報酬月額おいて2等級以上の差がある場合に該当します。
随時改訂の条件には、3ヵ月間の支払基礎が17日以上あること(特定事業所勤務者は11日)などがあります。
育児休業等終了時
育児休業などに関する法律に基づき、育児休業が終了し標準報酬月額に1等級以上の差が生じたタイミングで社会保険料を改訂します。
育児休業から復職し給与に変動がある場合は、社会保険料の改訂に注意が必要です。
給与計算における社会保険の計算方法
社会保険料の計算方法はそれぞれ法律に規定があり、給与支給額に応じて正確に計算する必要があります。
ここでは5つの社会保険の計算方法をお伝えします。
厚生年金保険の給与計算方法
厚生年金保険料は、標準報酬月額に18.3%を乗じた額が会社と従業員の負担する合計額です。その保険料は会社と従業員で折半するため、次の計算式で金額を決定します。
- 会社の厚生年金保険料=標準報酬月額×(18.3÷2)%。
- 従業員の厚生年金保険料は会社と同額である、標準報酬月額×(18.3÷2)%となります。
なお、厚生年金保険料の率である18.3%は定期的に改訂されるので注意が必要です。
健康保険の給与計算方法
健康保険料も標準報酬月額に基づき、以下のとおり計算します。
- 会社の健康保険料=標準報酬月額×健康保険料率÷2。
- 従業員の健康保険料は会社と同額である、標準報酬月額×健康保険料÷2となります。
なお、健康保険料率は都道府県により異なり、改訂もあるため注意が必要です。
介護保険の給与計算方法
介護保険料は先にお伝えしたとおり、40歳~65歳未満の第2号被保険者が在籍した場合に給与より計算し、健康保険料の標準報酬月額に1.93%乗じた額を会社と従業員で合わせて負担します。
- 会社の介護保険料=標準報酬月額×1.93÷2
- 従業員の介護保険料は会社と同じ金額で、標準報酬月額×1.93÷2となります。
雇用保険の給与計算方法
雇用保険は給与の支給月に雇用保険料率を乗じて以下のとおり計算します。
- 会社の負担額=給与支給額×6÷1,000
- 従業員の負担額=給与支給額×6÷1,000
以上の雇用保険料率は一般の事業である場合の率で、農林水産業や建設の事業の場合は数値が異なります。
なお、雇用保険料を計算する場合は狭義の社会保険とは概念が異なるため、実際の計算では注意が必要です。
労災保険の給与計算方法
労災保険料を従業員は負担しません。1年間の給与総額に対し、会社の事業毎の労災保険料率を乗じて計算します。労災保険は毎月納めるのではなく、毎年1回4月〜翌年の3月の給与支給総額から計算し国に納付します。
労災保険料率は事業ごとに異なり、労災が少ないとメリット制という負担率を軽減する制度があります。
社会保険の控除
社会保険料は配偶者や親族の負担する金額を代わりに支払うと、その金額を所得から控除し所得税を少なくできます。ただし、この場合は申請が必要で、審査に通ると減税の制度を利用できます。
例えば、支給総額が30万円で4万円の社会保険料を立替えた場合の課税対象額は、
- 給与支給額30万円-立替えた社会保険料4万円=26万円
となります。
社会保険料の納付
給与計算において、社会保険料は翌月分からの徴収となります。その計算は日割計算ではなく月単位の計算となり、毎月10日頃に確定します。
その社会保険料は20日頃に届く保険料納入告知書で確認でき、月末までにその金額を納付しなければなりません。
もし、保険料納入告知書と給与から控除した社会保険料および会社の負担する社会保険料の合計額に相違がある場合は調査が必要です。
納付に遅延があると延滞金を徴収される場合があり、資産差し押さえの可能性もありますので、社会保険の計算と納付には間違いのないようにしましょう。
まとめ
社会保険料を5つに分類し、それぞれの計算方法についてここではお伝えしました。
社会保険料は給与の支給額が元となり、会社負担額と従業員負担額は法律により規定されています。社会保険料率は毎年改訂し、従業員の年齢や給与によっても社会保険料は変動するものです。
さらに、社会保険には納付期限もあるため必ず守る必要があります。正確な社会保険料を計算するため、税制の改正や各従業員の状況に変化がないか給与計算担当者は常に情報を確認しておきましょう。
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